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本当においしいピーマンは苦くない。なぜならば

今回は、前回のきゅうりに続いて「成り物野菜」のピーマンがテーマです。苦い野菜と言わずに、もう少しピーマンと向き合ってみませんか。「久松農園らしい味」になる決め手は何でしょうか。久松農園代表の久松達央さんに話を聞きました。聞き手・書き手は久松農園サポーターの大久保朱夏です。

長梅雨だった2020年のピーマンは75点

―今年は長梅雨でしたね。ピーマンの出来はどうでしたか?

久松:今年のピーマンは75点です。うちの野菜の中では、最も長梅雨の影響を受けないで育った作物でしたね。ピーマンは水を必要とする作物ですが、それと同時に、水はけがよいことも大事になります。茨城県の火山灰土壌の黒ボク土は、水はけがとてもいいんです。改めてうちの畑は、ピーマン栽培に適しているんだと再確認しました。もう少し日照があれば100点になったかなと思い、謙虚に点数をつけてみました。

―久松さんにとって、100点のピーマンって、どんなピーマンですか?

久松:栽培者としては、直販に必要な量をまかないながら、多少アップダウンがあっても、安定した品質のピーマンが出し続けられるというのが100点です。お客さんに長く喜んでもらえることを最も大切にしています。作ることと売ることが一体化しているのが久松農園の特徴だと、今朝も収穫しながら考えていました。

―点数は、味だけではないんですね。

久松:おいしい品種を旬の時期に栽培し、採りたてをお届けしているので、元気に育ってくれれば必ずおいしいんです。

―元気に育つというのが栽培のポイントですね。

久松:野菜って、食べる人は可食部しか見てないでしょう? 僕らはいろいろな野菜を育てているので、木としてのピーマン全体を見ています。ピーマン専業の農家ほどかかりきりにはなれませんが、不要な枝や実を落としてあげるなど、最低限のお世話をしてあげないと、木が疲れてしまうんです。今年は、今までよりも手をかけることができました。

ピーマンはもっと深掘りできる

―ピーマンの品種ってあまり意識したことがなかったのですが、たくさんあるのですか?

久松:すごく大まかにいえば、ピーマンの品種は、極端に果肉が薄くて細身のししとうや甘長(小果種)と、実が大きくて果肉が厚いパプリカやワンダーベル(大果種)、その中間(中果種)に分かれます。

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※大果種ワンダーベルの画像はタキイのホームページの品種カタログより。

英語だとピーマンも唐辛子もpepper、スペイン語だとpimentoと、ひと括りですが、形、色味、辛味、大きさ、風味は実にたくさんあります。メキシコには数千種あるともいわれています。

―そんなにたくさんあるとは!

久松:お店の酢豚に、よく果肉の厚いピーマンが生っぽく使われていますが、もっとクタっとしてた方がウマくなるのではないかなぁ。ピーマンって、どこか軽視されがちですが、自分で育てるようになってからは、「もっと深掘りできるよ!」って思っています。

―久松農園のピーマンの品種を教えてください。

久松:シシトウ寄りでやや細身の「京ひかり」と、肉厚で丸っこい「みおぎ」です。大型のベル型にも行きすぎず、シシトウにも寄りすぎないのが好みです。ピーマン2種と伏見甘長(写真下)も作りました。ピーマンは食べるのが好きなので、作っていて楽しい作物です。

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ピーマンが「苦い」と言われる理由

―タキイ種苗から2020年の「子どもが嫌いな野菜ランキング」が発表されました。1位ゴーヤ、2位とうがらし、3位ピーマンでした。ピーマンは毎年上位です。なぜ子どもに嫌われてしまうのでしょうか?

久松:苦い野菜の代名詞のように言われますよね。これには、実の採りどきが大きく関係しているように思います。僕の育てている品種だと、ピーマンは花が咲いてから収穫まで15~20日。日に日に大きくなるので、1日の持つ意味はとても大きいんです。実が小さいうちは、苦味もエグみも強いです。農園見学会でお客様に1cm角くらいのまだ未熟なピーマンを食べてもらうのですが、強烈に苦いんですよ。

―熟すと味はどう変わるんですか?

久松:熟してくるにつれ、酸味や甘味が増して味が豊かになります。その分果肉は厚くかたくなります。ピーマンも収穫せずに木に置くと、最後は赤く色づいてパプリカのようになるんですよ。市場流通しているものは、かたさや筋っぽさを避けるために、僕がベストと感じるタイミングよりは若めで採る規格になっています。そうすると苦味を強く感じてしまうんです。子どもが嫌いになるのも無理はないと思います。

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―採りどきが、そこまで味に影響を与えているなんて驚きました。

久松:ピーマンに関していえば、産地や生産者、品種の違いよりも採りどきが最も味に寄与しているように思います。僕は市場規格のピーマンよりも、もう少し大きく育てて、ハリを出したいんですよね。

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↑若すぎるピーマンは久松農園では採らない(左2つ)、久松農園で採っているピーマンの大きさ(右2つ)。

―市場規格のピーマンと何日くらい差があるのですか?

