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叙事詩「JACK」

Lv.1

木の家のベッドの上で君は目覚めた
あたりを見回して混乱した
見覚えのないものしかなかった
女の声が君の名を何度も呼んでいた

君はフラフラとリビングに向かった
中年の女が君のためにパンとスープを持って来た
君は促されるままそれを食べた
自然豊かで長閑な村だ 全くもって知らない

視界の左下に緑と青の線が見えた
その横に 1 と数字が見えた
目を擦っても取れないゴミのように
目を閉じてもそれが見えていた

服を着ると貧相なホームレスのようだ
洋服と和服の間を取った布を巻く
なかなか動きやすいことに気がついて
無性に外を駆け回りたくなった

家を出るとそこには
巨大なドラゴンが眠っていた
玄関先で繋がれたそいつは
気持ち良さそうにいびきをたてた

面食らいながら君は辺りを見回した
村人たちは君の知っている人種ではない
鏡を見たくなったが家には戻りたくない
林を抜けて小川を探した 棒を拾いながら

モンスターを見かける どれもドラゴンだ
小さなドラゴン 大きなドラゴン
水や土や草のドラゴン 空を飛ぶドラゴン
果てしなく聳え立つ山のドラゴン

君は小川についた 自分の顔を確かめた
そこには金色の長い髪の少年が映った
君は腰を抜かしてへたり込んだ
呆然としながら小川の対岸に目をやった

そこには血走った目のドラゴンがいた
君と同じくらいの大きさだ
唸り声をあげながらこちらを見た
君は棒を固く握りしめた

狼のようなドラゴンだった
君は棒を振りながら追い払おうとしたが
相手が大人しく引き下がるわけはなかった
君は身構えた

Lv.2

ジャックは森の中に捨てられた
邪悪で巨大なドラゴンに拾われて餌になるところだった
しかし十分に育つまで生かされることになった
本当の理由など聞いたところでドラゴンは答えないだろう

そのドラゴンはヴァランと名乗った
話すドラゴンはドラゴンと人間のハーフを除いて少ない
漆黒の鱗は光までも取り込み 飛ぶ姿は穴が空いたように見えた
ジャックはその背中に乗り 世界中の殺戮を眺めて育った

ある村では命乞いする家族の夫をヴァランが食い殺し
妻を殺せとジャックに命じた
深い闇に取り込まれた黒い瞳を虚ろに開き
彼は心臓をひと突きして殺した

ヴァランはジャックに情が湧いたようだったが
育ったら食ってやろうとは思っていた
ジャックの視界の左下の線が残り少なくなった時
回復魔法を使ったのも食うためだった

ジャックは強靭な肉体と不動の精神を手に入れた
ヴァランの鱗で出来た黒い鎧を纏い
ヴァランの歯で出来たクレイモアを振り回した
彼はヴァランの魂胆を知りながら強さを求めた

ある村では焼き払った家を回って人々を捻り潰し
その生き血を啜ることで悪名を轟かせた
生かしておいた人間もどうせいつか殺すことになる
誰でも良かった ジャックは孤独を埋めるために剣を振った

Lv.3

鋭い牙が腕にめり込んだ
なまぬるい感触が気色悪かった
君は必死でもがき 振り解いた
右腕はもう上がりそうになかった

左手に棒を持って敵に目掛けて振った
ビンタと同じようなダメージしかなかった
君は絶望して死を覚悟した
その時 後ろから短剣が飛んできた

ドラゴンはドサリと倒れた
君は安心しながら後ろを見た
綺麗な少女が立っていた
君と同じ金色の髪 翠の眼をしていた

彼女はサーラと名乗った
こちらを罵倒しながらも手当してくれた
君は呆然としながら この状況を理解した
もうどうしようもない 慣れるしかない

君は短剣を貰ってドラゴンの解体を手伝った
妙なことにそれほど嫌な作業ではなかった
ドラゴンの腹の中には水晶があった
彼女はそれを取り出して小川で洗った

ドラゴンの肉は美味かった
彼女は火を起こすのが上手かった
君はドラゴンの鱗を剥ぎ取った
骨は剣になると聞いたので引き抜いた

Lv.4

青年になったジャックは
最早ヴァランの力を必要としなくなり
さらに強くなるため
殺戮の旅へ出ることにした

行く先々で猛者どもや
獰猛なドラゴンを倒し続けた
いつも一人きりで
ヴァランといる頃より幸福だった

ヴァランはそんなジャックの帰りを待ちながら
洞窟の中に身を潜めることにした
大国 ツヴァンケ に命を狙われ
何度か危ない所まで追い詰められてしまったからだ

ジャックはそんなヴァランを臆病者と笑った
今に自分の方が強くなるだろうと確信を持っていた
ヴァランの鱗は傷に塗れて 脆くなっていた
弱くなるドラゴンと強くなる人間の構図は何度も歴史に刻まれていた

旅の途中 ジャックはある女に出会った
殺してやりたくなったがその女の言うある闇の魔法に興味を抱いた
ミラと名乗ったその女を初めての仲間として迎えた
黒に染まった髪がジャックの瞳の黒と似ていた

ミラはジャックに闇の魔法の情報を提供する代わりに
ツヴァンケの民を滅ぼして欲しいと言った
ジャックはそれが何年先になるかわからなかったが
了承し 情報を得た

Lv.5

君は家にサーラを招待した
中年の女は張り切って食事を作った
君はこの世界のことを聞いた
サーラと中年の女は不思議そうな顔をした

中年の女は君に母親は私だと言った
君は笑って否定したが
相手があまりに真面目な顔をしているので
そういうことにした

自分の母親の顔も名前も覚えていた
ジネーヴラとかいう名前ではなかった
しかし母さんと呼ぶと嬉しそうにするので
そう呼ぶことに決めて 話を続けた

この世界の動物は ドラゴンしか存在しない
家の前に居た いびきをかいていたドラゴンは移動手段らしい
そして 出かけるのであれば武器がいる
ドラゴンの骨を削れば剣を作れる

君はサーラと一緒に自室へ入った
母さんがニヤニヤしていたが気にしなかった
見覚えのない作業台の上に骨を置いた
骨は80センチくらいの長さだった

まずは片面を程よく削った
そしてもう片面も同じように削った
繰り返して厚みを3センチほどにした
それだけでかなりの力と時間を使った

サーラは君の部屋にあった本を読みながら
要所要所で君に指示を出した
君は汗をかきながら剣を作った
仕上げの段階までいくと サーラが横に立った

おまじないだと言って 小瓶に入った水を見せた
透き通る青がとても美しく 君は見惚れた
骨に垂らすと 染み込んで青色に染まった
触ってみるとフニャフニャと柔らかかった

鋭さを加えるために骨を伸ばした
80センチのものが1メートルになった
持ってみると曲がってしまうが 軽かった
サーラは微笑みながら あとは待つだけだと言った

Lv.6

闇の魔法の力が込められた水晶が眠っていると
ミラに教わったジャックは その洞窟の前で止まった
険しい道のりだった 何人もの戦士や山賊を殺した
ミラの魔法は強力だが ジャックの方が殺すことに慣れていた

ミラは先を進んだ 回復魔法を唱えてジャックも進んだ
ヒリヒリとした緊張感が冷たい空気の中で稲妻のように降りかかった
洞窟は青い水晶がたくさんあり 美しく それ以上に恐ろしかった
恐怖など知らないはずのジャックの心臓が 初めて早くなった

地底湖に着くと ミラは足を止めた
この湖を越えると水晶があると言った
ジャックは殺気を感じてクレイモアを構えた
ヴァランよりも大きな水晶のドラゴンが地底湖から現れた

鼓膜を破りそうな雄叫びに全身が震えた
脆い水晶のかけらが降り注ぎ ジャックの鎧が輝いた
強敵への恐怖心はいつの間にか消えた
クレイモアを振り上げて 地底湖から伸びた頭に突撃した

ドラゴンはジャックを食い殺そうとした
大きく開けた口には無数に生えた牙が鋭く伸びていた
その2 3本をへし折って大きく跳ね上がり
脳天めがけてクレイモアを突き刺そうとした

しかし 刃は入らずに弾かれた
ミラはドラゴンの鱗の強度を低下させる魔法を唱えていた
ジャックは凶暴な爪をクレイモアで食い止めながらそれを待ち
緑色の煙がドラゴンを包んだ瞬間 同じ場所を目掛けて攻撃した

それでも水晶で出来た大きな鱗が剥がれ落ちるだけで
何度も同じことをしなければならなかった
8回目 やっとのことで皮膚が見え
クレイモアはドラゴンの頭蓋骨に到達した

ジャックは息を切らせながら攻撃を避け 防ぎ
最後の一撃のために力を貯めた
黒色の禍々しいオーラが洞窟内に伝わり
水が濁り 周りを取り囲む水晶を黒く染め上げた

大きく跳ね上がり ドラゴンの頭に高速で落下した
力が抜け 地面に勢い良く叩きつけられた
そうして ジャックは勝った
ミラは彼を見ながら 畏敬の念を強めた

Lv.7

君は話の流れで記憶喪失ということになった
気の毒がったサーラは村長の元に君を連れて行った
村長は気の毒にと言いながらサーラに世話を頼んだ
こうして君はサーラと行動するようになった

固く乾いた青い剣は軽く 振りやすかった
まずは草むらに入り小さなドラゴンと戦った
構え方から振り方を覚えた
ただ 一度やってしまえば簡単だった

君は不思議だった 訳がわからなかった
理解出来ている言語を聞いたことがなかった
振ったことのない剣が手に馴染んだ
そして 死体から剥ぎ取る作業は捗った

君が訓練に慣れてきた頃に サーラの提案で
サーラと出会った小川を越えることにした
君は視界の左下の数字が増えていることに気が付き
なんとなくこの世界の仕組みの一つがわかった

Lv.8

ミラは闇の水晶を手に取ってジャックに渡した
受け取った手のひらの中で 水晶はどす黒く渦巻いた
その中に人間とドラゴンが殺し合う光景を見た
これが未来なのか過去なのか ジャックはそんなことには興味がなかった

闇の魔法は唱える必要もなく
ただ手をかざせば発動するようだった
自分を殺そうとしたジャックを思い返し
命乞いのための情報を彼女は必死で探した

凶悪なドラゴンと死体になっても動き続ける人間たちが暮らしている
ゴーストタウンが東に行けばあるとミラは言った
仕方なくミラを殺すのをやめ ジャックは道案内を頼んだ
次に向かうべき場所が決まった

行く先々で手をかざし 木々を腐らせ 岩を黒く染め上げた
闇の魔法にかかった生物は一瞬で溶け 地面と一体化した
ミラは恐ろしくなりつつ ジャックさえ居れば全てが手に入るとわかった
殺されないための情報を頭の中で整理しながら 共に旅をした

ある夜 焚き火を囲みドラゴンの肉を食っていると
ジャックが空を見上げながら何かを囁いていることに気がついた
何を言っていたか聞いたミラだったが 返答はなかった
満天の星空の下 孤独な男と女は枯れ葉に包まり それ以降は黙って眠った

Lv.9

村の生活に慣れてきた君は
サーラと一緒に隣の村に行き そのまま旅へ出ることにした
青い剣と青銅で出来た盾と食糧を持って
道沿いに歩き 出会ったドラゴンと戦った

草のドラゴンは厄介だった
そこまで凶暴ではないが ツルで足を取られた
転んだ拍子に怪我をしてしまったが
サーラの魔法でそこまで大事に至らなかった

経験を積んでも のんきな君は助けを必要とした
青い剣は全てを切れるわけではなく
草のドラゴンでさえも何度も切りつけなければならなかった
そんな君を眺めながら サーラは少し頼りなさを感じた

ツルを切り 剣の届く場所まで走ると
草のドラゴンは口を開けて君に異臭のするガスを噴出した
君の視界がぼやけてしまったが 怯まずに突っ込んだ
首元を横に断ち切ると ドラゴンは動かなくなった

小さく柔らかな葉のような鱗を剥ぎ取った
サーラに食べてみなと言われ 食うと甘く芳醇な香りがした
みるみる内に回復し 次に出て来た草のドラゴンは難なく倒した
少し鈍臭いが サーラは君に期待して成長を促した

Lv.10

ゴーストタウンは異様な空気に包まれていた
ドラゴンはゾンビを喰らい
死んだドラゴンにはゾンビが群がった
ジャックは 異臭に顔を顰めながら殺して回った

街の奥へと進むと 不自然に大きな教会を見つけた
ミラはこの街で信仰されていた神の話をした
ジャックは興味を持たなかったが
ある一点に強く反応を示した

不治の病は この街で崇められていた一人の司祭によって
感染症のように広げられた魔法で
司祭はゾンビとなってしまい街を彷徨っているが
噂では 教会の奥に生き残りの住人たちが今も生きているという

誰に言われたわけでもないが
人々に絶望を与えるのがジャックの役割であった
それは本質的な悪意 強制されない狂気
強いて言えば ヴァランの影響が大きいだろう

あの邪悪なドラゴンに拾われさえしなければ
真っ当な道を進んでいたかも知れないが
ジャックは底知れぬ怒りと 虚無感と孤独の中
煮えたぎる思念を黒い悪魔として具現化させた存在となっていた

まずはゾンビどもとドラゴンどもを滅ぼし
喜び 出てきた住人どもを殺してしまおう
何故か その方が楽しいからだ
ミラはその考えを彼から聞き 心底怯え 震えた

Lv.11

隣の村に着いた君とサーラは宿に泊まった
ドラゴンとの戦いで身体の動かし方の改善点を見つけたので
その話で盛り上がっていたところ
隣に部屋を借りていた男に扉をノックされた

その男は二人を酒場に連れて行った
なんでも この村を案内してくれるそうだ
村人たちに挨拶をし ささやかな交流をした
楽しく笑っているうち 君に変化が起きた

君は 自分が何者であったかという悩みを忘れ 気にならなくなった
サーラと一緒に居れば安心だということもあるだろう
そして君は一つ目標を立てることにした
この世界の強者と戦えるくらいに強くなろう ということだ

サーラにそのことを話すと 大笑いされてしまった
無理だというサーラに 君は少し苛立ちを覚えた
しかし それでも目標がある方が生活は豊かになるだろうと
背中を押してくれたので 眠る頃には苛立ちを忘れた

二人が眠っている間 隣の部屋の男は何やら企んでいた
村人たちはどうにか二人を利用出来ないかと男に持ちかけたのだ
その男の名はネーロといった 用があれば皆彼に頼んだ
報酬の有無を聞き値段に満足すると 計画を実行することに決めた

Lv.12

ゴーストタウンに静けさを取り戻し さらに殺戮するために
ジャックは手をかざし続けた
ドラゴンとゾンビはたちまち数を減らしていくが
広大な街に数千は居たので時間がかかった

一週間後 ジャックは疲れもせずに
すべてのドラゴンやゾンビを殺し終えた
それまでにかすり傷ひとつなく 汗もかいていない
心底恐ろしい男だとミラは思った

大きな教会の前に立ち 扉を開く
中には誰もいない 整列した椅子のみ
主祭壇の向こうには神の姿があった
不気味な装飾品だらけだ やけにおどろおどろしい

ふと主祭壇の下を見ると
傷だらけになった床の木の板があった
ジャックはそれを押し込むように踏んだ
すると 神の像が動いて隠し扉が現れた

シェルターの中には数十人の人々が暮らしていた
皆どこか暗い顔をしていたが 健康状態は良さそうだった
ジャックを見て一人の街の女が悲鳴を上げた
手をかざして いつでも返り討ちにする準備をした

