『撮影』2019.12.20



撮影する姿が好きだった。
染めた髪が日に透けてきらきら光っていた。
魔法瓶から温かいお茶を出して、
その湯気が白く頬の辺りをぼかしていた。
今日はあの子がいない。
枯れ木はいま被写体ではなく、ただの死体じみた、
寂しい立ち姿になっている。
レンズを向けて欲しそうな、黒いカラスのとまった、
空しい風景が、冷たい風に吹かれて、
少しだけ揺れて音を立てた。
道の端に追い詰められ集まっていた枯れ葉の束が、
転がって中心まで来て、行き過ぎていった。
あの子だったら撮っていたかもしれない。
乾いた音がころころ、たのしいね、なんて、
あの子は笑ったかもしれない。
きらきら髪を光らせて撮影していたあの子は、
昨日、車に轢かれて亡くなった。
僕らはあの子を待っている。
あの子の主人公になるのを待っている。




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