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【短編小説】平和の先生 #シロクマ文芸部

「平和とは何か、説明できる人いますか?」

ウチのクラスに来ていた教育実習の先生が最終日の挨拶で突然質問してきた。どういうつもりだろう。そういう質問をするタイプの人じゃなさそうだったけど。

「いませんか?私、今日が最後なんですけど」

知らんがな。

「じゃあ、指名しますね。清水さん」

最悪。なんで。

「どうですか?」

「んー、今、かな」

「今」

「今、平和ですよね」

「この教室は平和かもしれないですね」

「はい」

「でも、私が今ここで、懐から銃を取り出したらどうでしょうか?」

マジ?

「ま、銃持ってないんで出さないですけど」

なんだ、コイツ。

「このように平和って危ういものですよね。平和じゃない人がいると簡単に壊せてしまいます」

「先生、平和を壊さないでくださいよ!」

お調子者のタカシが茶々を入れる。

「高橋君、大丈夫ですよ。私、平和なんで。
そう、話を戻しますけどね、平和とは何かと言うと、私なんです。いや、俺にします。俺は平和だと言いたい」

勝手にしろよ。

「びっくりした?
平和とは何かって考えること、人生に二、三回くらいあると思うけど、俺のことなんだよね、実を言うと。
なんかさ、概念みたいに思ってたでしょ、平和って。
違うんだよ、俺なんだ。鳩みたいなやつをイメージしていた人、ごめんね、俺です」

なんだコイツ、マジで。

「どういうことかと言うと、俺が関わると平和になるんだよね。泣いてた人は泣き止むし、喧嘩をしてた人は喧嘩をやめるし。
いつか戦争も止められたらって本気で思ってる。それは流石にひとりでは無理なんで、みんなにも平和になってもらいたいんだよね。俺たち平和!って言いたい。
私からは以上です。」

最後俺じゃないんかい。

パラパラと拍手が贈られた。
その時、ガラガラと教室のドアが開き、隣のクラスの教育実習をしている女の先生が入ってきた。

「ちょっとあんた!私のヤツ、パクらないでよ!
皆さん、私が、私こそが平和なんです。この人は私の後。私と一緒に平和になりましょう」

どっちでもいいです。
今日も平和だな。早く帰りたい。

(837文字)


※シロクマ文芸部に参加させていただきました

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