『金木犀』2019.10.14
鈴虫の鳴き声、黄昏の包む夕暮れの吐息が冷えた。あの人は自転車をひいて、わたしの隣にいる。駅前の大通りを抜けていく。裏通りの公園には、タイヤ跡を追う学校の友達、家族と湯の沸く火のついていないストーブが音を鳴らして、わたし。木々に混ざる塾帰りの暗記がまだ、窓から吹き込む淡い香りを身体に染み込ませた食パンを頬張る朝に膨らむ。まだマフラーはいらない、と手を振った。ひび割れた硝子の空気を吸う受験日の、手を繋いだ二人の未来。せんぱいたち。食べていない冷蔵庫のケーキ、二階に向けて声をかける