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短編小説•掌編小説

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短編小説と掌編小説をまとめています
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#短編

優しくて冷たい手 #シロクマ文芸部

優しくて冷たい手 #シロクマ文芸部

花火と手の冷たさが忘れられない、高校一年の夏休み。

健ちゃんは私が初めて付き合った男子で、部活はバレー部に入っていて、背はちっこいけどレシーブが上手だったからポジションはリベロだった。
私はマネージャーをしてたんだけど、エースアタッカーよりどんな球も拾っちゃう健ちゃんに惹かれた。

普段は愛想が悪いんだけど私のことを優しく気遣ってくれて、理由を聞いたら「山本さんのことが好きだから」って普通のトー

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【短編小説】平和の先生 #シロクマ文芸部

【短編小説】平和の先生 #シロクマ文芸部

「平和とは何か、説明できる人いますか?」

ウチのクラスに来ていた教育実習の先生が最終日の挨拶で突然質問してきた。どういうつもりだろう。そういう質問をするタイプの人じゃなさそうだったけど。

「いませんか?私、今日が最後なんですけど」

知らんがな。

「じゃあ、指名しますね。清水さん」

最悪。なんで。

「どうですか?」

「んー、今、かな」

「今」

「今、平和ですよね」

「この教室は平

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【短編小説】銀河売り #シロクマ文芸部

【短編小説】銀河売り #シロクマ文芸部

銀河売りになって早3年。
いまだに自分が何を売っているのか、よく分かっていない。

先輩に誘われてこの世界に入った。
先輩は信頼できる人だ。
だけど、この人に会うまで銀河売りに会ったことがなかった。それ以降も会ったことがない。

この世に銀河売りは先輩と俺の2人だけなんじゃないか。

先輩は「そんなわけないだろ」と笑って相手にしてくれないが、そんな気がする。先輩に銀河売りのイロハを教えた人がいたら

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指までおいしい #春ピリカ応募

指までおいしい #春ピリカ応募

「誕生日にサーロインステーキが食べたい」

小学4年生の息子、秀のリクエストに真子は悩んでいた。友達の自慢話を聞いて食べたくなったらしい。

真子は3年前に夫と死別し、定職に就いてはいるが、簡単にサーロインステーキを食べさせられるほどの経済的余裕はなかった。

今日は有給を取り、スーパーを数軒はしごして、予算内で最高のサーロインを入手。自分には豚肉を買って帰宅した。
サーロインステーキの上手な焼き

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【短編小説】ハムカツの食べ方

【短編小説】ハムカツの食べ方

ハムカツを食べる時、衣を先に食べてしまう人はいるだろうか?

俺の弟がそうなのだが、昨日家出した。母親が心配して俺に電話してきた。

「しばらく帰りません。心配しないでください」

そんな書き置きがあったらしい。
弟は俺の3つ下で高校3年生。無断外泊くらいしそうな歳だが、書き置きに心配しないでくださいと書いてあれば心配するのが人情だろう。
俺は大学入学とともに上京していたが、母親に懇願されて帰省し

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