しかし そうならなかった
女の元に駆け寄った数人の住人が彼女を落ち着かせ
ジャックの周りに集まり 口々に感謝の言葉を発した
ミラはジャックの顔を覗いた 無表情だ

礼の品として どこから調達したかわからない
果物や肉 野菜などを贈り物として与えられた
ジャックは内心少し戸惑っていた この感覚はなんだ
ミラはジャックの様子を見ながら これでも人の子か と思った

その住人たちの中で 一人鋭くジャックを睨みつける老婆が居た
杖を持ち 白髪を垂らし もう何年も生きられそうにない姿だ
皺の多い顔は普段それほど人に危害を加えそうにもない優しさをたたえていた
ただ この時ばかりは事情が違っていた

老婆はジャックに群がる住人たちの騒ぎを見届け
落ち着くとつかつかと前に歩み出した
老婆の様子を見て 住人たちは彼女に道を譲った
ジャックの目の前に対峙し 皆静まり返った

ジャックにはこの老婆がどこの誰かわからなかったが
老婆にはジャックのことがわかっていた
深呼吸をし 杖を放り出し 何もかも悟ったような顔になりながら
老婆は口を開いた

Lv.13

君はネーロに紹介されて仕事を得た
この世界で目覚めて 初めて職にありついたわけだ
達成すれば報酬が貰え サーラともっと旅をすることが出来るかも知れない
初めは簡単な仕事だった 凶暴化した草ドラゴンの狩りだ

成長した君にとってはもう簡単なことだった
剥ぎ取った食べられる鱗は料理に使うとのことだった
サーラは生活の面で順調になってきたと思ったら
ネーロに対して警戒心を持ち始めた

彼は見た目がスマートだが どこか裏があるように思えた
よく笑っているが 瞳の奥が冷めている
茶色の髪は耳ほどの長さでウェーブしていて 目は銀色だった
この種族をサーラは知っている ツヴァンケの民族だ

大国であり この世界では最強の軍を率いていることで知られるツヴァンケは
隣国と戦争を起こし 殺戮を繰り返していた
サーラの村は離れているので被害を受けたことはなかったが
田舎の娘が都会の男に疑心暗鬼になることは 良くある話だ

ネーロはサーラの視線に気が付き どうしたんだい と聞いた
君はサーラの方を向いた 少し驚いていたが すぐに平静を取り戻した
「なんでもないよ ただあなたはどこから来たのだろうと思って」
サーラのその言葉に ネーロは快く答えた

彼はサーカスを探していると言った
昔 世話になったがはぐれてしまったらしい
団長に会うために はるばるこの街に訪れた
もちろん嘘だったが 半分は本当だった

サーラは自分がネーロを疑ったことを悔やんだ
君は不思議そうに二人を眺めているだけだった
金の勘定をして 取り分を渡された
酒場から出ると 宿に戻って眠った

Lv.14

「ジャックよ 私はあなたのことを知っている
 私の息子 その妻も そして孫たちまで
 あなたに殺された あなたは許されない
 私たちを助けたところで 私はあなたを憎む

 改心なさい 出来ないのなら死になさい
 あなたの行く末は 今のままではわかりきっている
 私を殺したいなら殺しなさい
 私はあなたとは関わらない 救われたくなどない

 あなたがして来たことを悔やみなさい
 あなたの本心を探し求めなさい
 その汚い手には何が残るというの?
 孤独からは逃れられない 誰もがそう

 あなたはあなたの世界に生きている
 あなたは私の世界を壊し尽くした
 踏み躙り 唾を吐きかけ それから
 あなたはただ進んだ 罪などないと信じて

 許されたいと思いなさい
 許してやりなさい
 誰もあなたなど必要としない
 それでももがきなさい それが出来ることよ

 不幸だったのでしょうね 私は知らないわ
 でもわかる 頼れるものがなかったのね
 縋るものが間違いだったと気がついて
 絶望するけれど だからこそその先に行けるのよ

 あなたは間違っている 何度でも言う
 あなたを許さない 憎んで いつか呪い殺してやる
 あなたが踏み躙ったものはこう考えて居るでしょう
 憎まれる存在は いつか悲惨に負けるわ

 私とは違う世界で生きなさい
 立ち去りなさい 私を殺して
 人々を救うことは許されるためにやることではない
 それでも あなたを許す人が現れるのを待ちなさい

 あなたを信じます 憎んでいるけれど
 あなたはきっと このままではない
 知らなかっただけよね それはわかっている
 可哀想なジャック 愚かなジャック」

Lv.15

依頼される仕事の内容は難しくなっていった
ドラゴンを狩ることには変わりないが
岩のドラゴンや泥のドラゴンとなると
君にはまだ早く とても苦戦した

岩のドラゴンは頑丈で君の剣はボロボロになってしまった
サーラの援護がなければ勝てなかっただろう
右足を踏み潰されて骨が砕けたが それは回復魔法で治せた
一週間 行動が出来なくなってしまうので休んだ

泥のドラゴンは君の足を掴んで
沼地へと引き摺り込み頭まで沈めてしまった
サーラが炎の魔法を唱えたが全く効かず 水の魔法で対処した
溺れかけた君はサーラに助けられ 泥のドラゴンは洗われて死んだ

いくら苦戦しようが 報酬は初めに貰った額と一緒だった
不思議に思っていたが 君とサーラは黙って受け取った
この街で反発することは追い出されることに等しい
まだ十分な額を集め切れていないので あと10回程度はこなさなければならない

君は早く次の場所へ行きたかった サーラもそうだ
この街に慣れてくると やけに陰湿な連中がいると思っていた
二人は知らなかったが この街には前科者や犯罪者が多く潜伏していた
荒み切った目で詐欺 強盗や殺人 人身売買の機会を狙っていた

Lv.16

ジャックは呆然としていた
何を言われているのか理解が出来なかった
右腕をゆっくりと前に差し出した
その手は開かれ 老婆の前にかざされた

老婆はジャックを睨みつけていた
ジャックは老婆から視線を逸らした
皆が困惑した顔をしている
ミラは何かを言おうとしたが 何も言葉が出てこなかった

老婆は殺された 溶けてシェルターの床に染みた
住人たちは叫びながらジャックから離れていった
ミラは初めて 彼を気の毒な人だと思った
ジャックは何も言わないまま ドアを開け 浄化された街に戻った

大災害の後のような有様だったが 街には平和が訪れた
ジャックは二つの感情を生まれて初めて味わった
ミラはジャックのことをもっと知らなければならないと思った
住人たちは 街を取り戻すために大きな教会から出て来た

ジャックは街を出て ひたすら歩き続けた
飲み食いはせず 眠りもせず 3日間進み続けた
ミラはくたくたになりながらもついて行った
4日目 やっと立ち止まった彼らは 焚き火を起こした

ジャックはミラにツヴァンケを滅ぼせと言われたことを思い出した
珍しいことというより初めて ジャックがミラに対して興味を抱いた
理由を聞くと ミラは戸惑いながら話し始めた
生い立ち 戦争 呪い その他のことを

Lv.17

目が覚めると 宿からサーラが居なくなっていた
君はパニックになった 作業台の上に紙が置いてあるのを発見した
『ごめんね もう行かなきゃ これからは君一人で頑張ってね』
そう走り書きされていた 君は涙が出そうになった

街を歩いた 一人はとても心細かった
財布をスられた 惨めな気分になった
フラフラとなり道端に座り込んで空を眺めた
空は相変わらず晴れ渡っていた

一匹の巨大なドラゴンが遠くに見えた
それは次第に近づいて来た
速い 君は一瞬何もかも忘れて釘付けになった
周りの人々も同じ方向を見ながら ざわついていた

空は漆黒のドラゴンの形に穴が開いているようだった
頭上を飛んでゆく 低空飛行だ
そうなると 街の人々は悲鳴をあげたり逃げたりしていた
君は ただぼうっとそれを見届けた

我にかえるとネーロが目の前に立っていた
サーラが一緒に居る時とは別人のような目をしていた
ついて来い とだけ良い歩き始めた
君は ネーロに従って立ち上がり 後を追った

Lv.18

ミラはある小国の4番目の姫だった
裕福な環境で育ち 何不自由なく7歳になった
ツヴァンケが力をつけ始め 隣国を侵略し始めたのは
ちょうどその頃だった

小国は他の国を恐れさせるほど魔法や魔術 錬金術などに長けており
その学問に興味がある若者の通う学校が多くあった
ミラもその学校の一つに通っていた
王妃が国民と同じように育てたいという方針を持っていたためだ

勉強を終え 放課後に噴水のある広場に集まり
活発に友人らと遊んでいると 空に赤いドラゴンが飛んでいるのを見た
その数は数千 甲冑を着せていることから軍であることがわかった
ミラは通り過ぎるだろうと思っていたが そうならなかった

大きな火の玉や渦を巻く炎にたちまち国の家々が燃やされた
逃げ惑う人々に揉まれてミラは城へと戻った
王は玉座で大臣たちや軍の指揮官と話し合いをしており 話しかけられる状況ではなかった
しきりにツヴァンケと聞こえたが 当時は理解出来なかった

王妃は娘を心配して2人の姉とともにミラを迎えに来た
近衛兵の一人が 逃げてください 王の命ですと言った 彼女らは隠し通路で城から出た
数十メートル離れると 城に今までで一番大きな火の玉が落ちた
王と軍の指揮官は死んだ 統率の取れなくなった小国の軍はたちまち敗北した

兵器は盗まれ 兵士は捕まり
民間人は奴隷として連行された
その時はまだ 王妃と2人の姉は生きており
ミラにとってはそれだけが救いだった

そこまで聞き終わると 空のドラゴンを見つけ ジャックは跳ね上がってその尾を掴んだ
逃げようとしたが ジャックが強く握り締めると大人しくなった
移動用にちょうど良かった ミラも魔法でジャックの元へ飛んで来た
ジャックとミラを乗せた移動用ドラゴンは ツヴァンケに向かった

ドラゴンの背中で話は続いた
ミラはとても悲しそうな顔をしていた
ジャックの内に何か冷たく それでいてほのかに落ち着く感情が芽生えた
その正体を ジャックはまだ知らなかった

Lv.19

君は故郷であるだろう平和な村に帰りたくなった
しかし 今はネーロについていくしかなかった
背伸びをして旅をしようとしたのが悪かった
サーラの行き先もネーロが知っているかも知れない

ネーロはしばらく黙って街を歩き
薄汚れた裏路地に入り 錆びたドアをノックした
俺だ と一言言うと 中から屈強な男が出てきて二人を通した
中に入ると長い廊下があり あらゆる男たちが談笑していた

「あの サーラの行方を知らない?」と君は聞いた
ネーロは鼠を見るような目でこちらを見ただけだった
突き当たりの階段を降りて地下へと向かった
鎖に南京錠がしてある扉を鍵を使って開け ネーロは君の腕を掴んで進んだ

君は目の前で何が繰り広げられているかわからなかった
檻の中に子供たちが閉じ込められていた
君がネーロに連れてこられると 助けを求める瞳をしていた
君は剣を構え ネーロに叫んだ

「ここはなんだよ! どうしてこの子たちを檻に入れてるんだ!」
「俺がやったわけじゃねえよ 取引先だ ここは商品の倉庫だ」
「ふざけるな! こんなこと許されるわけがない!」
「うるせえな やめとけ 俺には勝てねえよ」

ネーロは素早く間合いに入り 君の腹を殴った 君は剣を落としてしまった
暗闇から二人の男が出てきて君を起き上がらせた
手を縄で縛られて抵抗が出来なくなった 倉庫の奥の部屋に連れて行かれた
立派なデスクの向こうに奴隷商人が座っていた 君は震えた

Lv.20

王妃と3人の娘は森の中でボロ小屋を見つけた
そこには誰も住んでいなかったので休むことにした
ミラは母親の青ざめた表情を見ながら父親を思い出していた
時に厳しくもあったが優しく あたたかな人柄の王であった

彼女らは森で獣を食べ 数日の間 空腹を凌いだ
小国から遠く離れた地で 途方に暮れていた
王妃はさまざまな国に掛け合おうかと考えていたが
そうしなかったのは王からの助言を受けたからだ

「もし私に何かあった場合 どこの国にも助けを求めてはならん
 私たちが死に 後継も絶えればこんな小国は死ぬと思え」
何故そう言っていたのか不思議だったがもう聞くことは出来ない
今は3人の娘を守らなければならない

ボロ小屋は狭くて汚かったが 身を潜めるにはうってつけだった
休むだけでなくしばらく住んでしまおうと王妃が提案した
3人の娘は嫌がっていたが 生活に慣れると思い思い過ごすようになった
半日歩いてたどり着く街で 食料を調達する役割は長女になった

数ヶ月後のある日 ミラは森で遊んでいると綺麗な小さい湖を見つけた
そこにはさまざまな花のドラゴンが住んでおり のびのびと暮らしていた
その中に混ざって遊んでいる男の子がおり その子に話しかけた
逃亡生活が続き 緊張感はなくなってきていた

彼はルイと名乗った この先 ミラが決して忘れられない名だ
ミラも名乗り 二人はすぐに打ち解けた
お互いに好きな色や食べ物やドラゴンの話をした
花のドラゴンとルイと追いかけっこをしていると時間を忘れ 夜になってしまった

怒られると焦ったミラはルイを連れてボロ小屋に戻った
夕食の匂いが外に漏れていたので腹が鳴った
ドアを開けて中に入ると 王妃と長女と次女が血だらけで倒れていた
ミラは泣きながら もう冷たい家族の身体を抱きしめた

Lv.21

君はそこそこ高価な皿と同じ値段で奴隷商人に売られた
ネーロは渋々その値段で帰っていった
奴隷商人は君に足枷と首輪を付けた
君は番号7 他の6人と同様 檻に入れられた

君が滞在していた街の人々は落胆した
本当に使えない無能だったと君の悪口を言っていた
ネーロは外の空気を吸いに酒場を出た
(もうそろそろ足を洗いてえ) そう思いながら

君はネーロを憎んでいた いつか仕返ししてやろうと思った
倉庫での食事は1日1食 パンだけだった
ただ 君は6人の子供たちと過ごすことだけは嫌いじゃなかった
皆優しく接してくれ 仲良くなり 抜け出せたら遊ぼうと約束した

そこで何日過ごしただろうか ある日 客が訪れた
奴隷商人に連れられた中年の男は 見るからに高価な服を着ていた
装飾だらけの下品なジャケットをこれ見よがしに歩いた
大量の金で 君ともう一人の子供を買うと言った

君は移動用のドラゴンに乗せられた
もう一人の子供はクロード 君に似て美しい顔をしていた
中年の男は君たちを見下ろしながらこう言った
もう大丈夫だ 君たちは私たちの家族なのだから

君は安心した 久々に大人に優しくされて少し涙が出た
クロードも同じような反応を示していた
中年の男は 夜空の星を眺めながら風を心地良さそうに浴びていた
目的地に近づくと 大きな屋敷が建っていた

Lv.22

ルイはミラをボロ小屋から連れ出した
血だらけになった洋服で 呆然としていたミラは
家族との思い出を脳に映し出しながら
辿々しく歩いた ルイは「君は僕が守る」と言った

