【小説】流転(境界のない木々が感じる輪廻の話)
土の下で根と根はつながっている。
風があなたの梢を揺らし、あなたの声となる。
——ここにいる。
同じ風がわたしの梢を揺らし、わたしの声となる。
——ここにいるよ。
太陽を浴びたあなたの喜びが根から流れ込んでくる。水を得たわたしの鼓動があなたを震わせる。
わたしと根を握り合うあなたが、彼女が、彼が、少しずつわたしに溶けている。わたしは緩やかな濃度勾配を描いて彼や彼女やあなたに拡散している。
あなたから流れてくる生命の電気信号はいつしか弱くなっていた。
わたしは葉を擦り合わせてあなたを呼ぶ。
——ここにいる。
あなたの答えは乾いた枯葉の最後のざわめき。
——ここにある。
小さな生き物たちがあなたを徐々にばらしていく。
喰われることにあなたは抵抗しない。自己を癒やすこともしない。
あなたは主体であることをやめて、純粋な客体となった。解体されるがままに、そこにあった。
あなたの枝葉が覆っていた空から光が降り注ぐ。
分解されたあなたの欠片をわたしは吸っている。
周りの木々が枝を茂らせ、あなたが遺した穴を埋めようとしている。
小さくなったあなたの体には若木が芽吹いている。
あなたは分け与えられてみんなの中に散っていった。個であることをやめてうっすらと世界になった。
あなたの隣にいたわたしは他よりも濃くあなたを贈与されている。わたしの中に遍在するあなたがわたしを生かす。わたしが凝集したわたしであることをやめる時まで。
本日のカード:Death(正位置)
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