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なぜエストニアでは高齢者の貧困率が35%と高いのか. 首都タリンの団地事情‐導入編‐

"こんにちは、こんばんは。

まだ学生だった頃タリン空港から大きな荷物を担いでタクシーに乗っていた時に運転手のおっちゃんに

「学生か?何を勉強しているんだ?」と聞かれたので得意げに
「電子政府だよ」と答えたら、
「なんじゃそりゃ?」と返ってきました。

ぼくもびっくりしたので、
「IDカード持ってるでしょ?それを使って窓口に行かなくてもほとんどすべての公的サービスを受けれるでしょ?そのことですよ。エストニアは進んでいて、それを学びに来たんだ。最近ではe-Residencyと言って、外国人にもそれらを解放してるんだぜ。」と伝えたら、

「けっ!エストニアが世界で進んでいるのは誇らしい。でもな、そのe-なんちょらはおれら国民には関係ない。政府は他にやるべきことがたくさんあるんじゃないのか?なあ、学生さん。机上の勉強もいいが、よくその目を開いて現状をよく見ることだな。」とカウンターを喰らいました。

その後目的地まで沈黙。当時は意気揚々と最中だったので、なにを言っていたのかさっぱりわからなかったのですが、先日その一端が判明しました。

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OECD加盟国の貧困率

赤色のマルで囲ったのがエストニアでして、その右隣に日本がいてご近所さんみたいになっているわけですけども、グラフのテーマは貧困率で右側諸国ほど貧困率が高いわけですから、全然笑っていられない状況です。●は全年齢層の平均、◇は17歳以下の若年層、×は66歳以上の高齢者層です。日本は若い世代の貧困が増加していると話題ですが、それと同様に年金暮らしであろう高齢者も貧困状態にあります。で、問題のエストニアなんですけども、高齢者の貧困が35%を越えています。韓国もヤバいんですけども、その次第2位の不名誉の位置に甘んじています。

図の右隣のチリでは地下鉄の料金を3-4円ほど上げただけで暴動に発展しています。

グラフでは血気盛んな若者の貧困がチリでは高いので日本やエストニアでも同様に暴動が起きるというわけではないと思いますが、起きたとしても不思議ではない感じを受けます。

エストニアの統計局によれば65歳以上で貧困の"可能性"(貧困リスク率)がある人は2016年で41.2%、2017年で47.5%とほぼ2人に1人です。

ん?1年で6%も増えている???

以下はRisk of Poverty among Older People in EU Countries(EU諸国の高齢者の貧困リスク)という名の論文にある図なのですが、見てください。一番下の緑色のラインがエストニアなのですが、全体的に貧困度が高い旧ソ連圏のなかで他の諸国はそれでも貧困率が2005年から見ると減少傾向にある中で、なぜかエストニアだけが2011年を境に上昇しています。

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おそらく2011年が境なのはユーロを導入したためと思われるが、それでもこの図で2014年の貧困リスク率(貧困率ではない)が約35%だったものが、上記で見たように2017年では47.5%まで跳ね上がっています。

ぶっちゃけ意味が分かりません(物価の上昇、インフレで説明できる範囲ではないような気がします)。

同論文ではエストニアは賃金の中央値が上昇しているにも関わらず、貧困率も増加している(他にマルタやデンマークも)と記されています。

"There are also some outliers, as Estonia, Malta or Denmark, where both the poverty rate and median income increased."

"outlier"は"外れ値、異常値"ですから、良くわからないって感じですね。論文全体を通しても原因は述べられていません。

不思議じゃないですか?

エストニアは2018年の実質GDP成長率3.8%、EU内で9位と上位にいます。(ちなみに1位はアイルランドで6.8%)

とはいえ近年ではだいたい5%とトップレベルの水準にいました。

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情報元はこちら

一体何が起きているのか!?

ひとつ手がかりとなるのは以下の表です(縦長になってしまい申し訳ありません)。

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一番上に平均が1350ユーロとあります。業種別に平均以上を見てみる(以下単位を省略)と高い方から順に1)トップマネージャー(2172)、2)IT系(1727)、3)マネジメント系(1647)、4)法律系(1485)、5)通信系(1476)、 6)銀行(1426)、7) 技術・開発系(1373)と全39部門の内たった7業種。マネージャー系は特殊なので除くと5/37です。約14%。たくさんもらってそうな保険業界でさえ1316ユーロと平均以下です。産業の不均衡が見て取れます。一応実質的な累進課税(所得の20%であるが一定未満の所得に対しては控除の枠がある)ではありますが。

IT系が最強ですね。稼ぐことはいいことです。国の強みを生かし、他国の競争優位に立ち、たくさん納税してもらえるでしょうから。ただし、

再分配上手くいってないんじゃね?

と自然な疑問が生まれます。とはいえ、ここまでは(おそらく)どこの国でも同じでしょうから、エストニアがとりわけ貧困率が上昇している理由にはなりにくいです。

もしかしたら、もっと違う状況・原因があるのでしょうか。。。

好奇心に火が付いたので、次回からは3回に分けて、(おそらくそうした貧困層が住んでいる)団地について論文の紹介と考察を、その後(政策提言とかは小生には無理な話ですので、それでも幸せに暮らすために)コミュニティ形成に関して読んでいる本の紹介と考察(コミュニティについてと行動経済学)を綴っていきたいなと思います。とりわけ団地を選んだのは私自身がソ連時代に建てられた団地に住んでいるからであり、周りの(住)環境をもっとよく理解したいなという動機です。ただ、具体的な展望が見えているわけではなく、論文も書籍も現在読み進めている最中なので、予定と違う出口に行きついてしまうかもしれませんが、ご自愛ください。

神長広樹”

つづき


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