森を歩き続けた 夜には焚き火を囲んで休んだ ちょうどジャックとそうしたように
ルイは身のこなしが軽く ドラゴンから逃れる術を心得ていた
危険が迫るとミラの手を引いて攻撃を避けながら逃げた
ミラは2日目に落ち着き「もう大丈夫」と言った

3日目 ようやく目的の街を発見した
ルイは「家がある」と言った ミラを連れて帰るとも
ミラは急に申し訳なくなった しかしルイは「大丈夫だ」と言った
家に辿り着くと 男が出てきた

「お前!どこ行ってたんだ! ん?その子は?」
ルイは父親に叱られながら家に入り 家事をしていた母親を呼んだ
テーブルを囲み 食事をしながらミラは今までのことを話した
ルイの父親は驚いた顔のまま聞き 母親は時たま啜り泣きしていた

ルイの家族はミラを受け入れた ミラの平穏な生活を取り戻すために
なるべく人目につかないようにはしたが 必死で努力をした
結果 ミラは悲しみを乗り越えて17歳になった
ジャックは何も口を挟まずに ミラの話を聞き続けた

Lv.23

屋敷には派手な服を着た男と女が暮らしていた
賑やかに そして楽しげに酒を飲んでいた
君はそこである人物を発見して大声を出した
厚化粧をして 派手な服を着たサーラがいたのだ

「サーラ!こんなところに!」
「静かに! こっちに来て」
鋭い目に変わったサーラは 奥の間に君を連れて行った
中年の男は仲間達の輪に入り酒を飲み始めた

「あなたもネーロに騙されたのね 許せない」
「どういうこと?」君は間抜けな顔で尋ねた
「私もあの宿から連れ去られたの メモを書かされてね」
「そういうことだったのか でも再会出来て良かった」

「良くないよ ここは地獄だもん」
「どうして?あの人はそんなに悪い人じゃないと思ったけど」
「悪いなんてものじゃない 下衆だよ」
「どうして逃げないの?」君の言葉にサーラは顔を曇らせた

屋敷には何十もの部屋があった
それぞれの部屋にベットとトイレと風呂が付いていた
サーラはその中でも特別な部屋を担当していた
君はそれ以外何も知らない サーラは語らなかった

クロードが奥の間に入って叫んだ
「ねえ君たち! 大変だ!」
大広間から罵声と悲鳴が聞こえた
君とサーラが向かうと そこにはネーロが立っていた

(なんで ここまで追ってきたのか?)君は戸惑った
「わからない どうして」サーラも狼狽えた
ネーロは君らを見つけた「さっさと行くぞ」と言い 腕を掴んだ
君は抵抗したが サーラは抵抗しなかった

クロードと顔を見合わせ 君は仕方なく着いて行くことにした
ネーロは目的を果たした 長年追い続けていたサーカスの元団長を撃ち殺した
君とクロードを買い取った中年の男が元団長だった
ネーロは三人を連れながら 後ろ向きに銃を撃ちまくっていた

全力で走り ドラゴンの背中の上に乗り 追手たちを振り切った
サーラは泣いていた ネーロは黙っていた 君は何が何だかわからなかった
クロードの場合は 君よりも何もかもわからなかった
クロードはサーラに挨拶をした サーラは小さな声で返事をしただけだった

Lv.24

ミラとルイは当然というべきか 恋仲となっていた
ルイの両親はそれを微笑ましく見つめていた
いつか結婚して子供を産み この家を出て行くだろう
希望に満ち溢れ ミラは幸福を感じていた

ツヴァンケは そんなミラの希望や幸福を砕いた
小国の時と同様 街はすぐに壊滅した
ミラはルイに連れられて逃げていたが 両親は捕らえられた
そしてすぐに撃ち殺された ルイたちは隠れてそれを見るしか出来なかった

ミラは最後まで二人を守り通そうとした義両親の姿を目に焼き付けた
まもなくして ツヴァンケの兵士たちはミラとルイを捕らえた
街はツヴァンケの兵士たちの手に落ちていた
そのうちの一人の将校に ミラは話しかけられた

「お前 もしかしてあの小国の姫か?」ミラは黙っていた
(間違いない)彼はあそこに潜入していた頃に見たことがあった
ミラはその顔をしっかりと見た 逃げろという王の命を受けた近衛兵だった
城で最後に見た顔だったので 微かに記憶に残っていた

「もしそうだとしたら何?」ミラは聞いた
ルイはどうにか脱出出来ないかと思考を張り巡らせていた
「何も 殺すだけだ」将校は答えた
ミラの喉元に剣を当て ほくそ笑んでいた

「彼女だけは助けてくれないか?」ルイが言った
「ルイ 死ぬ時は一緒よ」ミラは目を閉じて囁いた
刃が皮膚を軽く突き 血が流れた
その時 轟音が鳴り響き その場に居た者は一斉にその方向へ目を向けた

黒い巨大な龍が降り立った
背中には少年が乗っていた
龍と少年は次々にツヴァンケの兵士を殺し回った
ミラとルイはその隙に逃げた

ジャックはミラの顔を見つめて驚いていた
「そうよ 私はあなたを知っていたわ」ミラは笑った
ツヴァンケと逃れられなかった街の人々は死んだ
ミラはルイに手を引かれて必死に走り去った

Lv.25

ネーロが話し始めた 彼は街の人々に雇われた傭兵だった
常にツヴァンケ人のように変装をしていた
かつて存在した小国の生まれで 長い間奴隷だった
ピストルの使い手で その腕を見込まれた

ある日サーカスの団長に買われて散々な目に遭った
芸が出来るわけでもない彼は 雑用とサンドバックが仕事だった
出演者のストレスの捌け口に 団長の気晴らしに
火に包まれて死んだ両親の顔を思い出しながら それに耐え続けた

君は話を聞きながら 気の毒に思った
サーラはそっぽを向いていた クロードは下を向いていた
ネーロは話し続けた やりたくもない仕事をしていただけだった
許されるわけではないが 謝りたいと言った

「当然許さないよ」サーラがネーロを睨みながら言った
「そうかよ じゃあ俺を殺すか?」ネーロは聞いた
「私たちをこんな目に合わせた人を全員懲らしめて」
「ああ それならもう済ませた」

街に戻ると そこは変わり果てていた
住人が皆 逃げていたのだ ネーロの仕業だった
街を取り仕切っていた人々を全員殺した
ネーロに味方したのは 同じく奴隷だった傭兵たちだった

傭兵たちはもうどこか別の場所に移動していた
君とサーラ ネーロ そしてクロードは酒場に入った
ネーロは「傭兵もやめる」と言った
そして提案をした「俺たちで組まないか?」と

Lv.26

ルイは背中に傷を受けていた もう助からなかった
それが分かりつつも ミラは寄り添っていた
日に日に弱っていくその姿に心を痛めながら
初めて出会った湖のほとりで ミラはルイと過ごした

ツヴァンケの攻撃から二日後 ルイは死んだ
ミラはその後も ルイを抱いて眠っていた
花のドラゴンたちは ルイの遺体を興味深そうに撫でていた
ミラは力なく笑った「私たちを出会わせてくれてありがとう」

ミラはかつて隠れていたボロ小屋に戻った 中はそのままだった
家族の骨が散乱していたが それを拾うことが目的ではなかった
ミラは王妃が持っていた包みを見つけた
しるしのある地図や魔法の本がたくさん入っていた

それから数年 魔法の強化をした
ツヴァンケを滅ぼすためだけに生き延びた
ボロ小屋の中を綺麗に掃除し 骨は埋葬した
彼女は孤独だった 悲しみに埋もれていた

そして ジャックと出会った
唯一取りに行けなかった闇の水晶を手に入れた
これで準備が出来た
話が終わると 大国ツヴァンケの明かりがほのかに見えてきた

Lv.27

君はネーロと仲間になった
サーラとクロードは元から君の仲間だ
サーラだけはネーロの提案に反対していたが
君が説得してなんとか納得してくれた

「目的は?」君はネーロに聞いた
「ツヴァンケを滅ぼす」ネーロは即答した
「そんなこと無理だよ 何を考えているの?」サーラが言った
「僕はただのんびり暮らしたいよ」クロードが呟いた

「良いか? ツヴァンケは好き勝手しているんだ
 俺たちで強くなって 通用するようになれば良い
 俺が鍛えてやる こう見えて腕っ節には自信がある
 魔法だって詳しい 良い話じゃねえか?」

「ツヴァンケを相手にすることが良いこと?
 村に帰りたいけど 私はもう戻りたくない
 彼は帰っても良いでしょ?私はあなたに着いていくしかない
 両親もいないし 村に帰るには汚れすぎたわ」

「サーラ 彼は帰りたいと言ってないぞ
 俺は復讐がしたい それだけだ
 傭兵たちはもうそんなこと忘れてちまっている
 力を貸してくれ 勝手なのはわかっている」

「わかっているなら言わないで
 旅をするのは良いけど ツヴァンケだけは避けたい
 ネーロ あなたの身に起こったことは気の毒だと感じるけど
 無理なものは無理 だったら彼に着いて行くわ」

君はサーラに腕を組まれた
ほのかに甘い香りがして 頬が赤くなった
会わない間に 急に大人っぽくなった気がした
ネーロは笑った「お前 照れてんじゃねえよ」

Lv.28

ジャックとミラは大国から数キロ離れた地点で降りた
空のドラゴンはどこかに飛んでいった
歩きながら ジャックは自分でも意外なことを言った
「暴れるのはしばらくしてからだ それまでは大人しくしていろ」

「どうして?」ミラは不服そうに聞いた
「奴らを確実に滅ぼすには 内部に入り込んだ方が早い」
「そう簡単にはいかないってわけね」
「ああ 闇の魔法が強力でも数百の火のドラゴンを相手に出来るかわからない」

ミラはジャックのそんな一面に驚きつつ
了承し 魔法で顔を変えた
ジャックは黒い鎧を脱ぎ 包みにしまって着替えた
あらゆる業を背負ったその顔は暗く 白い肌が月に照らされて氷のようだった

ミラはその姿をルイの死の間際の姿と重ねた
冷たく白く 深い闇を宿らせた存在
ルイは善良な人間だったが ツヴァンケを心の底から憎んだ
(彼は何を憎んでいるのだろう?)ミラは疑問に思った

ミラは聞いた「何故 人を殺すの?」
ジャックは無言でいたが口を開いた
「それしか知らないからだ」
ミラは ジャックとルイは やはり別の次元の人間だと思った

Lv.29

君とその一行は様々な地に旅をした
ある村でドラゴン退治を引き受けて
小さな山のドラゴンを一ヶ月倒したり
氷のドラゴンを溶かしたり 空のドラゴンを捕まえたり

君はどんどん成長していった
サーラとクロードもそうだ
サーラは魔法を強化させ クロードは弓を射った
ネーロは自家製銃を撃ちまくった

ネーロと仲間になってから戦い方が改善された
相手の出方と自分の攻撃のタイミングを測る余裕が出来た
君は自信をつけていった
他の二人も ネーロの言うことを聞くようになった

ただ サーラはまだネーロを許せていなかった
時間を取り戻すことが出来ないことは知っていた
クロードは怠け癖が少し緩和された
修行や仕事が終わると眠るのが大好きだった

君は(青い剣を変えたい)と思った
氷のドラゴンの背骨でさらに頑丈で鋭い剣を作った
ネーロはツヴァンケを諦めきれずに
内心焦っていたが ほどほどに楽しく過ごした

サーラと二人で仕事をこなしていた時
「あなたは記憶がないって話なんだけど」と言った
「うん 君と出会った日より前のことはわからない」
「その記憶 取り戻したいとは思わない?」

「もちろん 取り戻せるものなら」
「絶対とは言えないけど 方法はあるかも知れない」
「そうなんだ 教えて欲しいな」
「良いけど ちょっと危ない橋を渡るかも知れない」

君は(不思議なことを言う子だなあ)と思った
彼女はある山の伝説について話し始めた
君はそれを聞いて 次の目的地を定めた
ネーロとクロードは 君の提案を飲んだ

Lv.30

すっかりツヴァンケの国民の姿に化けた二人は
門番に止められながら 身元を調べられていた
ジャックとミラは金髪に青の瞳に変わっていた
同じ色の髪を撫で付けながら門番は言った

「元々この国は警戒し過ぎだと思わねえか?旦那」
ジャックは少し挙動不審に「あ ああ そうだな」と言った
ミラが会話に入った「そうよね この前だって身元調査だけで夜になったわ」
門番は笑った「俺たちだってこんな綺麗なお嬢さんを待たせたくねえよ」

ジャックは無表情だった ミラに脇腹を突かれた
ジャックは仕方なく ぎこちない引き攣った笑顔を捻り出した
門番はそんなジャックを見て大笑いしながら「なんだい旦那! その笑い方」と言った
思わず右手をかざしそうになったが ミラに腕を組まれて阻止された

しばらく経つと やっと門が開いた
ジャックは小声で「お前があいつらと会話してくれ」とぶっきらぼうに言った
ミラはくすくす笑って「あんなあなたを見られるなんてね」と言った
こうして 偽りの夫婦は大国への潜入に成功した

Lv.31

「そこはね時の山っていうの
 時のドラゴンが住んでいて その飼い主に聞くの
 自分の正体は? って
 そうすると過去や未来なんかを占ってくれるの

 前に行ったけど そこまで怪しいものではないよ
 色んな魔法の掛け合わせだね 時のドラゴンがその力を持ってる
 飼い主に会うには条件がいるけど 私たちなら平気 ツヴァンケ人じゃないから
 もしかしたら あなたの記憶を教えてくれるかも知れない」

時のドラゴンの飼い主はアミルと名乗った
君の想像よりもだいぶ若く見えた 30代くらいだろうか
占いの類は老婆か老人だと思っていた
彼は君の目を覗き込み 髭を擦りながら言った

「僕は過去を見るのは得意な方なんだ
 未来を見るより もう確定しているからね
 時のドラゴンがさっき話していたけれど
 過去にあるものは大体その人の中に眠っている

 しかしね それが一切なかったんだ 君らしき少年の記憶はあったけど
 どうやら 途中で別人に切り替わったみたいだ それも最近
 君が気がついた時から以前は 普通の少年だったようだ
 君も薄々勘づいていただろう? どうすべきかわからなかったろうが

 過去の見方はふた種類ある 脳からか 精神からだ
 脳に比べて精神と過去との紐付けはぼんやりとしている
 上澄みしか掬えないようなものだが 大体重要なものは沈殿している
 それでもさっきと同じように問いかけるだけだ やるかい?」

君は大きく頷いた
そして問いかけた「自分の正体は?」と
時のドラゴンが上を見上げて光を放った
その眩しさに 目を瞑りながら待った

数分後 結果が出た
アミルは驚いた表情をしていた
君は 元々この世界の住人ではなかったということだ
最初に目覚めた時の違和感はそのせいだった

Lv.32

ツヴァンケに入り込んだ後は簡単だった
警備の職についたジャックはミラと共に軍へと招待された
王は二人を戦力とみなしたのだ
ジャックはツヴァンケの兵士となり ミラは魔法攻撃部隊に加わった

そこから二人は機会をうかがっていた
従順なツヴァンケ人を演じ 地位を高めていった
行く先々でジャックは手をかざし続けた
ツヴァンケは国々を手中に収めていった

ミラはジャックの力がツヴァンケに奪われてしまうのではないかと焦っていた
ジャックはミラとの約束を忘れてはいなかったが
ツヴァンケでの生活に満足し 虐殺を肯定されることに居心地の良さを覚えた
そんな時 ある小さな村を襲撃せよと命令が下った

