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"喫茶"という漢語

昔からこの熟語は何故"喫茶"と書くのだろうと不思議に思っていました。お茶を飲むという行為をどうしてこのように表現するのでしょう。現代中国語ではお茶を飲むことをこのようには書きません。


喝茶、飲茶

中国語では飲むという動詞は、普通"喝"という漢字をあてます。日本語の"飲"ではありません。この"喝"という漢字は日本語では"カツ"と読み、意味は"大声をあげる"、"大きな声を出す"、なので飲むという意味はありません。この言葉がどうして飲むの意味に変わったのかも不思議です。

一方"飲茶"という言葉は中国語でもあります。広東料理の"ヤムチャ"はこの言葉の広東語の発音ですね。中国語の方言には古い漢字の表現がまだ保存されているケースが多いので、"飲"を使う表現は古い時代には使われていたのでしょう。

吃茶

去年台湾で放映された「茶金」というドラマがあります。台湾新竹の北埔を舞台に、お茶が台湾の主要な輸出産業であった時代を描いた歴史ドラマです。
このドラマでは主要な言語として客家語と台湾語を使っていたのですが、ドラマの中でお茶を飲むシーンにしきりに使われていた言葉があります。それは"吃茶"です。"吃"は中国語では食べるという意味ですが、台湾語ではこの言葉をお茶を飲むという意味で使うことがあります。
ただし台湾語では"飲"茶という言い方もあり、どちらかと言うとこちらの方が日常語として定着しています。"吃"茶は比較的形式張った言い方のようです。
この表現を何度も聞くうちに、ふと閃きました。この"吃"は、元々"喫"だったのではないか。どもりという場合の漢字は吃音と書き、吃はキツと読みます。現代中国語での発音も2つとも"chi"です。漢字が簡略化されるのは何も日本語や大陸の簡体字だけではありません。中国でも昔から様々な簡略化が行われています。中国で簡体字の整理が始まるより前の時点で"喫"の文字が簡略化されて"吃"になり、それがいま中国でも台湾でも使われている。喫茶という漢字はこの変化が起きる前に中国から日本にもたらされた表現であると考えれば納得できます。

"喫茶"は古い中国語の表現

喫茶という言葉と同じ表現が現代の中国語としては残ってはいないが、台湾語には今もって使われる言葉として、生きているということがとても面白いと思いました。


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