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カミナシのHR戦略策定プロセス-逆算思考のHRを目指す-【すぐ使える議論フォーマットのおまけ付き】


0.はじめに

こんにちは。カミナシ HRマネージャーの松岡です。カミナシには2023年の2月に入社しました。 (入社エントリはこちら)
事業・組織が拡大しており、それに合わせてHRも本格的にチーム化をしていくタイミングを迎えていたため、HRのミッション・バリューや中期戦略、それらにもとづくHR組織の拡大プランの策定を行いました。今回はその策定のプロセスをできる限り詳細に振り返ってみたいと思います。
当然ですがこれが正解というものではなく、試行錯誤をしながらもっと良い方法を探している最中ではありますが、リアルな思考プロセスも含めて開示することで、どなたか1人でもお役に立ったら良いなと思います。
実際に使った議論フォーマット(Miro)も載せているので、もし良ければ使ってみてください!

想定読者

・人・組織に関する意思決定や、人事施策の優先順位をつける際の”指針”があったらいいなと考えているHRパーソン
・日々に忙殺されながら、もう少し戦略的に動きたいというジレンマを抱えているHRパーソン(私もその一人です)
・人・組織関連にいつどのくらいの投資をすれば良いのか悩んでいる経営者の皆様
・スタートアップのHRってどんなことを考えてなにやってるの?と気になっている人

1.スタートアップにおけるHRの存在価値を考える

スタートアップの事業成長の阻害要因の多くは「人」に関するリスク

仕事の性質上、スタートアップの経営者や事業責任者の方とお話する機会が多いのですが、私が必ず聞くようにしている質問があります。それは「事業成長のボトルネックになるリスクは何ですか?」というものです。
この質問に対して、肌感で9割くらいの方が「人・組織」に関する内容を答えます。プロダクト開発のためのエンジニア・PdMが足りない、セールスメンバーのスキルが不足していて人件費に比例して生産性が高まらない、退職が増えてしまって事業推進がままならない、などです。
大企業のように基盤となる技術や設備等が整備されていればここまで大きな問題にならないのかもしれないですが、多くのスタートアップにとって限られたアセットの中で「人」は一番重要度の高いリソースであり、限られた人員数で最大の成果を出さないといつ沈むか分からないシビアな環境の中で戦っています。1つの採用、1つの退職がその成否を分けるシーンが多くあるのは想像に難くありません。
事業成長に必要な要素とその優先度について経営陣と目線を合わせ、人・組織の観点からその要素を満たすためのアクションを実行していくHRは、スタートアップにおいては非常に重要な機能の一つと考えています

組織の真価は逆境で問われる

これまで10年以上HRの仕事を続けてくる中で、様々な事業や組織の局面と対峙してきました。中でも、事業撤退や拠点の閉鎖、希望退職 etc…ここには書けない厳しい局面もいくつか経験しています。これらに立ち会うのは非常に苦しいものでしたが、その時の学びは大変貴重な財産として自分の経験として残り、自分のHRとしての価値観の根底を作るものとなっています。
学びとして特に大きかったのは、組織の真価は逆境で問われるということです。
どんな事業にも必ず成長の踊り場が来ます。その時、「売上は全てを癒す」理論のボーナスタイムが終わり、組織の真価が問われます。強い組織には逆境で踏ん張る力があり、逆に結束を強めて再成長の糸口を探すことができます。一方そのような組織を作れないと、キーマンの離脱や組織の不和が発生し、それが事業に悪影響を与える負のスパイラルが回り始めます。
皮肉なのは、この状態になってから強い危機感を持っても「組織を一気に好転させる魔法の一手」などは存在しなく、あくまで分岐点は手前の成長フェーズの時に強い組織を作っておけるかという点だということです。
ここでいう強い組織の要素は一人あたり生産性、組織シナジー、エンゲージメント、退職率など様々な観点があり、会社によって重要となる要素は変わってくるので一概に定義しませんが、一つ共通して言える要素があるとすれば「組織効力感」があるかだと思います。

