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AKIHABARA/YAMANO ONKYO SHINRI KENKYUJO 秋葉原 山野音響心理研究所 サイコリストラクチャ− 山野音彦

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これは1998年に書かれた2001年を舞台にした未来の東京の話である、ここにはwalkmanは存在するが、ipod や itune、iphoneは存在していない、CDとレコード、テープレコーダ、カセットテープ、そんな時代の良さがある。24年後の未来人が今思う。

つづきは第11話から、

第3話以降

/展開のためのHINT

スクラッチ/

そのレコードのその場所には、キズがあった。そしてその場所でいつも針が飛ぶ。 

ノイズ/

CDにはない。レコードのヒスノイズ。しかしそれが彼だけの記憶を蘇らせる。  

プッシュプル/

真空管でアンプを作る。プッシュプルと呼ばれるHI-FIステレオの形式は暖かい音がする。

転写/

レコードを作るマザーテープの磁性体は昔、劣悪で音転写が起り数秒前にフレーズが聞こえることがよくあった 

バックワード/

その時代のロックには悪魔的なワードがサブリミナルに混入されているといわれる。レコードを逆回転すると聞こえる。 

シュガーフレーバー/

60年代後半のアメリカンポップスには、麻薬を感じさせる暗喩が歌詞になっている。 

FEN/

第七艦隊のヴェテランが戻ってきた。懐かしい友人、しかし、いまは、、、。 

GT管/

GT管は1940年代の真空管だ。そしてその球でないと再現できない音がある。 

サンプリングレイト/

ハードディスクレコーディングの時代。サンプリングされる音源の中に隠されたメッセージ。 

テクノ/

80年代のテクノポップス。音彦の苦手な分野。デジタルビートと脳波の関係が。 

スピーカケーブル/

1m=300万円のスピーカーケーブルとアラブの富豪の関係 

無調音階/

無調音階で書かれたビートルズサウンドの目的とは。我々はどこへ導かれるのか。

14.2歳/

京都大学心理学部臨床心理学教室に於ける山野音彦の卒業論文。

その結論はこう結ばれている。

『人間が自我を獲得し、外界との関わりを通して成長してゆく過程で経験する様々な摩擦による自我の傷。

この傷の痛みから逃れるため無意識の内に人間は何かに没頭する。

芸術、芸能、娯楽、博打と呼ばれる快楽を伴う行為によって一時避難する傷ついた自我がその傷を癒す時
その快楽の断片が傷跡に記憶される。

何万何千もの層になった自我、傷跡が癒されるたびに行われるこの重層化。

重層化された成長した自我をひも解く鍵のひとつに音楽療法によるタグが有効であった。

1000人の被験者のなかで標準平均14.2歳(偏差30ヶ月)時に愛好していた音楽を聞かせることにより、
78.6%の被験者に明確な記憶の再現とも言える状態を経験した。

さらに同じ音楽素材を用いてもその再現性の純度や実験環境により記憶の再現が起る頻度は変化する。

確実な記憶の再現を起こすためには、被験者との深い対話、過去の生活の推測などの調査が不可欠である。』

彼はその後、趣味の延長上の音楽評論家の道を歩むが、その傍らこの研究を進めていたらしい。

心の再構築(サイコリストラクチャ−)
『人は心のキズの痛みから一時的に逃れるために音楽を聴く。選ばれたその音楽はキズを癒し塗り固める。それは逆に長い時間のあとその音楽によってそのキズを思い出させる原因となる。忘れていれば忘れているだけ鮮明に。』

それは『音楽と記憶』ー音楽によって人は記憶をたぐりよせることができる。
そのことを利用して心の再構築(サイコリストラクチャ−)をおこなえるのではないか。山野音彦の持ち続けているテーマだ。

