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キャリアチェンジしてもコアな部分は変わらない

長い人生の中で、誰にでも転機は訪れます。
あなたは未経験の業界や職種にキャリアチェンジしたことはありますか?

私は2020年のパンデミックがきっかけで、徐々に未経験の業界へキャリアチェンジしていきました。その途中で、業界は違えど自分のコアな部分は変わらないことに気づいたんです。

新たなチャレンジの中で、自分のコアな部分を再び活かせる場を見つけたお話です。


クリエイションの原点

日本にいた時からパンデミックが起こる前まで、長い間クリエイティブな仕事をしていた。

小さい頃、音楽や絵や物作りが好きな子供だった。あまり努力しなくても良い評価をいただいていたから、得意分野ではあったと思う。
何かを表現することが好きだったし、それをしたくて生まれて来たんだろうなぁとは薄々感じていた。

特に立体的な構造を理解したり、イメージするのが好きで、幼いながらファッションにも興味があった。

中学や高校になると「装苑」の雑誌を見ながら自分の服を作っていた。
そのうちデザイン画からどのように立体的なシルエットを作っていくのか興味が湧いてきた。着なくなった服を解体しては製図の謎を探っていた。

それが後にパタンナー(洋服の型紙を作る人)の道に進むことに繋がっていった。デザイナーでもクチュリエール(裁縫師)でもなく、パタンナーを選んだところが何とも私らしい。

日本ではパタンナーとして働いた後、2010年にフランスに移住した。

移住した経緯はこちらから↓


2012年に個人事業主として自分のブランドを作り、フランスとアメリカのe-Shopで世界に向けて販売していった。

物作りに疑問を持つ

2020年のパンデミックにより、フランスでは3度のロックダウンを経験した。大きな商業施設や映画館、レストラン、バー、カフェは全て閉まり、罰金有りの厳しい外出規制が続いた。

近所の薬局に行くだけでも政府の専用アプリで行き先、時間、目的を記入する必要があり、行動を監視されているみたいだった。フランス政府がここまで徹底的にやるとは思っていなかった。

その間、郵便局が2ヶ月間閉まっていたので、商品の発送ができずに仕事が止まってしまった。

時間は充分にあった。
一度立ち止まって今後のことを考えることにした。
地球の環境の為に物作りを減らすべきではないか?
私が作るものが本当に必要な物なのか?
物質ではない、もっと大切なことがあるんじゃないか?とか、いろんな考えが頭の中でぐるぐるしていた。

考えても答えが出ない中、今の仕事は続けながらでも何か違うことがしたいと漠然と考えるようになっていた。異業種で何か

ただ単に物作りに疑問を持っただけではなかったと今ならわかる。
その時の私は自分のコンフォートゾーンにとどまっていて、新しいチャレンジをせず、ワクワクしなくなっていた。
個人事業主になって8年が過ぎ、守りに入っていたと思う。
これまでの自分の経験値ではない未体験ゾーンに挑戦してみたくなったのかもしれない。

その後も物作りは続けたが、ロックダウン後に人々の消費傾向が変わり、以前ほど売り上げは伸びなくなった。

モチベーションは下がる一方だった。

食の業界にふれる

2021年5月、ロックダウンが解除され、6月9日からはレストランの店内席でも食事が可能になった。
そのタイミングで現在私が働いているお店Loire Gourmandeがオープンした。

Loire Gourmande  1階のテラス

最初にお店の紹介をしておこう。

*Loire Gourmandeはユネスコの世界遺産地区、ワインの産地Turquantにあリ、ロワールワインとロワール産の良質な食品を提供している。
小さな生産者に絞り、どのように生産されているのか実際に視察し、試飲、試食して納得した商品のみを扱っている。

16世紀ごろに建設されたとされる石造りの建物と洞窟住居は、かつてワインの生産者の仕事場として、近年ではモザイク職人のアトリエ兼住居として使われていた。2019年、お店として使用する為に石造りの建物と洞窟住居を繋げてリノベーションした。

