クラゲ







誰かの感受性に嫉妬するのが僕の癖で



喉を掻きむしりたくなるほどの渇望が、僕を苦しめる



人と比べることでしか自分の価値を計れない自分は


一体どこへ辿り着くんだろう




何のあてもなくフワフワと漂うクラゲみたいに

一喜一憂しては、上がったり下がったり




漂うことしか知らなかったけど、深海はどんなところだろう?




引力のままに沈んでいって

ずっとずっと

ずーっと



そのまたずっと向こうまで


ただただ降りていって



静かに海底へと辿り着く



暫く底に耳を当て

音のない音に 耳を澄ます



すると次第に体の中から泡の音が聞こえてきた




プクプク…

プク… プクプク…

プクプクプクプク…





気づいたら、体が泡になって 海に溶けていた




意識がどんどん広がって



僕を遮るものは もう何もなくて



自由だなー

自由なんだなーって思ったら



涙が溢れてきた



でも周りは海だから、涙なのか海なのか 全然わからなくて


それでも涙はどんどん溢れてきて



でも涙はあっかいから、それが涙なんだなってことが、ちゃんと分かった





泣くだけ泣いたら


また辺りは静かになった




一瞬、自分がクラゲだった頃を思い出す



でも、すぐに気にならなくなった





これからどうしようか…



そんなことをなんとなく思っていたら、少し先の方から光が見えた



海底にも光はあるんだ…




光に見とれていると

それは少しずつ大きくなっていった



光は徐々にスピードを上げ、こちらに向かってくる






…あっ!










目覚めると、僕はベッドの上だった


体もちゃんとある


手足も二本ずつ、クラゲじゃない




海にはなれなかったんだ…





寝汗でビッショリのTシャツを脱ぎながら、キッチンへと向かう



冷蔵庫のドアを開けたまま、ペットボトルの水を半分まで一気に飲む



溺れかけたように息を吐き、足元を見る



中指と小指の爪に、絵の具が付いていた




ベッドの方に目をやると、描き殴ったキャンバスが落ちているのが見えた


一気に色んなことを思い出す




思考を遮るように、ギュッと固く目を閉じる




プクプクプク…

プク…




夢の記憶が蘇る



すると、体の中を シュワシュワと炭酸の泡が弾けるような感覚が襲った


と、次の瞬間 一気に波の音が 頭の中でこだました





もう違う




なぜかそんな言葉が頭を過った




冷蔵庫のドアを閉め、ベッドへと向かう


浅く腰掛け、落ちていたキャンバスを拾った




そして暫く見つめたあと、笑いながら近くにあった筆でウンコを描いた






「俺の体ん中、半分海水でできてるから」









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