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未発売映画劇場「サント対暴走野郎カプリナ」

サント映画完全チェック、第21弾は「Santo contra Capulina」 さすがにモノクロ映画の時代は終わったのでしょうか、今回はフルカラー作品。

この映画の公開は1969年の12月。つまり、この映画が1960年代最後のサント映画なのです。

そんな節目の作品なんですが、これまでのサント映画のタイトルからして「Santo contra」まではわかるんですけれど、さて「 Capulina(カプリナ)」ってのはいったい何でしょう?

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おおっと、これはまたずいぶん雰囲気が違う感じですぞ。

踊る?サントに右側から迫っていくのが、カプリナさんです。

ポスター上部のビリングを見ればわかるように、カプリナって名前なんですかね。いったい何者なんでしょうか?

調べてみると、このカプリナ氏、メキシコでは超・有名なコメディアンなのです。

本来はガスパール・ヘナイネ(Gaspar Henaine)という芸名だったようですが、1950年代からコメディ・コンビとして売り出し、その際のコンビ名がViruta y Capulina (Viruta and Capulina) このコンビで1960年代半ばまでに35本もの映画にも出演しています。その後は単独で活動し、いつのまにやら役名だったカプリナの名で通るまでになったとか。

メキシコでは大変な大物ということでしょう。その大物コメディアンと、犯罪サスペンスの雄である英雄サントの初共演。

夢の顔合わせですね。フーテンの寅さんと釣りバカのハマちゃんが共演するようなものかな。

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はい、右側で舌を出しているのがカプリナ氏ですね。なんと豪華な顔合わせだろう(と、当時のメキシコでは思われたんだろうね)

倉庫番として夜勤中のカプリナ(劇中でもこの名前) 見回りは手抜きで爆睡中だが、そこへ怪しげな二人組(おなじみナサニエル・レオンと、相棒は多くのメキシコB級映画に出ているホアン・ガルザ)が侵入してくる。もちろんカプリナはそんなことは知らずに熟睡。そこへ二人を追ってきたのが、もちろんサント。倉庫で延々と続く大乱闘。ようやく目覚めたカプリナも乱闘に参加し、二人組は逃亡する。じつはサントはダイヤ密輸団を追っていたのだ。こうして、倉庫に隠されたダイヤをめぐり、カプリナもその争奪戦に巻き込まれるのだった……

といった具合で、あらすじだけ見るとけっこうシリアスな(ってほどでもないが)サント映画らしい犯罪サスペンスに見えますが、いやいやとんでもない

悪党二人組を撃退したカプリナ、さっそくサントにサインをおねだり。さらにはスポーツ用品店へ赴いてサントのマスクを購入し、サントになりすます……が、そう思ったのは本人ばかりで、子供にも「カプリナだ!」と喝破される始末。まぁ体型が違うからねぇ。

万事この調子で、随所にカプリナのギャグが炸裂(さして面白くないけれど)

いっぽうサントはひたすらダイヤ密輸団を追及する。こちらはまったくいつも通りのサント

というわけで、まったくタッチの違う二本のストーリーが混然一体となって進むのであります、ハタメイワクなことに。

総じて見ると、カプリナのコメディ映画のほうが色濃いようで、全体としてはカプリナ映画なんだろうな。そういえばメインタイトルもコミカルなアニメだったし。

監督はここまで「サント対絞殺魔」「サント対絞殺魔の亡霊」前作「サント対ドラキュラの秘宝」、さらには勝負作の「サント対贋札偽造団」「サント対国際犯罪団」をも手がけた、ベテランのレネ・カルドナ。本業のほかにも俳優や脚本家としても名を成したメキシコ映画界の大物の一人でもありますが、計10本のサント映画を手がけた「サント監督」として、今回はカプリナ映画にチャレンジしたってことでしょうか。

というと、なにか中途半端な不完全燃焼映画になったかと思いきや、サントもカプリナもさすがは百戦錬磨の手練れ。それぞれの映画の特徴を委細かまわず押し通して、結果的には娯楽作品としてけっこうな仕上がりになっています。もちろんサント映画にしては、ですが(たぶんカプリナ側でも事情は同じようなものでしょう)

冒頭の倉庫での乱闘をはじめ、サントとカプリナの両雄が絡むアクションシーンでは、カプリナが奮闘。不慣れなはずのアクションでの動きは、さすがにメキシコの喜劇王。いや、そもそものカプリナ映画がどんなのか知らないから、わからないけど。

カプリナの本領は、サントになりすます(?)シーンのおかしさとか、グラウンドでの子供たちとの絡みで見せる無責任かつテキトー男ぶりあたりなんでしょうか。今度、べつのカプリナ映画を見て確認してみようかな。

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で、夢の顔合わせらしく、この両者の競演はけっきょくこれ一作だけに終わったようです。カプリナことガスパール・ヘナイネはその後も映画とテレビで人気者として、1990年代の最後まで現役の役者を続けました。2011年に81歳で死去していますから、サントよりも長命だったのですね(サントは1984年に66歳で死去)

この時期のサント映画は、さすがにマンネリ化したのか、やや陰りを見せてきます。そこでこうした競演作が企画されたというのは穿ちすぎでしょうか。いや、そうではないことは、次回作でより鮮明になるのであります。

【前回】サント対ドラキュラの秘宝 【次回】サント対モンスター軍団

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【2020/8/25追記】 そういえば書き忘れていたけど、この映画にのちのエル・イホ・デル・サント、つまりサントの息子が本名で出演している。もちろん子役で(当時6歳か7歳くらい) どうやらこれが彼のスクリーンデビュー作らしい。ただ、この映画には子役がごっそり出てくるので、どれが聖者2世かはわかりませんでしたね。もちろん素顔は知らないし(笑) 彼がリングデビューをはたすのはずっとのちの1982年、それに先立って映画に初主演したのは前年の1981年のこと。→【こちら参照「サントの息子」

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