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「神がかり!」第13話後編

第13話「”くだらねぇ”は一日三回まで!」後編

 「俺はそういうの無いからなぁ……あるひとに言われて学園に来る羽目になって、それで貧乏だから特待生枠を活用しようと思っただけで、俺に将来なんて特に無い」

 ――ああ、俺には未来がいし、もう今は必要無い

 「あるひと?」

 「あぁ、俺の借金の債権者……平たく言えばやみきん、ていうかヤクザ……まぁ、借金取りだな」

 ペラペラとてるの疑問に答える、いつになくお喋りな俺……

 「借金!?」

 その答えを聞いて目を丸くさせて驚くてる

 無理も無い、高校生でやみきんに借金なんてなかなか無い。

 だが、それよりも、なんだか自然とこんな込み入った個人の事情を話してしまう自分に俺は驚いていた。

 「ただ毎日を過ごせるように生きてるだけのくだらねぇ人生だよな」

 俺は諦めたように口の端を上げて笑う。

 勿論、自分を卑下して話したつもりは毛頭無い。

 俺にとってそれが真実であるし、俺の環境を考えればそういう人生しか選択肢が存在しないのも儼然たる事実であった。

 「それ!それだよ!」

 守居かみい てるはビシリと音が鳴りそうなポーズで俺を指さして叫んだ。

 「っ!?」

 虚を突かれて間抜け面を晒す俺。

 彼女は柔らかそうな白い頬を膨らまし、垂れ気味で優しげな瞳を無理に釣り上げて怒りを表現していた。

 「……」

 ――いや、全然怒ってるように見えないぞ……というか、ゆるキャラ系?

 俺の感想をよそに、てるは”怒ってるぞ”アピールを続行しながら言葉を続ける。

 「朔太郎さくたろうくん、すぐ”それ”を言うよね!」

 「それ?」

 「”それ”だよ”それ”!」

「ああ、”くだらねぇ”ってやつか?」

 彼女の指摘に気づいた俺に、豊かな胸の前で腕を組み”うんうん”と頷く少女。

 「たしかに聞いててあまり気分良い言葉じゃないな、悪かった。けど、まぁなんだ、俺にとっては口癖みたいなモノだからあまり気にする……」

 「なお悪いよ!」

 てるは俺が言い終わる前に割って入る。

 「言霊ことだまってしってる?そうネガティブなこと言ってると本当にそうなっちゃうんだよ!」

 「けど……俺のじんせいって大体そんなもんだぞ?くだらねぇって……」

 「違うよ!くだるよっ!メチャメチャくだってるよ!!」

 「……」

 ――いや、その言い方も、なんか……どうかと思うぞ

 微妙な顔をする俺を眼前に、ショートボブがよく似合う可愛らしい少女は両手を腰に当てた偉そうなポーズでやや暴走気味に続ける。

 「と・に・か・く!その言葉!クセでなくすの難しいようなら、制限していこう!」

 「制限?」

 「そう!”くだらねぇ”は一日三回まで!」

 教室中の視線を独り占め、ビシリと俺を指さすユニーク極まる美少女”てる”さん。

 「……」

 「……」

 カラーーンカラーーン

 やがて休憩時間の終了を告げる鐘が鳴った。

 「あっ!もう戻らなきゃ!朔太郎さくたろうくん、また後でね」

 奇異な視線を気にすることも無く、そう言って立ち上がった少女は上品なグレーのプリーツスカートを閃かせて慌ただしく去って行った。

 「……」

 ――なんだか、言いたいことだけ言って去って行ったな

 ほとんど内容無かったけど……

 あっけにとられてその姿を見送った俺は、自分の席なのになんだか取り残されたような格好だ。

 ――また後でって、次の休憩も来るつもりか?

 嵐のような少女の残した言葉を思い浮かべて俺は呟く。

 「…………まぁ、いいけどな」

 「なにが?」

 「っ!?」

 完全に油断していた俺は予期せぬ返事にギクリとした。

 ――

 いつの間にか波紫野はしの けんという男が、彼女と入れ替わりでその場所にいたのだ。

 「……」

 折山おりやま 朔太郎さくたろうの前席、さっきまで守居かみい てるが座っていた席、そこに本来のあるじが帰還していたのだ。

 「"ほたる”ちゃん来てたの?」

 「……あ、ああ、まあな」

ばつの悪い顔をする俺の前で、けんはふうんと頷きながら席に腰を下ろす。

 「で、なにが、まあいいの?」

 「…………お前、余計なことだけ聞こえているな」

 「?」

 いわれの無い事で責められる波紫野はしの けんは、ある意味で同情に値するだろう。

 「そういえば、お前、てるのこと知ってるのか?」

 普通にてるの名を口にしたけんに俺が訪ねる。

 勿論、この場合の"知っている”は、面識があるかどうかだ。

 「一年前、クラスメイトだったんだよ」

 アッサリとしたけんの答えに、"ああそうか”と俺は納得する。

 そういえば波紫野はしの けんは留年していたのだった。

 「そ、そうか悪かったな」

 「なにが?」

 「いや、本人が気にしてないのならいい」

 無神経だったかと、一瞬だけ気を遣った俺だったが、波紫野はしの けんという人物はそういえばこういう性格だった。

 「えっと……彼女、様子はどうだった?」

 もう話すことは特に無いなと、いつも通り机に突っ伏そうとする俺にけんは質問する。

 こいつらしくない曖昧なトーンと内容だ。

 「いや、いつも通り、無意味に楽しげだったが」

 「……そうなんだ」

 「?」

 どうも噛み合わない、けんも奥歯に物が挟まったような態度だ。

 「なにかあるのか?」

 机に突っ伏しかけていた体を起こし気味に聞き返す。

 信じがたいが、俺は彼女のことになると何故かつい踏み込んでしまうふしがあるようだ。

 「何にも無いよ」

 「……おい、波紫野はしの

 意味ありげな態度から一転、飄々とした態度をとる相手に俺は言葉がつい荒くなる。

 「ああ、そうだ!彼女が楽しげなのは意味があると思うけどね」

 けんは誤魔化すように笑って、俺の顔をのぞき込んだ。

 ――だめだな、こういう事はこいつの方が一枚上手だ

 俺は溜息をいてから、追求は諦めることにした。

 ガラッ

 そうこうしているうちに担当教師が現れ、今度こそ有耶無耶に会話は打ち切られるのだった。

13第十三話「”くだらねぇ”は一日三回まで!」後編 END

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