プロット

第1話 『スクラッチ』

秋葉原、ラジオデパート。JR総武線高架下、何万種類もの電子部品を扱う高密度圧縮された商店群の有機的な迷路。
そこを訪れる人々は、毛細血管をながれる赤血球に似ている。
オーディオ系真空管を扱う店先。何百もの過去の真空管を頭の中にリストアップしている初老の女主人に家賃の滞納をせめられている一人の男。
山野音彦。
音楽評論家、レコードコレクター。
「山野さん。今日こそは3ヶ月分の滞納家賃キチンと払ってもらいます」
まるで時代劇の大家のおかみさん。
通路に面した顔なじみのパーツ屋親父連は、そのやりとりをにやにやしながら聞いている。
彼の事務所兼住居はこのラジオデパート地下3階の元倉庫である。
事務所とはいうものの、そのほとんどは日本でも屈指な彼のレコードコレクションの倉庫である。
そしてここ何十年ものオーディオの歴史を語るに十分な再生装置の山。
それが山野音響心理研究所である。
デスクに原稿用紙と資料をひろげる。
『月刊レコード&サウンドマガジン』に連載しているコラムを書くためだ。
”和製ポップス1972”と題した特集を今年の春から始めた。
いつになく筆が進む、そんな夜に限って何かある。
呼び鈴がなる。夜間出入り口のチャイムだ。ドアの前に小包の小さな段ボール箱。
電話がなる。警視庁刑事部部長追田権三。先日の一件以来連絡もなかった京都時代の旧友からだった。
追田の送らせた小包の中には、何年も前に描かれたらしい子供の描いた自由画、古い120分のカセットテープ、大学ノートに書かれた自作自演の歌のコード譜、そして1枚のレコード、1967頃のナンシーシナトラとリーヘイズルウッドのアルバム。そしてその持ち主の略歴のメモが入っていた。
「いつも強引ですね」人の好意を利用して高みの見物をしている。そんな印象を先日いらい追田に抱いている。
「いや、君の言う『音楽と記憶』ってやつがとても興味深くて、俺も確かめてみたいのさ実際に」
『音楽と記憶』---サイコリストラクトの効果。
それは山野音彦がずっと興味を持ちつづけているテーマだ。
「で。持ち主は何者なんですか」
「それは今は言えない。ただ彼は極度の緊張状態のなかにいる、6時間程まえから。はやいとこ楽にしてやりたくてな」
「会って話は」
「出来ない」
そんな不十分な状況では何も出来ない。音彦はそういって断ろうとした。
しかし巧妙な追田のからめ手で音彦は調査を始めざるを得なくなる。
期限は12時間後。明日の正午だ。
資料をデスクにひろげる。思い付く考えをポストイットに書き張り付ける。

 自由画/小学校低学年らしい色鮮やかな原色。/大きな乗り物の中にいる自分?/黄色い戦車と黒い怪獣/大きな鳥と翼のしたの小鳥。
 カセットテープと歌詞ノート/中学校頃の自作自演のオリジナル曲/上手くはないが音程は確か/17曲ものニューミュージックスタイルのもの。
 30cmLP/ほとんど新品に近い状態で30年近く経っている/B面に大きなひとすじのスクラッチ。そのため針が飛ぶ。
 略歴/1956年生まれ/小学2年の時に両親が離婚。
何度も聴き、資料を見る。会ったことのない人物を自分の中に浮かび上がらせる。
気になることがある。モノラルラジカセで録音したアマチュアの自宅録音テープ。チューニングの正確さとkeyによってのコード感のこだわり、曲の頭にチューニングがつづく、フレット音痴の安いギターとの追っ掛けっこ。
発声は確かではないが、音程の正確さ。気になる。
そして、17曲の淋しい気持ちと四季折々の情景を比喩として唄った歌。
音彦はギターをとりだし、自分で弾いてみる。
声のでない音程、声の出る音程、自分の音域とは関係なくkeyを設定している。
あれだけ音程やコード感にこだわるのに。
彼の絵をながめる。
小学校2年ー両親の離婚ー大きな明るい色と小さな自分
絶対音感ーコード感ー色彩ー?
この中に彼がいる。

音彦が狂ったようにメモをかきだす。
17曲の歌の中の情景の色彩とkey。
並べなおす。
白い冬のうたーAm
水面の霧  ーAmaj7 key A(ラ)

夏の海のうたーE
夜の蒼い空 ーEm       key E(ミ)

夕陽のなかの時間ーG
秋の夕暮れ ーG/Em     key G(ソ)

明るい陽射しーC
暖かい幸せ ーCmaj7 key C(ド)

夕暮れの部屋の明かりーD key D(レ)

