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#98. どう考えても矛盾している英単語


2020 年を振り返る人、2021 年の抱負を熱く語る人。後ろを見たり、前を向いたり、一月は忙しい時期だ。

ところで一月の January は、ローマ神話で物事の始まりを司る神「ヤヌス」(Janus) にちなんでその名がついた。

ヤヌスは前と後ろに顔が二つあり、一方で過去、他方で未来を見つめているとも言われている。

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二つの面を持つことで知られるヤヌスだが、その名が由来となっている言葉は、実は January だけではない。

英語で Janus word というと、「互いに矛盾した意味を持つ単語」のことを指す。

たとえば日本語で言えば、「おめでたい」という形容詞は、一般的には「縁起が良い」という意味であるが、

「お前はなんておめでたいヤツなんだ」とだれかに言われた場合ここでは「考え方が甘い,楽観的だ,愚かだ」くらいの意味だろう。

こういう風に、文脈いかんでその意味が 180 度変わってしまうような単語が Janus word で、英語にも例は豊富にある。

今日はそんな摩訶不思議 Janus word を 4 つ紹介していきたい。

1. Overlook


動詞の overlook「監視する」という意味でも使うが、「見落とす」という意味でも使える。

しっかり注意して視ているのか、雑に見ているだけなのかよくわからない。

これは、look の前にくっついている接頭辞 over-「上から」という意味と「過度に」というような意味を持つことから生まれたのではないかと思われる。 

「(近づかず)高いところから見ている」だけなら、なにかを「見落とす」ことになろうが、「ちょっとオーバーなくらいに見る」というなら、それは「監視する」ことにつながるだろう。


2. Dust


「ほこり」という意味で知られる dust は、動詞で使うと「ほこりをかける」「ほこりを払う」のどちらの意味でも使うことができる。

日本語でも、ほこりを払う掃除用具を「ダスター」と言ったりするが、それはこのうち後者の意味の dust に接尾辞の -er がついた形である。

いまでは廃れてしまったが、かつては上の二つの他にも「ほこりが舞う」という意味もあったようだ。

「ほこりが舞う」も「ほこりをかける」も「ほこりを払う」もすべて名詞の dust からそれぞれ派生したもの。

たとえばだれかに LINE で「ユニクロった」と言われたとして、それが「ユニクロに行った」なのか「ユニクロの服を買った」なのか「ユニクロの服で着そろえた」なのかは文脈による。

この dust にしても、かつては名詞としてしか使われていなかったものを、新しく動詞として使った人たちがいたのだろうが、それぞれの開拓者たちがめいめいの意味で使った結果、真逆の意味がともに生き残り、こんな形になってしまった。


3. Screen


「仕切り;スクリーン」を意味する screen も、動詞としては「隠す」という意味もあるが、「〔映画で〕上映する」という意味も同時に持っている。

隠したいんだか見せたいんだかわからない。

これは、もともと「なにかを遮断する間切り」のような物体を意味していた screen が、動詞として「隠す」の意味を発展させ、

のちにこの単語が(その形の類似から)「映像を投射するスクリーン」を意味するようになると、そのまま動詞としても「上映する」という風に使われるようになった。

名詞としての意味が拡がれば、そこから派生して生まれる動詞の意味もどんどん増えて、結果的に真逆の意味が共存するようにもなる。


4. Sanction


名詞としての sanction「〔法的な〕認可」という意味と「〔法的な〕制裁」という二つの意味を持つ。

いや認めてるのか認めてないのかどっちなんだ。

この sanction は、もともと「法を承認,制定すること」という意味であったが、その制定される「法」というのは、なんらかの行為を「認める」法律のこともあっただろうし、あるいは「認めない」法律のこともあっただろう。

そのどちらもが、個別の意味として定着した結果、文脈によって正反対な意味となりうる sanction が生まれてしまった。

英語にしろ日本語にしろ、人間の縦横無尽な想像力のおかげ(?)で、言葉は往々にしてこういった妙な副産物を生み出すものだが、学習者にとっては実際悩みの種だろう。

あらためて「英語ってヤバイな」と、心の中でつぶやいた人もいるかもしれない。

しかしご存知のとおり、その「ヤバイ」だって、「最悪」と「最高」、どちらの意味にもなりうるのである。

英語はヤバイ(最悪だ)、でもだからこそヤバイ(最高な)のだ。


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