見出し画像

幻の志林川豆腐

以前は、毎日通っていた通勤路。仕事を辞めた後は、近所だけど通ることはなくなった。その通勤路にある島ストアー。朝出勤する時も開いているし、夕方帰宅する時も開いている。疲れて帰宅する帰り道、薄暗い道の先に島ストアーの白い蛍光灯の光が見えると、今日も終わったんだと感じたのを覚えている。

島ストアーには、約4年間近所に住んでいて、一度も入ったことがない。数えきれないほど、前を通り過ぎたのに。個人商店の独特の雰囲気に、ビビっていたのもある。

今日、ひさしぶりに島ストアーの前の道を通った。いつも開いているガラス戸の張り紙に目が止まる。

"まぼろしの豆腐 志林川豆腐あります。"

前から貼ってあったようにも思う。特に気にせずに通り過ぎる。

歩きながら、考える。

あれ?この前、名前を聞いた豆腐って、志林川豆腐じゃなかったっけ…???

買ってみようかな。いや、わざわざ戻るのは面倒だな。でも、ここで買わなかったら、一生志林川豆腐を食べることはないのではないか。緊急脳内会議が始まる。

茨城への引越しを控えていなければ、またいつでも買えると思って、引き返さなかったと思う。約4年間、いつでも買えたのに一度も買わなかったのだから。

緊急脳内会議が出した答えは、

買う。


くるりと方向転換をして、来た道を戻る。

お店の中に入る。誰もいない。

「…こんにちはー。」

何度か声をかけてみる。返事はない。

個人商店は、地域のコンビニみたいなのも。日用品から食品まで、幅広い商品を購入できる。冷蔵品や野菜などもある。

店内の棚を見てまわる。志林川豆腐は、どこにあるのかな?店内をうろうろしていたら、おばちゃんが来てくれた。

私「志林川豆腐は、ありますか?」
お「みてみようねー」

壁際の冷蔵庫を確認するおばちゃん。

お「あ、今日はもうないねー」

今日は売り切れていた。
幻の豆腐だもん、そりゃそうか。

お「欲しい時は、電話したほうがいいよー。
  だけど、欲しい人が来る時は売り切れてて、
  かと思えば、残る時もあるわけ。」

豆腐との出逢いも縁のようだ。

平日は毎朝7時頃に、新しい豆腐が届くそうなので、明日朝8時に取りに来ます、とその場で豆腐を予約した。

お「半丁?」

おばちゃんは、右手で豆腐を切る仕草をしながら確認してくれた。志林川豆腐がどのくらいの大きさなのか分からないけれど「一人暮らしなので」と伝えて、半丁の豆腐を予約した。一丁でもよかったかな。少なかったかな。

おばちゃんはとても気さくな方で、話しやすい。こんな雰囲気なら、もっと早く利用すればよかった。

お「内地の人?」
私「はい。近所に住んでいるんですけど、もうすぐ引越すんです。」

そんな雑談も楽しい。

豆腐の美味しい食べ方を聞く。

お「そのまま食べてもいいし、
  汁に入れてもいいし、
  油で炒めても美味しいよ。」

豆腐って万能なんだな。

沖縄のアチコーコーの豆腐を食べてみたいと思っていた。スーパーにも置いてあるけれど、私は買い方がよく分からなくて、一度も買ったことがない。沖縄の方にそう話したら「店員さんに聞けばいいのに」と言われ、たしかにそうだと思いつつ、結局先延ばしにして、今に至る。スーパーの豆腐売り場のあのバケツは、どのタイミングで使うんだろう。豆腐の何の汁をバケツに捨てるのだろう。私には、謎のエリアだ。

島ストアーには、朝7時頃にアチコーコーの志林川豆腐が届き、その後、8時過ぎには冷やされた豆腐も来るらしい。

おばちゃんは「うちに7時に来るんだから、もっと早くから準備してるはずよー」と志林川豆腐さんの事を労う。

今日は志林川豆腐を買えなかったけれど、代わりになかよしパン(ハーフ)を買う。もともとまな板くらいの大きさのなかよしパン。ハーフでも充分大きい。税込211円。

おばちゃんは「1円はサービスよー。袋もサービスよー。」と、たくさんサービスしてくれた。ありがとうございます。こんなやり取りも、個人商店ならではだ。

明日朝8時に、また来ます!


