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他人と比較することをやめれば幸せになる(その2)

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私が他人と比較しなくなった20代、今でも人生観として残る大きな出会いがあった。ある女性との出会いだ。

私が就職した職場は商品管理をしていたため、年数回棚卸をしなければならなかった。普段業務に就いている人間がそこまで手が回らないため、短期バイトで大量に募集をかけ、棚卸をやってもらうことになっていた。

その女性は短期バイトでやってきた。容姿は綺麗な人だったが、私が惹かれたのはそこではない。職場の近くに食堂やレストランがないため、事前に昼食を用意するか職場の仕出し弁当を注文する必要があったが、彼女はその日フランスパン(バケット)とハムとチーズ、またある日はコンビーフをそれぞれ持ってきて、かぶりついていたのだ。

その光景はとても衝撃を受けた。彼女自身も他の人とかなり違う昼食を持ってきた自覚があったようで、体を小さくして食事していた。でも私はこういう食事をする人がとても楽しそうに、かつうらやましく見えたのだ。

周りの人は気を使って言葉をかけなかったり、あの人のランチすごいねーとひそひそ話だけで終わる。私はおもわず彼女に声をかけてしまった。

「とても美味しそうですね。」


彼女は最初恥ずかしそうだったが、しばらくして嬉しそうに私の質問に答えてくれた。少し話をしたら、フランス映画が好きで、劇中に出てくる女性がそのような食べ方をしていて、つい真似てしまったそうである。

ぼくもフランス映画好きですよ。ベティ・ブルーやポンヌフの恋人、リュックベッソン映画などもみますというと、同じだった。
彼女は短期バイトの棚卸が終わっても、別の業務でそのまま延長して同じ職場で働くことになった。

しばらくして私はその彼女とお付き合いすることになった。
きっと彼女は唯一無二。私には持ってないものをたくさん持っていそうだが、きっと違和感はないと感じたのだ。

数か月して、はじめて声をかけた時の印象が強烈で、そんな人は今まで見たことがない。と正直に伝えると、そこを馬鹿にせず評価してくれたのがうれしかった。と後で知った。

彼女はとにかくいいと思ったことは直感で動く人だった。先入観にとらわれず、他人の評価も気にしない。人の悪口を言わない人だったが毒も吐く。他人の言動に基本関心がないのだ。自分の興味あることで精いっぱい、それは私も同じであった。

付き合っていた時は、彼女も私も以前付き合っていた人の話をすることはほとんどなかった。それこそが比較であり、前の彼氏彼女との比較ほど意味がないと思う。もしあるとしたら、元カノと今カノが会って私の取説でも話し合うのはありだと思う。

しかし彼女との付き合いは3年ほどでピリオドを迎えてしまった。別れの理由はいろいろあるが、今思うと私が変わってしまったのかもしれない。彼女は3年間ずっと変わらず誰かの発言などに影響も受けずぶれなかったが、私が20代前半から中盤にかけて、仕事にも慣れ社会人としてこうすればいろんな人とうまく付き合える。上手く生きていこうとしていたのだ。不器用な彼女は変わることもなく、私に不安を覚えてしまったのかもしれない。

その後付き合った女性はとにかく元カレとすぐ比較する人だった。何かと不満があると、前の彼氏はこうしてくれた!とアピールするのがお決まりだった。私も大人げなく、じゃ元カレにやってもらえばいいじゃん!と言い返す。そんなこと絶対できないのに。常に比較される状況は決していい状態とはいえず、しばらくして別れることになったのは当然だと言える。

今私が国内外問わず散歩をしたり市場に行って美味しいものを食べたりテイクアウトする楽しみ方、実はその彼女から学んだことだった。フランスにも一緒に行ったが、現地に行ってからはフランス人と同じ暮らし方をするだけだった。フランス映画をお互い見てきた影響なのかもしれない。

当時はインターネットもなく情報は世界の歩き方がほとんどだった。それもよかったが、今のようにSNSもなく比較材料がなかったのも自分の進む道を信じるしかない。それをお互い認め合う3年間だった。

彼女とわかれてしばらくするともう連絡を取ることは無くなった。しかし私には彼女と一緒に過ごして居心地の良かった習慣がいまだに残っている。最初は未練が残っていたが、これは私が考えてやりたかったこと。それを認めてくれる人が彼女だったのだろうと思う。

信頼していた人のお墨付きだから、以降自信を持って自分の楽しみ方として数十年過ごしている。もちろん人の聞く耳も持っているが、基本は自分の考えをベースに動くようにはなった。

誰と比べるでもなく、自身の楽しみ方と優劣をつけることもなく過ごした時間が20代でよかった。大人として人間として、私が普段座右の銘としている「心の贅沢」が確信に変わった時間だった。

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