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【輪廻】生物とは…?

上の記事で、動物と植物を生命の代表的存在のような形で触れましたが、生物学の歴史的な経緯としても、昔の生物学は動物学と植物学に大きく分けられていました。そして、1969年、生物学者のロバート・ホイタッカー(1920-1980)が、ここに「菌」「原生生物」「原核生物(モネラ)」が加え、生物を五つの界に分ける五界説が提唱されました。(注意:菌界には酵母菌、カビ、キノコなどが含まれ、細胞核を有する真核細胞です。大腸菌などの細菌は細胞核を有さない原核生物界の方に含まれます。)

しかし、DNA解析技術が発展し、五界説では必ずしも合理的に生物を分類できないことが分かってきました。特に、原核生物の世界(モネラ界)はひとまとめにできるほど単純なものではなかったのです。その解析に使われたのが「rRNA遺伝子(リボソームRNA遺伝子):rDNA」です。

○リボソーム
細胞質基質に存在する直径30nmほどの粒子で、大小2つののサブユニットで構成されており、それぞれの部分は数種類のrRNA(リボソームRNA)数十種類のリボソームタンパク質からなる。かなり雑な説明になるが、セントラルドグマにおいて、DNAを鋳型としてmRNA(メッセンジャーRNA)に転写されたアミノ酸配列情報を読み取り、tRNA(トランスファーRNA)が運んできたアミノ酸を繋げてタンパク質(やペプチド)を合成していくタンパク質合成装置がリボソーム。一般に細胞質基質内に散らばって数個〜10数個並んだ遊離リボソームは酵素・細胞骨格など細胞自身が利用するタンパク質合成に関与し、小胞体に結合したリボソームは膜を構成するタンパク質や細胞外へ分泌されるタンパク質などの合成の仲立ちをする。

1977年、生物学者のカール・ウーズ(1928-2012)はrRNA遺伝子の塩基配列を解析し、ひとまとめにされていた原核生物界が実は大きく異なる二つのグループに分かれることを発見しました。原核生物が細菌(バクテリア)古細菌(アーキア)という二つのグループに分けられ、一方、真核生物(ユーカリア)についてはこれ全体を一つのグループとしたのです。そして、この三つを界よりも上のレベルとしてドメイン(超界)とすることも提案しました。

○細菌(バクテリア)
我々の身の回りに多く生息し、時に病原体となる原核生物グループ。大腸菌、ブドウ球菌、肺炎球菌、結核菌、赤痢菌といった病原菌や、乳酸菌、納豆菌のような食品製造に使われる細菌など。
○古細菌(アーキア)
高温の熱水中や極めて高い塩濃度の環境下、アルカリ湖のような高pH環境や硫黄を大量に含む環境など、極限的な環境に生息する原核生物のグループ。
○真核生物(ユーカリア)
五界説における原生生物界・菌界・植物界・動物界がここに含まれる。

三ドメイン

バクテリアとアーキアが進化の過程で分岐したのはユーカリアの誕生よりもずっと前の話になります。それでは、我々ユーカリアはバクテリアとアーキアのどちらから分かれたのか?答えはアーキアです。そもそも我々ユーカリアはアーキアの一種だとする説まであります。

ウイルスは生物なのか?

ウイルス粒子(ビリオン)は自己複製こそするものの、細胞から構成されておらず、自分で代謝活動を行わないため、細胞性生物としての必要条件を満たしていません。

このように、現在の生物の定義に基づくと、ウイルスは生物でないことになりますが、下記の書籍に面白い説が二つ紹介されています。私がこの本を手に取ったのも6~7年前だったので、現在では研究が更に進められているとは思いますが。

ヴァイロセル仮説

フランスの微生物学者パトリック・フォルテールによる面白い説です。ウイルス粒子(ビリオン)をウイルスの本体と考えるのではなく、そのウイルス粒子を作る「ウイルスに感染した細胞」をウイルスの本体と考えるべきではないかという説です。実際、ウイルスに感染した細胞はそれまでと異なり、乗っ取られたかのようにウイルス遺伝子が指定するタンパク質(ビリオンを構成する構造タンパク質や各種ポリメラーゼなどの非構造タンパク質)を自分のリボソームを使って合成し、ウイルス粒子を作っていくようになります(ウイルスは自前のrRNA遺伝子を持たないので、感染した細胞のリボソームを勝手に利用します)。フォルテールはこのウイルスに感染した細胞を「ヴァイロセル」と呼び、特殊な例としての細胞性生物と主張しています。

我々、ユーカリア(真核生物)の細胞が持つ細胞核もウイルスに機能的に似ています(と言うよりも、構造的にもアーキアに感染したポックスウイルスの祖先が細胞核へ進化したとする説があります)。確かに、細胞核は移植が可能で、この核移植によってクローン動物が作り出せることが分かっています。

また、原核生物のバクテリアに含まれるマイコプラズマの一種であるマイコプラズマ・マイコイデスのゲノムを他種マイコプラズマに移植することで、移植されたマイコプラズマはマイコプラズマ・マイコイデスの特徴をもつようになります。バクテリアの形質転換はこれよりも肺炎双球菌を用いたグリフィスの実験(1928年)が有名かと思いますが。このような事例から生物を定義する基準は、その生物をコードする能力であるべきとの主張も当然出てきます。

REOsとCEOs

フォルテールらは現在生物とみなされているバクテリア、アーキア、ユーカリアの三ドメインに含まれる生物を「リボソームをエンコードする生物(ribosome-encoding organisms:REOs)」と定義する説を提案しています。

REOsとCEOs

一方、ウイルスを特徴付ける代表的なものは、そのDNA(またはゲノムRNA)を包み込む「カプシド」です。「カプシドタンパク質」はバクテリアに感染するウイルス、アーキアに感染するウイルス、ユーカリアに感染するウイルスにも存在します。REOsに対して、ウイルスを「カプシドをエンコードする生物(capsid-encoding organisms:CEOs)」と定義する説も同時に提案しています。新しい生物の定義の案として非常に興味深いです。

それでは、D型肝炎のようなサテライトウイルス、ウイロイド、プリオンと呼ばれるものは、ここでいう生物であるのか否か考えてみると面白いかもです(笑)。ますます生物と無生物の境界が分からなくなり、迷宮に入りますので(笑)。

CEOsの自己とREOsの自己?

CEOsにとって、我々REOsとは自らの増殖と進化の土台に過ぎないことになります。我々REOs側の主観では、CEOsを遺伝子の水平移動など進化上のパートナーであるとプラスに考えることもできますし、時に感染症を引き起こして我々を病気にしたり、死亡させたりもするとマイナスに考えることもできます。

我々REOsの体はCEOsに奪われるものです。CEOsは奪うこと・奪おうとすることで自己を存続させ、REOsは護ること・護ろうとすることで自己を存続させていると言えますね。即ち、ミクロレベルでは片時も互いを意識しない瞬間はない関係同士なのかも知れません。しかし、奪い過ぎるCEOsは土台REOsを破壊し、それは最終的に自己の破滅を招きます。まるで人類と地球環境の如くです。

輪廻転生の対象が、ここで定義される生物全般に及ぶと仮定するならば、人間以外の生命が含まれる「畜生道」はとてつもなく幅広い界ということになりますね(笑)。我々ヒトは60兆個の細胞は赤血球などの特殊な細胞を除き、全て同じDNAを内部に持っており、細胞の種類が異なっていても、それは使用している遺伝情報が異なるだけです。同一ゲノムにつき、一つの自己と考えるべきでしょうか…いろいろと考察中です。