久松:「みおぎ」で言えば2日ほどの違いです。「みおぎ」は、味のバランスのいい久松農園らしいピーマンだと思っています。

―たった2日の違いですか?

久松:たった2日で、と思うかも知れませんが、ピーマンの一生は200日しかないので、2日は人間に置き換えると実に1年くらいの意味を持つんですよ。

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↑左から赤ちゃんピーマン・市場規格・久松農園のピーマン。適正サイズは品種によって違いますが、こんなに差があります。ちなみに品種は「京ひかり」です。

―確かにそう考えると採るタイミングの影響は大きいですね。久松農園のピーマンは香りもいいですよね。

久松:これは余談ですが、タキイ種苗が「こどもピーマン」という苦くないピーマンの品種を出しています。これはハラペーニョから辛味を抜いたものなんです。もともと辛味だけが際立っているハラペーニョから辛味を抜くことで、苦くないピーマンを実現しているんですね。面白い発想です。味が単調で僕の好みではないですが(笑)。

―そういえば、久松農園のピーマンなら食べられるというお子様がいましたよね。

久松:うちの「みおぎ」は、やはり苦味だけではなく、ほかの味も感じられるからだと思います。子どもがピーマンを食べてくれないと嘆くお母さんには、子どもを疑う前にピーマンを疑ってみてください、と話しています。うちのピーマンが食べられないなら、無理してピーマンは食べなくていいですよ(笑)。久松農園のピーマンが特段おいしいという意味ではなく、子どもが避ける理由を掘り下げているからです。

ピーマンの味が問われる料理

―久松さんはどんな食べ方をするのが好きですか?

久松:果肉がしっかりしたピーマンを丸ごと楽しむならオイル蒸しです。味が強く、食感もちゃんとしているピーマンのよさが引き立ちます。種ごと食べられますよ。一方、ししとうをオイル蒸しにするとすぐクタッとしてしまいます。繰り返しますが、やはりピーマンって、もうちょっと用途によって、使い分けをしてもいいのではないかと思います。

―久松さんは、ピーマンの味をどう分析していますか?

久松:ピーマンは酸味・甘み・苦味が入り混じった旨味のある野菜です。

―先ほどから久松さんが何度か言うので気になっていたのですが、ピーマンで「酸味」ですか?

久松:酸味の野菜ですね。そのままかじってみると酸を感じます。僕は、きゅうり、トマト、ピーマンを細かく刻んでクスクスと合わせて、ナンプラー、酢、オリーブ油で和えたサラダ「タブレ」をよく作ります。この料理にピーマンは欠かせません。酸味とシャキッとした食感が大事なんです。

―私は久松農園のピーマンは、酢の物にするのが好きです。細切りにして、さっと湯がいて酢じょうゆか、レモンやすだちなどの果汁を搾りかけてしょうゆを垂らしてよくいただきます。

久松:僕はゆでたピーマンは、細切りにしてめんつゆでモリモリ食べます。めんつゆ推しです。少し汁けがある料理が、いい気がしますね。

―おいしそう!

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※レシピ・画像提供は久松農園サポーターの大久保朱夏です。
レシピは久松農園のコラボサイトVegeRecipinからどうぞ。

久松:シンプルな食べ方の方が、ピーマンの味を問われます。

―家庭ではピーマンはゆでるよりも、炒めて食べる方が一般的かもしれません。

久松:おそらく苦味を和らげるために炒めたり、肉詰めにするのですね。普通のピーマンを細かく切るとなんの味もしないでしょう。しつこいようだけど青椒肉絲だと、ピーマンの味はそこまで問われない気がします。地味な料理で「おっ!」て、味の違いをわかってもらえたらうれしいです。

―久松農園のピーマンをモリモリ食べたくなってきました!

久松:ピーマンの話ではそんなに熱くなれないかと思ったけど、結構熱くなりました。

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*ピーマン豆知識*
原産地は熱帯アメリカ。大航海時代、胡椒の買いつけに行ったコロンブスが新大陸で発見した唐辛子をPepperの一種だと強弁したことから、胡椒もピーマンもPepperと呼ばれるようになりました。ピーマンの語源は、トウガラシのフランス語「piment(ピマン)」からきています。江戸時代にポルトガルから伝わったときは辛みがあるトウガラシでしたが、明治時代初期に甘みのある品種が入ってくると、辛くないトウガラシをピーマンというようになりました。
ちなみに、久松農園のある茨城県は、ピーマンの生産量シェア1位(2位宮崎県・3位高知県)です。







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