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【企業分析】ここに着目!コンサルが見る財務諸表と重要KPI (P/Lを読む)

こちらの記事では損益計算書(Profit & Loss Statement、略してP/L)について、会計・ファイナンスの専門家ではない方が、どういう風に数字を見ていけば企業の状況が浮かび上がるようになるのか説明します。

前の記事で財務三表のつながりと貸借対照表を説明しているので、そちらも読んでいただければと思いますが、この記事だけでも損益計算書については大づかみで理解できるのではないかと思います。

そして、大づかみな理解がほとんどの方にとっては十分なもので、これが読めれば業界、企業の研究であったり、投資を判断する際に役に立つと思います。

損益計算書を大掴みで理解する

具体的な数字を見る前に、まずは損益計算書の構造を説明します。

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まず、損益計算書で一番上に表示されるのが売上高で、一番上の行に記載されるのでトップラインと呼ばれます。計数を扱う会議などで「トップラインを伸ばすための施策として・・」というような会話がよくされますが、これは「売上を伸ばす」と同じ意味と捉えて問題ありません。

なお、売上高の代わりに、売上"収益"という言葉を使う企業も増え始めています。ファイナンスや会計の専門家でない方にとって、厳密な言葉の使い分けを理解する必要はないと思いますが、ここはざっくりとモノを売る場合には売上高、サービスや手数料などからの収入を売上収益と呼ぶことが多いと理解すればよいかと思います。つまり、損益計算書を見る場合に、トップラインの呼び方が企業によって違うことがあるということで大丈夫です。

損益計算書の構造として本業での売上であるトップラインから、下に向けて各種の収益・費用を足し引きしていき、最後に残るのが当期純利益です。一番下に位置しているために、これはボトムラインと呼ばれます。「トップラインを伸ばす」という言葉遣いがされるのに対して、「ボトムラインを守る、確保する」というように使われます。これは、コストなどをコントロールしたうえで、利益を確保するという意味合いですね。

売上高の下に位置する売上原価は、売上に対して原材料の仕入や、製造にかかわる人件費などで、売上高から売上原価を引いたものを売上総利益といいます。粗利といった方がピンとくるかたもいらっしゃるかもしれません。

さらにその下が販売管理費(販売費および一般管理費、販管費)で、これは企業が事業を行う上で、売上原価以外の費用を示すものです。営業部門の人件費やオフィスの貸借料、研究開発費、広告費などがここに含まれます。

そして売上総利益から、販売管理費を引いたものが営業利益で、これがいわゆる本業でのもうけを示すため、売上高に占める営業利益を示す営業利益率は、損益計算書を見るうえでの最重要指標になります。

そして本業以外の営業外収益、費用といわれる毎年発生する経常的な損益を足し引きして出すものが経常利益(経常-ケイツネ)です。本業以外の営業外収益、費用は例えば、貸付金に対する受取利息だったり、逆に借入への支払利息などで発生するものです。

経常的ではないその年限りでの損益は、特別利益特別損失といわれます。特別利益は例えば本社ビルの売却や、保有株式の売却に伴う一時的な利益などが該当し、特別損失の方は震災のような災害に伴うものや、昨今でいえばコロナ禍の影響による店舗の休業、工場稼働率低下などを計上する企業が目立ちます。

そして、経常利益に対して、特別利益、特別損失を足し引きして、税金を控除する前の企業の活動全てを含めた、税金等調整前当期純利益が計上されます。

そして法人税などを支払い、最後に企業に残る利益が、当期純利益です。これが株主にとっては、還元が行われるもとになります。

事業構造と、企業の課題・特徴が見えてくる

損益計算書をただ眺めても売上や利益の大きさしか見えませんが、その対象の企業の課題、特徴や置かれている状況を見るためには、もう一歩踏み込む必要があります。

まずはベンチマークで比較する数字の感覚を持つことです。そしてもう一つは損益計算書が一定期間の活動報告の意味合いを持つことから、過年度からの傾向を見ていくことになります。

損益計算書を踏み込んでみるためのポイント
1.ベンチーマークをする(同業他社、優良企業)
2.過年度からの傾向を見る

ベンチマークする際にみる項目と、基準となる水準

ベンチマークですが、比較する場合に金額の大小を見ることも大切ですが、構造を見ていく場合には"率"で比較していきます。

例えば売上総利益率(売上総利益 ÷ 売上高)は多くの製造業で20~30%程度が平均的といわれています。その中でも、例えば製薬や化粧品のメーカーは総利益率が高い特徴があり、70~80%程度の水準になります。

