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#96. 2020 年に台頭してきた英語たち


日本では、年末になると「今年の漢字」や「流行語大賞」が発表されるが、それと同様に、英語界隈では、世界的に権威のあるさまざまな辞書が、その年を最も象徴する英単語 "Word of the Year"(今年の一語)を決めるという慣習がある。

2020 年は、日本史や世界史、現代社会や政治・経済など、未来の子どもたちが使う社会科系の教科書において間違いなく太字で記されるであろう目まぐるしい年だったわけだが、

そんななか世界の英語辞書が選出した、今年を表す英単語は以下の通り:

Collins: lockdown
Macquarie: doomscrolling, rona
Merriam Webster: pandemic
Oxford: no single word chosen

lockdownpandemic は日本人にも比較的なじみのある単語だろう。

doomscrolling というのは「衝動的に不穏なニュースを探して画面をスクロールしつづける行為」のことを指す。

rona については以下で解説するとして、

興味深いのは、Oxford が "no single word chosen" (いかなる一語も選ばれなかった)、つまり「一語で象徴するのは無理」と判断し、いわばサジを投げたことである。

これはおそらく、彼らの歴史上はじめてのことだ。

そのような結論に至った理由について、彼らは次のように述べている:

The English language, like all of us, has adapt rapidly and repeatedly this year. Given the phenomenal breadth of language change and development during 2020, Oxford Languages concluded that this is a year which cannot be neatly accommodated in one single word.
今年英語は、(わたしたちがそうであったように)急速かつ繰り返し、社会に合わせ適応変化してきました。2020 年における膨大なまでの英語の変化と発展を鑑みて、Oxford Languages は、今年はうまく一語で収めることなどできない年であるという結論に至りました。

そのかわり、彼らは "Words of an Unprecedented Year"(未曾有の年の言葉たち)というタイトルで、2020 年を今年話題になった言葉で振り返るレポートを発表した。

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( ↑ リンク先のページでダウンロード可能)

このレポートは、2020 年を(言葉を通して)総括するのにたいへん有益であるうえに、今年起こった数々の問題が引き続き取り沙汰されるであろう 2021 年を、英語で読み解くのにも役に立つ。

ということで今回は、Oxford の発表したレポートをかいつまんで解説しながら、この 2020 年を彩ってきた英語を概観してみたい。

■ コロナ関連の英語たち


1. Covid-19 / Coronavirus 周辺

全世界を悪い意味でにぎわせている新型コロナウィルス。フォーマルな英語では Covid-19 とか coronavirus と言うのが一般的だが、もっと短く Covid と言うこともできる。

またカジュアルな場面で使う略称としては(日本語のように)corona でもいいし、さきほど Macquarie Dictionary の Word of the Year にも選ばれていた rona(発音は「ロゥナ」という感じ)というのもある。

この rona は、はじめオーストラリアやアメリカで使われていたようだが、だんだんと世界的にも使われるようになってきたようだ。

そして、ここからはほとんどの日本人には全くなじみのない言葉だが、「コロナ前」「コロナ後」の時代を表す pre-Covid, post-Covid という単語も一般的になってきており、中には(「紀元前」を表す BC にかけて)BC"before Covid" の略として使う人たちもいるようだ。

さらにカジュアルな若者言葉にまで目を向けると、Covid と idiot(バカ)をかけ合わせた covidiot(コロナ対策のガイドラインに従わない間抜けな人)なる新語も生まれた。


2. pandemic / epidemic 周辺

pandemic や epidemic から派生したものとしては、「嘘と真実の織り交ざった大量の情報(information)」を表す infodemic「コロナウイルスはすべて計算された(planned)陰謀である」とする plandemic

そして(幸いいまのところ見られないが)冬前に心配されていた「インフルエンザとコロナウイルスの同時流行」を表す twindemic などがある。


3. mask 周辺

これまでは「つけない」方が常識だったマスクだが、いまでは「つけている」のがデフォルトとなった。

それにともない、「マスクをつけていない状態」を表す maskless とか unmasked などの言葉が台頭した。なお、「着用を拒否する人,反マスク派の人」のことは anti-mask あるいは anti-masker と言うことができる。

