「神がかり!」第50話前編
第50話「本気」前編
「ウガァァーーーーーーーー!!!!」
そして……
もう幾度目だろうか?理不尽に振り上げられる強大すぎる左腕!!
ドッ――――カァァァーーーー!!
そのまま地面に打ちつけられた”断罪の鎚”は大きく地表を抉って砂塵を巻き上げる。
「きゃっ!」
「くっ!」
横に転がり飛び退いて頭を低く這い蹲り、見てくれなど構ってもおられず回避する六神道の者達……
「っ!?」
飛び散った拳大の岩石が運の悪い獲物のひとりに向けて飛ぶ!!
古神の攻撃を回避して後方に大きく飛び退き着地していた黒髪の女を襲う!
――――――ギィィーーン!
女は崩れた体勢ながら、なんとかそれを愛刀で受けるが、
「あうっ!」
ズザザァァーー!
弾丸を超える凄まじい勢いの礫に、鋼は限界を超えてへし折れ使い手の女は大きく仰け反って後方へひっくりかえ……
――――ドサッ!
「…………あ……?……さく……たろ……」
固い地面に頭を強打するはずだった女の身体は、タイミング良くそこに現れた”折山 朔太郎”によって抱きとめられ支えられていた。
「嬰美、蛍を頼む」
俺は視線を前方の荒れ狂う古神に向けたまま、言葉は腕の中の女に向けて放つ。
「……蛍?」
長い黒髪の大和撫子は間近で俺の顔を見上げてから、後方で此方を心配そうに覗う少女に視線を移していた。
「お前にな、多少見苦しい言い訳があるらしい……聞いてやってくれ」
「え?」
それだけ言うと俺はそっと嬰美を起こしてから離れ、
ダッ!
再び死地に向けて走り出す!
「……」
――逢魔を通して体内に集めた人通は禍の贄となり……
――それはより濃縮された禍となって邪神の力となる
なるほど……
守居 蛍の神がかり的な能力を負の力に裏返して吸収したアレは、最早ただの巨人じゃなく真に古の邪神……
――”禍津神”てかっ!
「朔ちゃん!」
「朔太郎っ!!」
「……」
巨神”禍津神”に猛烈な勢いで走り寄る俺は、途中で次々とすれ違う六神道の二人に視線を使って後方へ退避するように促してから――
ズシャァァーーーー!
巨体の足元へと滑り込んでいた!
「ウガァァァーーーーッ!!」
大気を捻じ切り!唸りを上げて横に払われる怪腕!!
「ふっ!」
俺はそれを掻い潜り、お留守の足元を前回と同じに――
「グォォォォォッッ!!」
即座に振り上げられる!大樹さえも小枝と見紛うほどの巨大な左足!
――ちっ、同じ手は食わないってか?
巨大な足裏を俺の頭上から叩き付ける算段だろうが……
――
ドドーーーーーーンッ!!!!
地鳴りを響かせて落とされた一撃は……
「は!」
ただの足踏みだっ!!
同じ手?俺の頭上?
――は?ばぁか、誰が二度も同じ初手で入るかよっ!
俺はその時には既に体勢を立て直し、奴の正面間近に……
数十センチの距離で半身で立ち上がり、両足を大きく開いてどっしりと構ていた。
「…………すぅ」
そのまま上半身のみ垂直に沈める。
「ウガァァァーーッ!!」
怒りにまかせて吠える邪神!
砂塵が消え去る暇も無い間で、巨体の懐で奴の腹筋に触れるほどの距離まで伸ばした俺の左手の掌は……
「ふっ……ふっ……」
そして高さを揃えるように後方の虚空へ引き絞った右手の拳は……
「はぁぁ……」
極限まで引き絞った、まるで強弓を引き絞る様な構えから俺は……
――創造する
敵中の左掌は……平面から感じ取る到達点。
後方の虚空で握り込む拳は……楔を撃ち込む起爆点。
――
二点の間は水平で
その二点を繋いで創造するのは……
”発射台”だ!
そして、その発射台に一本筋の通った”芯”を……
さらに創造した屈強な鉄柱の如き頑強な”芯”を装填する。
「ふっ、ふっ……はぁぁ……」
左手と右手を結ぶ直線上に頑強な鉄柱、それを解き放つ起爆点。
而してその拳は――
決して相手の腹部に打ち込むモノでは無い!