残りの曲も同じ分類に入る。/key F と B は開放コードではない。

夜明けだ。窓のないこの部屋ではこの時間の空の色が見えない。
彼ならどんなコードでこの時間を歌うのだろう。

あと6時間。
音彦はバイト代倍付けを餌に、週末を朝まで踊り明かしているだろう彼の信頼できる3人の姪っ子にスクランブルをかけた。

自称”援助奴隷美人3姉妹”長女からルビー、サファイア、ダイヤモンド。あだ名である。
名字は音彦の年の離れた姉の嫁ぎ先の長岡姓、22、20、18才の姉によく似た美人3姉妹。
多少のバイト代を出して、持ち回りで音彦の夕食や事務所の掃除、資料のデータベース化などをやらせている。
もちろんそれぞれは、音彦の影響でなにかしら音楽関係の仕事についている。
そして、音彦の膨大なレコードコレクションは彼女たちにとっても宝の山なのである。

音彦の頭の中にはひとつのメロディーが流れていた。

ことりがね/おまどでね/おくびをふりふりきいてるよ/
おててがね/かわいいね/きれいなおとだときいてるよ/
ヤマハ、ヤマハの/おんがくきょうしつ

サファイアは中古レコード屋を洗い、インターネットで誰もが捨ててしまいそうなそのレコードをチャット仲間から手に入れる。

ルビーとダイヤモンドは履歴をたよりに調べた。
推測どおりこの人物は幼稚園から両親が離婚した小学校2年の冬のある日まで、
毎週金曜日の午後この歌を歌っていた。
楽譜のドレミは色分けされた音符がこの時代の進歩的音楽教育方針だった。
そして、この日を境に彼の生活は劇的に変わってしまった。

音彦はそのレコードにあのLPとおなじように、ルビーのしていた指輪でスクラッチをいれる。
3姉妹に罵倒されながら、待っていた追田の部下、宇波に手渡す。
「この時間で出来ることはこの1枚です。思い出すまで何度でも聴かせてあげてください」

誰のための、何のための1枚かは、今回も知らされない。
しかし、昨夜から音彦の事務所で流しっぱなしだったTVのニュース特番で中継されていた事件、『山の手信用金庫強盗人質立てこもり事件』は夕方までに解決した。
隙をついて警察が突入した時、犯人は何故か泣いていた。それは調書には記録されてはいない。

『人は心のキズの痛みから一時的に逃れるために音楽を聴く。選ばれたその音楽はキズを癒し塗り固める。それは逆に長い時間のあとその音楽によってそのキズを思い出させる原因となる。忘れていれば忘れているだけ鮮明に。』


 

第2話 『ノイズ』

ダイヤモンド(音彦の姪/3姉妹の末っ子/18歳/元WAVE勤務)が音彦のところへ面白いものを持ってきた。
最近みんながしている新型ヘッドフォン。そんなもの子供だましのおもちゃだとばかにしていた音彦だったが、けっこう良い音がする。ところがその新型ヘッドフォンはそれだけではなかった。一緒にパッケージングされているデモCDを聴くとビートが身体にぶつかってくるように聞こえる。どうゆう仕掛けになっているのか不思議だ。前から震動型のヘッドフォンはあったがそれとは違った種類の聞こえ方だ。
スケルトンボディのそのヘッドフォンにはかわいい幽霊のマークと、
『made in japan/ vibra/// ghost /ver.1.0』の文字が小さく印刷されていた。

”1999年、日本中のタガがすべてゆるんだ。”
音彦のデスクのはじにはられた覚え書きの何百ものポストイットのなかの古びた1枚。
そして2000年に入ってもその傾向はさらに、深みに入ってゆく。

『渋谷ハチ公前無差別刺殺事件』
『新宿アルタ前集団暴行事件』
『表参道明治通り交差点暴走ひき逃げ事件』
『銀座4丁目交差点通り魔刺殺事件』ほか23件。
警察官、自衛官、教師による多くのストーカー行為や婦女暴行事件。
大学生の間でプレイ化している、数えきれないカラオケボックス婦女暴行事件。
さらに、1996年から急激に増加する肉親による幼児虐待や致死事件。
「どう思う山野」
ここいくつかの協力の礼にと京都時代からの腐れ縁、警視庁刑事部長追田権三が用意した神楽坂の天麩羅屋。
「俺は、彼等が日常に聴いている音を知りたい。事件を起こすまでに補完されなかった心の状況を知りたい」
「おまえらしいな」と、苦笑いする追田。

