「エレナ婦人の教え」3 まなざし
(著者:ひろ健作より~この小説は実際に起きたことをもとに創作した物語です。物語と連動する形で現実も変容していった不思議な体験を描写しています。はじめの所から読んでみてください。きっとあなたの心に何か変化が起き現実が変わりはじめるでしょう。)
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第2章 不思議な出逢い
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第3章 まなざし
「えぇ、知っています。あそこはとってもいいですよね」
思ったまま口にした。すると今度は、目を輝かせながら言った。
「まぁ、あなたったら……。そんなこと言える人、なかなかいないのよ。こっちがいくら話しかけても、適当にあいづちを打つか聞こえないフリ。よくて愛想笑いをするくらい。
あなたはね、ソコがいいのよ」
驚いた。職場では「バカ正直。そんなんじゃ損するぞ――」とおどされていたからだ。だからなにか言おうとするときは、恐る恐る言っていた。そんな自分だったから、彼女のことばをにわかには信じられなかった。
「えっ? この僕がですか? 僕は、職場で“ダメ社員”のレッテルを貼られているんですよ。周りからは白い目で見られ、上司からはヒステリックに罵倒される。仕事ではミスをし、怒られてばかり……。正直どうしていいかわからなくなっていたんです」
「うふふ……。あなたはねぇ、純粋なのよ。言われたことを真に受け過ぎるの。人の言うことなんてね、半分も聞いていれば十分よ」
楽しそうに語るそのおばあさんは、とても若く見えた。窓を背にして座る彼女の周りには、後光が差しているように観えた。
包み込むようなまなざし、張りのある肌、すべてを受け入れてくれるような澄んだ瞳。話せば話すほど、彼女の話に吸い込まれていった。
「こんなおばあさんの話、聴いてくれるなんてうれしいわ。私の年ぐらいになると、若い人と話すことなんて、少なくなるものなの。お名前は……? ヒロさんね。覚えやすくていい名前じゃない。親しみを感じる名前だわ」
彼女の名はエレナ。少しエキゾチックな顔だちをしていた。聴けば、オーストリア人の父と日本人の母とのハーフだという。
かつてオーストリアに住み、そこで知り合ったお菓子職人と結婚――。一緒にお店を営んだ。ご主人が亡くなると、お母さんの生まれ故郷の日本にやってきたそうだ。
数えきれない経験をしたのだろう。彼女の話は、その一つひとつに重みがあって、いくら聴いても飽きることがなかった。いや、はじめて自分をわかってくれたという安心感がそう思わせるのかもしれない。
「私はいつ死んでもいいと思ってる。もうやり残したことはないから……」
そう言って彼女は笑った。その言葉は、毎日の重圧に押しつぶされていた僕を、何ともいえないさわやかな気分にさせた。
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第4章 「居場所」
https://note.com/hiroreiko/n/n5c726a393f71
最悪な人生から脱け出すには 実話×小説「エレナ婦人の教え」
https://note.com/hiroreiko/n/nc1658cc508ac
「エレナ婦人の教え」はじめに(目次)
https://note.com/hiroreiko/n/ndd0344d7de60
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