その場所を活かしたワインセラーや絵画の展示、テラスでの飲食、食品販売などを総合的に融合させたサンパな空間になっている。

*Loire はロワール地方のこと、Gourmandeはグルメ、美食家、食通の意味


実店舗と並行してオンラインショップも始めることになったと親しいオーナーから聞いた。
面白そうだなと興味を示したら、「オンラインショップの立ち上げを手伝ってくれない?」とオファーがきた。

オンラインショップ運営の経験を見込まれたのならと引き受けることにした。ちょうど食のことをもっと知りたいと思っていた時期とも重なって、良いタイミングだった。

食に関心を持つようになったのはBIO先進国のフランスに住むようになってからだ。体調を崩したことがきっかけで食生活を見直した。

BIOの野菜や果物、肉、卵などを地元のマルシェや生産農家から直接購入し、新鮮な季節の食材を摂るようになった。それ以来、健康な体を維持している。
「食べたものが私たちの体を作る」を実感して、もっと良質な食について深く知りたいと思うようになっていった。

関わっていくうちに、お店のコンセプトに共感し、週末を中心に実店舗で働くことにした。

それから夏のヴァカンスシーズンが始まって、2ヶ月間フルタイムで働くことになった。夏は繁忙期でネコの手も借りたい忙しさになる。

飲食は向いてない

ネコの手くらいにはなるかしら?と始めてみた結果、ブティックの方はなんとか対応できた、でも飲食の方は正直言って向いていなかった。
もう毎日の仕事をこなすのに精一杯で、久々に新入社員の頃の何も出来ないもどかしさを思い出した。

何が「向いてない」かというと、オーダーを受けて、ワインや食事を準備するのだが、お店が混んでいる時パニックになってしまうからだ。

準備自体はそんなに難しいことじゃない。でも一度に10人以上のお客さんの注文を受けると焦る焦る。そうしているうちにまた別のグループのオーダーを受けて焦る…の繰り返しだ。おまけにオーダーを間違えたり。
自分で言うのもなんだが、かなりのポンコツ具合だった。

クリエイティブな仕事をしている時は勝手に頭や手が動く。でも飲食に関してはまるっきりダメで、空回りしてばかり。これが得意、不得意ということなのか?

飲食の仕事は常に柔軟な対応力と効率的に仕事をこなす必要がある。
調理、接客、オーダー取りなど、同時に様々なことに対応できるマルチタスクの能力が要求される。
私に出来るのか?と毎日問いかけながら続けていった。

それでも継続は力なりで、こんな私でも少しずつ慣れてきた。同時にいろんなタスクをこなせるようになってきた。

もう一つ問題があった。それはワインについての知識の無さだ。おまけに私はアルコールが弱く、BIOのワインを少し嗜む程度だ。

ワインの知識はパートナーのスペシャリストに教わりながら勉強している。歴史、品種、土壌、生産過程などを知る必要があり、実践で5感を使いながら覚えていくしかないと思っている。実践の場があるのはありがたい。

慣れたとはいえ、やはり飲食の仕事は向いてないと思っていた。
出来るけど得意なことではないからだ。
私はこれをする為に生まれてきたのか?と何度問いかけたことか。
この場所で、もっと自分の得意な部分を活かせることを探そうとしていた。

共同経営者になる

時々パニックを起こしながら2年が経ち、次第にサービス業に慣れてきたところで、突然ではあるが共同経営者の一人になった。

元々二人の共同経営者が始めたお店だった。ところが2年後、そのうちの一人が病気の治療を理由に辞めることになったのだ。

私が希望したわけではなかったけれど、流れで共同経営者になった。
お店を続ける為には迷ってる暇はなかった。
“フランスあるある”の面倒くさい手続きをして、共同経営者になったのが一年前。

私の中でスイッチが切り替わった。副業が本業に、本業が副業にと反転していった。

ワイン全般はパートナーのスペシャリストに任せて、私は食品のブティック全般を管理することになった。飲食は半々で受け持った。
新しい生産者探しや、ストック管理、ディスプレイ、マーケティング、経理とタスクが増えていった。

パンデミックで家にいる時に「何か違うことがしたい」と漠然と考えていたことが、結果的に思わぬ形で叶ってしまった。

自分で探したわけでもなく、ひょんなことから仕事が舞い込んできて、逆らわずに流れに乗ったら、期せずしてお店経営に辿り着いた。

物作りから場作りへ

先にも触れたが、この場所でもっと自分の得意な部分を活かせることを探していた。集客につながるような何かを作りたいけど、この場所で何が作れるんだろう?

