日か落ちたあとで

こうやって、日が落ちたあとで外に出て、星々の天蓋を仰ぎ見ることをしなくなってから、いったいどれくらいたつだろう?星はむかしと変わらず明るく輝き、運がよければ流れ星を見て、願い事をすることさえできそうだった。今夜のように暖かな夜、そして星空、今しもその赤い、色男めいた顔を地平線上にのぞかせようとしている夏の月、それらはまたしてもアビーに娘時代のことを思い出させた・・・その年ごろに特有の、不思議な気まぐれや感情の激発、興奮、人生の〈神秘〉のふちにたっているときの、あのこよなくすばらしい傷つきやすさ、ああ、あたしは純真な娘だった。それを信じようとしないものがいることはわかっている・・・ちょうど巨大なセコイアですら、かつては緑の若苗だったことを信じられぬひとびとがいるように。とはいえ、あたしにも娘時代はあった。そしてその年ごろには、子供の頃の夜への恐怖はいくらか薄れる一方、大人の恐怖・・・万物が静まり、耳をすませば永遠の魂の声が聞こえる。そんな夜にやってくる成人としての恐れは、まだだいぶ先にある。その短い中間期には、夜はひとつのかぐわしいパズルであり、さらにはまた、星をちりばめた空を仰ぎ見て、すてきな、うっとりするような香りをもたらす風のさやぎに耳を傾けると、おのれが宇宙の鼓動のすぐそばにいるという、愛と、人生に近づいているという、そんな気のするひとときともなる。そんなとき、ひとは感じるのだ、おのれが永久に若く、そして・・・。


S・キング 「ザ・スタンド」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?