あのヘッドフォンはかなり流行っているらしい。街で気をつけているとかなりな人が使っている。
ルビーもサファイアも持っていた。
彼女たちの言うには、システムアップする面白さもあるらしい。
system 1/本体ベーシックモデル、デモCD/ver.1.0
system 2/ワイアレスプラグイン、デモCD/ver.1.2
system 3/ゴースト・ウーファプラグイン、デモCD/ver.2.0
system 4/ゴースト・ツイータプラグイン、デモCD/ver.2.5
system 5/ヴァイブラ・シンクロナイザー、デモCD/ver.3.0
インターネット上ではVIBRA/// GHOST関係のホームページが何百か展開されて、パワーアップの改造方法 から、どのCDがトリップできるかの情報や、果てはsystem4 から幽霊をみることがある。などという話題が毎日アップされているらしい。

ラジオデパートを散歩する音彦。
不思議なことに、VIBRA/// GHOSTがひとつもない、ラジオデパートに無いものなどないはずなのに。
抵抗・ヴォリュウム屋のおやじにたずねる、ここにはないよ、ありゃ渋谷とかのファッションショップ中心でね。
「でもね山野さん。俺はもってるよ!ほら」
system 5までシステムアップしたVIBRA/// GHOSTを自慢げにみせる。
「これね。心臓ばくばくしちゃってだめだね。かーちゃんに聴かせたら血圧上がっちゃってたいへんだったよ」
山野さんにあげるよ。でもいい歳なんだから気をつけないとね。CDも5枚あるよ。

研究所にもどりデモCDをVIBRA/// GHOST-system 5で聴きはじめる音彦。
ところがまるでそれは普通のヘッドフォンだった。まえにダイアモンドが持ってきたsystem 1のあの突き刺さる感じがなかった。
不思議だ。デモCDをすべて聴きおわる。何も起きなかった。なぜだ、疑問だけがのこる。

追田は、山野の言ったことがひっかかっていた。
逮捕、調書、尋問、精神鑑定、起訴、それだけでいいのだろうか?
『俺は、彼等が日常に聴いている音を知りたい。事件を起こすまでに補完されなかった心の状況を知りたい』
その言葉は追田に突き刺さっていた。しかし自分のいる組織はこの方向には動かないことはわかっている。
しかし。何かが見つかりそうな予感があるのも確かだった。

その夜、音彦は研究所のなかで何ものかの気配を感じる。
そして幽霊のようなものを見る。


第3話『プッシュプル』

VIBRA///GHOSTはインターネットとクチコミから一気に拡がる。
そしてメディアに乗ってゆく。
しかし、その頃には街から姿を消していた。
持っている者と持っていないもの。
優越感と劣等感。
レアなアイテムとなっていく。
雑誌は特集を組みそのゆくえを追う。
ショップに持ち込んだのは学生ベンチャー企業だった。
推定100万台をさばいた後、幽霊のように消えていた。

第4話『転写』

追田は検察庁の先輩をたずね、
すでに起訴されている一連の事件の心理的側面の関係を再調査するためのチーム発足を仰ぐが一笑される。
諦めきれぬ追田は山野を訪ね、面会人と称して勾留中の犯人達に会わせるように仕組み、
さらに黙認の上で家宅侵入をうながす。
日本はさらに、タガのはずれた人々による犯罪がさらに悪化する。
そして彼等の何人かはVIBRA///GHOSTの使用者だった。
しかしその割合は確定できるほどではなく、その関連は皆無に近かった。
あれ以来音彦は悪夢と不安感に苛まれでいた。
それはVIBRA///GHOSTへの誘惑にも似た禁断症状であった。
VIBRA///GHOSTで聴きたい。VIBRA///GHOSTでないと不安でしかたがない。
そしてもう一度使用する音彦。それはめくるめく甘美な至福の時間であった。

第5話『バックワード』

VIBRA///GHOSTを追っていた雑誌記者がテキサスで失踪する。
編集長 山水純一の頼みで、姪のルビーがテキサスに飛ぶ。
音彦は自分自身へのサイコリストラクトを始める。しかし自分の無意識に作用することを、意識してできるわけもなかった。
日本では、若者の間で原因不明の虚無症が始まる。
それはVIBRA///GHOST禁断症状だが誰もその関係に気付かない。
壊れたVIBRA///GHOSTの所有者、修理も新品を買うことも出来ずに暴力で奪う者も出てくる。
テキサスでルビーは雑誌記者の足跡を辿るが、何不自然なこともなく消息がとだえている。
その夜、何者かにレイプぎりぎりの脅迫を受ける。
雑誌記者は同時刻、日本の自宅で唐突に発見される。
彼もまた強度の虚無症にかかっていた。

