『東京』2019.10.11




僕たちは六月の雨を忘れてしまった。蒸し暑くなる前、透き通る滝のような水縹の街並。時が止まればいいと願うサラリーマン。高層ビルが取り囲む、割れないガラスを敷き詰めた透ける残酷な期待。刺された殺人犯。東京で雨が降る。忘れて研いだ包丁を温めた鞄と乾いた笑みに隠された暗号、改造シャープペンシル。手の甲を刺す。電波塔に囚われた叫び声がスピーカーから朝ロックのように流れた。その下を歩く少女が買い食いする菓子パン、頬張るセーラー服。なびいたら静かに色のついた誰かのための雨。僕らを冷やす記憶と東京を歩くサラリーマン。AM4:00に呟く。抵抗するようなスマホを叩く指。隠していたカップ麺、割り箸をわって探しに行く。塩味のスープをティッシュで拭う。戻す前に食べた乾燥チャーシューが塩からいと見上げた先の失踪。事件になるからもう手を上げないで。死んでしまわないで。ロープを捨てたから東京を歩く。夜景の綺麗なコンクリートで埋める、飛び跳ねた身体の受け止められる赤、黄、青のピンポン。幻想的小旅行。カッコウが殺した卵を愛せるくらいに身を預ければ、夜の街はスーツ姿を包み込んで雨で流していく。無事に家に帰れる。しかし僕たちは六月の雨を忘れてしまった。どうしてだろうか。



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