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「未来のアンドロイド研究論文」をパラグラフライティングで書いてみた

論文執筆の基本技法であるパラグラフライティングは文章表現の「形式」なので、どんな題材に対しても使えます。SFだって書けます。

というわけで、『未来のアンドロイドロボットの研究者が、次世代型のアンドロイドの開発をテーマとして論文を書いた』という想定で、パラグラフライティングでSF世界の論文の冒頭を書いてみました。どんなものになるのか、そして、それをどのように書いていったのかを紹介します。

SF世界の研究論文

今回書いてみた文章はこちらです。5つのパラグラフで構成される論文の緒言前半部分ですね。まずはひと通り読んでみてください。

大気成分のみで活動可能な次世代型アンドロイドの実現が望まれている。その理由は、食糧難に起因する世論の反発である[1]。寒冷化で植物は枯れ果て、人類も家畜も飢えたことで、アンドロイドは食料以外をエネルギー源にすべきだとの世論が8割を超えた[2]。これを機に「霞を食べる」機能の実現要求が高まった。

これに反して、現在のアンドロイドは人と同じものを食料としている。たとえば、現在もっとも普及しているT型の男性アンドロイドは、牛の肉を主として好み、それに加えて米やサラダもほぼ毎日食べている[3]。最新型のF型アンドロイドは、牛の肉は食べないものの、魚介類と穀物は毎日欠かすことがない[4]。

そこで、食物不要で大気成分のみからエネルギーを得られるエネルギー変換胃の効率を20%以上にすることを目指す。ここで、エネルギー変換胃というのは、2200年以後の政府公認アンドロイドの全てが備えている超小型エネルギー炉[5]である。目指す変換効率を20%に設定したのは、これだけの変換効率があれば、現状の大気吸引性能であっても十分な活動エネルギーを得られる[6]ためである。もし20%未満だった場合、1時間あたり15分の深呼吸休憩が必要となり、活動効率が著しく損なわれてしまう[7]。

しかし、従来のエネルギー変換胃は壊れやすいことが問題である。事実として、変換効率を無理に高めようとすると強力な酸で胃壁に穴が開くことが知られている[8]。そして、実際に胃壁に穴が開き、体液の漏出によって機能停止した例がいくつも報告されている[9-14]。

これに対し、本研究では酸の分泌を抑える錠剤を開発し、アンドロイドが用法・容量を守って飲めるように訓練することで解決を目指す。具体的には、エネルギー変換胃の壁面に高密度分散実装されている酸分泌素子[15]の機能レベルを一時的に低下させる無機化合物を錠剤化する。そして、日常的な活動の任意の時点で錠剤を任意量服用させる中で、胃酸分泌レベルの変動を常時監視させ、なるべく少ない服用量で胃酸分泌レベルを適正値内に収める服用方策を体験的に学習させる。

先頭文だけ抜き出して読むとあらすじになっていることを確認してください。こうなっているのが、パラグラフライティングの特長ですね。また、各パラグラフの中でも話題が一貫していることも確認できたと思います。

どうやって書いていったか

それでは、この文章をどう書いていったかをみていきましょう。パラグラフライティングでは、まず「アウトライン」と呼ばれる話題とメッセージの並びを決めて、各メッセージに根拠・解説・具体例から成るメッセージの補助文を添えていきます。この方法についてはこちらの記事で解説しています。

アウトラインを整える

下の図をみてください。これが、アウトラインの「素」です。「理想」「現状」「課題」「問題」「アプローチ」の5つの話題がこの順で並んでいます。これは、論文の緒言部分の前半のアウトラインのおすすめの構成です。※後半のおすすめ構成は、「目標」「手段」「論文構成紹介」です。

論文の緒言前半のアウトラインの素

この構成ではメッセージを5つ決めることになります。

今回の場合、理想は「大気成分のみで活動可能な次世代型アンドロイドの実現」であり、それに反して現状は「現在のアンドロイドは人と同じものを食料としている」というメッセージにしました。

この現状と理想のギャップを埋めるために達成を目指す課題は「食物不要で大気成分のみからエネルギーを得られるアンドロイドのエネルギー変換胃の効率を20%以上にする」ことで、その課題の達成を妨げている問題は「従来の変換胃は壊れやすい」ことであると認識しているということにしました。

この問題の解決のためのアプローチは、「酸の分泌を抑える錠剤を開発し、アンドロイドが用法・容量を守って飲めるように訓練する」というものにしました。

結果として、未来のアンドロイド研究者が用意したアウトラインは、下の図のようなものになりました。各メッセージが、話題展開の接続詞によってしっかり繋げられていることに注目してください。

未来のアンドロイド研究者が用意したアウトライン

このアウトラインを左側から順に読んでいくと、すでに話の骨格が出来ていることが分かると思います。実は、このアウトラインをここまで整えるまでには、何度もメッセージを練り直しています。下絵が良くないと良い絵にならないので、このアウトラインも何度も何度も書き直してここまで仕上げています。

