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【建築】路地と中庭と建築と/鹿猿狐ビルヂング & フュンフ・へーフェ

路地
街中の狭い道路とか通路。そのほとんどは人専用か、小さな車がやっと通ることの出来る道ばかりである。

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以前奥行き感が好きだという記事を書いたが、それに関連してか路地というものにも惹かれてしまう。今回の建築探訪はそんな路地を取り入れた2つの建築だ。


鹿猿狐ビルヂング(内藤廣)

奈良公園にある猿沢池。興福寺五重塔を背景にしたこのショットは奈良を象徴とする風景の一つと言える。

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この猿沢池近くに「ならまち」と呼ばれる古い街並みが広がっている。ほとんどは第二次世界大戦後の建物ではあるが、空襲を免れた江戸時代からの伝統的な家屋も残る。(さすがに奈良時代の建物はない)

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ならまちにも路地が張り巡らされているが、2021年4月、その中に中川政七商店の旗艦店となる鹿猿狐ビルヂングがオープンした。中川政七商店は1716年創業の手績み手織り麻布の老舗であるが、現在は「日本の工芸を元気にする!」をビジョンに様々な事業を手掛けている。

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ちなみに「しか・さる・きつね」と読む。そのままだ。
鹿は中川政七商店のロゴ(奈良のシカは"神の使い"でもある)、

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猿はテナントとして入る猿田彦珈琲、

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狐は㐂つね(すき焼き店)を表す。

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店内には鹿猿狐を象徴するステファニー・クエールによるオブジェがあった。

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このビル、鉄骨造の現代的なガラスファサードのデザインだが、

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周囲の街並みに対して、不思議とあまり違和感がない。その要因は屋根が瓦で仕上げられ、さらに庇の高さや軒の出が、周辺の家と揃えられているからだろう。路地を挟んだ家と比べてみると分かりやすい。

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見学の前にまずはコーヒー。

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鉄骨とガラスと木を使ったシンプルな仕上げの店内には自然光が注ぎ、とても心地良い。朝イチなので人も少なく、落ち着いてホッと出来る。

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コーヒーを飲み終え、カフェの横にある階段から2階に上がると、

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中川政七商店の奈良本店がある。

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こちらも明るい店内には、麻生地製品のみならず、日々の暮らしの中で使うことの出来るオリジナル商品が並んでいる。

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窓際には、奈良や工芸に関するライブラリコーナーが設けられていた。手織りの麻生地のシェードが陽射しを和らげる。
クッションの上の小さな置物はソーシャルディスタンス確保のためだ。

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階段踊り場から見えるが、隣には昔からの家屋も残されている。

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この新しい建物と以前からの家屋を繋いでいるのが路地である。実はこの鹿猿狐ビルヂングのコンセプトは「路地を巡り出会う、触れ、学び、味わう奈良」なのだ。

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その間にあるのは坪庭。

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この坪庭から、築100年以上の旧中川家をリノベした別店舗に路地が続く。

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こちらは、かつて麻布を保管していた蔵への路地。

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その傍には旧中川家の小さな日本庭園があった。

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この旗艦店には鹿猿狐ビルヂングの他に、旧中川家にある遊中川本店や茶道の新しい楽しみ方を体験できる茶論(さろん)、中川政七商店の歴史が展示されている蔵などもあり、そちらも見学したかったのだが、朝のコーヒーでゆっくりし過ぎて時間がなくなってしまった。また次の機会にしよう。(行きたい場所リストだけがどんどん溜まっていく...)


そして帰りの電車の中でこの路地を活かした建築のこと考えながら、ふと別の建築を思い出した。それがフュンフ・ヘーフェである。


フュンフ・ヘーフェ(ヘルツォーク&ド・ムーロン)

ミュンヘンは人口150万人のドイツ第3の都市である。その中心部にある人気の観光スポットでもあるマリエン広場は、ミュンヘンが形成された中世からずっとその歴史を見続けてきた広場であり、傍らには新市庁舎がある。("新"といっても、建設されたのは100年以上前だが)

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そのマリエン広場から徒歩数分の場所にフュンフ・ヘーフェはある。

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フュンフ・ヘーフェは、ヘルツォーク&ド・ムーロン(H&deM)の設計によるショッピングセンターである。ただしちょっと高級向け。私には手が出ない。

聞きなれないフュンフ・ヘーフェという言葉であるが、ドイツ語の表記ではFünf Höfe、英語ではFive Courts。5つの中庭という意味になる。

この施設は街中のほぼ1ブロック(番地)に及ぶエリアにあるが、そこに大きな一つの建物をつくるのではなく、元からある建物と新しい建物を共存させながらセンター内のあちこちに中庭を設け、それらを歩行者通路で結び、ショッピングしながら回遊するという手法を取っている。

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路地
というには少々広すぎるが、半屋外のような通路が伸びる。(MUJIのロゴが一際目立っている)

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通路や中庭のデザインはアーティストともコラボレーションしている。
この空中庭園は、植物をテーマとするドイツ人アーティストTita Gieseによる。

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中庭に浮かぶ巨大な球体の彫刻はオラファー・エリアソン。

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余談だが、このファサード。H&deMがよく使う手法である。

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彼らは"建築の表層"にこだわりを持つ建築家として知られているが、ここでは折り曲げたパンチングメタルを使っている。

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これはパリのアパートメントで見たことがある。(ちょっと違うけど)

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この通路の仕上げもH&deMらしい。

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こちらはエルプフィルハーモニーのエスカレータートンネルで見た。

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H&deMは多作の建築家なので、どうしてもいくつかのパターンはあるだろう。


以上、路地をキーワードに2つの建築を紹介したが、それぞれの建築は用途もコンセプトも異なるので、正直言えばやや強引な関連付けではあった。でもたまにはこのような視点で建築を見るのも面白いと思う。



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