株式会社Momentor 「組織効力感」についてのスライドから引用

組織効力感は、心理学者であるバンデューラ(Bandura)によって提唱された理論で、「課題の達成に必要とされる行動を系統立て実行するための能力に対する集団で共有された信念」と説明されます。
小難しいので言い換えると、組織や集団のメンバー同士で共有する、「自分"たち"なら困難な状況も突破できる/高い目標も達成できる」という気持ちのことです。組織効力感が強い組織であれば逆境にも団結して向き合うことができますが、そういう組織を作れなければ、逆境をきっかけに組織課題やメンバーの離脱が噴出し、組織の負のループが回ってしまいます。
組織効力感の強い組織を作れるか、というのはHRのもう一つの大きなテーマになると考えます。

HRには常に先回りの姿勢が求められる

2つの観点から考えてみましたが、私の考えるスタートアップにおけるHRの本質的な提供価値を簡単にまとめると以下になります。

  • (人・組織の観点から)事業成長のために必要な要素を満たす / 事業成長を阻むボトルネックを排除する

  • いずれくる逆境に備え「組織効力感」の強い組織を作る

これらの価値提供に共通するのは未来からの逆算が必要ということです。いかに未来の視点を持って自身の活動をデザインするかがスタートアップのHRには求められていると感じています。

2.スタートアップHRのあるあるアンチパターンに立ち向かう

HRには常に未来からの逆算が求められるという話をしましたが、これは典型的な「言うは易く行うは難し」のテーマであり、自分を含む多くのHRの人々が、未来に向けた活動や逆算思考での施策設計になかなかリソースを割けないジレンマを抱えていると思います。
それを乗り越えてあるべき活動にきちんとリソースを張れるようになるために、まずはジレンマの原因となる要素を正しく理解する必要があります。今回はこれを「スタートアップHRのあるあるアンチパターン」として整理してみました。
HRの皆さんには共感していただけるのではないかと思います笑
カミナシではこれが起きていませんと言うつもりはなく、一部はこれらに苦しみながらも、意思を強くもってここから脱却するための取り組みを行っている最中です。

スタートアップHRのあるあるアンチパターン3つ

①ホコタテHR

制度と施策がホコタテ状態のHR

ホコタテHRとは、優先度が高いHR施策や組織課題への対応方針を個別に決めていった結果、結果として全体としての統一性がなく、制度や施策の目指す方向性に一部で矛盾が発生してしまっている状態です。
HRでこの現象が起きやすい原因に、HRという領域の(一見した)わかりやすさ・意見の持ちやすさがあると感じています。
例えば「プロダクト開発にあたっての技術選定」というテーマに意見を言える人はエンジニア以外では非常に少ないと思いますが、「この会社に必要な人事制度」というテーマであれば、多くの人が何らかの意見を言えると思います。「インセンティブの導入が必要だ」「メンバーのキャリア開発のための支援制度を設けるべき」などです。
それは、HRというテーマが、自身が従業員として体感しているテーマであり、過去の何らかのGood case/Bad caseを体験として持っており、それにより意見を形成しやすいということから来ています。こうした背景から、HR的な意思決定を行う会議等では、他のテーマに比べて様々な役割の人から意見が出やすいです。
それ自体は非常にポジティブなことと考えますが、多くの人が「自身の過去の会社での経験」から意見を形成しており、今の会社における最適解とは限らない点が悩ましい所です(そういうものだと思うので、それが悪いという話ではないです)。
「この会社にとっての最適解はなにか」という点についてHRがオーナーシップを強く発揮できないと、影響力のある役員やメンバーの経験則に会社としての意思決定が引っ張られていくというリスクを孕んでいます。「新卒採用を実施するべきか」などはそういった経緯で意思決定されやすい典型的なテーマだと思います。
また、スタートアップ各社の発信が増え、他社の事例が簡単に手に入るようになったことも原因の一端だと感じています。他社の情報が手に入りやすくなった事はスタートアップ界全体にとって非常に素晴らしいことで、自分も同様に少しでもコミュニティに貢献できればと思って筆を走らせていますが、他社の事例はあくまでその会社の条件下で機能したものであり、自社で機能するとは限らないということに対して自覚的になる必要があります。
考えてみれば当たり前のことではあるのですが、限られた時間の中で多くの課題を解決しようとするあまり他社の施策を思考停止で導入してしまい、結果として機能していないというシーンを見聞きすることがあるので、自戒も込めて触れておきます。
「ホコタテHR」にならないように、自社のHRにおいて大事にする価値観や制度・施策の方向性を言語化しておき、HR的な意思決定の際にはそこから外れていないかを確認する必要性があると感じています。

