『戦争文学』2019.10.18


虚しさの色を知るために画家は絵画を塗る、廃墟に似た跡を残さない人間の臭いの消えた枠、リチウム電池。並列の関係性を壊す点灯する電球の哀しい音、思い出せば出すほど残虐な行為、目の死んだアヒル。檻に閉じ込めた自意識を解離させ、退廃に埋め、墓を建てる。汚れた服を洗う石鹸が無い、と嘆くスコップで、土豪を掘る。落とされた鉄、這い進む、パージ。祈らなかった無神論者は天国へ辿り着けたのだろうかと、ポタージュを夢みて眠る、限りなく近く遠い冷たい明日、生の暴力を振るい、擦り切れた紙切れに打ち込むタイプライター、残さなくてはならない記憶が消えてゆくのだと。祈る。続きますようにと、救わない神が唯一、地上に遺した方法で。叫ぶ体力のない身体に包帯を巻く、汚れた手が、繋ぐ。それはどんな色をしているのだろう、幸福の在り処を見つけたと泣く生きることの果て。見えるのは歪んだ天国か、澄んだ泉に浮かぶアヒルを越えた楽園か、何処へ向かうのかその色は、表現し得るのだろうか。塗り、潰し、埋め込んで行く、不当な憧憬を、画家は項垂れながら、罪悪に苛まれながら、虚しさの色を知るために、その楽園は何処にあるのだろうか。廃墟に似たその色は、何処へ向かうのだろう、酷く人間臭い退廃を両手で這い進む画家は、祈りながら。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?