上記の売上総利益率が低い企業は、販売管理費も低い傾向があり、一方で製薬や化粧品メーカーは、研究開発費や広告宣伝費などを多く使うため、販売管理費が高くなる傾向があります。

そして本業でのもうけを示す営業利益率(営業利益 ÷ 売上高)は全産業での平均が5~7%です。日本取引所で上場企業の全産業平均が2020年3月期で5.23%で、2019年3月期が6.57%でした。この水準は製造業、非製造業で大きな違いはありません。

上場企業の損益計算書を見ていくと、営業利益率については、多くの場合は5~10%のレンジにあり、10%を超えると収益力の高い優良企業とみなされる水準になってきます。

それから経常利益率(経常利益 ÷ 売上高)ですが、本業以外の収益や費用が通常はそれほど大きくないため、営業利益率とあまり変わらないことが多いです。ただ、見方として営業利益率に対して経常利益率がかなり低くなっている場合は、借入金や社債などに伴う費用が本業を圧迫し、財務基盤が弱くなっている可能性を示します。

あとは特別利益、特別損失ですが、ここに大きな数字がある場合は、その内訳を確認することが重要です。

他社と比べてみてみる

基準とする水準を頭に入れながら、貸借対照表の際と同様に、年間売上高1,000億円以上の日用品・化粧品メーカーを比較してみていきましょう。数字は有価証券報告書の連結損益計算書から取ってきています。貸借対照表と同様ですが、概観した後に、特徴がある数字を拾ってみていきます。

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(単位: 100万円、カッコ付きの数字はマイナスの意味)

まずは化粧品を主な本業としてしているメーカー、資生堂、コーセー、ポーラオルビス、ファンケルの売上総利益が軒並み70%を超えていることが見て取れます。一方で販売管理費は一番低いファンケルでも60%、一番高いポーラ・オルビスでは75%にのぼります。

これは、化粧品メーカーが高い売上総利益率をベースに、販売やマーケティングにコストを掛ける構造が読み解けます。(逆の見方をすれば、販売やマーケティングにコストが掛かるために、粗利を高く設定しているともいえるかもしれません。)

花王、ユニ・チャーム、ライオンも化粧品(だけ)ではありませんが、製造業の20~30%の水準から考えれば、かなり高い売上総利益率であることが見て取れます。

そして営業利益率を見ていくと、資生堂とポーラ・オルビスを除いた5社が営業利益率10%を超えています。貸借対照表を見た際に、これらの日用品・化粧品メーカーはキャッシュリッチであったと思いますが、本業での稼ぐ力がその背景にありそうです。

一方で、ポーラ・オルビスはまだ平均的な水準よりは少し高い営業利益率ではありますが、資生堂は2%と目立って低いようです。他社が営業利益と経常利益に大きな差がない一方で、資生堂はそれなりの額の営業外費用があり、また大きな特別損失を計上し、当期純利益はマイナスになっています。

営業利益率は後ほどトレンドで見ていきたいと思いますが、特別損失はなんでしょうか?

有価証券報告書をみると「新型コロナウィルス感染症による損失」として186.9億円が計上されています。さらに、その内訳をみると、休業中の従業員給与・手当が117.8億円、店舗・工場維持費として50.1億円、イベント開催等のキャンセル費用として18.9億円となっています。

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コーセー、ファンケルは決算時期が異なりますが、他社がそこまで大きな特別損失を出していないにも関わらず、なぜ資生堂だけ大きく影響をうけているのか

百貨店に美容部員を配置しているような売り方を考えると、時短営業やインバウンド売上の減少が、他社より大きく影響をしたものと考えられます。

またロックダウンなど日本よりも大きい影響があった、アメリカや欧州における割合が他社に比べて大きいことも仇になったようです。アメリカでの売上高は914億円であるのに対して、営業利益は223億円の赤字、欧州では943億円の売上高に対して、営業利益は132億円の赤字です。

そしてその他の特別利益、特別損失を見ていくと、特別利益として新型コロナウィルス感染症に関連して支給された助成金のほかに、固定資産売却益として代々木オフィスと北東京オフィスの土地・建物売却とあります。さらに、構造改革費用、事業撤退損など計上されており、事業構造改革を進め始めていることが見て取れます。

