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【小説】自食(リアル人狼ゲームの話)

 今日も吊られずに済んだ。

 村に紛れ込んだ人狼に、また一人、喰い殺された。



 人狼を炙り出すための会議が今日も開かれる。

「ねえ、彼氏作んないの?」

 化粧の濃い村人Aが話題を振ってくる。

「なかなか良い人いなくてさあ」

 村人らしい口調、手つき、表情になるよう注意を払いつつ答える。

「どんな人がタイプなの?」

 ピンクの爪の村人Bが食い付いてくる。掘り下げなくていいのに。

 無難なところで、最近テレビで見る若手俳優の名前を挙げておいた。

「わかる! セクシーだよね!」

 セクシー? よくわからない。わかる振りをする。

 村人AとBとCは俳優の話で盛り上がり始めた。危ない局面を乗り切り、今日も吊られずに済んだ。

 また一人、喰い殺された。



 人狼は上手く立ち回っている。

 細心の注意を払ってシフォンスカートに毛むくじゃらの尾を隠し、犠牲者の血を口紅に塗り込める。

 隣に人狼がいることに、村人は誰も気付かない。日々の会議で確かめ合って、この輪の中には仲間しかいないと安心している。

 そうして今日もまた一人、誰にも知られないまま喰い殺される。



「お前もそろそろ結婚しないとなあ」

 従妹の結婚式の席、気のいい叔父が無邪気に言う。

 女の体を持っていることを嫌でも思い出させるドレスに拘束された俺は、叔父が好むような従順な女らしく曖昧に微笑む。

「何だかんだ言っても、良い男を捕まえて子供を産んで家庭を守るのが女の幸せってもんだ。少子化なんだからたくさん産んでもらわないとな」

 「努力します」と笑う人狼に、また一人、誰にも知られない俺が喰い殺される。

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