王はその村を緑の地と呼び 執着していた
自然を焼き払うことなく奪えとジャックに言った
ジャックは暴れることばかりを考えていたが
その命に従い 人の命のみを狙うと約束した

Lv.33

君と仲間たちは最初に目覚めた村へと帰っていた
母親に会うとゲンコツを喰らい サーラと共に説教をされた
家では君らを歓迎する食事が用意された
村の人々は 君とサーラの話を聞くと目を輝かせていた

「随分呑気な村なんだな」ネーロが酒を飲みながら言った
「そんな言い方しない方がいいよ」クロードが嗜めた
「まあ そう思うのも仕方ないよ」君がピザを食べながら言った
「私はこの村に戻りたくないと言ったのに」サーラは俯いていた

ツヴァンケの軍がこの村を狙っているという噂を聞いた君らは
サーラの言葉を無視し 村へと慌てて戻ってきた
ネーロはこの機会を見逃せないと感じていた
クロードは噂を思い出しながら恐怖を抱いていた

誰も手に入れることのなかった闇の水晶を手にした
黒い鎧を着た悪魔のような男がいるという噂
君は何故かその男に興味を惹かれていた
村人たちと共に 君らはツヴァンケからの攻撃に備えた

Lv.34

ジャックは村の前で仁王立ちをしていた
クレイモアは人々の血を吸おうと脈打っていた
他の兵士やドラゴンどもは連れてこなかった
王と交渉し 単独で攻め入ることにしたのだ

君はジャックを見つけた 一目で噂の人物だと分かった
慎重に近づき「あなたは誰ですか?」と聞いた
ジャックは目を見開いた 驚いていた
自分を恐れない人間に初めて出会った しばらく無言のまま対峙した

「この村には何もありませんよ
 お金が欲しいのなら かき集めてくるので帰って貰えますか?」
君は自分でも驚くほど流れるように話していた
ジャックはツヴァンケの紋章を見せながら「命令だ」とだけ答えた

ネーロが木陰から撃ち込んだ 鎧に弾かれ ジャックは微動だにしなかった
クロードの弓も同じように弾かれ 折られてバラバラと地面に落ちた
サーラは鎧を脆くする魔法を唱えたが効いている気配がない
君は剣を構えた 息を整えて ジャックからの攻撃に備えた

ジャックは手をかざした 君の全身の毛が逆立ち 本能的に逃げたくなった
しかし 構えることをやめずにいると 剣が光り始めた
「な 何それ」サーラは驚きの声を上げた
「そこか」ジャックは呟きながら闇の魔法を放った

サーラは溶けた あまりの呆気なさに君は叫んだ
ネーロが弾丸を撃ち込むが 手をかざされて溶けた
クロードは恐怖の表情を浮かべ ジャックから離れようと走り出した
後ろから闇の魔法を浴びて 他の二人と同様に溶けた

Lv.35

「あとはお前だけだ なんか言うことあるか?」
ジャックは手をかざしながら 動けない君に聞いた
「お前 一体なんなんだ」君は震えた声を絞り出した
「名乗る名などない」ジャックはそれだけ答えた

「どこかで会ったことがあるか?」ジャックは不思議そうにしていた
君は怒りに我を忘れて 自分でも気がつかないうちに叫んでいた
ミラが現れた「ジャック!あなた何しているの?」後ろからジャック押さえつけた
「離せ 消されたいのか?」ジャックはミラに冷たく言い放った

ミラは君に叫んだ 「彼には勝てないわ 逃げて!」
ジャックは手をかざした ミラは瞬間に溶けた
君は剣を構えた 力を込めながら足を踏み込んだ
突進し ジャックの手に剣を振り上げた

ジャックの右手は宙を舞った 「油断した」ジャックはそう呟いた
君はジャックの左手を目の前に感じた 時間がゆったりと流れた
左手の中心にエネルギーが溜まり始めた
(ああ 綺麗だ)宇宙にも似たその光景を見ながら 君は不思議と落ち着いていた

全て失った そして君は死んだ
サーラは呆気なく殺され ネーロとクロードも殺された
ジャックは最後に囁いた「俺はお前を知っているような気がするよ」
君は最後に「お前なんか知らない」とだけ絞り出し ジャックの左手で溶かされた

Lv.36

木の家のベッドの上で君は目覚めた
あたりを見回して混乱していた
見覚えのあるものしか目に映らなかった
女の声が君の名を何度も呼んでいた

君は全身に冷や汗をかいていた
どういうことだ? 辺りを見回した
視界の左下に 緑と青の線が見えた
その横に「36」と文字が見えた

母親の食事を食べながら 君は泣いた
心配そうに君を見つめる彼女に 何も言えなかった
それから急いで外へ出た
サーラと初めて会った場所へと 一目散に走って行った

(どうなっているかわからない
 時間が戻ったとしか思えない
 違う あんなことはあり得ない
 あんな死に方 あんまりだ)と君は考えていた

鋭い牙が肩にめり込んだ
狼のようなドラゴンは 君を食い殺そうと必死になった
しかし 痛みを感じなかった
何もかも失った君に そんなものは残っていなかった

サーラの声がした 狼のようなドラゴンの力が抜けて死んだ
振り返ると 溶けてなくなった彼女が心配そうにこちらを眺めた
君は力一杯サーラを抱きしめた サーラは戸惑うだけだった
君の家へとサーラを連れてゆき これまでのことを話した

Lv.37

ジャックは殺戮の旅を続けていた
ミラと出会うことはない もう運命が変わってしまった
君が目覚めた瞬間に ジャックとミラを繋ぐ糸は切れた
これが吉と出るか凶と出るか 君が知る由もない

孤独のまま ジャックは己の欲望を満たし続けた
殺戮は彼に暗い影を落としたが 闇の魔法は使えないままだった
ツヴァンケの兵がヴァランを殺した時すら 何も感じなかった
ミラは遠く離れた地で 身を隠しながら復讐の機会を窺っていた

ある日 君はミラと出会った
君の村に来た彼女は ツヴァンケとの過去を話した
サーラはミラに同情し 君はミラを家に招いた
村人たちはツヴァンケへの叛逆だと反対したが 君は怒鳴りつけて黙らせた

「彼女の過去を知ってもそうするか!」 村人たちは渋々協力した
ツヴァンケから遠く離れた楽園のような村で ミラは優しさを教わった
君はミラに死ぬ直前のことを話したがジャックを知らないと聞き 安心した
ジャックと出会う前のミラは 君の仲間になった

Lv.38

ツヴァンケはジャックによって滅ぼされた
その噂を聞き 君は戸惑っていた
ミラの復讐は果たされたが 彼を認めることが出来なかった
いつか彼との決着をつけなければならないと感じていた

ジャックの心は溶けて消えていた
ヴァランの死を痛めない自分を どこかで受け入れられずに苦しんだ
苦しめば苦しむほど 人を殺すことにのめり込んでいった
恐らく彼は この世から人がいなくなるまで暴走するだろう

君はジャックを待った 強いドラゴンを倒しながら
山のドラゴンの骨の剣で 山のドラゴンを次々に倒した
焦る君を見ながら サーラとミラは心配していた
ネーロはどこかで奴隷を売り クロードは檻の中で日数を数えた

君はふと思った 二人を仲間に出来ないかと
サーラとミラに言い サーカスの元団長が営む娼館を探した
以前の君がわからなかった事情は もう分かっていた
サーラは心をズタズタにされて それを君に隠しながら溶けていったのだ

娼館を見つけると三人は人々が寝静まる朝を待った
酒の匂いのする館の中で 元団長の姿を見つけた
剣をかざす君を ミラが止めようとした
君がミラを睨むと ミラは黙り込んでしまった

元団長は死んだ 剣に貫かれて無様な姿に変わった
空のドラゴンに乗り 君とサーラとクロードを貶めた街へと向かった
街には何も知らないネーロがいた 君を見ると不思議そうに聞いた
「ん? 何のようだ?」君は全てを話した

ネーロは驚きつつ 全てを知っている君の話を信じた
「それが本当だとして 俺は何をするべきだ?」と聞いた
君はクロードと他の奴隷の解放と 仲間になることを提示した
ネーロは「仕方ない わかったよ すぐに行こう」と言い 奴隷商人の店に向かった

Lv.39

ミラは闇の水晶のことを君に打ち明けた
サーラとネーロ そしてクロードを仲間にしていた君は
「それを取りに行こう」と提案した
ミラ以外は反対したが 君の必死さに負けてしまった

君は洞窟に向かった 水晶のドラゴンを殺す戦略は練っていた
ミラが鱗を脆くし サーラの強化魔法で剣を鍛える
そして数発で 水晶のドラゴンは倒された
闇の水晶のおかげで 君はジャックの力を超えた

ジャックは滅ぼされたツヴァンケで仁王立ちしていた
深呼吸しながら 死の匂いの中で心を探していた
いくら探しても見つからないので 諦めてしまった
心を失くした彼は 殺戮のみの機械と成り果ててしまった

ジャックを探して君は旅を続けた
行く先々で 強力なドラゴンを溶かし 経験は積まれていった
見たこともない数字が君の視界の左下に映っていた
まだ足りない まだ足りない と君は手をかざした

Lv.40

ジャックは見つかった ツヴァンケの廃墟の上で
君は叫んだ「ジャック!ようやくお前を見つけたぞ!」
君の仲間は憐れみと恐怖の目で 君を見つめていた
君は大きく変わってしまった 心を落としたかのように

ジャックは笑った「お前 また来たのか」
君は戸惑った「おい また来たってのはどういうことだ?」
「俺もお前と同じような身の上らしい 再び出会うとは」
君はジャックの言葉で少しだけ理解した「お前も覚えているのか」

ジャックは君にクレイモアを振りかざした
君の右手はクレイモアを溶かした
ジャックは笑い「やはりな!お前は俺と同じだ!」と叫んだ
君は左手でジャックの黒い兜を砕いた

「お前は誰なんだよ」君は戸惑いながら聞いた
「俺は お前と一緒だ いや 正確には違うが」ジャックは答えた
「はぐらかすな すぐにでも殺せるんだぞ」と君は叫んだ
「やれよ 早く」ジャックは目を見開いて答えた

Lv.41

君の背中に激痛が走った
サーラの持っていた君の剣が 突き刺さっていた
内臓が飛び出し 血は噴き出た
君は振り返り「何故?」とだけ聞いた

サーラは泣いていた
「ごめんなさい あなたを見てられない」
ネーロとクロードを見た
ネーロは銃を クロードは弓を 君に向けていた

ジャックは笑った「闇の水晶があってもお前の負けだ」
しかし 君を貫いた剣は ジャックの心臓も貫いていた
「お前と俺は同じなんだよ 意味がわからねえか?」ジャックは血を吐いた
君は戸惑っていた 何故サーラが自分を殺すのかわからなかった

ミラは叫んだ「何故? ジャックを殺すんじゃないの?」
サーラは言った「彼を見てられない 放ってはおけない」
闇の水晶は君の懐から転がり落ちた 地面にぶつかると砕けた
君は呼吸が出来なくなるまで ジャックと見つめ合うことしか出来なかった

Lv.42

ゲームオーバー
セーブ中
ロード中
システムエラー

君は森の中で目覚めた
霞む視界の中で辺りを見回した
(ここはどこだろう?
 何をしていたんだろう?)と心の中で呟いた

痩せこけ 腹が減り 死にそうだ
目の前に巨大な黒い影が現れた
君は笑った 彼が戸惑う顔を面白がった
這って近寄り 彼の鼻を撫でた

黒いドラゴンは洞穴へと君を連れて帰った
餌をやり 太らせて食うつもりだった
君はヴァランという名前を覚えた
ヴァランは 君のことを「我が子」と呼んだ

Lv.43

ジャックは元気良く起き上がると
母親に向かって言った
「今日は村の女の子と狩りに行くんだ!」
母親は嬉しそうに答えた「そう ならご馳走を用意しなきゃね」

サーラが来る地点へと慣れた足取りで向かった
狼のドラゴンを殺し 水晶を取り出した
「慣れているのね 凄いわ」とサーラが言った
「君から教えてもらったからね!」とジャックは元気良く答えた

家に戻るとご馳走が待っていた
ジャックとサーラは美味しそうに食べ切った
「そろそろ旅をするの?」母親は少し寂しそうに聞いた
「うん 俺は父さんと同じように冒険するんだ!」とジャックは答えた

サーラと剣を作り ありったけの準備をして街へと向かった
奴隷商人が牛耳る街で 奴隷たちを解放した
ネーロはジャックらによって取り押さえられた
檻の中にいたクロードも助け出された

軍に引き渡そうかと考えたがやめた
ジャックは「仲間にならないか?」と聞いた
「お 俺を見逃すってのか?」ネーロは驚いた
「いいえ 私たちに協力してもらうの 取引だよ」サーラは笑いながら答えた

ジャック サーラ ネーロ クロードの4人は仲間になった
それぞれの得意な武器で 様々なドラゴンを倒した
成長していく彼らを ネーロの傭兵仲間たちも認めた
彼らの協力で 様々な依頼をこなしていった

Lv.44

ヴァランは戸惑い続けていた
幼い君に何を与えても 何も興味を示さなかった
木のおもちゃ 林檎 何もかも叩き潰してしまう
そんなある日 ツヴァンケの兵どもが洞穴を襲撃した

君は ヴァランが兵どもを返り討ちにするのを見ながら
手を叩いて喜んだ ヴァランは思いついた
この子に必要なもの それは殺戮ではないか?と
そこから殺戮の旅が始まり 村や街や国の人々を殺した

君は喜んだ 血を見ると何故か笑いが込み上げた
痛みに歪む顔を見ると 自分が肯定されているようだった
暗く沈んだ瞳の中で 君は他の人とは違う世界を見ていた
ヴァランの悪名は轟き 人々を恐怖させた

君は洞穴の中でヴァランの口元に寄って行った
もう食う気にもならない我が子を ヴァランは優しく包み込んだ
歯をいじる君に ヴァランは一本抜いて差し出した
「これがお前を守ってくれるだろう」歯はクレイモアに加工された

Lv.45

ジャックは不思議な噂を聞いた
黒い巨大なドラゴンに育てられた剣士の噂だ
いずれ出会うであろう強敵に胸を躍らせた
サーラはそんなジャックを心配しながら 協力しようと決めた

ジャックの剣は鋭く 凶暴なドラゴンも貫いた
サーラの魔法は応用が効き 怪我人さえ治した
ネーロは自家製の銃でジャックを援護した
クロードの弓は針の穴を射抜くほど正確だった

街の人々は彼らを英雄視し始めていた
そしてツヴァンケと並ぶ大国《ルイモシス》は彼らを脅威と考えた
ツヴァンケに近いルイモシスは 同盟を組むことで難を逃れていたが
実際にはいつ戦争が起きてもおかしくなかった

ジャックらをつけ狙う殺し屋が増えた
街から離れて 一行は隣国に移り住んだ
ルイモシスの殺し屋たちは 彼らを監視しながら機会を待った
ジャックは依頼をこなしつつ 力を付けていった

Lv.46

君は少年になった 好奇心旺盛だ
しかし ずっと頭に引っかかっていることがあった
殺戮を見て得られる喜びの奥に 少女の泣き顔が見える
その幻覚に悩まされ 少年はヴァランの元を離れることにした

