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未発売映画劇場「ミル・マスカラス/千の顔をもつ男」

先に「仮面貴族は銀幕に躍る」なんてのを書いたばかりに、なんとなく責任を感じて、ミル・マスカラスの映画を見てみることにした。私もヒマだねぇ。

まずは国内版が簡単に入手できる「ミル・マスカラスの幻の美女とチャンピオン」および「荒野のルチャ・ライダース/地底王国を撃破せよ!」を鑑賞。どちらも70年代初期に作られた作品だが、まあいろいろな意味でオモシロイ映画だった。ちょっとした発見もあったので、いずれ稿をあらためて書こうと思う。

ただ、この2作品はいずれも、マスカラスの先輩のブルー・デモンの主演映画なので、これを見ただけではマスカラス映画の神髄に触れたとは言いがたい。マスカラスは、ブルー・デモン率いる部隊の一員で、科学特捜隊でいうとアラシ隊員あたりに過ぎないのだから。違うか。

そこでマスカラスの第1回主演映画を見てみることにした。もちろん国内では劇場未公開、テレビ放送なし、ソフトも未発売。1969年の作品で、タイトルはそのものずばりの「Mil Máscaras」 なので邦題は私が勝手につけました(もちろんサイレント映画の名優ロン・チェイニーとは無関係)

さっそく、詳しい内容紹介を、といいたいところだが、当然ながら本作はスペイン語版。DVDには英語字幕くらいついてるかと思ったが、なし。しかもB級映画らしく、ストーリーの重要な設定はすべてセリフで説明されるのだ。なので、細かいことは気にしないでいきましょう。

なお、この映画はモノクロ作品だ。いやしかし1969年という時期には、もうすでにモノクロの商業映画はめずらしかったと思うが、何か狙いがあったのだろうか? 資料を調べると、マスカラスの20本以上の出演映画のうち、モノクロはこの作品のみだとか。

映画の冒頭では、マスカラスの生い立ちが描かれる(もちろんフィクションというかファンタジーだ) それによるとマスカラスは、第2次大戦下のドイツで、赤ん坊のころに空襲で両親を失い、彼を拾った4人の科学者の手によって心身ともにエリート教育で鍛えられたらしい。マスカラスがドイツ人だとは知らなかったよ(笑)

成長した少年は、なぜか華麗なマスクをかぶった青年となり(説明なしっぽかった)、何を考えているのかよくわからない科学者たちの手によって、はるばるメキシコへと送り込まれる。空中殺法を得意とするマスカラスらしく(?)自ら小型飛行機を操縦してメキシコの地に降り立つと、ここから彼の華麗なる大活躍が始まるというわけだ。

その後はこの手の映画の定石通り、マスカラスは試合をこなしつつ悪の組織と対決するのだが、この悪の組織が何だかよくわからない。ただの不良グループに見えるんだが、どうなんだ。中に、どう見てもDDTのアントーニオ本多とクリソツなやつがいるのが笑える。

スペイン語のセリフさえ理解できれば、なんでマスカラスが私立探偵まがいのことをしているのか、本業の試合との兼ね合いはどうしているのか、とかいった疑問点も解消できるのだろう。そのへんは見ていて歯がゆいが、いたしかたない。いまさらスペイン語を習得するのもしんどいし。

アクションは、ややショボイ。アクションそのものがプロレス風味のものなんだから、そうそうスペクタクルなものになれるわけがないのだが、ジャッキー・チェンの華麗な格闘術を見慣れている眼には、やはりショボイ。空中殺法を得意とするマスカラスだけに、やたらと机や手すりを飛び越えるアクションが目立ったり、関節技で悪党を締め落としたりもするのだが、迫力不足。あれはやはりリングの上だからこそ見栄えがするのだということが逆説的に納得いく仕組みになってるのか。いやいや、そのへんがルチャ映画の「味」というもんなんだろう。

その点で、当然のように見ごたえがあるのは、映画の随所に挿入される試合シーン。全盛期のマスカラスのファイトが見られるのは貴重かもしれない。ファイトスタイルは現在と変わらないが(言い忘れたが、現在もマスカラスは現役レスラーだ)ダイナミックさは当然ながらこの映画でのほうが上だ。若いからね。フライングボディアタックの華麗さは、一見の価値あり。

ほかにもツッコミどころは多いし、前述したように設定や細かいところはサッパリわからないままだが、それでも、けっこう画面を見てるだけで楽しかったりした。あんがい捨てたもんじゃないぞ。なるほどメキシコで延々とルチャ映画が作られ続けたわけだ。

そんなわけで、ルチャ映画の奥深さっつーか底知れなさの一端は見た気がする。まあヒマがあったら、この底なし沼の中を、もうちょっとだけ探ってみるのも面白かろう。エル・サントとかね(ホントに底なしなんだが

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