魅惑の「大判本」10選+α
我が家のリビングのテレビの下の棚には「大判本」がそこそこ並んでいる。
ここでは大判本を「普通の本棚には収まらない大きめの本」としておく。置き場所に窮して集めてあるという事情はあるが、このスペースには普通のサイズの本も並んでいる。
ここにあるのは「ちょっと変わったお付き合い」をする本たちなのだ。
ギアチェンジのひととき
「ちょっと変わったお付き合い」とは、拾い読みだ。
ご紹介する10冊プラスアルファは、ほとんど読了していない。
かっちりした読書と拾い読みは、私にとって別腹だ。
スキマ時間や寝る前に、ちょっと開いて数ページ読んだり、写真や図版を眺めたりする。
ソファでのそんな時間はとても良い気分転換になる。面白いエピソードや新しい知識に出会って、得した気分になることもある。
大判本の役割はギアチェンジだ。
手を伸ばしやすい場所なので「待ち伏せ」効果も多少は期待している。
でも、それはオマケでしかない。
この棚には私自身が「いつまでも読み終わりたくない本」がある。
積読本どころではない、「死ぬまで読みかけにし読本」の棚だ。
なお、以下の「10選」同様、ナンバリングはランキングではありません。
1.『世界を変えた本』
ベタでメジャーながら、現役最強のギアチェンジ本のひとつだ。
この本、とても大きくて、重い。
重い本は、読みにくい。普通、それは欠点だ。
大判本は違う。極端に言えば、重ければ重いほど良い。
上質な紙に写真やイラスト、図表が大きく配置され、持ち運びなど微塵も想定しない分厚さと重みを手で感じる。
この手応え自体に、非日常へのギアチェンジ効果がある。
冒頭のこのページの背景画は1188年刊の『ハインリヒ獅子公の福音書』。
羊皮紙266ページで編まれた王のための「一点もの」は、オークションで1600万ユーロの値がついたという。
『世界を変えた本』はそんな稀覯本の画像や関連資料を豊富に収める。
目次をざっと見てみよう。
聞いたことがある、あるいは小さな図版は目にしたことがあるという有名どころは、ほとんど網羅されている。
知ってる本でも、解説部分や関連資料に新たな発見がある。
ほぼ知らない、あるいは書名も初耳という本も少なくない。
たとえばこの『ニュルンベルク年代記』は、「聞いたことあったけど、こんな本だったのか!」と驚いた。なんとなく『進撃の巨人』の設定書みたいだ。
「そのすばらしさは出版界に一大センセーションをひきおこした」という『聖地』(デイヴィッド・ロバーツ)、不勉強ながら、この本で知った。
『世界を変えた本』はまだ3分の1も読んでいない。テキストや図表の密度が高いので、再読、再再読を考えれば一生もので楽しめそうだ。
2.『世界の神話伝説図鑑』
神話は面白い。
何千年もの間、人間や世界の本質を描く物語として生き残ってきたのだから、面白いのは当たり前だろう。
神話関連の書籍は昔から好きで諸星大二郎や星野之宣のマンガも愛読書だ。同好の士なら、この本は「ど真ん中」だろう。
リンクはコンパクト版。手元の大判オリジナルはどうやら絶版のようだ。
この手の本が「ツボ」に入るかは、図版とテキストのバランスの好みによるだろう。以下の画像でご判断ください。
基本は地域別のオーソドックスな構成だ。
古代ギリシャ・ローマから北欧、ケルト、スラブと欧州をカバーし、西アジアから東アジアまでユーラシア大陸を横断。アフリカに戻り、南北アメリカ大陸、オセアニア・ポリネシアまで全世界をカバーしている。
この地域別構成の合間に、テーマ横断で「神話界のスター」を集めた見開きが入る。前掲写真なら最初の「大地の神々」と4枚目の「運命の神々」がテーマ別オールスターズのページだ。
これが面白い。
他のテーマは「捨てられた子供たち」「守護神たち」「愛の神々」「神話の英雄たち」など。
「戦争の神々」のページには、マルス、インドラ、オーディン、カーリーなどと並んで日本の「八幡さま」もエントリーしている。
神話の魅力は、各地の風土に根差した世界観のユニークさと、人類共通のいわゆる「アーキタイプ(元型)」的要素にある。
メジャーどころの神話にも、読み返せば発見がある。
まったく知らない神々・神話・伝説なら、人間のイマジネーションの豊かさと同時に通底する普遍性が垣間見えて、興味深い。
『世界を変えた本』並みに浮世離れした、ギアチェンジに最適な一冊。
3.『ロンドン歴史図鑑』