第6話『シュガーフレーバー』

編集長 山水純一の頼みで雑誌記者のサイコリストラクトに挑む音彦。
心に傷を負って帰国するルビー。
しかし音彦の心理療法ではふたりを癒すことは出来ない。
そして皮肉にもVIBRA///GHOSTが効果をもたらす。
日本での虚無症が推定30万人に達したとき。
日経にVIBRA///GHOSTの記事が出る。(2000年11月26日付)
アメリカ大手ケーブルTV、インターネット、AT&T、ゲームメーカー、広告代理店、石油会社が出資しテキサスの小さなガレージベンチャーが一気に巨大ネットワークコミュニケーション企業に成長。
同時に日本上陸。2000年12月7日。すべてのメディアを利用しての広告戦略開始。
メッセージは、『VIBRA///GHOST @ System 6 @ HEAVEN @20001207 @SHIBUYA』
音彦たちは一見正常に戻った雑誌記者に、テキサス取材の出来事を問いつめるが記憶をなにかでロックされている事を知る。彼がときおり鼻歌で歌っている歌<CANDY MAN>にヒントを求めそれを聴かせるルビー。
記憶が戻ってゆくが目をはなした隙にかれは窒息死していた。
色とりどりの666個のキャンディが体内から発見される。
新聞のすみのちいさな死亡記事。”入浴中ペースメーカー停止30代独身女性。漏電の疑い。”
しかし、それがあのヘッドフォンVIBRA///GHOSTに組み込まれた電極による感電死であることは誰もまだ気付かない。


第7話『FEN』

サファイアは情報収集のためインターネットにHP/『VIBRA///GHOST///HEAVEN』を立ち上げ数々のサイトの統合を始める。
ダイヤモンドは、大量に人材募集しているVIBRA///GHOSTジャパンへ派遣社員として潜入。
system 6の全貌と2000.12.07上陸からはじまるイベント12.24クリスマスイブそして12.31HEAVEN2001の戦略チームに選曲ディレクター助手として選ばれる。
依存症のルビーはFMナビゲータに復帰しVIBRA///GHOST特集のなかでリスナーの声としてすこしづつ疑問をなげかる。
山野は秋葉原親父連にVIBRA///GHOSTの完全分析を依頼する。
同じ頃、Panasonic,SONY混成チームがVIBRA///GHOST分析にとりかかるが、ライセンス供与としてVIBRA///GHOSTのブラックボックス化が始まり空中分解させられる。ひとりの研究員があきらめず自宅で分析続行するが雑誌記者と同じ変死体で発見される。誰一人として秘密に近付けない。
サファイアのHP/『VIBRA///GHOST///HEAVEN』にあつめられた書き込みのなかでいくつかのヒントが見つかる。
"CD使っていないのに点滅するときがある”
"口でくわえていたら感電した"
そんな書き込みに膨大な量のみんなの答えがつづくハードディスクはハングアップ状態だ。
そして音彦は"VIBRA///GHOSTトリップベスト100"でリストアップされたCDレーベルに共通性を見い出す。
アメリカのある石油会社が出資しているレーベルが上位を占めていた。
そして2000.12.07 渋谷ハチ公前に誰も体験したことのないイベントが始まる。
のちに、12.07渋谷騒動と呼ばれる事件である。

第8話『GT管』

2000.12.07/13:00/SHIBUYA

渋谷ハチ公前広場はセンター街入口、109-❷、正面TSUTAYA/SHIBUYA、三愛ビルなどのJUMBO/TRON、そして井の頭線ステーションビル、東急東横店全壁面はこの日に合わせVIBRA///VISIONとなる。
ハチ公広場を囲む六方位はすべて巨大スクリーンとなりさらにVIBRA///SOUND/SYSTEMではじめて統合された。
この時間ですでに推定10000人の人々が集まり混雑を極めていた。しかし不思議と平穏な空気に包まれ人々は立ち止まらずつねにゆっくりと移動していたためJR渋谷駅出口も緊急閉鎖されることなく、道路閉鎖もなく人々は渋谷へあつまっている。
6基のスクリーンにはTVCMと同じ『VIBRA///GHOST @ System 6 @ HEAVEN @20001207 @SHIBUYA』の文字とカウントダウンする数字が静かに表示されさながら嵐の前の不穏な静けさであった。

