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9月1日~29日の詩(Nos. 134~151)

作品No. 134(9月1日)

想い出を憑依させた石を
素通りするのも何なので
草を二、三本毟り捨てる
五円分の労働

白髪が束になり始め
可愛げの無くなった孫の顔は
通行料の足しになるだろうか


作品No. 135(9月4日)「彼女の身体


作品No. 136(9月8日)

殺菌する
汚い手のひら
汚い口
汚い眼

殺菌する
体の中まで
細胞の中まで
全部全部

私と同じDNAを持たないものは
私から全て排除する
皮膚の雑菌
腸内細菌
ミトコンドリア

清潔な私
汚れないように
何も触らず
口にせず
消化せず
呼吸もできず

綺麗なものは残り滓
殺されたのは私


作品No. 137(9月11日)「丘の上のビスクドール


作品No. 138(9月12日)

生きてきたどの瞬間も
幸福だったあの瞬間も
永遠に失われた
遠い銀河の一粒の残光

死んだ星の写し身を
この手に戻せるのは狂気だけ
だから狂気は美しいんだ
だから狂気は優しいんだ


作品No. 139(9月13日)

星々も微睡む宵闇を縫う
蛇行運転のロケット
閃光で時空を切り裂いて
幻のように角へと消える

断熱板の内と外には
宇宙の端と端より遠い
次元の断絶

ここは夢の抜け殻が降る海の底
赤熱の砂漠を閉じ込めた弾丸型のロケットにいた
あなたから見えたのはきっと
無意味な平面の闇だったでしょう


作品No. 140(9月15日)

左利きに憧れる右利きは
まだ気付いてはいないだろう
世界は右利きのためにあること

異常とみなされ
共感に飢え
「矯正」されるその水圧

「普通じゃない」者が
「普通じゃない」まま
素直に生きていくことは
「普通」の皆様が許さない


作品No. 141(9月15日)「裏庭の少女


作品No. 142(9月17日)「憧憬の姉妹」(小説作品)


作品No. 143(9月19日)「月に満ちる金木犀


作品No. 144(9月21日)

1センチ残らず権利書で区切られて小鳥を弔う土地さえ無い街


作品No. 145(9月25日)

狂気とは
レンズの歪み

恋をするとき
人は分厚い拡大鏡をかける
満開の桜のひとひらが
視野いっぱいを覆い尽くして
滑稽に幸福に踊るだろう

知性の眼鏡をかけたなら
細部の輪郭が鋭く歌う
透き通る若葉の葉脈も
誰かの毛穴に詰まった脂も
脳を突き刺しのたうつだろう

僕が眼鏡を外したら
夜空に3つの月がある

3つ並んだ三日月は
狂った水晶体しか知らない

美しい乱視の月の下
狂ったレンズしか無いみたい


作品No. 146(9月27日)

子供の頃の私なら
どうってこともなかったことで
だらしなく涙が漏れるのは
怒りのシチューがお腹で沸くのは
嫌がる脳を空っぽにして
動かない身体をぶん投げて
追い立てられて歩いていくのが
当たり前じゃないんだって
思わされてしまったから

人間扱いなどされなければ
人間にならずにいられたのに 


作品No. 147(9月27日)

永遠の観客になりたかった
透明な目と耳だけになって
物語の空気に染み込んで
視線がかち合う心配も無く

実際の僕は脇役だった
時に敵になり友になり
苦難を越えさせ栄光へ
主役を導く名誉の献身

僕が主役だったなんて
急には信じられないよ
僕の人生の物語
舞台の真ん中で立ち尽くす


作品No. 148(9月28日)

普通の気のいい人たちの
何の気なしの気のいい言葉に
殺されそうになることがある


作品No. 149(9月28日)

流せばいいだけの通知
遠い君が僕に向けた
一瞬の関心

ぺらぺらの通知を見透かせない
寂しかったの
取り戻したいの
まだ拗ねているの

今カーテンの向こうに君がいて
癇癪の拳で窓を割り
見捨てられた恨みのナイフで
僕と僕の大事なものを裂く

悪夢を夢で終わらせるため
覚めた頭で悪夢を描く


作品No. 150(9月29日)

あなたの願う僕じゃないこと
もしも認めてくれたとしても
あなたは僕を恥とするでしょう

蛙をお姫様にする呪い
水掻きなんて切り取りなさい
出っぱった眼は潰しなさい
緑の肌は塗り隠して
不気味な声で鳴かないで

ああ恥ずかしい恥ずかしい
うちの子が蛙だったなんて
知られたら私死んでしまうわ


作品No. 151(9月29日)

見栄を張りたいなら死ぬしかない
みっともなくしか生きられないから

おかしな奴だと笑われて
気持ち悪いと避けられて
親に恥をかかせても

不恰好に生きるしかない
みっともなく死ぬその時まで
全身全霊のみっともなさで
笑っちゃうくらい美しく生きたい

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