――
そうだ!
想像はあくまで”撃ち込む”のでは無く”撃ち着ける”!!
撃ち込んだのでは剣や槍と同じ……
それでは”ただ”の打突、”串刺し”にしか成らない。
――つまり、目指す事象は……
「……」
我が武は敵背に打貫するに非ず。
敵中に圧縮され、凝縮され、後に放たれる武の結実は――
体内より器を崩壊せしめし渾身の拳なり!!
――とは、”彼の地”で嘗て俺を半殺しにした男の言葉だったか?
要は、通した”芯”の威力を全て敵体内で解放する秘技中の秘技である。
「ウゴォォォォッ!!」
自らの懐で……
死亡確定の死地で……
迂闊にも動きを止めて構える俺に、遅ればせながら邪神の巨大な両腕が羽ばたく鳳の如くに左右に開き――
「ガァァァッッ!!」
それは中心の俺を圧殺しようと振り上げられていた!
――
――バフッ!――バフォッ!!
瞬間で大気を押し潰して迫る邪神の左右の掌!
一瞬先に到達した濃縮された空気の塊は俺の髪を掻き乱し、頬を歪めるほどの風圧が襲い来る!
「――――すぅっ」
しかしそれでも俺が成すべき事は変わらない。
この直後に巨大な凶器が左右から打ち付けられようとも――
息を吸い込んだ俺は……
――
決して相手を貫かぬよう、”芯”が微塵もブレぬよう……
――
「はっ!」
――――――――ズドンッ!!
創造した頑強な鉄柱を、”巨神の腹筋”に撃ち突け!そしてそのまま押し潰すっ!!
「グッ!!ガハァァァッ!!」
一瞬で、一撃で、俺が向けた掌の先、その数センチにある巨体の腹部が拳大に窪み!
直後!邪神の巨躯が弾けて数センチ後方へブレた。
「……ガ……ガ……」
禍々しい古神の両拳は左右ともに俺の顔面に迫る数センチ手前で凍り付き、
巨神はそのまま静かに……
「……」
見ての通り。
これがこの拳の最大の特徴だ。
――
「な、なに?あれ……なんなのよ!!」
後方へ退避しようとしていた東外 真理奈が思わず立ち止まっていた。
「少なくとも……真っ当な打撃業じゃない」
同様の波紫野 剣も奴には珍しくその眼差しは厳しく細められていた。
――
「おおぅ!兄貴ぃ!朔の野郎、とうとう””アレ”をぶっ放しやがった!!」
距離を取った更に後方の安全なベンチ上にて、仰け反るようにふんぞり返って座る男の脇に立つ小太りサングラス。
森永が楽しげに叫ぶ声が聞こえた。
「ガ…………ハッ……ハ…………」
――
――――――ズズゥゥーーーーーン!!
そして――
数瞬遅れで崩れ落ちた邪神の巨体は、まるで爆薬で木っ端に解体される高層ビルの様に、綺麗に垂直落下し、自らの巨体で巻き上がった砂塵の渦中に消えた。
「なっ!?」
「うそっ……」
六神道たちの絶句して固まった表情を向けられた中心、無様に俺の足元に這い蹲る古神。
「……」
俺は拳を握り直し、その無様な後頭部に追い打ちの一撃を……
ゴゴゴゴゴッ!!
ゴゴゴゴゴッ!!ゴゴゴゴゴッ!!
「っ!?」
――瞬間!
なんの前触れも無く地面が”ぐにゃり”と水面のように波打っていた!
「くっ!」
備える間もなく激しく視界が大きく上下する!?
「きゃっ!」
「な、なに?」
ゴゴゴゴゴッ!! ゴゴゴゴゴッ!!
ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!
人が木々が……
いや、鉄筋コンクリートの校舎までが大きく上下に揺れている!
「……」
――地震?
――これは禍津神が……この邪神が起こした地震なのか?
「ちっ!」
急遽、俺は咄嗟に蹌踉めく足を踏ん張り次に備える!
「ウガ……ガァ……アアァァ……」
そして数十秒も続く激震の最中……
本体……邪神の上半身がゆっくりと迫り上がって来る!
「ガ……ガハァァ……グォォォォォッッーーーー!!」
再び蘇った古の邪神は、圧倒的な破壊の覇気を纏って俺の前に立ちはだかっていたのだった。
第50話「本気」前編 END