2000.12.07/13:00/秋葉原

秋葉原親父連はラジオデパート集会所でへんてこな機材を山ほどもちこみVIBRA///GHOSTの解析をもう何日もつめているが、煮詰まってしまっている。なぜか時間によってデータが不規則に変化するのだ。ヘッドフォンのくせに。
やけになって、分解する前に冗談で電子レンジに放り込んだとき。不規則なデータが線的に変化した。
シールド、、、? するとマイクロ波を受信しているのか?! それが突破口になりイヤーパッド部の金属リング(電極)もわずかな錆から脳との直接的な関わりがありそうなことが推測された。

2000.12.07/15:00/西麻布

ルビーはFM番組のオンエアー前の打ち合わせ、渋谷にレポータを行かせる。彼女のヘッドフォンはVIBRA///GHOST、すでにヘヴィーユーザーとなっている。眼下の六本木通り渋谷方面は前代見物の大渋滞となっている。

2000.12.07/15:00/青山通り

渋谷へ向かう音彦の車、同じく大渋滞のなかにいる。
秋葉原からの話で音彦は追田に連絡をとる。イベント中止を警察のほうから出来ないか?! しかしなんの関連も証明できない、警察は動けない。長い沈黙の後、追田は答える。『非合法だが』

2000.12.07/16:00/SHIBUYA

渋谷ハチ公前広場正面のTSUTAYA/SHIBUYA最上階は、コントロールルームである。
最終チェック段階に入った。ダイアモンドほか日本人スタッフは閉め出されアメリカ本社スタッフがコントロールルームに入ってゆく。笑いながら通り過ぎるかれらの会話に『BEAUTY&THE BEAST/美女と野獣』というフレーズが気になるダイアモンドだった。

2000.12.07/16:00/SHIBUYA

サファイアは東急屋上時計台にインターネット仲間と陣取り、モバイルで同時中継をアップするセッティングをしている。

2000.12.07/16:55/外苑前

音彦は車をすて。渋谷へ向かって歩き出す。
渋谷から唸るような歓声が聞こえる。
待ち望む人々のカウントダウン。
VIBRA///GHOST @ System 6 @ HEAVEN @20001207 @SHIBUYA がもうはじまる。

2000.12.07/16:58/SHIBUYA

コントロールルーム。
『BEAUTY&THE BEAST/美女と野獣』とかかれたメモリーが VIBRA///SOUND/SYSTEM に差し込まれる。

2000.12.07/17:00/SHIBUYA

VIBRA///GHOST @ System 6 @ HEAVEN @20001207 @SHIBUYA スタート。

第9話『テクノ』

(渋谷騒動ニュース映像と体験者や入院している人々の証言による構成。)
・渋谷上空、報道ヘリからの映像/17:10/あふれかえる人々めまぐるしくフラッシュする6基のVIBRA///VISION
・代々木オリンピック体育館/緊急医療所/21:25/包帯姿の女子大生の証言/
 『すばらしかった!あんな体験今までなかった!え?覚えてるのは空が割れて、光の天使が、キューピッドだよね、 見たでしょ!』
・代々木オリンピック体育館/緊急医療所/21:31/男子中学生の3人組/
 『、、、なんかこうみんながひとつってゆーか、こころが、、』
 『天使が空から何億も降りてきて、俺の胸に光の矢をバッシュッ!て、そっから記憶ねー』
 『えー?なんかさ、オナニーしていていきそうな瞬間、頭ン中金色でさ、気持ちいーの!』
・東急屋上時計台からデジカメで撮られた人々/17:15/サファイア達の声がする/
 幸せそうな人々の顔、ゆっくり身体を流れに任せている。
 『そろってるねー!動きが、、、メッカの礼拝見た事ある?』
 6基の光りがそろってくる、変化が起きる。
 『見て!あそこ、え?嘘?!』
 人々が融合を始めるように見える、恋人同志が、見知らぬ同志が、隣同志が、触れあう、接吻、求めあう。
 立ち上る熱気、エロスに魅入られた推定3万人の人々。
・代々木オリンピック体育館/緊急医療所/21:40/フリーター20才女/
 『ボタン?やだちぎれちゃったのね、夢のなかにズーッといたって感じ。』至福の表情が一転する。
 『でもアイツら!右翼?それから機動隊!邪魔しやがって!!』まるで吠える野犬のような表情。