ヴァランは少年の変化に気付いていたが
好きなようにやらせるために黙って見送った
君は巡回中のツヴァンケ人に見つかった
逃げられたが 空腹をどうしたら良いのかわからなかった

森に逃げ込み ドラゴンを狩りながら空腹を誤魔化し
数日後 フラフラになりつつたどり着いたのは湖のほとりだった
喉が渇いていた君は一目散に駆けて行き 水を飲んだ
顔を上げると 男の死体を抱きながら泣いている女を見つけた

「どうしたの?」君は聞いた
「あら? こんなところに 迷子かしら?」涙を拭きながら女は言った
「ううん 僕は旅をしてるんだ」君は答えた
「そう なら私の家に寄って行きなさい 散らかっているけれど」女は立ち上がった

ミラは君と過ごしているうちに ロイへの想いが霞んでいくことに気がついた
君を守る対象として見続けた影響だろう さまざまな魔法を教えてくれた
花のドラゴンたちと遊ぶ間は 本当の母親のような眼差しで見守った
ミラと過ごしていくうちに 君の殺戮への欲求はなくなっていった

Lv.47

ルイシモスの殺し屋たちは ジャックの前に立ちはだかると叫んだ
「お前らの首に大金がかけられていると知っているか?」
ジャックはにやけながら言った「人気者は辛いね」
サーラは魔法を唱えた ネーロは銃を構えた クロードは弓矢を抜いた

殺し屋たちは10人ほどだった 黒い仮面を付け 動きやすい服を着ている
全て黒いが髪の毛は赤茶で それが暗闇で素早く移動した
ジャックらを取り囲むように別れ ジャックは掛け声で背中を預けた
サーラとネーロとクロードは返事をしながら 反撃する構えをした

1人目がネーロの目の前に現れた 短剣を避けながら 一発で仕留めた
2人目はクロードを狙った 近接用の毒矢で喉元を突き刺した
3人目はサーラを襲った しかし魔法で身動きが取れなくなり そのまま気絶した
4人目はジャックに短剣を投げた それを掴み 投げ返して頭に刺した

5人目はネーロとクロードを同時に狙った
攻撃を回避しつつ 連携して相手を倒した
6人目と7人目はサーラを狙った
魔法で旋風を巻き起こし 宙に舞ったところをジャックが切り倒した

8人目はサーラとネーロを狙って短剣を投げた
バリアでそれは弾かれ 銃弾と炎の魔法で返り討ちにされた
9人目と10人目はジャックとクロードを狙った
クロードが放った矢にジャックの剣が衝撃波を乗せ 食らった相手は倒れた

Lv.48

君は漆黒の鎧を身に着けることなく 優しく育っていった
青年になる頃 ミラは君に新品の服を買い与えた
革で出来た上質な服だった ロイが着ていたものと似ていた
君は その服を着た自分の姿を湖に映して喜んだ

花のドラゴンたちは君が鍛えている時に周りを飛び回った
君の身体は筋肉をつけ クレイモアを容易に振れるようになった
ヴァランの元を離れてもクレイモアが忘れられず
数年前 取りに帰ったのだった

ヴァランは死んでいなかった我が子にもう一度会えたことを喜んだ
そして その顔を見つめて悟った
(私の役目は これでもう終わりだな)ヴァランは小さく微笑んだ
君はそれに気付くことなく「また来るよ」とだけ言ってクレイモアを持って去った

ミラは帰ってきた君に驚いた顔で聞いた
「それは何? 武器かしら?」君は笑って「そうだよ そうとしか見えないでしょう」と言った
それから君は 争いから程遠い地で身体を鍛え続けた
君は 水晶のドラゴンを一人で倒せるほどに強くなっていた

Lv.49

暗闇から拍手が聞こえてきた
「あなた方の戦い方は見事なものです」
白いスーツに 白いシルクハットの怪しげな男は
ジャックらの戦闘を初めから傍観していた

「ぜひ我が国に招待したい うってつけの仕事を紹介しましょう」
彼はシャルルと名乗った ジャックは警戒した
「お前 ルイシモスの奴だろ」ジャックが聞くとシャルルは笑った
「そうです 殺し屋たちがお世話になりました」

シャルルの部下たちは殺し屋たちを素早く片付けた
剣を構えたまま ジャックはシャルルの話を聞くことにした
サーラは帰りたそうにしていた ネーロは初めから乗り気だった
クロードは眠そうにしながら 矢をいじってモジモジしていた

シャルルによれば 近いうちにツヴァンケとの戦争が起き
そうなれば兵力の他に 偵察も兼ねた人員が必要とのことだった
ジャックは何故協力しなければならないか聞いたが
答えることなく シャルルは地図を差し出した

「ここでしょう?」赤いインクでマークがしてあった
ジャックとサーラの生まれ故郷の村だ ジャックはシャルルを睨みつけた
「これが何だってんだ?」ジャックは語気を荒げた
「人質です」とだけ答えたシャルルに付いていくしか道はなかった

Lv.50

ある日 年老いた黒いドラゴンの死体が川で発見された
ツヴァンケの近くの川だった 人々は恐れた
殺戮の限りを尽くしていたドラゴンだとわかると
その首は国の広場で飾られ その日は祝日に制定された

黒いドラゴンの日 ツヴァンケ人は栄光に酔いしれた
脅威がなくなった今 戦いの火蓋が切られることになった
ルイシモスへ侵略の手を広げるために 彼らは兵を募った
大国には血を求める荒くれ者が多く その数は10万を超えた

ヴァランが死んだことを知った君は 居ても立ってもいられなかったが
ミラにそのことを打ち明けることが出来ずに日々を過ごしていた
ミラは そんな彼を見つめながら 自身の復讐心を思い出していた
ロイを殺した連中は今も幸せに暮らしている そう考えると吐き気がした

ミラは君に言った「復讐したい?」
君は答えた「ああ したいよ ヴァランは父親だ」
ミラは微笑んだ「いいわ そしたら強力な魔法が必要よね?」
君は不思議そうに言った「クレイモアでは不十分か?」

Lv.51

シャルルはルイシモスの王宮にジャックらを招いた
王は顔を見せなかったが第1王子のリュカが出迎えた
豪華な夕食を取り囲み 1日目は談笑をして過ごした
思っていたよりも気さくなリュカに ジャックは心を開いた

リュカは不思議な青年だった 赤毛の髪は長く 後ろで縛ってあった
褐色の肌にグレーの瞳 贅沢な装飾が施された服を着ていた
時折見せる物憂げな表情に 女は心惹かれることだろう
だが サーラは彼に対して警戒心を強めていた

「君は他の人とは違うね」リュカはジャックの瞳の奥を覗き込むようにして言った
「そうか? 気にしたことがなかった」ジャックは少し照れた
サーラは何故か不機嫌そうに言った「あなたが言わなくてもジャックは特別よ」
リュカはそんなサーラに言った「そう 彼は特別だ 君が一番良く知っているね」

ジャックはリュカが離席した際 サーラに何故不機嫌なのか聞いた
「だって怪しいと思わない? こんなに良くしてもらうなんて」とサーラは答えた
「それはそうだが リュカは悪い奴じゃなさそうだぞ」ジャックは呑気に答えた
「そう決めるのはまだ早いよ 私たちが来た理由を忘れないで」サーラは口を拭いた

リュカが戻ってくるとボードゲームをした
ジャックと同い年くらいの青年だ まだまだ遊び足りないのだろう
ネーロは「眠い」と言ってソファで眠った
ジャックとサーラとクロードは リュカの遊びに付き合ってやった

Lv.52

闇の水晶が眠る洞窟にはミラも着いてきた
君は反対していたが「見くびらないで」と言われてしまった
ミラに何かあったら申し訳ないと思い
君は気合を入れて洞窟の中に入って行った

初めて来る場所だ 綺麗な水晶が敷き詰められている
湖にたどり着くと 大きな水晶のドラゴンがいびきをかいて眠っている
君はミラに尋ねた「本当にこいつを殺すしかないのか?」
ミラは答えた「ええ それ以外は思いつかないわ」

君はドラゴンを殺したくなかった
醜い人間よりも ドラゴンの方が美しい生物なのではないかと思った
しかし 唯一美しいと思える人間のミラの助言には従いたい
君は ドラゴンを殺さずに闇の魔法の水晶を手に入れる方法を考えた

それは単純だった ドラゴンを起こさなければ良い
君は冷たい湖を平泳ぎして奥へと向かった
闇の水晶は台座に置いてあり 手に取ると無限の力を感じた
恐ろしくなったが 君はそれを袋に入れて引き返した

台座が沈んだ 轟音が鳴り響いた
ミラは叫んだ「ドラゴンが起きるわ!早く!」
君はひたすらに泳ぎ やっとのことでミラの元に駆け寄った
「さあ 逃げるわよ!」ミラは足が早くなり疲れない魔法をかけた

空のドラゴンに捕まり 洞窟から首だけを出した水晶のドラゴンを見下ろし
ミラは笑った 「無茶するわね まったく」
君は笑い返した「これで良かったよ 殺してはダメだ」
ミラは不思議そうな顔をしていたが 君は満足そうに風に吹かれ 闇の水晶を眺めた

Lv.53

ジャックはリュカと遊んでいていつの間にか眠ってしまったらしい
シャルルが用意した毛布に包まれながら目が覚めた
「サーラ?」ジャックが大声を上げた 見回すと彼女の姿がなかった
「こっちだよ!」庭の方から小さく声が聞こえた

窓へ近寄り 庭にいるサーラを確認した
眠れずに散歩をしていたらしい
部屋に戻ってきた彼女に聞いた話だと 王宮はとてつもなく広く
気をつけて歩かないと迷ってしまうらしい

ジャックはネーロとクロードを起こした
リュカは騒がしい彼らの声で起きた
「どうしたんだい? また遊ぶか?」目を擦りながらリュカは言った
「なりません 早速作戦について話し合いましょう」いつの間にか部屋にシャルルが座っていた

音もなかった ジャックらは一人もシャルルの気配に気が付かなかった
ジャックは少しだけ冷や汗をかいたが危害を加えられるわけではないので心臓を落ち着かせた
「こちらです」シャルルの案内について行くと なるほど 広くて迷いそうだった
ジャックは油断しないように仲間に注意した ネーロとクロードは眠そうだった

Lv.54

ミラの家に戻ると 君は闇の水晶を机の上に置いた
何故か この水晶を使ってはならない と思った
ミラは君に尋ねた「何故迷うの?」
君は答えた「これを使うと 良くない未来になりそうだ」

結局 闇の水晶はミラの家の倉庫の中にしまった
鍵をかけられる箱の中で 闇の水晶は再び眠りについた
「久々にピクニックをしよう」君の提案でミラはオードブルを作った
花のドラゴンが賑やかな湖で 2人は楽しいひと時を過ごした

夕暮れ時 ミラに聞いた
「これからどうすれば良い?」
ミラは悩みながら 言葉を選びつつ答えた
「復讐の道か あなた自身の幸せのための道か かしら?」

湖で水のドラゴンが跳ねた オレンジ色の太陽の光が散乱した
君はこの世にこんなに綺麗な景色があるのかと思った
木々はささやかに揺れ 花のドラゴンたちはでんぐり返しをした
雲1つない そんな一日の終わり ミラと二人きり

君は言った「ここで暮らそう」
ミラは君と同じ景色を見ながら聞いた「ずっと? 何もせず?」
「そうだよ ここには全て揃ってるじゃないか
 過去はもう捨てよう ここで静かに二人でいよう」

ミラは泣いていた 君は彼女の泣く理由がわからなかった
笑って涙を拭いて ミラは言った「嬉しいの 悲しいからじゃない」
君はミラを抱き寄せた ミラの涙が温かく服を濡らした
全てから遠ざかる生活 それが1番良いと 君は思っていた

Lv.55

ルイシモスの王は白髪で髭を生やし 頭には布を巻いていた
厳格そうな顔に似合わず物腰は柔らかく ジャックらに料理を用意させた
「私たちには大きな誤解があった それを解くことから始めよう」
王はそう言うと ジャックらに豪華な装備を与えた

リュカも座り 料理を頬張った
どこまでも無邪気そうに振る舞う彼に サーラは苛立ちを覚えた
ジャックは「君は毎日こんなものを食べているのか?」と聞いた
リュカは「いや いつも質素なものだよ 今日は特別だ!」と答えた

ツヴァンケとの戦争がいつ起こるかわからないこと
ジャックらはツヴァンケに潜入し 信頼を得て奇襲に備えて欲しいこと
それが無理なら ルイシモスの軍に入り 新兵と共に戦って欲しいこと
全ての要求を拒否するのであれば 故郷の村を焼き払うことを伝えられた

ジャックらは穏やかに話す王が心底恐ろしかった
半強制的に協力させられる形となり ジャックは選択を迫られた
ツヴァンケに潜入することはリスクが高すぎると思い 新兵と共に戦うと伝えた
王は少し不服そうにしたが それを受け入れた

サーラは「でも何故私たちが必要なのでしょうか?」と聞いた
王は答えた「君らは戦力になる それだけのことだよ」
ネーロが言った「俺たちは物じゃないんだぜ? 金で買えない」
クロードはネーロに続いた「僕らが協力しなきゃなら理由を教えてください」

王は答えた「私だって無理を言いたいわけではない
 村を焼き払うのは心が痛む しかしそう言わなければ君らは協力しない
 君らを引き入れることで未来が変わると 時のドラゴンに聞いた
 あのドラゴンは 私の祖先が代々受け継いだ文化なんだ

 時のドラゴンの言うことは絶対だ
 君らを殺し屋に襲わせたことは謝罪しよう 命を出した後に知ったのだ
 君らがいなければルイシモスは滅ぼされてしまう
 ジャック サーラ ネーロ クロード 頼む 私たちの国を助けてやって欲しい」

深く頭を下げた王にジャックは反論することが出来なかった
サーラは黙ったまま 不満そうな顔で食事をした
ネーロは酒を飲み「まあ そう言うなら報酬は弾んでもらうぜ?」と言った
クロードは周りの顔色を伺いながら 葡萄のジュースを飲み干した

Lv.56

ミラは毎晩 ロイが死ぬ夢を見た
最期の微かな呼吸の その一瞬までを克明に映し出した
花のドラゴンの些細な動きも ひんやりとしたその日の気温も
目を覚ますと ミラはいつも落ち込んだ

君は読書をしながら「おはよう」と言った
ミラはそれに返事をしながらキッチンに向かった
湯を沸かしてコーヒーを淹れた
君とミラのコップがテーブルの上に並んだ

戦いから離れた君の暮らしは穏やかに経過していった
君は以前の記憶を取り戻しつつあり 自分がどういう人間だったのか知った
全てを溶かし 壊した あの恐ろしい黒い鎧の戦士になってしまった
それならば 君が殺戮をしなければ平和なのではないかと考えた

ミラは闇の水晶が入った倉庫を眺めた
復讐心の火は完全に消えることはなかった
しかし 君に言うことが出来なかった
彼女は君のことを何よりも大切に思っていた

ミラは次の日に出て行った 書き置きには君への謝罪が書いてあった
君はミラを探し回った 何が目的か見当がついたが 今どこにいるのかはわからなかった
倉庫には鍵が開いた状態の空箱が残されていた
君は自分の無力さに打ちひしがれて過ごした