②もぐら叩きHR

無限に出てくるもぐら(課題)

もぐら叩きHRとは次から次へと発生する重要/緊急度が高い課題の対応に追われているだけで時間が無くなってしまい、未来に向けた活動に時間を割けていない状態を指します。
原因として一番シンプルなものはリソース不足なのですが、次項で切り出して詳しく触れるので、ここでは敢えてリソース不足以外の観点を考えます。
1つは未来のリスクの大きさを正しく評価できないという点があると思っています。限られたリソースでどの課題を解くか?という問いに対し、オーソドックスな方法であれば緊急度と重要度の2軸で4象限のマトリクスを組み、緊急度と重要度がいずれも高いものから取り組んでいくという方法があると思います。
ここでクセモノなのが「緊急度」で、顕在課題は必然的に緊急度が高く感じられるので、顕在課題への対応の優先度が上がりがちです。しかし、例えば対策の開始から効果が出るまで時間がかかるもので、将来かなりの確率で発生するリスクであれば、本来は緊急度高く"今"取り組まなくてはいけない、ということもあると思います。
こういった未来のリスクが過小評価されることで、爆弾を抱えたまま目先の課題を解決する状態が出来上がってしまいます。悩ましいのは、未来のリスクを正しく把握するのは簡単ではなく、「痛い目にあったことがある」という経験が一番有用だということです。少し先のフェーズを経験している人を組織に迎え入れることが大切だと言われる一番の理由はここだと思います。
もちろん、経験したことがなかったとしても、先輩経営者や自社より先のフェーズのHRに話を聞きに行き、学びを謙虚に取り入れていくことで一定のリスク把握はできるので、これを愚直に実行している方は素晴らしいな、といつも感じています。
「もぐら叩きHR」にならないように、未来のリスクを議論のテーブルにのせ、それも踏まえてリソース配分を意思決定する必要性があると感じています。

ブラックHR

残業時間を抑えてね、と言うべき立場なのに…


ブラックHR
とは、職場の労働環境や残業時間を適切な水準に維持する役割を持つHRが、社内随一の残業量になってしまっている皮肉な状況です。
どうみてもHRが対処すべき課題の量に対して人員が足りていないケースが多いのですが、人員が補強されないまま100人,200人規模になっている会社をよく見かけます。こういった事象の背景には、「HRが他の職種に比べて人員増のROIを示しにくい」ということがあると思っています。
例えばセールスであれば一人あたりの平均売上という指標が存在するので、1名の採用で売上がXX万円増える、ということが(理論上)示すことができます。PdMやエンジニアの採用も、プロダクトの機能リリースをXヶ月短縮する、などで示すことができると思います。
一方でHRの採用、特に採用担当以外は組織にどのような効果を生むのかを定量的に示すことが極めて難しいです。多くのスタートアップは赤字の状態で人への投資を行い売上を伸ばしながら資金調達を繰り返していきます。このような中で売上への直接的な貢献が見えにくい採用以外のHR機能に投資をして固定費を増やすということを選択しにくいのも理解できます。
しかし、冒頭に触れたHRの提供価値に立ち返って考えると、先回りで動けないとHRは本質的な価値を発揮できません。
「ブラックHR」を回避して先回りで価値提供をするリソースを確保するために、必要なHR体制を描き、その必要性を示す必要があると感じています。

あるあるアンチパターン回避のために何をするべきか?