17:35 渋谷ハチ公前の熱狂を止めたのは右翼の宣伝装甲車20台と突撃単車部隊100台。
爆音と最大音量の160個のスピーカから叩き出された勝手な選曲の軍歌や御詠歌、ゴジラの主題歌や演歌。
それに被るアジ演説が調和されたVIBRA///SOUND空間をぶち壊す。
そして警察官、機動隊の突入。エロスの夢からさめた人々はわけ分からぬままに逃げまどい、宣伝装甲車を倒し、
バイクを燃やした。だが不思議な事に右翼の隊員はその場から姿を消し、誰一人逮捕される者はなかった。
横倒しになった宣伝装甲車の車体には『日本愛国青年同盟』と描かれている。


第10話『スピーカーケーブル』

VIBRA///GHOST は右翼団体と警視庁を相手どり損害賠償を請求する。
実在しない右翼団体『日本愛国青年同盟』。ゆえに警視庁は矢面に立たされる。
マスコミはこぞって警察へのバッシングを始める。
ある大物政治家の仲介で VIBRA///GHOST 輸入関税特別軽減措置と交換に和解。
事実上 VIBRA///GHOST はタダ同然で日本に輸入されることになる。
同時に、科学技術庁と厚生省がVIBRA///GHOSTの虚無症状と心理的精神障害者に治癒効果があることを示唆。
結果的にVIBRA///GHOSTは完全なる善としてのイメージを定着。

音彦は、秋葉原チームの技術分析に足りない臨床知識を補うため、元恋人の京都大学心理学部臨床心理学助教授赤井かえでに協力を要請する/被験者/ルビー。

ダイヤモンドは次のイベント2000.12.24の準備のなか、証拠をつかむためVIBRA///GHOST社内で活動を再開するが、素人ゆえあやしまれ消息途絶える。

2000.12.24まであと14日。

第11話『無調音階』

『こんなことをさせるために私を京都から喚んだの?音彦』かえでの罵声が響く。
赤井かえでは、何も知らされず東京に呼びだされ。苛立っていた。

ばかばかしい、いま流行りのヘッドフォンが人の脳に影響を与えているだなんて開いた口が塞がらない。
どう考えても自己中心的で懐疑的な音彦の妄想に振り回されているとしか考えられない。

『だいたい、あなたは時代遅れで、懐疑的で、懐古趣味で、被害妄想で、自己中心的で、、、素晴らしい発明じゃない?VIBRA///GHOST。どうして新しい発明に適応できないの?怖がってばかりでいつまでもレコード棚の奥に隠れてばっかりいないで、若い人達と一緒に新しいものに飛びつけばいいじゃない。すばらしいよ、この発明は!って』

 赤井かえで。女性で京都大学の助教授に登り詰めるには、このくらい気合いの入った性格でないとやってられない。

『麻薬だと思う。抽象的な意味じゃなく』音彦が答える。

『アルコールはどうなの?煙草は?音楽だって、映画だって、TVだって、ゲームだって、人は快楽なしには生きてゆけないのよ!習ったでしょ、経済は快楽を売り買いしてるって、、、』

『わかった、俺が悪かった。帰ってくれ、君に助けを求めたのが間違いだった。すまなかった先生』

さらに笑顔で付け加えて言う。

『と、挨拶がすんだところで聞いてくれ。ーーーこの件で僕が知ってるだけでも2人の人間が変死しているんだ。

キャンディを666個もほおばって窒息してね。

その上、姪のひとりはVIBRA///GHOST 社で消息を絶った。

で、この子供だましのヘッドフォンは右と左の音の差を利用して何かをやろうとしている。

それにこの上手にカモフラージュされた電極はたぶん脳に影響をあたえている。

コントロールはマイクロ波を使われてる。

技術的なことはこちらでやる、何をしようとしているのかを知りたいだけなんだ。

今夜だけでいい、君の臨床心理の力が必要なんだ』

『そう、面白そうね』

どうやら音彦はかえでの扱いは心得ているらしい。

クリスマスへ向かう街の賑わい。渋谷のVIBRA///VISIONからはOEMされたオーディオメーカ各社から緊急発売されるVIBRA///GHOST inside商品の広告がひっきりなしに流されている。

2000.12.24/LORD OF HEAVENと名付けられたイベントに向けてVIBRA///GHOSTを購入する人々はピークに達する。


『オネエチャマ、タダイマ』

消息を絶っていたダイヤモンドが音彦のもとに帰ってきた。幼時退行した7才の心で。
極度に疲労した身体と心。救急車で大学病院に運ばれる。
自分を責める音彦、彼女達を巻き込んだのは自分なんだと。
精密検査の結果、疲労と心神喪失、幼時退行、外傷は無いが彼女は身体の中に不思議なものを隠していた。
”Beauty & the Beast”とフエルトペンで書かれた白いメモリースティック。
彼女は11年間の記憶と引き換えに唯一の物的証拠を手に入れたのだ。

