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親からの流れ弾に当たるという愚痴

 母は氷川きよしが嫌いだ。

 昔は別に嫌ってはいなかったと思うが、このところ女性的な見た目や振る舞いをするようになっているのが気に食わないらしい。

 おかしいとかキモいとか、直球な言葉で嫌悪感をあらわにする。しかも、テレビに氷川(kiina)さんが出てきたわけでも、トランスジェンダーの話をしていたわけでもない時に、何の脈絡もなくわざわざ話題に出してまで。初めは「どういうことだろうね?」「ファンの人はどうなんだろうね?」といった純粋な疑問を装っているのが更にいやらしい。わからないことを知りたいだけ、心配しているだけの善人ですと言いたげな顔で、ただ罵倒したいだけの本心を隠しているのだ。

 母が自分の気持ちに対する承認と共感を欲しがっているのはわかるが、共感を求める相手を完全に間違えている。

 私自身はおそらくkiinaさんに近い立場にあり、共感しているし応援している。だからkiinaさんがおかしくてキモいと言われることは、すなわち私がおかしくてキモいと言われることだ。我が子がそうやって流れ弾で傷付いていることに、母は気付いていない。

 傷付けていたと知ったところで、母が反省するかどうかは怪しい。言動を改めたとしても、それは母自身がひどい親だと世間に思われたくないからで、心から悪かったとは思わないかもしれない。

 母には昔から傷付くことを色々と言われてきたけれど、それは母も大変な思いをして追い詰められていたからで、ついイライラして言葉がきつくなってしまうことは人間誰でもあるよね、と最近まで思っていた。だがいくら苛立っていても、幼い我が子を得意満面で罵倒して憂さ晴らしするような人だったうちの親は、冷静に考えてクズなのでは?と思い始めた。

 そうしてようやく諦めがつくようになってきた。話を聞いてほしいとか、受け入れてほしいとか、ちゃんと愛してほしいとか。自分のことしか考えられない人に期待しても無駄なことだ。

 期待できないからもう何も言わない。カムアウトなんかしたら、説明してとか心配だとかいう名目で根掘り葉掘り聞きだされた上で人格を全否定されるのが目に見えている。不満を言えば十倍の嫌味で報復される。険悪になれば顔を合わせるたびに攻撃されるかもしれない。同居している今の状況ではリスクが高過ぎる。

 悪いほうに考え過ぎかもしれない。本当はもっと良心にあふれた人かもしれないし、もう昔とは違うかもしれない。そうやって期待して何度も裏切られてきた。これ以上傷付かないために、期待するのをやめるためには、自分の頭の中の親には悪役に徹してもらわなければならない。可能性を信じてしまうせいで苦しくなるのだから。

 黙って距離を置くのが一番良い。今は出戻りの居候だが、いずれ実家を出るために仕事と健康維持を頑張ろう。

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