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『大統領選という名の祭-3:You're not someone's crazy uncle』

アメリカ大統領選まで2週間弱。連日選挙のニュースで盛り上がり、家の前には推し候補者の看板が立てられる。

そう、これははっきりいって祭なんです。
祭だ、祭だ、大統領選だ~!

しかも、大統領選では、事実は小説よりも奇なり、と言うこも起きます。

現大統領のトランプはホワイトハウスの慣習を破ることばかりしてきました。彼はリアリティTVで培ってきたマーケティング術に熟知していて、天才的な手法をとっています。ただし、そのやり方は、炎上商法そのもの・・・。

彼は平均1日12回と頻繁にツイッターを流しますが、嘘や悪口含め「言ったもの勝ち」で煽情的な内容も発します。炎上を意図的に引き起こし、世間の注目を集める。ひょっとして、あなた、目立ち狩り屋さん!?ってとこですかね。

マサチューセッツ工科大学のツイッターの研究では、嘘は、真実より6倍も速く拡散します。嘘は「えー!?まじーっ!?」という内容が多いため、驚きや恐怖感、嫌悪感を呼びますが、強く感情を動かされると人は思わずリツイートしちゃうため、爆発的に拡散できるんですね。

トランプのコアファンは、ちゃんと事実を確認するタイプには・・・うーん、見えないですねぇ・・・。本や新聞紙は読まず、わかりやすいエンタメを好むってとこでしょうか。科学重視でもありません。煽情的な情報や嘘に操作される情弱タイプ多し!

トランプは頻繁に、ディープステート(Deep state)と言う言葉を持ち出します。ディープステートとは「闇の政府」のことで、合法的に発足した政府を陰で操っているという陰謀論です。

これは従来の政治に失望し、新しい風を起こすことを期待して彼に投票した人にとっては受け入れやすい説です。「腐ったワシントンDCの政治家集団と彼が戦っている!」とヒーロー視できるから。

例えば、トランプは選挙戦がある秋までにコロナ対応ワクチン開発が終了すると主張してきました。が、当然むーりー。従来ならば10年以上はかかるワクチン開発です。コロナだからとどんなに急いでも、1年で終わるわけがない!

コロナ対策を批判された彼は「ワクチン試験が早く進まないのは、薬品認可に係わる行政機関にディープステートがあるからだ、自分こそがそれに対して戦いを挑んでいるのだ」と反論しました。

どの政府でも、お役所特有の効率の悪さ(Red tape)があって、物事がなかなかすすまないのはよくあること。ただし、問題は彼がディープステートを主張し他の政府機関が出す情報ですら否定するため、国民は混乱して何を信用していいかわからなくなっちゃったことです。アメリカ疾病予防管理センター(公の機関です)が「マスクをしましょう」と呼びかけてるのに、トランプはマスク軽視発言を繰り返してるのが良い例。

もともとアメリカ人は、ディープステートのような陰謀論が大好き。陰謀論とは「世間が事実と思っていることは実は嘘で、影の人物や組織が自己利益のために策謀を働いている」というもの。Men In Black、JFKなど陰謀組織と戦うヒーローの映画も山ほどあります。そんな文化があるからトランプの陰謀論を受け入れる人が多くいるのでしょう。

陰謀論の問題は「そんな影の組織は存在しない」と証明できないことです。「ないもの」を「ない」とは証明できない。お偉方や大手メディアに「んんもんないですわ」とやっきになって説明されればされるほど「隠しているんだろう!」と疑わしさが増す。だからこそ、いくらでも陰謀論は根拠なく使い放題、言い放題なわけです。

最近、ニュースで大きく取り上げられるようになった陰謀論にQアノン(QAnon)があります。「Qアノン」とは、「ヒラリーやバイデンなど民主党政治家やエリート層が小児愛者向けの人身売買に関与しており、トランプ大統領は彼らと闘っている」と主張するグループ。旗やTシャツなどにQの文字を入れてます・・・それがコードなのかしらん?

なにそれ?どんなエンタメネタ?って感じですが、トランプ支持者の半分(!)は多かれ少なかれ信じている陰謀論で、トランプもあえてQアノンを否定しません。

10/15に、トランプの対話集会が全国的にTV中継されました。その時に、司会者のサヴァナ・ガスリー氏がトランプに「Qアノンを否定しますか?」と聞きましたが「自分は何も知らない」とすっとぼけてます。

また、この時ガスリー氏はさらに、(オバマ政権時代に)オサマ・ビン・ラディンを殺害したのはでっちあげで、彼はまだ生きているという陰謀論をトランプがリツイートしたことについて「なぜそんなことしたんですか」と突っ込みましたが、トランプは「あれはただのリツイートだ。それを見た人が各自で判断すればいい」と答えました。

そこでガスリー氏は「あなたは大統領です。何でもかんでも好き勝手にリツイートしていい、頭のおかしい誰かのおじさんじゃないんですよ (You're the president — you're not like someone's crazy uncle who can just retweet whatever!)」と切り込んでます。

正直、トランプはこんなエピソードだらけ・・・。

大統領自らが、偽の情報を流し、それを批判するメディアを「フェイクニュースだ」と呼ぶことで、国民は、いったい何が正しいのかよくわからなくなっていく。結果、政治システムや報道を信じなくなるわけです。

一番割を食うのは国民、とりわけ情弱な人たちです。どんな状況にあっても、情報パイプを持つお金持ちは正確な情報をつかむでしょう。貧困層と情弱は親子丼のようにセットです。(卵が先か鶏が先か、ってやつね!)貧困層は正しい情報を入手できないのでカモにされる。よってますます貧困になる。するとさらに情弱になる・・・。結果、貧富の差が開くばかり。

トランプファンにくらべ、バイデンには熱烈なファンがいないと言われます。だから、この選挙においても、実はトランプのほうが有利という意見もあります。それ自体は否定しません。ただ、私個人は「だからバイデンは弱い」と言うのはちょい違う気がします。バイデンを選ぶ人は、トランプが大嫌いだからバイデンを選んでいる人が多い。トランプのファンの熱さと同様に、トランプを嫌う人の熱さも相当なもんです。それが今のバイデンの勢いなんでしょう。

ちなみにラディン殺害作戦を指揮した元海軍大将ウィリアム・マクレイヴン氏は、「トランプが拡散したこの陰謀論は、月面着陸を否定するのと同じぐらい頭がおかしい(The Osama bin Laden conspiracy theory boosted by President Donald Trump was as crazy as denying the moon landing)」と言ってます。わはは。そりゃそーだ。

でもね、陰謀論を信じる人は、「月面着陸だって、ラディン殺害だって、政府がでっちあげた動画や写真である」と言うのでしょう・・・陰謀論を否定するのって、ほんと難しいんですよ。だからそれを大統領が拡散しちゃうとほんとまずい。何を信じていいかわからなくなりますからねぇ。

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