数日後 君は再び鎧を着た
ツヴァンケで待っていれば ミラが来るだろうと考えた
ミラは遠く離れた地で あらゆる文献を読み漁った
強力な魔法と厳選した杖を入手した 闇の水晶は懐に仕舞っていた

Lv.57

リュカは剣の達人だった
何度手合わせしてもジャックは勝てなかった
他の新兵たちも同様だ 息も絶え絶えに這いつくばっている
ジャックは何度も挑んだ 悔しかったからだ

「君は筋が良いけど 動きが重たい
 その剣には似合わない太刀筋だよ」リュカはアドバイスをした
「なるほどな ありがとう」 ジャックは笑った
両肩の力を抜き 構えることをやめた

右手に持った木製の剣は風を切ってヒュンヒュンと音を立てた
ジャックはリュカを誘った しかし警戒してなかなか攻めて来なかった
「早く来いよ 僕はいつでも良い」ジャックは言った
「わかった 行くよ」リュカも微笑んだ

リュカは素早く下段から振り上げた ジャックは回転させた剣で軽々と防いだ
手がジンジンとする 流石に一振りの重さはリュカが上だ
ジャックは背中を見せた リュカは油断して振り上げたままの剣を大きく振り戻し
背中に向けて切りかかった しかし刃は届かなかった

ジャックは半転し リュカのこめかみのあたりへ剣を振った
見事に命中した木製の剣で リュカの目蓋がぱっくりと割れた
血が目に入ってリュカは倒れ込んだ 痛みに耐えながらジャックを見た
ジャックは剣をリュカに突きつけていた

「凄いね もう覚えたのか」リュカは感心した
アドバイスがなければジャックは勝てなかっただろう
リュカは笑った「君が味方で良かった」
ジャックは答えた「もし敵だったら 僕も君と戦いたくないよ」

Lv.58

小国の残党狩りは生き残りを探し続けていた
ツヴァンケは徹底的に絶滅させるための行動を起こした
それほどまでにミラの母国は恐れられていた
ツヴァンケの城にいる 時のドラゴンの娘 エルゼはこう伝えた

「我が国はミラによって破滅に向かう
 ルイシモスも脅威だが まずはミラを殺さなければならない
 彼女は闇の魔法を使いこなし始めている
 闇の魔法に対抗するには光の水晶がいる」

ツヴァンケ軍の兵士であるテオは ミラを探す旅に出た
他に何も出来なかったからだ 厄介払いに国の命運が託された
テオは周辺の街や村に出向き情報を集めたが
滅ぼされた小国の王女の情報など誰も持っていなかった

テオのみに責任を押し付けて残党狩りは解散した
エルゼは彼ならミラを探し出すと言っていた
テオは自分にそんな能力があるわけないと思いつつ
反抗する気も起こらないので従った

テオは絶望していた この広い大陸でどこから始めれば良いのだろう
情報も協力する者もなく ただ時だけが過ぎた
ツヴァンケを出てからどれだけ歩いただろうか
彼は 森の中で花のドラゴンが住む湖を見つけた

(なんて美しいのだろう)そう思いながら佇んでいると
「お前 もしかしてツヴァンケの兵士か?」と男に尋ねられた
気配もなく 突然後ろに立たれたテオは仰天した
君は クレイモアを携えてテオを睨みつけていた

Lv.59

ジャックはツヴァンケの兵士と対峙していた
リュカはその隣で「何もするなよ」と言った
ルイシモスの兵士たちはただ怯えているだけだった
ジャックは怒っていた 目の前に敵が居るのに動けなかった

5日前 戦争が始まった
ルイシモスはツヴァンケからの攻撃を受け すぐさま動いた
しかしドラゴンの群れはルイシモスをあっという間に火で包んだ
ルイシモスのドラゴンたちがいなかったのはスパイの仕業だ

シャルルはツヴァンケに情報を売った
軍用ドラゴンの数 火力 群れのボスなどが知られた
雇われた者がドラゴンの餌に魔法をかけた
感染力の強い病気は 指定の範囲だけで広まった

ルイシモスは混乱していた ドラゴンが次々死んでいった
ジャックはリュカと原因を探り 裏切り者がシャルルだと知った
小さな頃からリュカはシャルルと親しかった
執事のように従順だったペテン師は リュカに言い放った

「あなたは都合の良い駒です そのジャックとやらにとっても
 ルイシモスはもう終わりです 私が手に入れます
 焦土と化した後に 私が礎を築きます
 そこに聳え立つのは 私の賭けの結果に支払われる対価です」

シャルルは逃げ切った ジャックとリュカでは敵わなかった
強さだけでは勝負に勝てないことをジャックは思い知った
ツヴァンケはルイシモスを喰らうライオンになった
ジャックらはルイシモスというピザの上に乗ったチーズだった

Lv.60

君はテオとミラを探すことにした
彼女が何をしでかすか わからなかった
ツヴァンケの兵だが テオは警戒するほどの人物ではない
クレイモアは一旦仕舞い 無駄な争いを避けて協力する方が使えるだろう

テオは言った「エルゼ様に これで良いのか訊かないと」
君は言った「そのエルゼってのは恋人か?」
テオは頭をブンブンと振った「いえ 彼女は時のドラゴンの娘で
 ツヴァンケ城で王子に数学を教えております 美しい女性です」

「ほお 時のドラゴンか」君はどこかで聞いたことがあると思った
テオは君の顔色を伺いながら言った「何から始めますか?」
君とテオはミラの家で情報をまとめた
テオがミラの命を狙う立場だということはわかっていた

君がそばに居れば テオがミラに攻撃を仕掛けることもないだろう
もし仕掛けたとしたら クレイモアが捻り潰すだろう
何はともあれ ミラが行きそうなところを地図で探したが
真っ先に思い浮かんだのは ツヴァンケだった

君は支度をした テオは戸惑っていた
「ここまで来たのに収穫もなしで帰国するなんて」と話したが
君は無視をして準備を整えると旅を開始した
テオは仕方がないので 君に着いて行くことに決めた

本来なら 敵同士であるはずの二人
何故かお互いに憎めないと感じていた
君の優しさや はたまた 図々しさだろうか
テオは 君と初対面でない感覚を抱いていた

Lv.61

ジャックは崩壊したルイシモスの王宮の中で
今にも息絶えそうなリュカを抱きかかえていた
サーラはジャックの背中に寄り添って 座っていた
ネーロはジャックたちを救うために 敵を道連れにして死んだ

クロードは危険を知らせるためにジャックとサーラの故郷の村へと走った
しかし 途中でツヴァンケの兵士に捕まってしまった
捕虜となったが死を選ぶことにした クロードは崩れた家の壁を鮮血で彩り
その小さな身体に空いた穴から抜けていく魂が 天へと昇って 消えた

リュカはジャックをまっすぐ見つめた
もう気力がなく 焦点は合わない
ジャックはサーラに聞いた「もう 何も効かないのか?」
サーラは答えた「ええ やれることをやったけど もう」

ジャックはリュカに語りかけた
「君は立派だった 戦いに勝った そうだろう?」
リュカは力無く笑った 唇が震えていた
「負けたよ わかってる ありがとう 気休めは要らないよ

 寒い ジャック 君と一緒に戦えて良かった
 暗い 見えない どこにいるんだ?
 サーラ ジャックを守ってくれ その傷を癒してくれ
 君たちは まだ 大丈夫 まだ 終わっちゃいない」

リュカは死んだ ジャックの悲しみは怒りと憎しみへと変わった
サーラはその音を聞いた ジャックの中で何かが弾け飛んだ
サーラはある魔法をかけた ジャックは眠くなった
リュカの隣にジャックが倒れた 残されたサーラは王宮から出て行った

Lv.62

ミラの遺体はシャルルによって解体された
闇の水晶は力を吸い取り ミラの身体を涸らした
恐れ慄き ミラに跪いて忠誠を誓い 命乞いをしていたシャルルは
得意そうにミラの遺体に蹴りを入れた

「お前なんかが この水晶を扱えるわけがないでしょう
 私は選ばれた 闇の水晶よ 答えなさい」
青空に雲がかかり 雲は紫色の霧を発生させた
雷と雨が森をかき混ぜ ミラの遺体はバラバラに吹き飛んだ

そこへ テオと一緒に 君が辿り着いた
ミラの頭を持つ狂人を視界に入れると 君は力一杯叫んだ
「ちょっと 待ってください! 落ち着いて!」
テオの静止を振り切り 君はクレイモアでシャルルに切り掛かった

シャルルの身体は真っ2つに切れたが 闇の水晶の力でくっ付いた
ニヤけた面はもはや紳士的なものから怪物へと変わっていた
闇の水晶の力が強すぎて それに負けてしまうと人間は壊れてしまうらしい
君は泣いた 泣き叫んだ ミラの名を何度も呼んだ 取り返した頭を抱きしめながら

テオはこの狂った状況に驚きつつ 唯一冷静に物事を考えていた
この状況 シャルルは敵でなく味方であり 君が唯一の敵であるという結論に辿り着いた
ミラは死んだ 自分の任務は達成された
しかし テオはどうしても 無駄と分かっていても 君に力を貸したくなっていた

テオは誰にも見せたことがなかった魔法を唱え始めた
君はシャルルに切り掛かるが シャルルは空中をバラバラになりつつ嘲笑っていた
このままでは勝てない 闇の水晶に君が負けてしまう
テオが魔法を唱え終わると 辺り一面が真っ白になった

Lv.63

「ジャック? お前なのか?
 その姿は 前の僕じゃないか」
「そうだよ 君と入れ替わったらしい
 俺は少年として旅した そしてサーラに裏切られた」

「サーラに? どういうこと?
 サーラはいつも優しかったのに」
「おそらく 君と変わっていたのがバレたのかもな
 俺はジャック 君を殺した そして彼女も」

「ああ そうだよ でも
 今となっちゃ ジャックの気持ちがわかる気もするんだ」
「そうか? お人好しだな 君は
 全く どうしたら君のようにおめでたくなれるのだろう」

「ジャック! お前だってお人好しじゃないか
 こうして目の前に立っているのに 殺さない」
「ああ 殺せそうにないだけだ 今の俺じゃな
 だって見てみろ こんな細い剣しか持てない」

「僕は このクレイモアを持っている
 お前が持っていた 恐ろしい武器を持っている」
「そうだ 君は恐ろしい 今の俺にとってはな
 殺せ 早く もう時間が残されていない」

「なんだって? 殺すつもりはない
 いくらお前を憎んだって 今はもう」
「違うんだ 俺はもう死ななければいけない
 でないと 君がこの世界から抜けられなくなる」

「え? この世界から?
 ジャック 詳しく教えてくれよ」
「いや 時間がないんだ
 ごめんよ 早くそのクレイモアで」

「時は動き始めた 運命を受け入れろ」
ジャックでも君でもない声が頭の中で鳴り響いた
ジャックは何もかも諦めたような顔をして 優しく微笑んだ
君は その涙の意味がわからなかった 世界は戻ってきた

Lv.64

「このくだらないゲームを終わらせるぞ!」とシャルルが言い放った
闇の水晶を身体に取り込んで怪物と化した彼は
全長10メートルに膨れ上がった巨体を震わせた
口からひっくり返したドラゴンのように見えた 内臓のドラゴンだ

テオが叫んだ「二人とも!しっかり!
 あいつを倒すために エルゼ様も協力してくださってます!
 そのクレイモアと その剣を 私たちと共に!」
君はジャックを見た ジャックは君を見た

時のドラゴンの声がした 君とジャックは我に帰った
「運命はもう動き始めたぞ 早く起きろ お前らが決めろ」
「シャルル!」ジャックは怪物に叫んだ 君の知らない怪物に
「ああ そうか 説明は後だ あいつを倒すぞ」ジャックは君に囁いた

時間が止まった エルゼの声が響いた
「お父様 ありがとう 力を貸してくれて」
「良いんだ ツヴァンケのためではない 君のために」
時計の魔法陣がジャックと君の目の前に現れた

カウントダウンが始まった 時計の針が0に到達するまでにシャルルを攻撃しなければ
ジャックは止まった時の中で走り出した 君もそれに続いた
振り絞る力と勇気とその魔法で 戸惑いと成長と苦い経験で
剣を振り上げた 怪物に力を叩きつけた

しかし その皮膚はブヨブヨと切りずらく
刃が滑り そのまま時は動き始めてしまった
魔法陣が消えた瞬間 怪物シャルルの皮膚が歪み 尖り 無数の触手は意志を持ち
ジャックと君に襲いかかった

一瞬のことであった テオは二人の前に立った
身を挺して二人を守った テオの身体には数え切れないほどの穴が空いた
突き破った触手たちは柔らかさを取り戻し テオの養分を吸収した
シャルルはテオを吸い尽くした 魔力はさらに膨れ上がった

闇の水晶はシャルルの心臓を核とした
それを壊さなければ シャルルを止めることは出来ない
ジャックは 美しい金色の髪を靡かせ 円な瞳でシャルルを睨んだ
君は 漆黒の鎧の中 恐怖と高揚感を抱きつつ 鋭くシャルルを眺めた

Lv.65

君はジャックに言った
「もう終わりにしよう お前との物語も 僕の物語も」
ジャックは君に言った
「終わらないよ これは永遠に続く けれど

 俺はきっと 君を忘れるだろう
 次に会う時には もう君を認識出来ないだろう
 それで良い 君は選ぶと良い
 純粋無垢な少年か 暗黒の戦士か」

君はシャルルを切り刻んだ ジャックはその周りを旋回して
魔法で肉片どもを燃やし尽くした
闇の水晶が見えてきた シャルルの声はもうしなかった
綺麗な水晶だ 中には絶滅していく人間とドラゴンの争いが見えた

君はクレイモアを振り上げた
闇の水晶は粉々に砕けた 小さな破片が辺りに散らばった
君の目にその1つが入ると 闇の水晶の記憶がなだれ込んできた
君は割れるほど痛む頭を抱えながら シャルルを倒し切った

Lv.66

サーラは? どこに消えてしまったのだろう
君とジャックにはもう見つからないだろう
故郷の村に戻ったところで サーラは来ない
彼女は もう誰とも関わりたくないと思っていた

君とジャックがシャルルと戦っている間に
テオが放った 時空を歪ませる魔法が 空を伝った
その時 荒廃したルイシモスを当てもなく彷徨うサーラに
時のドラゴンの幻影が話しかけたのだった

「どこに行くんだ 娘よ」
サーラは涙を堪えながら 言った
「ジャックは 私の知っている彼ではない気がしたわ
 あの人たちと一緒にいると 常に死の臭いがするの

 彼はどこにいるのでしょう 私が一度 殺してしまった彼は
 あまり覚えていないけれど 私が一緒に旅した彼は
 どこに消え去ってしまったのでしょう
 もう一度会いたい やり直したい そう思っています」

時のドラゴンは答えた
「サーラよ 君のことはずっと見ていた
 過去も未来も見させてもらった
 君が追い求める 彼 は今もこの世界にいる

 しかし 君の知っている姿ではない
 今の姿は漆黒の戦士 シャルルと戦い続けている
 ジャックと一緒にな 君はそこに戻りたいか?」
サーラは俯きながら 首を横に振った

「それならば 君はもう忘れなさい
 もう二度と 彼とジャックに会わない道を選びなさい
 恐らく また繰り返されるだろう
 君の記憶は きっとこれまでよりもしっかりと残るだろう

 君はこの物語から逃れなさい
 死を自ら選んで 生を自ら導きなさい
 さようなら サーラ 君のことは私が忘れない
 彼とジャックは 君のことを忘れてしまうかも知れないが」