うたた寝、夢の中で音彦は自分と対話している。

自分の思い込みと、自己中心的行動が原因で周りの人々をとんでもない状況に引き込んでいる。
音彦の確信が薄らいでゆく。

かえでは成果をあげてゆく。VIBRA///GHOST 未体験の自分を検体として、経験前後の血液分析を行う。

さらに、CDの種類による脳波の分析を行った。

仮説
VIBRA///GHOST は人間の脳を生理学的な機械として考えられたものである。

VIBRA///GHOST は右と左の音のわずかな差違を修正しようとする脳の働きと電位差の刺激を利用して脳波をフィードバックしながら目的のパターンに導いてゆく。

VIBRA///GHOST はA10神経系を刺激し通常の数倍の脳内麻薬を分泌させる、そのため損傷した部位をコーティングするが自家中毒的習慣性がある。

VIBRA///GHOST はCDによる5つのパターン以外にマイクロ波によってコントロールされている可能性がある。

VIBRA///GHOST さらに視覚的刺激と合わさることにより、幻覚に似たイメージを脳に感じさせることがある。

生理的には、『恋を望み続ける状態と恋をしている状態』を繰り返している様なホルモンの分泌パターンになる。


かえでは

『とてもロマンティックな発明』

と評したが、うがった見方をすると阿片戦争以来の精神コントロールを目的とした発明だろう。しかもそれは誰疑う事なく堂々と売買され市民権を得ている。

これをいま有識者に公表しても笑い飛ばされるだろう。

どうすべきか、音彦は悩む。

追田に連絡する音彦。

しかし、追田はおかしな態度で答える。

盗聴?何者かの力が追田の周辺に?

街へ。音彦は彷徨う。

VIBRA///GHOSTは日常のものとなっている。

そして、街角ごとに音場を形成しはじめたVIBRA///SOUND/SYSTEM。

SHOPで衝動的に手に入れ聞き始める音彦。

久しぶりの快感、そして街角ごとに微妙に変わる意識。

むさぼるような情感のなかに没入してゆく。

2000.12.12 街はクリスマスへ疾走している。

第12話『14.2歳』

友人、音楽雑誌編集長・山水純一は山野を探していた。ミュージシャン達の声が彼を動かす。
VIBRA///GHOSTのサウンドの違和感に気づいた人々だ。
彼らもそれぞれ研究していた。

何かが違う、ただそれだけの理由ではあるのだが、戦後のJ-POPSを日本の音楽シーンを築いてきた人々が集まる。

それぞれが勝手な思い込みでVIBRA///GHOSTに疑問を抱き、できる限りの調査と実験の結果を持ってやって来る。

音彦のかわりにかえでとサファイアが参加する。

手に入れたわずかな結果をもって。 

音彦はそのときダイヤモンドの病室にいた。

病室は何百枚ものCDの散乱したありさま。音彦は彼女に聞かせていた。

考えられるかぎりの彼女のための歌を。

そしてVIBRA///GHOSTのワイアレスアダプターには何重にもまかれたアルミフォイルのシールドがあった。 

サファイアは研究会の人々のなかにまざって参加している不審な人物に気がつく、思い出せない。

彼はあの渋谷騒動のときに乱入した日本愛国青年同盟のリーダー格の若者である。 

会合は20時間をゆうに越える、アメリカンポップスの麻薬についてのサブリミナル効果、同時期のリバプールサウンドの類型。

ふつうなら人前で語ることをはばかるようなそれぞれの思いの中、かえでには気になる言葉があった。

『CANDYMAN』そして

『SweetGingerBreadMan』

どちらもティーン向けの60年後半のアメリカンポップスのタイトルだ。

かえでが発表を行う。

学会ならまだしも、この集団がどれだけ理解してくれるかはわからないができるかぎり分かりやすく伝える。

実は、とはじめてVIBRA///GHOSTを分解した男が語り始める。

かえで達の実験を裏付ける回路図を提示する。

そして、肝心のチップ心臓部の青いCPUをこじ開けた所で話しがとぎれる。

『それが。中は空洞なんです』

会議が宙に浮く、今まで追いつめていた事がすべて空論になる。

その場で手持ちのVIBRA///GHOSTを使ってやってみる、

青いCPUは空洞だった。


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