ふと、物を作るだけがクリエイションじゃない、空間や場作りだってクリエイションではないかと思い始めた。

創作好きの血が騒いできた。

そうだ!かつてモザイクアーティストのアトリエだった場所やテラスを利用して個展を開くのはどうだろう?
集客に繋がるし、石造りの壁に何か絵を飾ろうと考えていたから、買わずとも絵を飾ることができる。願ったり叶ったりだ。

直ぐにパートナーと相談して動き出した。
地元のアーティスト達にコンタクトを取って、さっそく翌月から個展を開催した。

2階テラス席の個展

個展開催は確実に集客につながった。
お客さんからは「食事やアペロをしながら絵の鑑賞が出来て、ゆったりした時間を過ごせる空間だ」と好評だ。作品もコンスタントに売れていった。

以前は出展してくれるアーティストを探していたが、今ではアーティストの方からコンタクトを取ってくるようになった。

ワイン倶楽部を始める

更なるイベントを考えていた。この場所を活かして、お客さんと一緒に何かできないか?もっと大勢の人たちで盛り上がることをしたい

そこで思いついたのが、大人の遊び場、ワイン倶楽部だ。
普通にワインのテイスティングをするだけじゃ面白くない。ワインといろんな食材のマリアージュを楽しめるソワレの開催を考えた。

ワイン倶楽部の内容は下記のとおり
・月一回19:00から2時間のソワレを催す。
・定員は30名まで、参加費は1人25ユーロ
・会場はお店の洞窟を利用したワインセラー
・毎回テーマを決めて4〜5種類のワインをセレクトする。
・テーマによってはゲストを呼んでコラボする。
・セレクトしたワインの特徴や歴史など、ワインのスペシャリストによるアカデミックな解説(初心者向けにわかりやすく)を加えながら試飲をしてもらう。
・フランス語で開催するが、要望があれば英語でも対応する。
・そのテーマに合った軽食やデザート(毎回違うもの)を提供する。
・テーマによってはドレスコードを設ける
・最後にサプライズを用意する。
・気に入ったワインがあれば購入してもらう。

この倶楽部を運営するにあたって、2名のワインのスペシャリストとコラボすることにした。ワインスペシャリスト3人と私(場作りの人)の計4人で「Club des CEP’s de Loire」というアソシエーションを創設した。

毎回テーマを決める度に、どんな場を作っていこうかと考えるだけでワクワクしてくる。メンバーの自由な発想に驚かされてばかりだ。

大盛況だった「ワイン×ショコラのソワレ」

前回の「ワイン×ショコラのソワレ」は大盛況だった。普段は食べられない珍しいショコラをソワレの為だけにショコラティエに作ってもらった。

ワインに合う「シェーブルチーズとノワゼット入りショコラ」、「フォアグラとイチジクのコンフィとカリカリのオニオン入りショコラ」ってどんなショコラか想像できるだろうか?

ショコラティエも初めてこんなショコラを作ったと言っているくらい希少なものだった。倶楽部のメンバー達もそれには唸っていた。
セレクトしたワインともよく合って、想像を超える美味しさだった。

先ずワインを決めて、それに合うショコラを考えていったら、こんな企画になったのだ。発想は自由だ。

想像を超えた珍しいショコラたち

他には「マダガスカル産ペッパー入りショコラ」「柚子入りショコラ」「地元のハチミツ入りショコラ」の5種類。

中はこんな感じ
左はシェーブルチーズとノワゼット入りショコラ、右は地元のハチミツ入りショコラ

5種類のショコラをショコラティエに説明してもらいながら、ワインのスペシャリスト達がセレクトしたそれぞれに合うロワールワインを試飲してもらった。

それぞれのショコラに合うワインをスライドを使って解説した資料
後日、参加者には資料をPDFで送った。

どのショコラも大好評で商品化を検討しているが、シェーブルチーズやフォアグラ入りのショコラに関しては保存状態や賞味期限などの問題があって難しそうだ。
別の地元の食材でも試作してもらっているので、試食が楽しみだ。