サーラは笑って ありがとう と言った
時のドラゴンの幻影は消えた
遠くで激しく戦い続ける男たちの音が聞こえた
彼とジャックの顔は その音が遠ざかるたびに薄れていった

Lv.67

闇の水晶が壊れると 君の目的は終わったように思えた
ジャックは仲間達の亡骸を埋めて 故郷の村に帰っていった
君はミラの家へと向かった 誰にも見られることのないように歩いた
相変わらず 花のドラゴンの住む湖は美しかった

君はミラの思い出に耽った
手を伸ばせばその顔に触れることが出来そうだった
ミラは言った「幸せだわ だって ロイが居るもの」
ロイは言った「もう心配しなくて良い 君は君の人生を生きなさい」

君は目が覚めた 静まり返る 冷ややかな部屋の中で
ソファは深く沈んで 足が床にめり込んでいた
目を擦った クレイモアを抱えた
そして君は かつてヴァランが住んでいた洞窟に帰ろうと決めた

ヴァランの首以外の死体はどこかで朽ち果てたかと思っていたが
洞窟の中へ運ばれた後に結晶化し 美しい光を放っていた
君はヴァランの方へ手を伸ばした
「どうしてこんなことになっちゃったんだろうね」と囁きながら

Lv.68

数十年の時が流れた
君は老人になり ジャックは中年になった
クレイモアは振れないので置いたままだ
洞窟の中で 物好きな悪ガキに魔法を教えていた

偉大なミラ 彼女の本は役に立った
邪悪なドラゴンの息子として轟かせた悪名は
魔法好きの奇怪な爺さんとなった
君はそんな時間を楽しく過ごした

それでも 死は一歩ずつ 近づいていた
そんなある日 ジャックが洞窟にやって来た
「話したいことがある」と真剣な顔をしていた
なんでも 知っていることを話してくれるそうだ

君は テーブルと椅子を用意した
ボロボロで埃だらけだったので ジャックは咳き込んだ
ニヤリと笑いながら 怪しいスープをすすめた
ジャックも笑って 丁重に断った

Lv.69

「時のドラゴンに全て聞いて来たんだ
 俺と君は 一心同体の存在になってしまったらしい
 そして 君が死ぬと また世界が新しく生まれ変わり
 今の姿か この姿になる

 今の姿 邪悪な龍 ヴァランに育てられた悪名高い戦士
 この姿 田舎の村で育った 世間知らずの少年だった男
 一度 俺と君は入れ替わってしまった システムがエラーを起こしたとかなんとか
 俺には意味がわからない 君にはわかるか?」

ジャックの質問に 君は答えられなかった
わかるような気がしたのだが 重要なことを忘れてしまっていた
どこから来たのだろう? 元々自分は誰だったのだろう?
君はジャックに「さあな」とだけ答えた

「そうか それならば仕方がない
 ただ 君が死んだ後 再び今の姿になるかわからないんだ
 もっと言うと 誰になるかがわからない
 君はそれを選べない 俺もそれは同じらしい

 君と俺が入れ替わることも ここまで話せたことも これまでなかったそうだ
 生まれ変わるたびに殺し合う運命で 2人とも以前のことを忘れていた
 システムエラーのせいで 君の存在に変化が起きた
 記憶は引き継がれ 君が闇の戦士となり 俺は革命を起こす少年になった

 もし 次の世界が存在するとしても
 俺はこれまでの記憶を忘れてしまうだろう
 君が誰になろうと 君を見て君と気が付けないままになる
 だが 俺はいつでもジャックであり 君の敵として存在する

 シャルルがいたことでこの世界では君との争いが起こらなかった
 これまでは俺も多少覚えていられたんだがな
 時のドラゴンは 次のリセットで俺の運命は定まるが
 君のループは途切れることがなくなると言っていた

 それがどういうことか 簡単に言えば 君は永遠に生き続け 死ぬ
 繰り返すんだ この世界の出来事を
 辛いだろうが どうすることも出来ない
 そして 俺 いや ジャックは いつも君の敵になる」

Lv.70

数日後 君は死んだ そして起きた
森の中 ヴァランと出会った
食い殺された ヴァランは君を太らせて
塩をかけて石のドラゴンと混ぜて平らげた

君は死んだ そして起きた
森の中 ヴァランに見つからないように逃げた
這って進むにはあまりにも遅く
歩いている山のドラゴンに踏み潰された

君は死んだ そして起きた
全て諦めてヴァランに微笑みかけた
ヴァランは君を洞窟へ連れ帰ったが
待ち伏せしていたツヴァンケの兵士たちに殺された

君は死んだ そして起きた
なんとか青年になった クレイモアで訓練していた
その途中 重さで後ろへ倒れた
石に頭をぶつけた 当たりどころが悪かった

Lv.71

君は死んだ そして起きた
何故か足が動かなかった 君はそのまま成長した
ヴァランの頭脳となり 悪事を働いた
成長したジャックに切り殺された 小悪党のまま

君は死んだ そして起きた
君は死んだ そして起きた
君は死んだ そして起きた
君は死んだ そして起きた

君は死んだ そして起きた
何十回 何千回 何万回 何億回 繰り返した
全てうまくいかなかった
ジャックは何度も初対面の君を殺した

君は死んだ そして起きた
ジャックはその度に強さを増した
君は死んだ そして起きた
君はその度に この世界への憎悪を募らせた

Lv.72

ジャックはクロードとネーロと共に冒険を続けていた
クロードは出会った頃の大人しい印象から
随分と垢抜けて 弓の腕も上げた
ネーロは相変わらず テキトーなことばかり言っていた

サーラはどこかに消えてしまった
シャルルとの決戦以来 この世界には居なくなった
時のドラゴンの気まぐれなのか 君にはわからなかったが
彼女が巻き込まれないのはありがたいと感じていた

ジャックらは君の前に現れた
いつものように 君の悪口ばかり並べた
今回の君は 流石に人を殺しすぎていた
ツヴァンケとルイシモスを一人で滅ぼしたのは初めてだった

君の心は疲れ切っていた 何度も巡る運命は変わらなかった
ジャックは君を敵と見なし もう二度と腹を割って話せないだろう
君は絶望の果てに やはり闇の水晶の力に縋ってしまった
闇の水晶を扱えるのは君とジャックだけだ だからこそ

ジャックは君を許さなかった
青い剣が君の黒い鎧を貫いた
闇の水晶は砕け散った 中に映っていた人々とドラゴンと共に
君は 長くなり続ける走馬灯を また見せられる羽目になった

Lv.73

君は水中を漂っているような感覚の中で
脳や精神 身体がバラバラに解かれていった
いつもよりも長い死後の世界に漂いながら
君はなんとか原型を留めているだけだった

夢の中か 定かではない 時が止まった部屋に
時のドラゴンの娘のエルゼが入ってきた
彼女は 頭に乗せた帽子を取り
顔をなぞり 魔法を解いた

その顔はサーラだった 君は彼女を呆然と見ていた
「私は2つ 役を与えられたの
 あなたは逆 役を奪い合ってしまった
 本来 あなたは私と冒険するはずだったのに」と彼女は言った

君は戸惑いながら 頬に涙が伝うのを感じていた
相変わらず ここがどこかわからなかったが
サーラが自分を認識してくれているだけで嬉しかった
何年振りの再会だろうか? 君は混乱もしていた

Lv.74

サーラは結論から言った
「君は このゲームのバクとなってしまった
 ツヴァンケや ルイシモス その他の村や街
 ジャック ミラ ネーロ クロード そしてサーラ」

そんな登場する土地や名前の中で
君だけが特殊で これまでは何度でも冒険を続けていたという
その度に記憶は薄れていき 断片的になった
その影響で サーラとの関係も少しづつ変わった

「はるか昔 レベルが42だった頃 覚えている?」
サーラは君に聞いた 君は忘れていた
「私が君とジャックを剣で殺してしまった時
 君とジャックのデータが混じり合ってしまったの

 だから本来 少年が君だったのだけど
 宿敵のジャックの身体に乗り移っていたの
 ジャックは気が付いているようだった バグを待っていたわ
 君に固執していたのは この世界が偽りだと気が付いていたからかも知れない」

Lv.75

サーラは両手をかざした
君から見て左側には 少年が
君から見て右側には 青年が
見慣れた二人が 見慣れた服装で並んだ

彼らは人形のようだった
君は どちらもジャックと呼んでいた
サーラは言った「どちらを選ぶ?
 時間はあるから ゆっくり選んで」

君はどうしようか迷った
サーラに聞いた「もし どちらか選んだとして
 何が変わるっていうの?
 僕は 君と冒険が出来るの?」

サーラは困った顔をした
「私は 記憶を完全に引き継ぐことが出来ないの
 さっきまで 私がエルゼだったことさえ知らなかった
 何か大きな 神様みたいなものの力のせいね

 それがシステムっていうものなのかも知れない
 私たちはただの駒で 望んだ方向に行くわけじゃない
 でも あなたのように記憶したまま繰り返していけば
 いつかあなたと冒険が出来るかも知れない」

Lv.76

君は すべてのものに愛着があることに気が付いた
いつも支えてくれていた サーラ
愉快な冗談ばかり教えてくれた ネーロ
臆病だったが誰より仲間思いだった クロード

圧倒的な力と強い意志を持つ宿敵 ジャック
復讐心に囚われてしまった悲しくも優しい王女 ミラ
ルイシモスで一番の使い手だった リュカ
ツヴァンケの手下でエルゼに従っていた テオ

考えられるすべてのパターンを試した
君はすべての人と仲良くし すべての人を殺した
シャルルが突然変異し 闇の水晶に飲まれたのは一度きりだったが
それ以降は 君の姿は漆黒の戦士のまま 引き継がれた

本来の姿 そして ジャックの今の姿が 少年だ
君は悩んだ どちらでも良いとも考えた
しかし ジャックはいつも君を滅ぼす立場だったので
本来 少年の役割には合わないのかも知れない

君は数日かけて考え 少年を指差した
サーラは笑った「やっぱりこっちを選んでくれたね」
「え?」君が聞き返す間も無く あたりが明るくなって目が眩んだ
目を覚ますと 見慣れた村の 見慣れた部屋のベッドで起きた

Lv.77

そう 君は木の家のベッドの上で目覚めた
あたりを見回して混乱した
君は寝ぼけながらフラフラとリビングに向かった
窓から見える景色は 自然豊かで長閑な村

視界の左下に 緑と青の線が見えた
その横に《9999999》と数字が見えた
目を擦っても取れないゴミのように
いつまで経っても それが見えていた

モンスターを見かける どれもドラゴンだ
小さなドラゴン 大きなドラゴン
水や土や草のドラゴン 空を飛ぶドラゴン
果てしなく聳え立つ山のドラゴン

君は小川についた 自分の顔を確かめた
そこには金色の長い髪の少年が映った
君は腰を抜かしてへたり込んだ
ほっとしながら 小川の対岸に目をやった

そこには血走った目のドラゴンがいた 懐かしい
君と同じくらいの大きさだ
唸り声をあげながらこちらを見た
君は 笑いかけて 手を差し出した

Lv.78

君は狼のドラゴンと友達になった
助けてくれるはずのサーラは来なかった
みんなは今頃 何をしているんだろうと考えながら
ドラゴンと一緒に旅をすることにした

ネーロとクロードが住んでいる街にいった
あの 人身売買が盛んな治安の悪い地域だ
君はネーロとすれ違った 知らないフリをした
向こうも君をチラリと見ただけで 通り過ぎた

君はクロードを助けたかった そのために一稼ぎした
酒場で簡単な依頼を数十件こなして 檻の子供たちを解放した
クロードは故郷の村へと帰った 君はそこに行ったことがない
豊かな森林に囲まれ 調合薬の研究が進んでいる村だ

二人とも 君の知らない場所でそのまま生きていった
ネーロは 傭兵仲間たちと仕事をすることにした
どこか寂れた酒屋のイザコザに巻き込まれて
ある煙草の似合う透明な空気の夜に ネーロは死んだ

Lv.79

君の周りにはドラゴンばかりが集まってきた
こんなことは初めてだった
サーラ ネーロ クロードの代わりに
数千のドラゴンが 君の力になってくれた

ジャックはというと こちらもいつもと違っていた
ミラと出会うことも 闇の水晶を取りに行くこともない
ヴァランに乗り 各地で殺戮を続けた
ミラは 花のドラゴンたちに囲まれてひっそりと生きていた

ツヴァンケは ルイシモスを滅ぼした後に
ジャックによって あっけなく焼き払われてしまった
君は 焼けたツヴァンケの跡地にドラゴンの巣を作った
そこには 城のドラゴンや 瓦礫のドラゴンが生まれた

ヴァランは何かを感じ取ったようにジャックに言った
「様子がおかしいな どうもしっくりこない」
ジャックは頬を掻きながら言った「そうか?
 俺はいつも通りだ 何の心配もなく ただ殺すだけだ」

君とジャックがなかなか交差しなかった
戦うことを避けているようだった
ジャックはヴァランと世界中に恐怖を振り撒いていった
君は ドラゴンたちと一緒に国を作ろうとしていた

Lv.80

国のドラゴンは 星のドラゴンに言った
「彼が私を生んでくれた あなた方も きっと彼が」
星のドラゴンは言い返した「いや そんなはずがない
 彼よりも前に私は存在する 星だぞ? 何億年と生きている」

国のドラゴンは言った「彼もそうだとしたら?」
星のドラゴンは眉をひそめた 「そんなわけないだろう
 彼の見た目は おそらく20代の男だろう
 そんな若造が 途方もない時を過ごせる?」

時のドラゴンは言った「おそらく私の存在のせいでしょう」
星のドラゴンはため息をついた「お前ならやりかねないな」
時のドラゴンは笑った「あなたたちと私の働きは違うでしょう
 私は人々を導きます あなたたちはその器に過ぎません」

無礼だったが 言い返す言葉がなくなった星のドラゴンが去った
それに続いて 国のドラゴンは君の元へ帰って行った
時のドラゴンは心の中で呟いた(エルゼ いや サーラ
 今どこにいるんだろうな お前が恋しいよ)

娘がこの世界から弾き出されて何年経っただろう
時のドラゴンにとってはそこまで時間は経っていない
君にとっては 何億年と過ごした孤独だ
サーラに会いたいのは 時のドラゴンだけではない

Lv.81

君はドラゴンの王になった
ジャックは人々をねじ伏せて独裁者となった
闇の水晶が見ていた夢が現実となりそうだった
君は ジャックとの戦いに備えていた

山のドラゴンたちは言った「あなたに従いましょう
 地を揺らし 空を割り 人間どもを捻りましょう
草のドラゴンたちは言った「それならば私たちは
 足に絡み 腕を縛り 人間どもを止めましょう」

君は複雑な気持ちだった 別に人間を恨んではいなかった
ただ 今となっては ジャックの支配下の人間たちは凶悪だった
従わない者は惨殺された かつてのツヴァンケのように冷酷だ
家族の命さえ許さなかった 裏切りは死に直結していた

君が30歳 ジャックは40歳になった年
とうとうドラゴンと人間の戦争が勃発した
ネーロやクロードはもうこの世にはいなかった
君とジャックは 腐れ縁なだけで殺し合いをすることになった

