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#80. モノだっていつか歩き出す


意思を持たないモノがひとりでに動き出すような奇跡は、現実世界じゃまだ起きないが、言葉の上ではこういうミラクルがしょっちゅう起こる。

英語の世界では、モノが勝手に動き出すのだ。

すこし大げさな言葉を使ったが、英語では、無機質なモノを表していたはずの名詞が、形も変えず、勝手に「動詞化」することがある。

たとえば、ヒトの「目」を表す eye は、そのままの形で「~を見る,凝視する」という意味の動詞として使うことができる。

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あの ... ウェイターが、
わたしたちのこと鷹のように見てたわ。

このブログでも、実は何度か、同じ動詞化の例が登場している。

ここ数日で、渡辺直美とゆりやんレトリィバァのパロディによって再び熱が高まっている Gaga と Ariana の Rain On Me

これも、「雨」を表す名詞の rain が、そのままの形で「雨が降る」という動詞で使われている例だし、

他には、「天候」を表す weather が、動詞としては「〔嵐・困難などを〕乗り切る,乗り越える」という意味を持つことを紹介した記事もあった。

同じ形で動詞になると言っても、その意味はたいてい元の名詞から推測できる。

name:名づける
signal:合図を出す
water:水をやる
silence:黙殺する

例を挙げていけばキリがないのだが、

今日はこういった動詞化の例から、あまり知名度がなく、かつ個人的に気に入っているものを 3 つ紹介しようと思う。


1. milk

まずはおなじみ「牛乳」を表す milk

この単語は、動詞になると「金を搾り取る」という、わりと物騒な意味になる。

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あいつは、おれたちから
金を奪い取っているだけだ。

だれかからお金を少しづつ奪う行いが、牛から乳を搾り取る行為に似ているということだろう。

日本語でも「搾取する」という動詞があるが、これもやはり主にお金のことであるのに、「搾り取る」という漢字を使っているので、この点に関しては日英語ともに似た感覚を持っているようだ。


2. champion

次に、すでに日本語においても「チャンピオン」とカタカナ語になっている名詞の champion

これは、動詞としては「〔人・主義などを〕擁護する,支持する」という意味で使う。

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わたしは NBC における多様性を支持してきた。

「擁護する」ということは、なんらかの反対の声がある中で特定の主張を守って戦うことである。

ぼくらのよく知る、格闘技におけるチャンピオンもやはり、王座を防衛するため挑戦者たちと闘うことを生業としているので、その点において二つの意味はつながっている。


3. treasure

最後に、「宝物」を意味する treasure だが、これは動詞として使われると「~を大切にする」という意味になる。

次の動画は、西野カナの楽曲『トリセツ』の英語版アンサーソングだが:

( 1:31 あたりで)本家のサビ中のフレーズ「ずっと大切にしてね」に対する応答として、”But girl, I swear I’ll always treasure you” (でも誓う、きみをいつまでも大切にする) と歌っている。

日本語でも「宝物扱いする」などと言うように、人は自分の宝物を、ずっと大切にしていくものだ。

上の曲のように、目的語に you を取って、「きみをいつまでも(宝物のように)大切にするよ」と英語で言うことができたらきっとお洒落だろう。

※曲の全歌詞と和訳・解説は以下の記事参照:

人間は怠惰な生き物だから、たとえば “maintain ... like a champion” (~を “チャンピオンのように” 擁護する) とか “cherish ... like a treasure” (〜を “宝物のように” 大切にしている) のように動詞とセットである名詞を使い続けていると、

めんどくさくなって、いつかその名詞自体を動詞で使いたくなってしまうのかもしれない。

最近の女子校生が「タピオカドリンクを買う」とか「タピオカ(ミルクティー)を飲む」とわざわざ言わずに「タピる」と言うのもこれと似たような現象だろうか。

そういえば、英語で比較的最近、動詞として使われている名詞には ghost (だれかからさりげなく距離を取って音信不通にする) なんていうものもある。

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ちょっと、どうして
ダンスフロアでぼくを避け続けるのさ。

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あら、あなたの方が、
わたしを避けているのかと思ってたわ。

SNS では日常茶飯事である ghosting 。

日本語にすれば「おバケる」といった感じだろうが、響きがおバカなのでまず流行ることはないだろう。


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