アウトラインからパラグラフへ

ここから、アウトラインに沿って肉付けをしていきます。今回、5つのメッセージがありますので、5つのパラグラフを作ることになります。解説・根拠・具体例のいずれを書き加えていくかは、メッセージが読まれたときにどんな感想を抱かれるかで決めるのでしたね。

まずは、「大気成分のみで活動可能な次世代型アンドロイドの実現」という理想についての第1パラグラフをみていきましょう。このメッセージについては、「それが本当に理想なの?」と疑われそうなので、根拠を付けます。また、「詳しくはどうなの?」とも思われそうなので、解説も付けていきます。この方針で、第1パラグラフをこのようにしました。

[第1パラグラフ:理想について]
大気成分のみで活動可能な次世代型アンドロイドの実現が望まれている。
その理由は、食糧難に起因する世論の反発である[文献]。寒冷化で植物は枯れ果て、人類も家畜も飢えたことで、アンドロイドは食料以外をエネルギー源にすべきだとの世論が8割を超えた[文献]。これを機に「霞を食べる」機能の実現要求が高まった。

先頭文がメッセージで、2文目と3文目がその根拠、4文目が解説になっています。各文には、必要に応じて文献の引用が必要ですね。

続いて、現状についての第2パラグラフをみていきましょう。「現在のアンドロイドは人と同じものを食料としている」という現状については、「実際にはどんな感じなの?」と興味を持ってもらえそうなので、具体例を載せました。先頭文はメッセージで、2文目と3文目はその具体例になっていますね。

[第2パラグラフ:現状について]
それに対して、現在のアンドロイドは人と同じものを食料としている。たとえば、現在もっとも普及しているT型の男性アンドロイドは、牛の肉を主として好み、それに加えて米やサラダもほぼ毎日食べている[文献]。最新型のF型アンドロイドは、牛の肉は食べないものの、魚介類と穀物は毎日欠かすことがない[文献]。

続いては、課題についての第3パラグラフです。「食物不要で大気成分のみからエネルギーを得られるエネルギー変換胃の効率を20%以上にする」という課題については、「なんでこの数値なの?」と尋ねられそうなので、根拠を付けます。また、「エネルギー変換胃」という用語が曖昧なので、解説も加えるのが良さそうです。というわけで、次のようなパラグラフになりました。2文目が解説、3文目と4文目が根拠になっています。

[第3パラグラフ:課題について]
そこで、食物不要で大気成分のみからエネルギーを得られるエネルギー変換胃の効率を20%以上にすることを目指す。ここで、エネルギー変換胃というのは、2200年以後の政府公認アンドロイドの全てが備えている超小型エネルギー炉[文献]である。目指す変換効率を20%に設定したのは、これだけの変換効率があれば、現状の大気吸引性能であっても十分な活動エネルギーを得られる[文献]ためである。もし20%未満だった場合、1時間あたり15分の深呼吸休憩が必要となり、活動効率が著しく損なわれる[文献]。

そして、問題についての第4パラグラフです。「従来のエネルギー変換胃は壊れやすい」というメッセージについては、「本当に問題になっているの?」と信じてもらえなさそうなので、根拠を付けました。2文目と3文目が根拠になっています。

[第4パラグラフ:問題について]
しかし、従来のエネルギー変換胃は壊れやすいことが問題である。事実として、変換効率を無理に高めようとすると強力な酸で胃壁に穴が開くことが知られている[文献]。そして、実際に胃壁に穴が開き、体液の漏出によって機能停止した例がいくつも報告されている[複数の文献]。

最後は、アプローチについての第5パラグラフです。「酸の分泌を抑える錠剤を開発し、アンドロイドが用法・容量を守って飲めるように訓練する」というメッセージについては、「実際にはどんな風にするの?」と思われそうなので、具体例を付けました。2文目と3文目が具体例になっています。

[第5パラグラフ:アプローチについて]
これに対し、本研究では酸の分泌を抑える錠剤を開発し、アンドロイドが用法・容量を守って飲めるように訓練することで解決を目指す。
具体的には、エネルギー変換胃の壁面に高密度分散実装されている酸分泌素子[文献]の機能レベルを一時的に低下させる無機化合物を錠剤化する。そして、日常的な活動の任意の時点で錠剤を任意量服用させる中で、胃酸分泌レベルの変動を常時監視させ、なるべく少ない服用量で胃酸分泌レベルを適正値内に収める服用方策を体験的に学習させる。

おわりに

アウトラインに沿って解説・根拠・具体例を書き足してパラグラフライティングの作法に則った文章を書いていく実例を紹介しました。

実際に研究をしなくてもパラグラフライティングで論文を書く練習ができますから、「歯磨きの仕方をパラグラフライティングで書いてみた」「部屋の片付け方をパラグラフライティングで書いてみた」みたいな身近な話を題材にするのもいいですね。

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