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『攻殻機動隊 sac_2045』。クールな戦闘の果ては、生温かった。(2020/5/5)

最新の攻殻機動隊シリーズで「敵」の攻撃手法が、「幼少期の忘れ難い記憶をむりやり呼び覚ます」に最終的に至ったことは、正直、観ている僕自身へのダメージも大きかった。自分だけでこっそり胸にしまっていた生温かな懐かしさを、自分の脳内に、他者が人工知能の力で強引に引きずり出す手法は、それがどんな柔らかな記憶であれ、それだけで十分に暴力的な攻撃と言える。自分が好んで懐メロを聴くのとは違って、突然、望んでもいない「大量の懐かしさに襲われる」と人は立ち止まってしまう。現在を生きる力を奪われてしまう。ネット上の集団リンチよりも内部から人間を破壊する攻撃力があるかもしれない。

今回の「攻殻機動隊 SAC_2045」が3Dだったことは、その「懐かしさの情景」を鮮明にし、観るものを没入させていく点で成功していた。3Dのお陰か、ふっくらと愛らしくなった草薙素子さんに見惚れてばかりだった僕は完全に油断していた。それまでの激しい戦闘シーンから打って変わって郷愁を漂わせる、ラスト2話が放つ緩やかな光に僕は吸い込まれてしまった。いつの日かの少年の葛藤が、本当にあったかどうかもわからない遠い記憶が、僕の古い傷口を勝手に撫でていった。

観た者を別の人間に変えてしまう作品を名作と呼ぶなら、そう呼んでもいい。


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