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ゲゼモパウム 第五話

 私たちはチームとしての一体感を再び取り戻すことが出来た。少なくとも今の瞬間、そう思えた。薄暗い地下通路を歩いた。微かな手がかりが黒い斑点状の染みとなり、地面に痕跡として残された。それは猛獣の足跡のように大きく、不気味に黒ずんでいた――ゲゼモパウムと言う生き物は無意識の内に黒い液体状の染みを残すという習性がある。あるいは何らかの手掛かりになるのかもしれない。私たちは地下通路の先を歩けるだけ、歩くことにした。冷たい滴が一滴ずつ地面に落ちると、劣化した灰色の壁は誰もいない、夜の学校みたいに不気味な存在感を放っていた。

 私はゲゼモパウムが何体かここに住んでいるのかと、思案した。けれども、私たちに体力は残されていない。純粋な気持ちで足を踏みしめるしか方法はないように思えた。とにかく、ここからは未知の領域だ。乾いた地下通路は、長い高架下みたいに繋がっていた。彼らが生きていれば、私たちは全力で対峙して、捕獲しなければならない。その希望だけを持って先を歩いた。
 すると急に兵長が立ち止まった。
「この先に抜け道がある」
「抜け道?」
「そうだ。奴らが寝床にしている秘密の部屋かもしれん」
 私は黙って話を聞いていた。
「入るとき合図をする。その時にお前たちは身柄を整えて挑め!」

 私は期待と不安に似た複雑な感情が湧いていた。確かに耳を澄ませると、奇妙な声がした。もしかしたら幻聴かもしれないが、そのようなことを気にしても仕方がない――いや、確かにミッキーマウスやドナルドダックみたいなおかしな声がした。私は急に寒気に襲われた。抜け道でわいわい、がちゃがちゃ、と儀式をしているのかもしれない――あるいは宴を催している最中なのだろうか? いずれにしても鼻に突く高い声で、言葉を発している彼らの姿が、このあと見られるかもしれない。そして兵長の言う「抜け道」は人間が入るには十分の広さになっていた。きっと声の主は抜け道の先に生息しているはずだ。
 伍長は抜け道に足を踏み入れた
 すると私たちは一瞬だけ記憶が吹き飛んだ。

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