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未発売映画劇場「サント対犯罪王」

サント映画第5弾。「犯罪王」といえば、ドクトル・マブゼでしょ。サントと怪人マブゼ博士の激突!(もちろん違います)

原題は「Santo contra el Rey del Crimen」 1962年の11月30日にメキシコで公開されている。

前作の「サント対女吸血鬼軍団が10月11日の公開だから、わずかにひと月あまりの違いでしかない。ここに少々問題があるのだが、ま、その点はのちほど。

ストーリーは、例によってタイトルそのまんま。

賭博での借金をネタに犯罪組織に八百長を強要されるプロのハイアライ選手を救うべく、警察のフェルナンド刑事とわれらがサントは協力し、正体不明のボスが率いるギャング団に立ち向かう。

おやおや、せっかく(?)前作でスーパーナチュラルものに転じたのに、犯罪ものに逆戻り。一気にキューバ映画時代に戻ったような感まであるが、いったいどうしたのか。

ここで先ほどの封切り日の問題が出てくる。

さほどの間隔を置かずに公開されている「女吸血鬼軍団」と「犯罪王」だが、ホントにこの順番で製作されたという保証はいっさいない。なんかの都合で封切りが前後することはあり得るだろう。そのさらに前作である「サント対ゾンビ軍団」にしても、同じ年の5月31日の封切りなのだから、ひょっとしたら3作を同時進行的に撮っていたのかもしれない。そうすると企画順としては「犯罪王」→「ゾンビ軍団」→「女吸血鬼軍団」だったのか。

というのも、じつはこの「犯罪王」の冒頭には、本筋とは関係ないエピソードが挿入されているのだ。

小学生のロベルトは、正義感あふれる少年で、いつも悪ガキどもと喧嘩になる。この日も、女の子をいじめるガキ大将と喧嘩になる。1対1のシングル勝負では圧倒するロベルト少年だが、卑怯なガキ大将は子分の手を借りてロベルトをフクロ叩きに。顔に傷をつくって家(豪邸)に帰ると、父親に見とがめられた。父親は病気らしく、重々しい調子でロベルトに諭す。ぜったいに正義を忘れるなと。そしてこう尋ねるのだ。「おまえはサントを知っているか?」 架空のヒーローだろうと答えるロベルトに、父親は驚くべきことを伝える。「私がサントだったのだ。そしておまえが大人になったとき、正義を忘れていなければ、サントを名乗るがよい」 そして父は腹心の秘書とともに銀色のマスクを彼に託した。数日後に父親は亡くなる。やがて成人してプロレスラーになったロベルトは、初めてチャンピオンになったのを機に、それまでの生活を捨て、サントとして生きる決心をするのだった。

長々と書いたが、これで冒頭20分ほど。わずか90分足らずの映画で尺を使いすぎだろうとも思うが、これサント誕生の重要なエピソードである。このあと新サントは、父の秘書の手招きで地下の秘密基地(バットマンのバットケイプみたい)へと誘われ、ヒーローとして生きることになるのだ。

もちろん、実際のレスラー、サントとはまったく違うフィクションでファンタジー。そういえば、ミル・マスカラスの最初の映画「ミル・マスカラス/千の顔をもつ男」の冒頭にも、マスカラス誕生秘話があったっけな。

前に書いたように、キューバ時代の2作品は明らかに以後のサントものとはテイストもスタイルも別物だった。してみると、この「サント対犯罪王」こそは、じつは再開サントシリーズの第1作だったのではないか?

しかし、あの偉大なサントがすでに二代目とは知らなかったぞ。じゃあその息子のエル・イホ・デル・サント(El Hijo del Santo=サントの息子の意)の立ち場はどうなる(笑)

そんな重要なエピソードを冒頭に持ちながら、しかしこの「サント対犯罪王」自体は非常に冴えない出来栄えだ。アクションも大したことはないし、なんといっても悪役のギャングたちが迫力不足。事件もそれほど重大には見えない人情話みたいになっているし、だいたいサントも相棒の刑事も事件解決には失敗してしまうのだから、なんとも締まらない。公開が後回しにされたのだとしても、不思議ではないだろう。

ちなみにメインの題材となるのはハイアライのプロ競技をめぐる賭博と八百長。日本ではまったくお馴染みでないハイアライ(ひん曲がったラケットみたいなのでスカッシュみたいに交互に壁打ちする球技)だが、ラテンアメリカでは人気が高く、実際に賭博の対象となるそうである。

ただね、八百長を強要されそうになる選手の身代わりで、サントが選手になりすましてハイアライの試合に出るってどうなんだよ? おまけに「選手の都合によりマスクをつけて出場します」ってアナウンス一発で場内全員OKってのは、いやはやである。サント選手、ハイアライもけっこう強いみたいだけど(笑)

今回見たのは、メキシコ製らしきDVD。いやにジャケットデザインがおしゃれだぞ。生意気にリージョンコードもちゃんと装備済み。

このデザインで、数タイトルがシリーズ的に出ているが、やっぱり似合わないよなぁ(笑)

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