スタートアップでHRが本質的な価値を発揮するためには、これらのアンチパターンに陥らないような強い意思と仕組みが必要だと感じています。
カミナシHRでは、それぞれの課題意識に対応する3つのアクションを実施することで、短期と中長期のバランスを考えられるHRを目指しています。

それぞれの詳細と策定のプロセスについて、次項で触れていきます。

3.逆算思考のHRを目指してやった3つのこと

ここからは、実際にカミナシのHRをチーム化していくにあたって行った3つのアクションに触れていきます。

①HR ミッション・バリューの策定

まずはHRチームのミッション・バリューの策定を行いました。
HR的な意思決定やHRメンバーの日々の活動において何を大事にするのかを言語化しておくことで、「ホコタテHR」になることを回避し、制度や施策にカミナシらしさを練り込んだり、一貫性をもたらすことを目的としています。言語化することで、チームメンバーやステークホルダーと目線を合わせやすくもなるため、必要なことだと考えました。

■策定のプロセス
HRチームメンバーでオフサイトを実施し、Miro上に議論のフレームを用意して議論を行いました。議論は大きく4つのステップで設計しました。

議論で使ったMiroのフレーム。記事下部で公開しています!   

STEP1:カミナシの経営陣・事業・組織の特徴を洗い出してみる
まずは、カミナシの特徴を洗い出していきます。これらが、HRの方針に大きな影響を与えるためです。
カミナシは創業社長がいることに加え、経営陣が組織・カルチャーに強い思いを持っていることから、事業・組織などの要素に加え「経営陣」も項目に加えています。経営陣の組織哲学をHRの各機能に練り込むことはカルチャーの濃い組織を作る上で非常に大切なことだと考えています
(カミナシ経営陣の組織哲学は↓の記事を御覧ください)


項目ごとに、みんなで思いついたことを付箋ペタペタしていきます

ちょっとした工夫として、「わかりみ」シールを用意しました。他人の付箋に共感した場合に貼るものです。ここでは発散型の議論をしますが、後に議論を収束していく際の足がかりになります。

経営陣の権限委譲する姿勢などにわかりみシールが集まっています

STEP2:HRの各機能はどうあるべきか?を考えてみる
STEP1で抽出した”特徴”を見ながら、それを踏まえてHRの各機能はどうあるべきなのかを考えていきます。
例えば事業成長に組織拡大が必要なSaaSというビジネスモデルの特徴から導かれる採用機能のあり方として「採用は常に第一優先」「事業部主導・全社採用が必須」などが挙げられました。
機能として定義したのは「採用」「人材開発/組織開発」「人事制度」「カルチャー/コミュニケーション」「労務・/コンプライアンス」「働き方/福利厚生」の6つです。一部重複や切り出した方が良い部分もあるかと思いますが、議論のしやすさからこの6つに整理しました。ここは各社自由にカスタマイズして良いと思います。

特徴×HR機能のメッシュで、HR方針の種を議論していきます

STEP3:HRの各機能で大事にすること(価値観)を抽出してみる
一通り洗い出せたら、今度は「採用」「人事制度」などHR機能一つ一つの単位で見て、重要な要素を抽出していきます。先述の「わかりみシール」の多いものや、複数回登場するワードなどに着目すると、議論が進めやすいかもしれません。

「採用」という機能で大事にすることを抽出している様子

STEP4:エッセンスを凝縮してミッション・バリューに落としこむ
全ての機能で大切にする要素を抽出できたら、それらを横断で眺め、共通する要素をもう一段抽出していきます。
こうして複数回の抽象化を経て抽出されたエッセンスが、ミッション・バリューのベースです。これを「HRの存在意義や提供価値に関わるもの」はミッション、「HRの判断基準や行動指針に関わるもの」はバリューに仕分けします。
最後に、ワーディングを磨きます。このプロセスは、1人が叩きを考える形、みんなでアイディアを出す形、外部のパートナーさんに依頼する形など様々な形が考えられます。 カミナシでは、ちょうど議論が時間切れになってしまったので、1人が叩きを考えた上で、メンバーにFBをもらってブラッシュアップする形をとりました。

機能をまたいで存在する価値観が見えてくると、テンションが上がります!

実際にできたもの
議論のアウトプットとして策定したミッション・バリューについてHRのEntrance Bookにまとめているので、良ければ見てみてください!