こちらは珍しく、ロンドンにいたころに最初から通読した一冊。英国やロンドンの歴史にご興味ない方はサラッと読み飛ばしてください。
なぜロンドンが、ニューヨーク、パリと並ぶ世界的都市になったのか。
ローマ人によるロンドニウム開発より前の先史時代から、現代の東ロンドン地域の開発まで、あらゆる切り口から都市とそこに住む人々の栄枯盛衰が描かれる。
愉快なのは、地図のちょっとした「遊び」だ。
これはチャールズ1世やクロムウェルがドンパチしていた時代のロンドンの「防衛線」を示した地図なのだが、「コヴェント・ガーデン」「ウォータールー」といった鈴のような丸いマークは現在の地下鉄の駅名なのだ。
他の地図も同様の作りで、現代のロンドンの地理が多少頭に入っていると、「あそこか!」とピンとくるし、街歩きの楽しみも増す。
ロンドンに長期滞在する機会があれば、極上のガイドブックとしてお勧めする。
番外編① 絵本あれこれ
いくつか絵本をまとめて。
今はこのあたりが並んでいる。
junaidaの2冊はごく最近加入した。『の』が素晴らしい。
一番お付き合いが長いのはこちら。
『旅の絵本』の方が拾い読み向きなのだが、『すうがくの絵本』は幼い娘たちと一緒に読んだノスタルジー込みでたまに開きたくなる。
安野さんのイラストで描かれる楽しい問題や解説は、ちゃんと「さんすう」じゃなくて「すうがく」している。ちょっと値が張るけど、買って良かった絵本ランキングを作ればかなり上位に入るはず。
4.『ピュリッツアー賞受賞写真全記録』
別世界に一瞬で連れて行ってくれる写真集がギアチェンジに最適なのは、言うまでもない。
このナショナルジオグラフィックの3冊が並んでいて、私の一番のお気に入りはハルバースタムが序文を寄せるこちら。
なぜ高騰してるのか腹が立つので、アップデート版と思われるこちらも。
これは良いものです。
受賞写真を大きく配置して、関連の写真・図版も入れ、テキストは過不足ない分量。
この沢田教一さんのあまりに有名な1枚のように「何度見たことか」な写真が4分の1、「見たことあるな」が3分の1、残りは「知りませんでした」といった配合なのだが、超有名な写真にもテキスト部分で発見があって読み飽きない。
たとえば、誰もが知る「ハゲワシと少女」。
ショッキングな一枚は、世界がスーダンの内戦の悲劇に目を向けるきっかけとなった半面、「写真を撮るより少女を救うべきだった」「『やらせ』ではないのか」といった批判を浴びた。カメラマンのケビン・カーター氏はピュリッツアー賞を受けた翌月の1994年7月のある夜、自ら命を絶った。
この逸話はどこかで読んだ記憶があったが、アイゼンハワーとケネディをとらえた、この「孤独な2人」がシークレットサービスの「股の間」から撮影されたエピソードはこの本で初めて知った。
オフィシャルな撮影が終わり、2人の大統領が歩み去った瞬間、AP通信のカメラマンは「今だ」という直観を得て、シークレットサービスに「脚を開いてくれ」と頼み、制止する報道官を振り切って、地面に這うように撮ったショットだそうだ。
そんな「歴史的な1枚」の裏側まで楽しませてくれる良書を、まだ半分も読んでいないなんて、最高だ。
5.『20世紀の配色』
この棚には書店で買える画集のほか、ロンドン時代に回った欧州各地の美術館で買い求めた収蔵作品集も並べている。ルーブル、アクロポリス博物館、アムステルダムのゴッホ美術館、ブリュッセルのマグリット美術館などなど。
画集はどれもギアチェンジに最適なのだが、美術系でユニークなお気に入りは『20世紀の配色』。謳い文句は「図版約300点で読み解く、煌めく色彩の100年史」だ。
Amazon、手元の定価の2倍ぐらいしている。増刷してはどうか。
これこそ百聞は一見に如かず。ほぼ年代順にご紹介します。
面白いのは右端の「色見本」風の部分。
100年の「映えている」ビジュアルを、配色という視点でたどる。
一番最後のチョイスが批評的でニヤリとしてしまう。
このページ、タイトルはずばり『見せびらかすための消費』。
解説文もなかなか痛烈だ。
マイケル・ジャクソンとペットの像は、あるアーティストによる磁器製の等身大の作品だ。繰り返します。等身大、です。
これに1991年のオークションで560万ドルの値がついた。
アートは門外漢だが、めくって眺めるだけで楽しい。
「縦」に見るのも、「色彩の100年史」の早送りのようでなかなか愉快。
6. 『THE LEGO ARCHITECT』
