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恥ずかしい

「何にも失いたくない人なんですね」

2ヶ月くらい前、信頼する友達にそう言われた。一応、いい意味で捉えたけれど、よくよく考えるとあんまり良い意味じゃない。恥ずかしい事だと思った。


そんな恥ずかしい男は、
父の日に、父の奢りで
父親と初めての温泉旅行に来ている。
恥ずかしい。

6歳から別々に暮らしている父とは、頻度は変われど定期的にご飯に行ったり、お墓参りに行ったり、ご飯に行ったり、お墓参りに行ったりしていた。


ここ数年の間に、大切な友達の父親が2人亡くなった。
その友達のうちの一人がこう言っていた。

「葬式にさ、沢山父ちゃんの知り合いが来てたんだけど、会社の若い人たちが泣いてたんだよね。俺のところにも『本当にお世話になりました』ってさ。なんかさ、子供くらい離れている部下が泣くくらいお世話になっていたって、すごいよな。」

「どうやって仕事していたとか、聞いてみたかった」

この言葉を聞いて、旅行に行くことに決めた。
2023年6月18日、父の日。この日に行くことになったのは、本当にたまたまである。花をあげられずごめん。

狙い通り、ご飯を食べながら、お酒を飲みながら、バスに乗りながら、沢山話を聞いた。携帯でラジオを聞く方法を教えたり、後頭部にある円形脱毛症を教えたりした。

「来れてよかったなぁ」

30分に1回くらい、父親はそう言っていた。
そして、飲みすぎてあんまり話した内容を覚えていないらしい。こっちは覚えているからいいんだけど。

仕事の話や、生活の話、これからの話を沢山した。
こんなにも一緒にいたのは、記憶にある中では初めてだった。とってもとっても豊かな時間だった。

成田空港に財布を忘れていき、帰りに新千歳空港にイヤホンを忘れてくる、恥ずかしい男。

父親と過ごしてみて気づいたのは、自分はずっと子どものままで、あの日のままということだけだった。

いつになったら抜け出せるんだろうか。

東京の家に帰って安心する男。
故郷に行くと、ごめんなさいが多いから。
こどものままの自分とそうなりたくない自分とで焦燥して、接した全てと深いところまでいけない。

でも、父親との時間はそうではなかった。


東京は優しい。強欲な人に優しい。
手土産を持って帰らない、親不孝者に優しい。
終わらない祭りの中にいる。
帰り道にそれぞれ、何を持って帰るんだろう。
どんな顔つきで、どんな美しさで。
強欲のその先。


はずかしい。

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