②HR 中期戦略の策定

続いて、HRの中期戦略を策定しました。
事業や組織の未来図を踏まえ事業成長のボトルネックとなるリスクを特定し、それを回避するためのHRはいつ・何をすれば良いかを予め定めることで「もぐらたたきHR」から脱却し、未来のリスクに対して先回りで打ち手を打てるHRチームになることを目指していきます。

■策定のプロセス
人事戦略策定の有名なフレームに、リクルートワークス研究所さんのシートXがあります。経営戦略を人材・組織戦略にきれいに落とし込んでいける理想的なフレームだと思うのですが、今回、チームで議論するにはやや抽象度が高く活発な議論のイメージが湧かなかったので、日々の業務からイメージしやすい具体の議論からはじめ、出た要素を少しずつまとめて抽象化していく議論プロセスをオリジナルで設計しました。
まだ小さいチームでもあり、この手のものは実際に意識され、使われなければ意味がないので、全員がプロセスに介在し、全員の思考のエッセンスが含まれたものになる方が良いと考えました。ミッション・バリューの策定時と同じくオフサイトで議論を行いました。議論は大きく次の4つのステップで進めました。

STEP1:事業・組織がどう成長していくか想像してみる
まずは、会社の理想の成長ステップについて目線を合わせます。議論の土台となる重要な部分であり、経営に直結する内容のため、COOの河内に入ってもらい、中期の経営計画/事業計画について目線合わせをしました。
観点としては、大きく事業計画(事業KPI)、プロダクト計画(マイルストーン)、人員計画の3つにしました。

年単位で、理想の状態を目線合わせする(具体の数字は社外秘のためマスキング)

STEP2:事業・組織にいつどんな課題がおきるかを考えてみる
次に、先程目線を合わせた「理想の成長ステップ」の実現を阻害する未来のリスクを洗い出していきます。この洗い出しのステップが、中期戦略策定の肝になります。なかなかイメージが湧かないこともあるので、予めメンバーそれぞれがインプットを行ってから実施しています。例えば組織の成長の段階やそれに伴って発生する課題等をモデル化したタックマンモデルグレイナーモデルといった理論や、組織拡大に伴って発生した課題について発信してくださっている他社のブログ(Goodpatch土屋さんのnoteなど)です。これらをある程度頭に入れた上で、カミナシの特徴を踏まえた上でリスクが高そうなものや起きた場合負のインパクトが大きそうなものを洗い出して行きます。

事業・組織のフェーズが変わるごとに発生するリスクも変遷していくのが見えてきます

ちょっとした工夫として、「シュート」シールを用意しました。「このリスクは必ずシュート(解決)しなくてはまずい!」という、特にインパクトの大きいリスクにつけるものです。課題を洗い出したあと、優先度をつけて議論を収束していく際の足がかりになります。

マルチプロダクト化に伴う組織のリデザインや、それに伴う課題についてのトピックにシールが貼られている様子


STEP3:リスクを踏まえ、いつどんな機能が必要か?を逆算で考えてみる
洗い出したリスクの中で特に重要度が高いものに対して、「HRとして、いつ何をやることで回避できるか」という視点でプランを練っていきます。
議論しやすいように、HRのミッション・ビジョン策定の際に用いた6つのHR機能カテゴリで考えていきます。
アクションには必ずリードタイムがあるので、いつ頃効果が出るために、いつから取り組むべきか、という時間軸を意識した議論をしていくことで、「Xヶ月後には着手している必要がある」といった判断を導くことができるようになりました。

リスクを回避するためのHRアクションに落としていきます

加えて意識したのは、基本姿勢として最小限の制度・施策で走り抜ける、ということです。先回りの制度や施策の整備は、企画しようとすればいくらでもできます。しかし、それらの設計や運用には相応の工数が掛かることに自覚的にならないと、際限なく負担が増えてしまいます。
特に、HRだけでなく事業部のマネージャーを巻き込んで進めていく施策に関しては、貴重なマネージャーの時間を投資する必要があり、事業スピードに影響が出る可能性があります。
そういった視点を持ち、整備しなくてもクリティカルにならないものに関しては、思い切ってX年後までやらないと決める判断もとても重要なものになります。例えばカミナシでは、運用負荷の高い評価制度の詳細化(評価スコアの定量ロジック化)をこの議論の中で先送りしました。