気が付けば一大勢力になっていたのが「建築・街並み」関連の大判本だ。
『まぼろしの奇想建築』と『名建築の空想イラスト図鑑』がオススメ。
「元ネタ」という縛りのもとでアーティストの創造力が発揮される。描きこみが凄まじいので、自分が建物や風景に溶け込んだような感覚を味わえる。
『DOORS』『世界の美しいモスク』『路地裏のある街 坂道の見える村』『世界で一番美しい天井装飾』などもパラパラめくるには最高だ。
とはいえ、LEGOファンとしてコレをピックアップせざるを得ない。
神保町の三省堂の裏にある建築専門書店でたまたまみつけてジャケ買いした。日本語版は例によって中古が高騰している。
英語のKindle版が手ごろだが、「重さ」も価値のうちである大判本としては少々味気ない。
中身は、あきれるほど、えげつない。
LEGO作品としてのクオリティが狂気の沙汰なのだ。
アテネのアクロポリス美術館に行った際、古代ギリシャの街並みを模したこの作品が展示されていて、「お前、ここにいたのか!」と爆笑した。
全編この調子で、本当にどうかしている。
しかもこの本、4人のLEGOマニアによる「同人誌」みたいなものなのだ。
裏表紙の右下隅に、
This book is not authorized or endorsed by the LEGO group.
と明記されている。
いわば自作LEGO自慢本なわけだが、写真やテキストで建築の歴史もたどれるようになっている。
LEGOをやりたくても時間がないとき、パラパラめくると「お腹いっぱい」になって満足できる、という効用もある。
7.『東京店構え』『東京夜行』
映画『君の名は』の背景などを手掛けポーランド人イラストレーター、マテウシュ・ウルバノヴィチさんのイラスト集は、不動のレギュラーだ。
マテウシュさんの奥様、ウルバノヴィチ香苗(かな)さんもイラストレーターで、『おカネの教室』の表紙・挿絵・キャラ絵を描いてくださった。
そのご縁でアトリエ兼ご自宅に遊びに行って、マテウシュさんに2冊ともサインしてもらった。イラスト付き。家宝です。
そんな身びいき(?)は抜きに、この2冊は本当に素晴らしい仕事だ。
2冊とも地図までついているから、東京の街を歩きたくなってしまう。
大手町・神田・日本橋界隈の絵が多く、よく見知った風景が「料理」されているので、何度も見返しても飽きない。
2冊とも巻末に使用した画材や創作プロセスまで載っている。アタマからしっぽまで、手抜きなど一切なく、最後まで美味しくいただける本だ。
番外編②お勉強本
大判本コーナーには「お勉強本」も並べてある。
定評がある理科系の図版解説は長女が小学校の頃からすぐ手に届くところに置いていた。
内容は中学から高校理科ぐらい。小さいうちは写真をみせて「大きくなったら、こういう面白いことを勉強するよ」とみせて、中高に進めば教材として活用できる。早めにそろえておいて損はない。
日本史と世界史の図解シリーズ2冊もかなり前から置いてある。
リンクは「新版」、以下の画像は手元にある旧バージョンだ。
このシリーズ、実によくできていて、三姉妹の評判もとても良い。
ざっくりとも、じっくりとも学べる、「これだけ10回読めば、共通テストでもそこそこいけるのでは」と思える充実した教材だ。
8.『オクスフォード ピクチャー ディクショナリー』
そんなお勉強本から1冊だけ10傑に入れます。
これは割と有名なのではないだろうか。こんな本だ。
絵で見る英語辞典。
レベルは高くないはずなのだが、体の部位や、英語圏の初等・中等教育で習う基本単語は、大人にとって「語彙の穴」になっているケースが少なくない。たとえば円錐、鋭角・鈍角、平行四辺形といった単語、すっと出てくるだろうか。
ギアチェンジという趣旨からは外れるけれど、気が向いたときにめくるだけで「語彙の穴」を多少、埋められる。
9.『1001の出来事でわかる世界史』
ギアチェンジに戻ると、歴史モノは定番中の定番だ。
数ページの項目別の構成や、ミニコラムの集合体という作りの本が多く、拾い読みに最適な大判本の王道だ。
最近導入したのはこの『ビジュアル列伝歴史を変えた指導者たち』。
大胆かつ丁寧な作りの本で、「お値段以上」の価値がある。
「歴史は近現代からさかのぼって『人』中心に学んだ方が楽しめる」が私の持論だ。この本は1,2章でモーセ、仏陀、始皇帝、ナポレオンあたりまで片付け、3~6章でたっぷり19~21世紀の重要人物をカバーしている。
