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初公開、これが出版企画書だ! 「おカネの教室」ができるまで⑰

「できるまで」その3商業出版編の第2回です。総集編その1その2のリンクはこちらから。面倒な方は文末の超ダイジェストをご覧下さい。

「持ち込み可」を探せ!

大手出版社の「持ち込みお断り」の厚い壁にぶち当たった私は、出版社のホームページを片っ端からググって、「出版提案・持ち込みはこちらから」という会社をリストアップしていった。残念ながら手元に作業のログがないのだが、片手に余る程度をピックアップするのに半日くらいかかった。

手間がかかったのは、
①そもそも持ち込みを受け入れているところが少ない
②「OK」の出版社でも、過去の出版物から見て採用は難しそう
③「自費出版ビジネス」に誘導されそうな会社が多い
といった要素が影響していた。自費出版は選択肢として考えていなかった。「おカネの教室」は経済青春小説という変な本なので、「テイストが合って持ち込み可」の会社を探すのは一苦労だった。

「下手な鉄砲も」の要領で10社ぐらいには打診したいと思っていたが、最終的に以下の7社に売り込むこととした。おおむね、経営規模順に列挙する。

A社 ビッグスリーに次ぐ大手の一角
B社 アグレッシブな総合出版社
C社 学習系に強い実用書系出版社
D社 ビジネス寄りの実用書系出版社
E社 D社と同様のタイプ
F社 実用書寄りながら文芸も手掛ける中堅総合出版社
G社 自費出版系出版社

「おカネの教室」を商業出版するには、経済書・ビジネス書として出すしかないのは理解していた。でも、番外編で書いたように、作者はこの作品はあくまで小説だと思っている。「変な小説」だけど。
商業出版に当たって、「この変な小説を変なまま出してもらう」ことを条件の1つとするつもりだった。
ちなみにG社は「作品によっては自費ではなく、出版社から出します」という一文が募集要項にあったのでトライしたのだが、案の定、結構な額の自己負担による出版の提案を受け、お断りした。

ともあれ、2017年の5月半ばから、各社の窓口にこんな問い合わせを送った。

Kindle本のヒット作の出版提案について
ご担当者さま、
唐突に失礼します。
3月に「おカネの教室」というKindle本を出版した者です。
自分の娘に書いた読み物をまとめたものですが、予想以上に幅広い読者に受け入れられ、3カ月で読み放題で60万ページ以上が読まれ、ダウンロード数換算で前編・後編で約6000冊のヒットを記録しています。
読者から「紙の本で是非出してほしい」という要望が多いので、現在、取り上げていただける出版社を探しているところです。
詳しくは以下のFacebookページをご参照いただければと思います。
https://www.facebook.com/okanenokyoshitsu
窓口となっていただけるご担当者をご紹介いただければ深甚です。
よろしくお願いいたします。
高井浩章

追伸
こちらはペンネームでして、本名は高井XXと申します。
本業は新聞記者で、現在はロンドンに駐在しています。

思い付きだったミシマ社への売り込み

売り込みは「ここから出せたら、いいなあ」という第1陣を5月、そんなぜいたくが言える身分ではないので可能性のありそうな第2陣を6月と、2回にわけて行った。
第1陣に問い合わせを送るとき、ふと、「持ち込み不可らしいけど、ついでにミシマ社にも売り込んじゃえ」と思いついた。
なぜそう思いたったのか。正直、覚えていない(笑)
内田樹の「街場」シリーズなど何冊かを読んでいた程度で熱烈なミシマ社ファンというわけではなかったが、書店巡りでみかけるたび、「丁寧に、ユニークな本を作る会社だな」とは思っていた。
改めてホームページで既刊のラインナップをみると、「変な本」をそのまま出してくれそうな気配を感じた。
とはいえ、「持ち込みお断り」の告知には、「出版点数を絞っているから手が回りません」という強烈な拒否オーラが漂っており、まあ、こりゃ、無理だわな、と思わされた。

各社に問い合わせてすぐ、ある社から「出版企画書の形で送ってほしい」という返信が来た。私は、ネット上の企画書のテンプレなどを参考に用意していたものを送った。
一部省略・修正しているが、以下がその原文だ。

「おカネの教室」出版企画書             高井浩章
▽本書の概要
 お金の本質は何か。働く意味とは。世界を豊かにするために我々に何ができるのか。
大事なことなのに、日本では、貨幣や経済について学校でも家庭でも本気の本音で教えられることはほとんどない。でも、身近な話題から説き起こせば、数式や専門用語を使わなくても、経済の仕組みを理解することはそんなに難しいことではない。
読みやすい対話形式で初歩から本質的議論までをカバーするため、小学校に新設された「そろばん勘定クラブ」という奇妙な課外活動を舞台に設定。欧米投資銀行出身の謎の教師の指導の下、町一番の富豪のお嬢様と、どこにでもいる小6男子の「僕」が、対話と宿題を通じて経済の本質に導かれていくストーリーを組み立てた。
貨幣の役割や市場経済や経済成長の仕組みなどの本筋以外に、金融危機の背景やギャンブル・戦争と経済の関係、高金利ローンの怖さ、資産運用の重要性、世界を揺るがす経済格差問題など興味深いテーマもカバー。サイドストーリーとしてヒロインの家庭不和と悩み、語り手の「ぼく」の彼女に対する淡い恋と成長物語も展開される。

