散文詩『砂の層』2019.9.21




死んでしまう
よ、と旅人は言った。
ただ、遠い町から遠い町へ、北風なんかを嗅ぎながら、
立つ鳥跡を濁さず、一時間を、一年を、十年間を、少々と加えて、
旅路を層にし、重ねているのだけれど、
大したことじゃない
を、同じように層にし、旅した僕の友人、
彼は、いなくなってしまった
んだ。
だから、
ゆえに、きみ、そこのきみの、
大したことじゃない何か。を、
そこの首の長い鳥の、阿呆な表情と一緒に、
考え直さねば、ならない、と
旅人はいい、消えてしまった。」

消えた旅人の旅路の層
ポールをさし、
深く掘り、北風の吹かない平地に辿り着くまで、
彷徨い、足跡に舞い上がる砂と、
ネズミが一匹歩くのを、
見、追い、生き物の呼吸に、
出逢い、意味をこの袋のなかに、充填した。
胎動。あの旅人へ。
大したことない道を、大したことある、大きな袋の中から敢えて
選びとった、音。
いまに舞い上がる地図と、消えた「大したことない」、
道のりは、あと数十年。


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