未発売映画劇場「サント対ドラキュラの秘宝」
メキシコ映画の底なし沼を探るサント映画完全チェック。
第20作は「Santo en el tesoro de Drácula」 おお、あの伯爵殿がついにサント世界に降臨ですか。
クレジットによれば1968年の作品ですが、メキシコ公開は翌1969年の7月らしいです。このへんはイワクありげ。
以前に「サント対ブラコラ男爵」でも吸血鬼と対決したサントですが、あの時のブラコラ男爵は明らかにドラキュラの変名。なのにわずか3年後にご本尊が登場するとは、あの時の男爵に悪いんじゃなかろうか。
べつに20作記念だという意識はなかったでしょうが、この映画、サント映画のなかでは凝った筋立てになってます。
タイムマシンで過去へ送りこまれたルイーザはそこでドラキュラ伯爵に狙われ、隠された伯爵の財宝の位置を知る。吸血鬼にされる直前で現代へ帰還したが、今度は財宝を狙うギャングが彼女の記憶を狙って迫ってくる。
いやいや、じつにつかみどころのないストーリーですな。
そもそもこのストーリーで、サントがどう絡むのか?
驚かないでください、タイムマシンを作ったのはサントその人なのです。なんでも有名な核物理学の研究者だが、その身元を隠して白覆面をかぶり犯罪と闘っているのだそうだ。
サントが科学者だったとは知らなかったんですが、そのせいか、今回のサントは最初からきちんとスーツにネクタイ姿。覆面着用だけど。違和感すげえぞ。
でも、そのタイムマシン、なぜか女性にしか使えないとかで、サントや仲間の教授、友人でなく、ガールフレンドのルイーザが過去へ行くはめに。おまけにそこでえらく危険な目に遭うんだから、気の毒過ぎないか、それ。
じつは前半はけっこういい出来栄えだ(サント映画にしては)
過去へタイムトリップしたルイーザは、ドラキュラに狙われる娘に転生(?)し、彼女を守ろうとする父親と博士(ヴァン・ヘルシンクではない)がそれと闘うのです。吸血鬼がアルカード伯爵と名乗り、その正体を博士が見破るシーンなどは、吸血鬼映画の定番とはいえ、けっこうちゃんと出来ている(私見ですが)
そう、前半はきちんとドラキュラ映画になっているのです。
で、当然の結果として、前半はサントほとんど不在。タイムマシンを通してこの吸血鬼ドラマを覗き見しているだけなのです(なんて高性能かつ便利なタイムマシンでしょう)
ドラキュラを演じたのはアルド・モンティ。日本では知られていませんが、イタリア生まれのメキシコ俳優で、じつは10作もの監督作品もある才人。おお、こんなところにも知られざるドラキュラ俳優が。けっこう二枚目で、それなりにドラキュラ伯爵に見えます。見えますよね?
で、ルイーザが現代に帰還し、前半のドラキュラ映画が終了すると、あとはいつものサント映画。
KKK団みたいな黒頭巾のボスが率いるギャング団が、なぜかサントたちの実験をのぞき見していて、ドラキュラの秘宝を狙うのであります。ね、サント映画っぽくなってきたでしょ。
このボス、なぜかいつも黒頭巾をかぶって正体を隠しているのに、息子は素顔のプロレスラー(アトラスと名乗ってる) ええと、そこ隠してないんじゃ、正体バレバレじゃん。
ま、細かいことは気にしないでください。
で、過去から戻ったルイーザの記憶によると、ドラキュラの墓に葬られていた伯爵のメダリオンと指輪が秘宝の位置を示すらしいのですが、けっこう間抜けな展開で、サント組とギャング団がそれぞれをひとつずつ獲得。
で、どうするかというと、お互いの手にしたアイテムをかけて、サントとアトラスがプロレスの試合をするのです。これは予想外の展開。
というわけで、映画がはじまってから1時間が過ぎて、ようやくサントの試合が開始されます。それも3本勝負。
ギャングのボスの息子アトラス、意外に強くて1本目をグラウンドコブラで先取。お、けっこうやるなと思ったが、さすがはサント、2本目3本目を連取して見事に逆転勝ち。
この試合、これまでのサント映画でのプロレスにくらべると圧倒的にいい試合。驚くのは、サントがミル・マスカラスばりの空中殺法を駆使すること。これまでのサントはけっこうグラウンドとジャベ(関節技)中心だったのに、今回はフライング・クロスアタック、ダイビングヘッドバット、そしてフィニッシュにはなんと人間ロケット(トペ・スイシーダ)をぶっ放す。いやいや、10分ほどの尺で、見事にちゃんと見れるプロレスになってます。上出来。
とはいえ、さすがはサント映画。ラストはかなりのものです。
最後はドラキュラ伯爵が現代に復活してサントやギャング団と三つ巴の戦いになるのですが【以下は少々ネタバレになります】吸血鬼の弱点である日光を浴びせて滅ぼすのです。そこは定番。ただし、その浴びせ方が豪快そのもの。数ある吸血鬼映画でも、このラストは最上位に属するのではなかろうかというような方法。これはけっこうサントっぽい。
ちなみに日光浴びせるのに、戦いが終わってサントたちが外に出ると、あららなぜか夜なのです。ね、まぎれもなくサント映画でしょ。
さて、ここからはマジメな話。
じつはこの映画には、別バージョンが存在しているのです。
この時期のメキシコ映画には、メキシコ公開用のバージョンと別にヨーロッパ市場向けのバージョンを製作するのがポピュラーだったとのこと。サント映画にも、ほかにも数本そうしたものあるそうです。
で、この「Santo en el tesoro de Drácula」にもヨーロッパ向けのバージョンがあって、でもそれはどうやらヨーロッパでも公開されず、オクラ入りになっていたらしい。ところがそれが21世紀になってから発見され、修復したうえで2011年にメキシコでついに公開されたのです。けっこう幻の映画扱いだったんですかね。
そのタイトルは「El vampiro y el sexo」英語だと「The Vampire and Sex」
あれ、サントがどっかにいっちゃった。
タイトルから露骨にわかるように、このバージョンはアダルト版なのです。
最大の違いは、「Santo en El tesoro de Drácula」がモノクロなのに対し、このアダルト版はカラーなのです! これはビックリ。
そう、もともとはカラーで撮影されていたものなのですね。道理でメインタイトルが真っ黒でワケがわからなかったわけです。カラー版で見ると、黒地に血のような赤い液体が滴るデザインで、けっこうかっこいいけど、モノクロではさっぱり見えないですぞ。
もちろんアダルト版らしく、ヌードやセックスシーンがあるのですが、これはいまの目で見ると、そう大したもんじゃありません。1960年代では成人向けだったんでしょうが。ちなみに、こうしたシーンにサントはいっさい絡んでいません。
アダルト版はYouTubeで見ることができます。カラーの発色とかは綺麗ですね(そりゃそうか)
最大の謎は、せっかくカラーで撮影したのに、なんでメキシコ版はモノクロにしたんでしょうというところ。流血シーンがバンバンあるならわかりますが、そんなシーンほとんどないんですよ。
で、いま気づいたんですが、ドラキュラの秘宝、けっきょくどうなったんだろう?(最後は投げっぱなしでした)
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