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ギターを置くならこんな風に

私が生涯初のギターを買ったのは2011年の秋、39歳の時だった。
きっかけは、ありがちかもしれないが、その年に起きた東日本大震災。長年、「いつかは」と思いつつ、先延ばしにしていたのだが、「人間、いつ死ぬか分からないな」と改めて痛感して、ある週末、近所のイオンの楽器屋でサクッと買ってしまった。

「欲しけりゃとっとと買えば良かったのに」という話なのだが、躊躇した理由はいくつかあった。

ギターという厄介なオブジェ

まず「今から上達するのは大変だろうな」という諦め。
小学校のとき、「弾けたらかっこいいだろうな」という憧れだけで何となくギタークラブに入ってみたら、顧問が超パワハラ系でミスると怒鳴るわ叩くわで、挫折。
それがトラウマになったのもあって、その後は中学時代にたまり場だった友人Yの家でクラシックギターの安物をいじったことがあった程度だった。高校の学祭で組んだ即席バンドでは下手なドラムを受け持った。
「もうオジサンだし、仕事は忙しいし、手遅れだわな…」と今生でのギタリスト道は断念しようかと思っていた。実際、2011年の購入時点で覚えているコードはCとAとDぐらいというほぼ白紙の状態だった。

2つ目の理由は次々と子どもが生まれたこと。
27歳で長女が生まれ、3~4年間隔で次女、三女に恵まれた。3歳くらいまでは育児は大変だし、ガキンチョは聞き分けのないモンスターでもあるので、時間を食う趣味かつ「取り扱い注意物件」の導入が躊躇われた。

3つ目の理由は「置き場所がないな」という問題だった。民主的ウサギ小屋主義の我が家では、昔も今も、私を含めて誰も個室を持っていない。ギターを買った当時住んでいたマンションはかなり手狭で、買ったら場所塞ぎになるのは目に見えていた。

でも、2011年に「えいや!」と買ってしまった。
そして、念願のギター様は、本棚&物置部屋みたいなスペースの片隅に、買ったときのオマケだったこんな感じのスタンドに鎮座することになった。

これが、予想通り、ものすごい邪魔だった。
部屋の入口付近に「デン」とこのオブジェが立っていると、出入りでひっかかるし、モノの出し入れのたびにアッチにやったりコッチにやったりと、もう、本当に邪魔だった。
「あー、やっぱりな…でも、しょうがない!」
そんな状態を放置して2年ほどが過ぎたあるとき、ネットでたまたま見かけた山崎まさよしさん(長年のファンです。以下、敬意を込めて山崎師と表記)のインタビューをつらつら見ていて、衝撃的画像に遭遇した。
これである。

「何ちゅう素敵&場所取らないスタンドやねん!」
さらに衝撃的だったのは、これが山崎師自作、いわゆるDIYなことだった。
これはショックだった。
看板屋の息子として散々現場で鍛えられたというのに、なぜ、今まで自分はこういうソリューションを探らなかったのか。
ちなみに、どれぐらい鍛えられたかは、こちらの投稿をご覧ください。

記者稼業が長くなりすぎて、私は職人精神を失いつつあったようだ。
落ち込んでいてもしょうがない。私はさっさと設計に取り掛かった。

Let's DIY!

まずはラフ。

このちょっと前に「子供用に」と安物の小ぶりのギターも買っていたので、「山崎師式」で横並びで2本立てられるスタンドを構想した。
一番右はギターの型紙をあてがって寸法を割り出している。こういうひと手間をかけると、イメージが湧きやすいので、おすすめです。

900ミリで行けると分かったのはラッキーだった。材木などの部材はサブロクサイズ(三尺・六尺=約900ミリ×1800ミリ)が標準だから、選択肢が広がるし、切り出しじゃなく規格品で済ませれば材料費も安く済む。
上記のラフをもとに、900ミリ四方の板から部材を切り出す図面を書きだした。

こんな感じ。
右上の台形の板はスタンドとは無関係。本棚の固定に使うくさびをついでに調達した。無駄がない人生だなあ。
ここまでで2時間ほど。

近所のDIYショップに突撃すると、案の定、想定通りのパイン材を発見。

100ミリ余るけど、まあ、ドンマイという範囲だ。購入後、工作室のオジサンに図面を渡して切断してもらう。円筒形のパーツも同様に調達。部材の吟味に1時間ほどかけた。

材料費は、加工賃込みで5000円ほどかかったように記憶する。
安いものともいえるが、実家なら材料から加工まで全部タダで行けるので、都会に出てきてジャガイモが有料なのに納得がいかない北海道民のような気分だった(荒川弘作品の影響による偏見です)。

ここまでくれば、あとはコイツの出番である。

人類史上屈指のイノベーション、インパクトドライバー大先生。これは業務用の強力なヤツなので、穴あけもネジ締めもお茶の子さいさいだ。

何の苦も無く組み立て終了。
このままでも良いのだが、大事なギターちゃんの座り心地を気遣い、ウレタンの緩衝材を両面テープでセット。

こうした細部を含め、組み立て作業には2時間弱かかった。
構想から5時間、出来上がったのがこちら。

これが、前のマンションでは電子ピアノの横にすっぽりハマっていた。ま、ハマるように設計したわけですが。

ああ、気持ち良い……。
「まさよし感」もある。
大満足。
リビングのすぐ横のこのスタンドに置くようになってから弾く頻度も上がり、良いことづくめだった。
やるじゃない、看板屋の息子さん。

その後、2年のロンドン赴任の間はこのスタンドは日本でお留守番してもらい(ギターの「大」は持って行った)、帰国後に住んでいる今の部屋でも引き続き、リビングの片隅に気持ちよく収まっている。

「震災」でつながっていた

ただのDIY自慢になりかけている、というか、基本、そういう投稿なのですが、自分の中ではこの件はいろいろと反省というか後悔している。
「看板屋の息子」なら、「ギターはほしいけど置き場所が…」なんて悩んだ時点で「邪魔にならないスタンド作ればええやん」という発想にたどり着いてもよかったはずだ。
そうすれば、もうちょっと早く買って、もうちょっと上達できたかもしれない。やはり、40歳近くからのスタートだと、指は動かない&開かないし、ちょっとサボれば絶望的に「ふりだし」にもどる。
ロンドン時代は毎日のように弾いていたのだが、最近は週に2~3回、短時間いじる程度なので、テクは絶賛後退中であります。
ま、基本は「1人カラオケ用伴奏マシーン」なので、手が届く範囲で楽しんでいますが。

ところで、この記事を書くにあたってググっていて、2017年の「DIYの魅力って何ですか?」という山崎師のインタビューをみつけて、ちょっとした偶然に驚いている。当該箇所だけ引用します。

――木工好きが高じて、東急ハンズ40周年記念ソングまで作ったという山崎さん、なぜDIYにハマったんですか?
山崎 東日本大震災のとき、自宅のスタンドに立ててあったギターが全部倒れてたんです。それで10本まとめて壁に立てかけるような感じで固定するスタンドを自作してみたら、地震でも倒れないし場所もとらないし、これはいいなと。そこからです。

なんと、あのギタースタンドは震災がきっかけで生まれたのか。当時のインタビュー記事にはこの経緯は出ていなかったと思う。
震災をきっかけに、山崎師はDIYに目覚め、私は遅まきながらギター道に足を踏み入れた。そして2年遅れでスタンドを模倣したわけだ。

ということで。
人間、何事も始めるのに遅すぎることはないし、忘れたころに(苦い)経験が生かせるかもしれないし、何よりDIYは楽しいですよ、というお話でした。

連休中に、久々に何か作ろうかな。

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