最後のサプライズは「ギモーヴのショコラフォンデュ」。

パステルカラーが美しいオーベルニュ産の手作りギモーヴ
ショコラフォンデュの準備中に撮影

ギモーヴはマシュマロに似ているが同じものではない。
卵白を使わず、フルーツなどのピューレにゼラチンを加えて作るお菓子である。食感はマシュマロはふんわり、ギモーヴはしっとりしている。
ショコラとの相性も抜群だった。

ワイン倶楽部が人気の理由を考えてみる

一年前から始めた大人のワイン倶楽部は回を増すごとに盛り上がりをみせている。Ouest-Franceの電子版で取り上げていただいたこともあり、界隈では話題になっているらしい。倶楽部のお陰でお店の知名度が上がってきているのを感じる。
すぐに定員に達してしまうので、繁忙期を除いて月2回開催を検討しているところだ。

このワイン倶楽部が人気の理由の一つに、人々はリアルな出会いを求めているというのがある。

今はネットで簡単に繋がれる時代だ。直接会わなくても画面上やSNSでの出会いは沢山あるだろう。
でも、やはりリアルな出会いとは違う感覚がある。

リアルの出会いの場は、その場にいる人たちの中で繰り広げられる会話や熱量を直接肌で感じることができる。その感覚はネットの場とは比較にならないほどの共感や感動や連帯感をもたらしてくれる。
それを味わいたくて、ワイン倶楽部に人々は集まってくる。

洞窟住居を利用したワインセラーでのワイン倶楽部

運営側はあえてConvivialな雰囲気の場を作ろうとしている。ワインの知識を学んだり、テイスティングだけなら他にもある。

このワイン倶楽部は和気あいあいとした、その場にいる皆んなが打ち解けるソワレを目指している。それが受け入れられている要因ではないかと思う。
原点回帰というか、今後はもっとリアルの場が広まっていくんじゃないかと予測するが、どうだろう?

これ、私のキャリアチェンジにも当てはまっていると思う。
11年間e-Shopで販売していた期間、私はお客様とリアルに言葉を交わしたことはほとんど無かった。メールのやり取りだけで完結してしまっていたからだ。そのやり取りで感情が動かされたことはあったけど、やはりリアルなやり取りとは違う感覚があった。

直接お客さんと触れ合うことの大切さをこのお店に立ってひしひしと感じているところだ。やはり私たち人間はロボットじゃない。感情のある生き物で、色んな感情を味わうために生きている気がする。

話が少し逸れたが、これからもワイン好きな大人たちが遊べる空間を提供して、convivialなソワレを展開したいと思っている。

コアな部分は変わらない

私は裏方としてイベントを企画したり、運営することに喜びを感じるんだな、とこの店で働くようになって気づいた。

自分にそんな側面があったなんて。
でも思い返してみれば学園祭の準備や、展示会、コレクション前のドタバタ、次々にアイデアが浮かんできて、皆んなで場を作り上げていく高揚感を楽しんでいた。大人のワイン倶楽部には正にそんなバイブスが流れている。

パタンナーもどちらかと言うと裏方である。デザイナーほど表に出ることはないが、服を作り上げていく上で重要なポジションだ。
前職のパタンナーとイベントの企画、運営が、ここで繋がった気がする。

物質的な物作りから、皆さんに楽しんでもらう空間(場)作りに変わっただけで、自分のコア(クリエイティビティ)な部分は変わらないんだなと実感している。

私の働く上で重要なコアは自分のクリエイティビティを発揮すること
そこさえ分かっていれば、どこにいても自分の得意な部分を活かせて、仕事をより楽しめるはずだ。

あなたの働く上で重要なコアは何ですか?

さぁ、今夜は大人のワイン倶楽部「ロワールのロゼワイン×旬の野菜とフルーツ」のソワレだ。これから準備に取り掛かろう!
















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