STEP4:エッセンスを抽出し、各フェーズにおけるフォーカスポイントを言語化する
これまでのステップで描いたHRの中期でのアクションプラン(戦略)は粒度としては細かく、情報量が多くなってしまうのでチーム内向けのものとして扱い、エッセンスを年間ごとに抽出し、コンセプトとフォーカスポイントという形でまとめ上げました。「HRは今年/来年どんなことに取り組むの?」という問いに対してある程度シンプルに答えられるようにすることが、社内外のステークホルダーとの目線合わせにとっては重要だと考えたためです。

2023/2024のコンセプトとフォーカスポイント(定期的に見直しは実施します)

実際にできたもの
コンセプトとフォーカスポイントはHRのEntrance Bookにも載せています。
また、社内向けにはもう少し細かいプロジェクトレベルで、今何をやっていて、今後何をやっていくのかをDashboard化して公開しており、興味がある方は見ていただけるようになっています。

HR Dashboardの内容(一部)

③HRチームの拡大プランの策定

最後に、HRチームに必要なケイパビリティや人員数を定め、その策定プランを考えていきます。単純に「人手が足りないから増員が必要」という主張だけだと、必要性を判断できません。そこで、策定したHRの中期戦略を起点に、「いつ、どんなことを実施する必要があるから、これだけの人員数・スキル・経験がHRチームに必要」という形で体制プランを設計していきます。

策定した体制プラン(作成した時点のもの・現在は状況変化有)

例えばカミナシは初期より組織・カルチャーに投資をしてきており、会社の競争力の一つになっているため、これを維持強化するためにカルチャーやコミュニケーション領域を担当するメンバーを厚めに体制を組んでいたり、100人の壁を迎えるにあたって早期に事業部のマネジメント機能を支援するHRBP機能を立ち上げたり(COO河内のnoteでも触れています)といった形で戦略との連動性を作っています。

結果として、カミナシには100人規模の組織に対して、現在5名の専任HRメンバーがいます。また、現在も複数のポジションで募集をしています。"多い"と感じられる方がほとんどではないでしょうか。
しかし、私のこれまでの経験や上記の戦略議論をする中で、事業成長を阻害するリスクを潰していくためには、HRチームへの先行投資が必要であるという強い信念を持っており、敢えてこの人数にしています。
ROIを示すのが難しいHR領域への投資は、最後は経営の意思で決めていくしかありません。そういった意味で、ここまでHR組織に投資することを判断してくれている経営陣には感謝しかありません。
奇しくも、カミナシのほぼ同規模のナレッジワークさんは代表の麻野さんのnoteの中で、「80名規模の組織に対して専任8名のHRチームを組成する」という話をされていました。麻野さんはリンクアンドモチベーションの取締役として数多くの企業の盛衰を見てこられており、そのような方が組織拡大フェーズにおけるHRへの投資の重要性を語っていることは、自分の勇気になっています。

終わりに

今回、カミナシのHRがチームとして機能していく上で実行した3つのアクションについて、プロセスも含めて開示してみました。もちろん、これが正解というものではなく、私達も試行錯誤しながらより良い方法を探していますし、ここに記載したことを少しずつ実行に移しながら少しずつ進化している途中ではありますが、誰かの参考に少しでもなればとても嬉しいと思います。

おまけ すぐ使える議論用Miroボード

今回作成した議論用のMiroボードを公開しますので、よければ利用してみてください!使ってみた感想や、こうすればもっとよくなる!などのFBも歓迎です。

HRチームメンバー募集中

最後に、カミナシHRでは現在メンバーを大募集中です!
今回中期戦略を策定してみて感じたことは、「手を付けられていないがやるべきこと」がまだまだたくさんある、ということです。また、一度描いた戦略も、事業や組織の状況の変化に合わせて柔軟に見直して行く必要があります。

  • 人・組織に徹底的に投資する経営哲学を持った会社で、事業成長に資するHRを実現することに興味がある方

  • 戦略思考を持ってHRアクションを企画・実行していきたいと考えている方

自薦、他薦問わずどしどしご連絡ください!


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