次の日の朝。予定の時間よりも早くお店についてしまう。

店内に入り、幻の志林川豆腐を探す。袋に入った豆腐が目に入る。これかな?いや、きっとこれはゆし豆腐だ。たぶん。

私「おはようございます。」
お「早いねー」
私「早く目が覚めてしまって。」

早く目が覚めたというより、寝過ごさないように頑張って早起きをしたのだ。昨夜からハラハラしていた。起きられてよかった。

お店の台の上に、大きな白い塊があった。

これが、幻の志林川豆腐…!!!

おばちゃんは、大きな豆腐の塊を四つに切ったうちの一片をつかみ、袋に入れてくれた。

お「みみの部分も入れようねー」
私「ありがとうございます。」

よくよく考えたら、どの部分をとっても、みみは付いてくるけれど、お得感があった。

それにしても大きい。これ、本当に半丁なんだろうか。豆腐一丁分くらいある。いや、それ以上かも。どさくさに紛れて一丁なのではないだろうか。

そんな疑問が沸いたけれど、おばちゃんに聞くこともできず、そのままお買い上げ。

豆腐一丁について調べてみたら、豆腐一丁の重さには定義がないと知る。地域差があり、関東では300~350gが多く、沖縄では約1kgになるとのこと。地域差ありすぎだ。

私が購入した志林川豆腐は、スーパーでよくみる豆腐一丁より、ちょっと大きいくらいだった。重さは分からないけれど、大きさは、約10㎝×10㎝×5.5㎝だった。

たぶん、約束通り、半丁だ(たぶん)。

でかい。

お「これ知ってる?沖縄ではこれをつけるさー」

それは、サングワーだった。サングワーは、沖縄の魔除けだ。その心遣いも嬉しい。

サングワーと志林川豆腐

お「歩いてきたから、これあげる。」
 「袋はサービスさー。」

おばちゃんは、サングワーをくれた。
おばちゃんは、塩分チャージタブレットをくれた。
おばちゃんは、袋をくれた。

だんだん、サービスなのか、営業なのか、分からなくなる。
おばちゃんは商売上手だ。さすがです。

ごちそうさまでした。

アチコーコーの豆腐を食べられると期待していたけれど、さすがにすでに冷めていて、常温に近い温度になっていた。それでも、念願の島豆腐を手に入れた。やったー!

志林川豆腐(半丁)約10㎝×10㎝×5.5㎝

自宅に戻り、あらためて志林川豆腐とご対面。

やっぱり、大きい。

大きいので、3つに切り分ける。それでも、まだまだ大きい。まずは、みみの部分を食べる。しっかりした豆腐だ。切り分けたひと切れを、そのまま食べる。豆の味とずっしりとした重さを感じる豆腐だ。これは、いい。

毎日食べても、飽きることのない味だ。

そのまま食べても、汁に入れても、炒めてもいい。

本当に、その通りの豆腐だ。
料理の主役にもなれるし、邪魔もしない。最高の豆腐だ。

私は、そのまま食べた後は、炒め物にして食べてみた。しっかりしているから、炒めても形が崩れすぎない。素晴らしい。ちなみに、おばちゃんは、最初に豆腐を油で一度炒めた後、残りの具材を炒め、最後に具材と豆腐を合わせて炒めることをお勧めしていた(オススメの調理法に従わず、ごめんなさい)。

島豆腐は、木綿豆腐ではあるけれど、豆腐の密度が高いというか、みっちりしっかりぎっしり豆が詰まってる!って感じの豆腐だった。

幻の志林川豆腐、味わえてよかった!

おわり

この記事が参加している募集

ご当地グルメ

この街がすき

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?