ヴァランはジャックに忠告した「あいつを侮るなよ」
ジャックは答えた「わかってるさ 俺に任せておけ」
君はドラゴンたちに囲まれた城の中で 目を瞑っていた
これから起きる惨劇に備えて 心をひたすらに殺し続けた

数えきれないほど繰り返して来たが
ドラゴンたちを仲間にすることなど初めてだった
君は不安だった 大きな戦争の気配のせいだろう
殺すのには慣れていたが 死なせることには慣れなかった

Lv.82

時のドラゴンが殺された
今まで殺されることがなかった
ジャックは君を追い詰めるため
クレイモアで 時のドラゴンの首を砕いた

君の運命が変わった
繰り返してきた時間はこれで終わるだろう
それを知らずに 君はドラゴンたちを指揮して
ジャックが率いる人間たちを火の玉で焼き尽くしていた

ジャックは君のことを憎んでいた
お互いに協力したことは忘れていた
君を殺して世界を手に入れようとしていた
実際に 君を倒せばジャックは支配者となるだろう

時のドラゴンが君をこの世界に縛り付けていた
君は永遠の命と引き換えに 死も繰り返さなければならなかった
仲間は君のことを忘れ 時には憎んだ
君が黒い戦士の身体を手に入れた時が 一番平和だったのかも知れない

君は幾度も体験した最期の1つ1つを思い起こしていた
君にとって サーラは特別な存在だった
ネーロとクロードももちろんそうだった
ジャックでさえ 憎み切れなかった

黒い戦士となった時 ミラを愛したこともあった
君は複雑な人間の業を隅々に刻み込まれてしまった
悔いはなかった いつしか忘れた
途方もない時間の中 君はジャック以上の孤独な者になってしまった

Lv.83

人の死に何も感じなくなったジャックを見て
ある少年は哀れに思った
その瞳の奥に底知れない悲しみと孤独と空虚を見た
少年は そんなジャックを助けたいとさえ思った

少年の母親はジャックを憎んでいた
旦那を殺したからだ ジャックにとっては些細なことだった
肩についた埃を払うようなもの
それがわかっていたからこそ 母親はどうにも出来なかった

少年の友人は言った「ジャックには気をつけな」
人々を恐怖で支配しているので 当然な意見だった
君は少年に言った「戦争が起こってしまったら すぐに逃げてくれ」
少年は君に言った「起こすのは君らだろう? 勝手だな」

少年は兵士になりたいと思った
ドラゴンを殺すのであれば それほど辛くはないと思った
ジャックは少年を軍隊に入れた
雑用ばかりをしながら過ごした

少年は君のことを敵とみなした
ジャックに憧れを抱くようになっていった
少年は ジャックが父親の敵ということを知らなかった
知っていたとしても ジャックに対しての思いは変わらなかっただろう

父親は弱かった 弱かったくせに乱暴だった
母親には手をあげなかった 少年はたくさん殴られた
友達と喧嘩したことにした 母親はそれ以上聞かなかった
見たくないものに目を瞑っていた 両親は共に狡かった

ジャックは単純に強かった
そして恐ろしかった それが羨ましかった
彼と少しだけ話せたことがあった 少年はそれが嬉しかった
一生この日を忘れないでいようと思った

Lv.84

少年の名はニコラ
ジャックは彼のことを覚えていた
大勢の大人に混じって 少年や少女の兵士も多かった
出撃して数時間後 斥候部隊の全滅を知らされた

ジャックはその知らせを聞き やはり兵士など必要ないと感じた
ドラゴンに対してただの人間はあまりにも無力だった
ジャックが君を殺せば全てが終わるというわけでもない
すべてのドラゴンを殺さなければ 戦いは終わらない

君は ドラゴンの炎で焼かれ 虫の息になったニコラの前に立った
ニコラは言った「お前を殺してやる」
君は悲しい瞳でニコラを見つめていた
ニコラは必死に右手を伸ばし ナイフを持った

投げられたナイフは 君の腹に刺さった
しかしたいして痛くなかった 傷は浅かった
ニコラは死んだ ジャックに憧れた少年の一人が
君は全てがもう遅いと感じた 決着を着けなければ

Lv.85

シャルルは闇の水晶がある洞窟の奥で戦っていた
水晶のドラゴンは数時間かけて殺された
シャルルが闇の水晶を手に持つと たちまち彼の身体を飲み込んだ
水晶のドラゴンの代わりに 彼の内臓のドラゴンが洞窟に棲んだ

ミラは シャルル いや 内臓のドラゴンと戦った
闇の水晶のせいで魔法が効かなかった
ブヨブヨとした皮膚にあっという間に取り込まれ
シャルルと一体化して 意識が遠のいていくのを感じた

ツヴァンケへの恨みなど もうなかった
ただ 頭の片隅に残っていた暗黒の戦士を探した
ミラの記憶のせいで 内臓のドラゴンの行き先が書き変わった
殺されるためにジャックの元へと飛び続けた

ジャックは内臓のドラゴンを発見すると
シャルルの面影が残る頭をクレイモアで叩き潰した
ドラゴンは液状に溶けていった その中にミラが寝ていた
彼女を抱え 懐かしい香りがすると ジャックは不思議に思った

Lv.86

君はジャックに追い詰められていった
人間たちはジャックの影で身を潜め 怯えているだけだった
ドラゴンたちは闇の水晶の力を纏ったクレイモアに潰されていった
内臓のドラゴンは ジャックに闇の水晶とミラを運んだだけだった

眠りから覚めたミラは ジャックに仕えた
ドラゴンたちを率いる君のことは ミラにとってどうでも良かった
初めて会った気がしない暗黒の戦士に興味があった
ジャックは ミラの強力な魔法を利用するために 彼女を側に置いた

君に仕えていたドラゴンたちはほとんど死んでしまった
国のドラゴンが殺された時には 多くのドラゴンたちが逃げてしまった
ジャックは 逃げたドラゴンから殺し回っていた
君はドラゴンが殺されていくことに苦悩した

闇の水晶の見る夢はただの現実になり
今では 闇の水晶に宇宙の底しか見えない
果てしなく広がり どこまでも深かった
ジャックはそれを眺めながら 心がさらに冷えていくのを感じた

Lv.87

とうとう君の目の前にジャックが現れた
城のドラゴンの最上階で 君は玉座に座っていた
ジャックは言った「君を倒さなきゃならない」
君は言った「ジャック よく来たな これで何度目だろう」

ジャックはクレイモアを振り上げて君に突進した
玉座が粉々に割れると 飛び上がった君は剣を抜いた
ジャックの鎧は火花を散らした 剣が折れてしまいそうだ
君は少し距離をとった ジャックはクレイモアを構えた

城に残っていたドラゴンたちはその様子を見ていた
君のことを心配していた
ジャックに噛みつこうかと考えたドラゴンも数匹いたが
恐怖で足も羽根も何もかも動かなかった

ジャックのクレイモアは君の左腕を粉砕した
そこからは 一方的な戦いとなった
君は続けて 右腕 右脚 左脚を粉々にされた
ドラゴンたちは そんな君の姿に心を動かされた

Lv.88

ジャックの目の前に数匹のドラゴンが立ち塞がった
勝てるわけもない相手に威嚇だけをした
君を咥えて 小さな空のドラゴンが飛び去った
ジャックは 数匹のドラゴンを殺して 君を追わなかった

君は粉々になった四肢を眺めた
不思議と痛みは感じなかった
小さな空のドラゴンは大粒の涙を流した
その温かさを感じながら 君はその子の頭を撫でた

ドラゴンの敗北は決まった
ジャックは人間の支配者になった
君は 森の奥にある湖に降ろされた
いつの日か ミラと出会った場所だ

花のドラゴンが賑やかに過ごしていた
小さな空のドラゴンは 君の頬を舐めた
君は笑顔で言った「死なないでくれよ」
小さな空のドラゴンは 小さく吠えて 飛んで行った

Lv.89

「ここに居たんだね 探したよ」
君は懐かしい声を聞いた
「君は サーラ?」
「ごめんなさい 私 逃げ続けてしまった」

君は微笑んだ
「ありがとう 会いたかった」
サーラは君の手を掴んだ
「すぐに治すから 今は眠って」

君はミラの家のベッドで目覚めた
また懐かしい匂いだ サーラが気付いて声をかけた
「おはよう スープ飲む?」
「うん ありがとう 飲むよ」

四肢を無くしたので サーラがスープを飲ませてくれた
その間 彼女は君を優しげに見つめた
飲ませ終わると ベッドの横に置いてある椅子に座った
君は サーラと話をした

Lv.90

ここまでが聞いた話だ
そのあと君がどうなったか知らない
サーラと幸せに余生を過ごしているのか
孤独に余生を過ごしているのか

ジャックはそのあと人間の王となった
ドラゴンは絶滅して その影響か 魔法がなくなった
長い戦いが終わったが 君がまだ死んでいない
死んでいたらこの世界は消えて無くなる

みんな君の事を忘れてしまった
親しい者はみんな死に絶えた
ジャックは恐れられながらも王として君臨し続けた
君が勝てる可能性など 最初からなかった

ジャックは墓に訪れた
全てのドラゴンを弔う大きな岩に名が刻まれた
全てのドラゴンはジャックに呪いの言葉をかけた
不敵に笑い 枯れた花を備えて ジャックは帰っていった

Lv.91

時が流れて 人間同士の戦争は幾度も繰り返された
この世界にドラゴンがいたことなど信じなくなった
兵器は民家を潰し 人々を焼いた
ジャックの心はそれまでよりも遥かに擦り切れた

しかし その中に光る鉱石のようなものを見つけた
それは君と会話した記憶だった
ジャックは初めて寂しさを感じた
そしてそれを受け入れた 君を思い出すようになった

ドラゴンたちの墓はミサイルで壊された
代わりに人々の墓としてオブジェとなった
ジャックは王として君臨しているのに
争いがなくならないことに違和感を覚えた

君は死んでいなかった
死んではならないと誰かに生かされているようだった
苦しみの連鎖が終わらないように
この世界が消えてしまわないように

Lv.92

何故君は死んでくれないんだ?
死んでくれたら この悲しみは続かないのに
この世界が消えて仕舞えば良いと願っているのは
ジャックだった 彼が一番傷ついているだろう

君が死んで この世界が消えて
全ての歯車が元の位置に戻る時
再び世界が創られるかもしれない
このデータは消去しなければ上書きは出来ない

ジャックは君に問いかけている
「どこにいる 何をしている」
まるで親友にでもなったような声で
君を呼んでいる 答えはない

サーラが君のそばにいるなら
君をジャックの元へ連れて来ておくれ
そうすればこの世界を終わらせることが出来るから
ジャックはもう終わらせたいと思っているから

Lv.93

ジャックは殺されたがっているのかも知れない
そうすれば君との戦いの日々に戻れるかも知れない
推測することしか出来ないが
君がいないことには この物語も 世界も終わらない

データが溢れそうになっている
もう次のことは起こらないようになってしまう
全てが停止して 完全にそのままになる
君はどこかにいる ジャックは孤独の牢獄に入れられる

サーラがいないのであれば
君が死んでいない理由が見つからない
サーラがいるのであれば
君は死にたくないと思っているのだろう

ジャックのためにも死んでくれないか?
この世界を終わらせてくれないか?
これだけ問いかけても まだ潜んでいるのであれば
このままで良いと思っているのだろうか?

Lv.94

ジャックは人々の前で声を出した
その声は響き渡り 瞬く間に広がっていった
君を探して何万もの兵士が無駄死にをした
どこにそのような隠れ場所があるのだろうか?

サーラの「魔法」で見えないのだろうか
それとも人々が君を隠しているのだろうか
ドラゴンの亡霊が守っているのだろうか
美しかった世界が 錆びた鉄の色に染まってゆく

ジャックは嘆いていた
死にゆく人々に思いを馳せた
歳をとり 感情が豊かになってしまった
支配者にはそれが一番こたえることだ

(もういい 君はどれだけ言ってもわからないらしい
 ならば君を待つことはやめよう)
ジャックはそう考え 毎晩目蓋を閉じる
もう二度と 開かぬように願いながら

Lv.95

君はジャックの前に立っていた
ジャックは驚きを隠せなかった
美しい朝焼けが二人のいる部屋を照らし出した
とうとうこの物語と 世界の終わりが来たようだ

君は何も持っていなかった
四肢をなくした後に 機械の手足を手に入れていた
お互いに歳をとったが 心の中は変わらずにいた
こいつさえいなければ と思った

しかし それと同時に
唯一生き残っている理解者であり
共に戦った同士であり
死んでほしくない親友でもあった

その矛盾を抱えながら お互いを見つめていた
朝焼けが程よい光になり 部屋の明かりが整った
準備が出来た 最後に死ぬのはどちらか
君は負ける気がしなかった おそらくジャックもそうだった

Lv.96

サーラが後を追いかけて部屋に入ってきた
「何故? 戦う理由などどこにあるの?」
君はジャックと共に黙っていた
武器はない 殴り合うしかない

君は右の拳を堅く握りしめた
ジャックは一気に距離を詰めた
君の右頬に鈍痛がして鼻が痺れた
涙が止まらない サーラの影が揺れる

「二人とも やめて!」
運命は何も変わらない
サーラの嘆きを聞く者もいない
ジャックはサーラの胸を拳で貫いた

君は何も思わなかった
ただ 一人の老婆が死んでしまったと思った
愛などなかった 終わらせなければならなかった
ジャックは泣いていた 悲しくて仕方がなかった

Lv.97

サーラの亡骸を踏みつけて
君は鬼の形相をしていた
ジャックは無理に笑って見せた
久々に高揚している心臓を必死に押さえつけた

左の拳がジャックの腹に入った
胃の中のものがぶちまけられた
君は叫んでいた 気がつかないうちに
ジャックの内臓を潰そうと必死になっていた

ジャックは苦しみを感じながら
その冷たい拳に安堵していた
鉄で出来ているその四肢ならば
簡単に自分が殺されると思ったからだ

しかし そうではなかった
機械の手足の動きが悪くなった
消耗して ショートしてしまった
君は突っ立った ジャックの目の前で

Lv.98

ジャックは君の心臓目掛けて蹴りを入れた
君は倒れて のたうちまわった
息が出来ずに 苦しみから逃れようとしていた
しかし その苦しみは絶望に変わった

君の顔をジャックの足が踏みつけた
重い この世のもので一番重い物質だった
君は唸っていた もはや獣のようだった
ジャックは笑った くだらないと感じた

「もう終わりだ」
そう言って ジャックは君の顔面を潰そうとした
君はなんとかジャックの足を払いのけて後退りした
立ち上がれそうになかったが 機械は君に応えた

君は絶望の中で ドラゴンたちのことを思い浮かべた
弱い王のせいで絶滅してしまった種
そして 目の前で肉塊になったサーラを思い出した
絶望は膨れ上がり 君を飲み込んだ

Lv.99

君とジャックはそれ以降 数ヶ月ものあいだ殴り合った
二人とも何故自分が死ねないのかわからなかった
原型を留めず どちらが自分であるかも忘れた
肉塊が部屋を覆い尽くし 世界は終わりを待った

君とジャックがどうすれば幸福になれたのか
知っている者はみんな死んでしまった
選択肢はへし折られてどこかに捨てられた
肉塊どもは醜く血を流し続けた

そして 死んだ
全てが終わった
世界が消えた
それだけだった

再起動する手を止め
そのまま暗い画面を眺めていようか?
君はどちらを選んでくれるだろうか
死ぬことで始まる物語は 始まりを待っている

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