過年度からの傾向で見る

同業や違い業界の他社に比べて課題や特徴が顕著にみられた資生堂の、過去4年間の連結損益計算書を並べてみます。

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営業利益率を見てみると、2017年から2019年までの3年間は、8~10%と製造業としては及第点の営業利益率であることは見て取れます。ただし、この数字も化粧品メーカーとしては、決してずば抜けてよいわけではありません。

急に2%になった理由を追うと、やはり売上高、つまりトップラインの下落が大きく影響しており、それに対して原価や販売管理費はそこまで下げられていません。新型コロナウィルスの影響をもろに受ける事業構造であったことが分かります。

ここからは仮説になりますが、2017年から2019年まで営業利益率が一定の水準で、売上高も緩やかに伸びていたことを考えると、新型コロナウィルスが収束していくとともに、元の水準に近づいていくことは考えられます。

ただし、新型コロナウィルスによって起きた生活の変化や消費動向、デジタル化が、この先ある程度は不可逆の変化であることも想定すると、本来は安定した事業である化粧品ではありますが、その中でも資生堂については何も手を打たずに元の水準に完全に戻れるかは不透明です。

また並べてみて特色のある数字に着目するというのが数字の見方ですが、2017年の特別損失811.12億円が目立ちます。該当会計年度の資生堂のニュースをみると、米子会社の減損損失というニュースがありました。

「のれん」の減損とは、価値が低下したブランドの価値を切り下げることです。これは端的に言って資生堂の海外M&A失敗の事例といえます。それを頭に入れて、報告セグメント別の決算報告資料を見てみます。

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新型コロナ前の2019年の段階で、実は日本でのビジネスでは資生堂の営業利益率は16.7%にのぼり、中国、アジアパシフィックでも10%を超える高い水準にあります。それが、アメリカ(米州)とヨーロッパ(欧州)では、2019年の段階で営業利益が元々赤字でした。

資生堂に対しての考察

新型コロナウィルスの影響を同業他社及び近い業種の企業よりも強く受けたことを考えると、資生堂の強みである対面での販売が制約されていく流れに対して、どう説得力のある販売チャネルを構築できるかは注視する必要があります。

さらに重要なことは、海外事業、特にアメリカ、ヨーロッパでのビジネスの立て直しです。ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、今年の2月に資生堂が日用品事業を1,600億円で売却し、海外・高級価格帯に的を絞るという発表がありました。日本ではコンビニやドラッグストアで販売しているような価格帯の商品で、日本や中国、アジアではそれなりの収益をあげています。

魚谷社長の発言を追っていくと、「資生堂は1000円以下の商品を手掛ける会社ではない」という発言があったとの記事がありました。

日用品は大規模な広告を打つ必要があり、また価格競争にもさらされることから利益への貢献が低いとみられています。そして、この高価格帯へのシフトを路線とした、日用品事業売却の発表は、マーケットから好感されたようでもあります。

ただ、海外M&A失敗の歴史と、日用品の比率が低いアメリカやヨーロッパでの苦戦を見ると、この経営判断が吉と出るか凶と出るかは、もう少し静観してみていく必要があるのではないかと思います。高価格帯商品を中心に据えて、グローバルをまとめてロレアルなどと戦っていける企業文化や実力を持っている企業なのかどうか、これからも資生堂のチャレンジは続きます。

損益計算書の見方まとめ

損益計算書は該当する期間における、ビジネスの通信簿のようなものです。数字の意味を探り、売上、利益、コストの構造を見るには、数字の大きさだけではなく、割合としての%で見ていくと意味が見えてきます。

今回は日用品・化粧品業界の大手企業をみてみましたが、業界の構造や状況を見るには全産業での平均的水準に対して、対象の業界がどういう特徴があるのかを見ます。そして業界の中で企業を横並びにして、数字に対して特徴が見えるところに着目して、その数字の背景にあるビジネスの事象を深掘りしていきます。

貸借対照表やキャッシュフロー計算書と合わせてみることをお勧めしますが、その中でも損益計算書は年度別の各項目の推移にも着目します。

そこで企業の置かれている状況を大づかみで把握した後に、その企業が進もうとしている方向性を中長期計画であったり、企業からのリリースによって理解し、そこに納得感があればその企業は買いだということではないかと思います。

つまり、会計、ファイナンスの専門家ではない方を念頭に置くと、自社が働き続ける価値がある場所なのかどうか、あるいは就職・転職先としてどうか、または投資先としてどうかというところですね。

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