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(著者:ひろ健作より~この小説は実際に起きたことをもとに創作した物語です。物語と連動する形で現実も変容していった不思議な体験を描写しています。はじめの所から読んでみてください。きっとあなたの心に何か変化が起き現実が変わりはじめるでしょう。)

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第3章「まなざし」
https://note.com/hiroreiko/n/na6941cbe4e95

第4章 居場所

彼女の話は、なぜこんなにも響くのか。ふだん接している人とは明らかに違う。その答はいくら考えても見つからなかった。

そこで尋ねた。なぜエレナさんだけが僕の心に届くのか、と。

すると彼女は、あたかもその質問をされると知っていたかのように、話しはじめた。

「私も同じ経験をしてきたからよ。

苦しくなるのはまじめ過ぎるから。自分と合わない場所にいたり、正反対のタイプに責められると、どうしていいかわからなくなる。自分を見失うのね。
 
ほら、厳しい上司とか先生、絶対君主のような亭主や、姑に仕えるときなんか特にそうじゃない? ちょっとやそっとじゃ逆らえないって。

明らかに立場が上という人に頭ごなしに言われると、否定された気がしてなにも言えなくなる。自分が間違っているのかなって思ってね。

 よかれと思ってしたことが、悪く取られたり裏目に出たときなんか特にそう。一生懸命やっても思うような評価が得られないときにもがくのね」

そうそう、そうなのだ。誰に相談しても教えてくれなかった――その答えを、エレナさんは知っていた。だから彼女の一言ひと言が僕の体に染み込むのだ。

長い間探し求めていた、ノドから手が出るほど欲しかった、その答えが手に入った。それが彼女にとりこになる一番の理由だった。

「あなたはね、オリに入れられた白鳥――。あなたの飛ぶ姿なんて見たことがないから誰も信じないの。どんなに飛べると訴えてもわかってはもらえない。いまは仕方のないことよ。

でも、ほんとうに悲しいのは、自分が誰かを見失うこと」

“ゴホン、ゴホン……”
 
 そう言われてせき込んだ。自分を見透かされている気がしたからだ。

「エレナさん、僕は自分を取り戻せそうな気がします。できることならエレナさんみたいにその人のいい所や本来の居場所を見つける手助けをしたい。でもいまのままじゃ、いまのままじゃ……」

後はことばにならなかった。
すると彼女は僕の顔をじっと見つめ、こう言った。

「つらくなったり悲しくなる日もあるでしょう。だけど苦しい状況はあなたが飛び立つための向かい風。人生にはね、自分を成長させるためのハードルがときには必要なのよ」

「でも――」そう言いかけた僕をさえぎり、彼女は続けた。

「理解が得られなくても辛抱すること。
仕事なんて所せん不自由――そう思う人は多いわ。

だけどお酒を飲むときって、自由にならない? 解放的になるでしょう? “自分を出していいんだ”って思って。飲む前から仕事モードのスイッチをオフにする人もいる。まだ酔ってもいないのにね。

日中は自分を抑える。夜はその反動で、ハメを外すの。そうやってバランスを保っているのね。そんな人に囲まれると、自分だけ浮いた気がする。あなたはいつも同じように接しようとするから、逆に違和感を感じるの。

たしかにあなたの方が自然だと思うわ。そのときどきで態度を変えないというのは。互いのよさを認め、気になる所は伝えてあげる、そんな関係のほうが――。それができたらどんなにいいことかしら。

でもどこかに忘れているのよ。自分を取り戻すには時間が必要。だからあせらないで。あなたの言っていることが理解される日はすぐそこにきているから。

でもいいじゃない。こんなおばあさんでも応援したくなったんだから。

そりゃあうるさく言ってくる人もいるでしょう。でもそれをイチイチ気にしていたらキリがないわ。批判する人にも感謝できるようになること。そうなれば本物よ。

あなたのメッセージは、きっと多くの人を癒すでしょう。応援しているわ」

図星だ。返すことばがなかった。そこで思い付くまま感謝のことばを述べ、また逢いたいと訴えた。だが、それはさらりとかわされた。

「あなたとこうしてお話しできるのも何かの縁。いまこの瞬間を大切にしましょう。縁があればまた逢えるわ」

彼女は置いていたガウンの袖に腕を通し、ストールを肩にかけると、静かにその場を出て行った。

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第5章 主役
https://note.com/hiroreiko/n/n6e403d529d47

最悪な人生から脱け出すには 実話×小説「エレナ婦人の教え」
https://note.com/hiroreiko/n/nc1658cc508ac

「エレナ婦人の教え」はじめに(目次)
https://note.com/hiroreiko/n/ndd0344d7de60


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