もはや名詞の mask も動詞化し、「マスクをつける」という動作を( dress up などと言うのと同様)mask up という風に言うようにもなってきている。


4. frontline 周辺

リスクと引き換えに最前線に立って働いてくれている人たちのこと、日本語では essential workers(エッセンシャル・ワーカー)と言うのが一般的であるように思うが、これはどちらかと言えばアメリカ的な言い回しであり、

イギリスでは key workers(キー・ワーカー)と言うことが多い。

またフィリピンの英語では frontliners(フロントライナーズ)という言葉も使われるようだ。


5. remote working 周辺

会社に出勤することなく、自宅で仕事をするスタイル、日本では「テレワーク」という言い方が一般的だが、これは英語では work from home とか remote working という風に言う(あまりによく使うので、前者の方は WFH と略されることもある)。

そもそも remote という形容詞の使い方がこの一年で大きく変わったようで、この単語の後ろによく続く名詞ベスト 5 が去年と比べて様変わりしている:

2019
1. village 2. island 3. control
4. location 5. monitoring
2020
1. learning 2. working 3. workforce
4. instruction 5. monitoring

見てわかるとおり、2019 年まで remote という単語は「遠く離れた」という物理的な意味で使われることが多かったようだが、2020 年は「通信回線を通して利用可能な,遠隔の」というような意味でより多く使われるようになっている。

また、自宅にこもって仕事や勉強をしているときに起きがちな「何曜日でもない感覚,曜日の感覚を失っている日」のことを指す Blursday なる単語も生まれた。これは「ぼやけた」という意味の blurry と曜日の -day が合わさってできたものである。


■ 社会運動関連の英語たち


2020 年に起きた大きな出来事はコロナウイルスの感染拡大だけではない。夏にかけてたいへん大きな話題になった Black Lives Matter(または BLM )も、間違いなく今年を代表する事象である。

これにともない、「人種差別や性差別などに対する意識が高い状態」を表す形容詞 woke(や、その名詞形 wokeness )、そして似たような意味だが、「社会から差別されてきた人々の支援者であること」を表す allyship も、使用頻度が急激に高まった。

(しかし、wokeness に関しては、必ずしも「不正に対する社会の意識の高まり」を意味せず、ときとして「見せかけとして偽善的にそう振る舞う風潮」という皮肉が込められることもある)

「差別的行動や発言をする白人女性」はまとめて Karen と呼ばれ、有名人や企業がそのような問題を起こした場合、大規模なボイコットや非買運動などにつながるが、このような文化は cancel culture と呼ばれる。

そのほか、「黒人や原住民、その他すべての有色人種」を総称する BIPOC( Black, Indigenous, and other People Of Colour の頭文字)という言葉も生まれた。

…… レポートの中には、まだまだたくさんの言葉や情報が詰まっていたが、今回はその中でも馴染み深いものや、日本人としても大切に思える部分をかいつまんで紹介した。

それでもこれだけの数の単語・表現。Oxford がサジを投げたのも理解できる。

本当に、2020 年はすごい年だった。

イギリスの辞書編纂者 Susie Dent は、ある記事の中で次のように語っている:

"That's so 2020" has even become our automatic refrain whenever anything crazy, astonishing or tragic happens - the year has almost come to speak for itself.
"That's so 2020"(それはとっても 2020 年的ですね)というフレーズが、狂気的、驚くべき、そして悲劇的なことが起こったときわたしたちが口にする常套句にすらなっている。( 2020 という)年号それ自体が、さまざまなことを物語るまでになったのである。

たしかに、このさき数年は、なにかウンザリするようなことがあったら、英語で "That's so 2020" と言えばお互いに理解できるような世界になりそうだ。


さあそんな 2020 年もとうとう終わり、明日から 2021 年が始まる。

来年のいまごろ、"That's so 2021" は、どんな意味合いで使われているのだろうか。


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