▽著者プロフィル

 本名 高井X章(昭和47年生まれ、44歳、愛知県出身)
1995年XX新聞社に入社。現在、デスクとしてロンドンに駐在。
記者・デスクとしてマーケット・国際問題を中心に20年以上の経験がある。新聞連載記事をまとめた経済関連の共著が数冊。書き下ろしの単著は本書が初めて。
高3、中2、小5の3人の娘の父親。長女が5年生になったころ「経済やお金のことをきちんと理解してほしい」と考えて良書を探したが見当たらなかったことが、本書を書くきっかけとなった。余暇に書き継いで、章単位にまとまったら連載小説のように家庭内でリリースするという作業を続け、足かけ7年で昨年末にようやく完結した。
連絡先 XXXXXXXX@XXXXXXXXX 携帯電話 +44-XXXX-XXX-XXX

▽本書のターゲット
知的好奇心の強い小学校5~6年生から大人まで、幅広い層に受け入れられる内容になっている。
単なる解説ではなく、魅力的なキャラクターを配した小説風の進行になっており、一種の謎解きや少年少女の成長物語としても楽しめる。リーマンショックやピケティの経済格差論の読み解き、冷戦崩壊後の世界経済の歩み、タックスヘイブン問題など、大人にとっても読み応えのあるテーマが盛り込まれている。実際、試読した30~50代の知人やAmazonnのレビュー等で大人の読者層から「勉強になった」と好評を得ている。

▽大まかな構成

 全体は春の新学期から夏休みまでの20回のクラブ活動に沿って「1時間目」から「20時間目」までを各章として構成。間に「放課後」として自宅での家族の会話や宿題に取り組む様子が挟み込まれる。放課後は「その11」まであり、エピローグを含めると32章の構成で、36行×40文字で約180ページ、になっている。
1~4時間目
参加児童2人きりの「そろばん勘定クラブ」が始まる。教師から「お金を手に入れる方法6つある」という謎かけがなされて、「かせぐ」「ぬすむ」「もらう」「かりる」「ふやす」という5つの方法の違いや意味が、具体的な職業を例にとって示される。
(以下、ネタバレなので省略)
5~7時間目
8~14時間目
15~18時間目
19時間目、放課後 その11、20時間目

エピローグ

(参考資料=目次)
1時間目 そろばんクラブ、でかいおじさん、あなたの値段
2時間目 ビャッコさん、一億円と十億円、かせぐとぬすむ
3時間目 複利マジック、6つの方法、難問中の難問
放課後 その1 凍り付いた食卓
4時間目 消防士、胸を張る、役に立つ
5時間目 ファーブル、パチンコ屋、高利貸し
6時間目 アブダッシュ、天職、ロシアンティー
(以下、20時間目、エピローグまで)

目次が最終バージョンと違って三題噺風になっているのが懐かしい。

しばらくすると、五月雨式に数社から、問い合わせ窓口がつないでくれた担当編集者からメールが届き、企画書もしくは原稿を送ってほしいと頼まれた。7社のうち何の反応もない「なしのつぶて」3社と、自費出版系1社がこの時点で候補から消えていたので、「残り3社のどこかから出せるといいがなあ」と思っていたところ、家族でパリに旅行中だった5月の末、1本のメールが届いた。

「ミシマ社のアライと申します」

何の反応もなく「やっぱり持ち込みはスルーか」とすっかりあきらめていたミシマ社からの接触だった(個人情報保護の観点から表記をカタカナにしてあります。意味ないけど)。面白そうだから原稿を送ってみてちょうだい、という。
休暇が終わってロンドンに戻った私は、ファイルを送るとき、ふと悪戯心で「止まらなくなるから、時間があるときに読んだ方が良いですよ」といった挑発の一文を入れておいた。これはすぐ「アホなことを書いたもんだ」と苦笑する羽目になった。ファイルを送った後、編集アライからの連絡はぷっつりと途絶えたのだった。

その間に、「おカネの教室」を巡る動きは急に慌ただしくなっていた。「原稿を読ませてくれ」という段階まで進んでいた他の3社の編集者から、出版に向けてかなり前向きな反応が相次いで返ってきていたからだ。

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「おカネの教室」ができるまで、ご愛読ありがとうございます。
最終編のシリーズ3の商業出版編、ボチボチと書いていきますので、ごゆるりとお付き合いください。

「お金の教室」のわらしべ長者チャート
娘に「軽い経済読み物」の家庭内連載を開始
       ↓
作中人物が独走をはじめ、「小説」になってしまう
       ↓
出版の予定もないし、好き勝手に執筆続行
       ↓
連載開始から7年(!)経って、赴任先のロンドンで完成
       ↓
配った知人に好評だったので、電子書籍Kindleで個人出版
       ↓
1万ダウンロードを超える大ヒット。出版社に売り込み開始 ←いまここ

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