人選がユニークで、君主や政治家だけでなく起業家、マララ・ユスフザイさんなど活動家も何人か入っている。日本人では徳川家康とソニーの創業者盛田昭夫が「列伝」入りしている。
定番として推したいのはこちらの1冊。
ひとつひとつのコラムがコンパクトなうえ、歴史全体の流れがつかめる優れもの。
古代から中世、近現代まで7つの章の初めには、年表に沿って各章のテーマの歴史的な位置づけの解説が入っている。
この年表にタイトルの「1001の出来事」が埋め込んであって、読む項目を選べるのだ。
「このあたりの時代を覗いてみよう」とタイムマシンで行き先を決めるような面白さがあるうえ、そのイベントの歴史の中の「位置」をイメージとしてつかめる。実に秀逸な造りだ。
何しろ400ページ程度に「1001の出来事」を詰め込んであるので、各項目は非常にコンパクトにまとまっており、すぐ読める。
このサクサク感が心地よいうえ、写真や図表が大ぶりなのも目に楽しい。
現代の写真は、さすがナショナルジオグラフィックという高品質だ。
忘れたころに同じ項目を再読してしまうので、まったく読み終わる気配がない。あと5年や10年は大判本コーナーに陣取りそうだ。
10.『マンガ!大英博物館マンガ展図録』
10選の最後は、大英博物館のマンガ展の図録『マンガ!」の日本語版。
表紙が『ゴールデンカムイ』のアシリパさん。展示のメーンビジュアルも「金カム」だったようだ。
単なるマンガ紹介ではなく、「世界と日本の文化の中で『マンガ』をどう位置付けるか」という骨太のテーマに挑んだ労作だ。
マンガ好きであり、「漫画史」にも関心を持つ人間として、「これは買って良かった」と自信をもって言える。マンガの分析は的確で、歴史的資料や貴重なインタビューも山盛り。
新たな視点で「マンガ」を再考できる稀有な一冊。
番外編③ジャンプ創刊50周年記念号
これは入手困難だろうから、番外編として。
2018年7月に発刊された『少年ジャンプ』の50周年記念号。
この記念号の特集が、極上なのだ。
昔、むさぼるように読んだころのジャンプの表紙たち。
唸るようなメンバーによるサイン色紙。抽選で当たった101人の皆さん、家宝ゲット、おめでとうございます。
レジェンドたちの凱旋巻末コメント集。
鳥山明と井上雄彦の黄金対談。この2人、あわせて何億部売ってるのだろうか。
あなたも大判本の世界へ
ここまで読んでくださったもの好きな方なら「1冊か2冊、買ってみようかな」という気分になっているのでは。
もう一押し、いたしましょう。
大判本には書店に行く楽しみが増すという効用もある。
やはり、こういう本は、実物と紙質の「手応え」を感じて買いたい。
手に持った瞬間、「これは手放していけない」と感じることもある。
そんな出会いを逃してはいけない。
どんな本でもそうだが、特に大判本は「一期一会」だ。
中古が高騰しているケースが示すように、増刷がかかりにくいからだ。
相性が良ければ、ずっと楽しめるし、棚に並んでいるだけで幸せな気分になれる。
あなたにも「良い出会い」が訪れますように。
最後に大判本コーナーをざっとご覧にいれて、お開きとします。
網走番外編
ここから先は読まなくても良いです。
という前口上を踏み越えてしまうお好きな方だけに。
番外の番外、その1はこちら。
非常にユニークで実験的な小説。Amazonレビューいまいちなのは、好みの問題だろう。私は大好きです。
Amazonの概要を引用します。
この「イラスト・図表満載」というのが、尋常じゃないのです。
主人公の少年が描いたという設定なので「傑作集」というタイトルなわけだが、この著者、執筆中、楽しくてしょうがなかったでしょうね。
ちょっと暗い影が差す家族の物語をはらんだ、ロードムービー的な冒険譚。
番外の番外、その2は「ハリポタ」。
大判絵本バージョンの『賢者の石』『秘密の部屋』『アズカバンの囚人』。下にチラッと映っているのは「ハリポタ沼」の戦利品です。
この絵本はロンドンにいる頃に買った。
全巻そろえたいけど、日本で買うとかなり高そうだ。
最後はこちらを。
古本、高騰しまくりですね。一期一会だ、やはり。
良い仕事だ。
シリーズ全5巻、出してほしいが、おそらく難しいでしょうね。
以上、本当におしまい、です。
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