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「結」 ー Phase 1 ー Uzumakism

吾輩はねこである。名前はまだにゃい。
どこで生まれたか頓と見当がつかぬ。
人生、じゃにゃい。猫生にゃんせいに少し嫌気が差している猫である。飼い猫にゃら幸せだったかも知れにゃい。
にゃににゃい山から街へ降りて来たけど、誰も拾ってくれそうもにゃい。
にゃんヶ月も続く土砂降りの雨のにゃか、野良猫をするのも辛いにゃと思いにゃがら路地裏の一角に雨宿りの為の軒を見つけて眠りに落ちた。
夢のにゃかに現れた女神さみゃが吾輩に優しく声を掛ける。
「猫をしているのが辛いにゃら、、、じゃない辛いなら、人間になってみるのも良いかもしれないですね。どう?一度人生と言うものを味わってみては如何かしら?」
吾輩は小さにゃ声で「ミャー」と答えた。

目が覚めると”私“と同じく名前が無い港にいた。
どうやら私は旅人の身体に乗り移ったらしい。にゃるほど、これは楽しい冒険が始まりそうだ。


MUSUBINA KITCHEN」に初めて入店した日、「何年も来ているお客さんみたいやねぇ」と馴染み具合を褒められたのを覚えている。可笑しな話でこのお店はオープンして半年も経っていない。それなのに私自身も何故だか“懐かしい”感じを覚え何年も店に通う“常連さん”の如く振舞ってしまったのだ。

その日は店主のさゆりさんのお孫さんがテキパキとお手伝いをしていたのが印象的だった。窓ガラスをキャンバスにしてガラスクリーナーの絵の具と雑巾の筆を上手に使い、落描きと掃除を同時にする。描いては拭き、描いては拭く。その動作の途中で振り向いて愛想するお孫さんはとても愛らしい。一生懸命にお店を手伝う姿は自然と私の心のスケッチブックに鮮明なデッサンとして猫き残された。

次に小さな店員さんは、カウンターの中へ入るとソーダ水のペットボトルをダンボールから冷蔵庫にテキパキと補充しながら「もう仕事ないの?」とおばあちゃんと呼ぶには若い彼女の祖母に向かって問いかけた。
「もうないよ。座って遊んどき」と言うさゆりさんに「もっと働きた〜い」と体をくねらせながら彼女は労働の悦びを体現するのである

なんと、可愛い働き蜂だろう。私の縄張りにこんなに素敵な生き物がいた事にどうして今まで気付かなかったのか…。「あんまし働きすぎたら労働基準法違反や。ゆっくりし」と声を掛けた後に「“むしょく”が言う事じゃ無いけど」と自虐的に言うとさゆりさんが「自由業でしょ。イイじゃない」と笑って返してくれた。

余りの居心地の良さにまたこのお店へ行きたくなった私は程なくして二回目の来店を果たす。その時に私は非常に格好の悪い忘れ物をした。少しお酒を飲んで酔っていた所為もあってかポケットに入れていた“督促状”と1万円を同封していた封筒を店の床に落として行ってしまったのだ。

幸いお店を出てすぐに気付いた。コンビニに立ち寄って支払いを済ませるつもりだったので、道中ポケットに手を突っ込んだのが良かった。お金の入った封筒を落とした割に大して焦りはしなかった。何となく“あの店”に落としたに違いないと直感したからだ。「あちゃー、カッコ悪い事したなー」と思いながら直ぐに踵を返してお店へ向かった。

「良かったー、連絡先も分からへんしどうしようかと思って」とさゆりさんと妹のきょうこさんに心配を掛けてしまった。「一応、中身を確認してね」と言われて「督促状やねん、ワンチャン払ってくれるかも知れんからこのまま忘れて帰っても良かったんやけどな」と照れ隠しに詰まらない事を笑いながら言い捨てて改めて帰路へ着いた。

私の席の隣に座ってひっそりと上品に飲んでいたあの紳士の様に素敵なお客さんで在りたかったのに…。
「あかん、このままあの店に行くのを止めたら“督促状落とした人あれから来ないねー”なんて言われてしまう」そう思った私は、この情けないエピソードを挽回すべく「MUSUBINA KITCHEN」への再訪を自らに誓うのであった。

それからと言う物、私は事ある毎にこの店へ通う様になって行った。

さて、この文章には“えがく”と言う字を書くべき箇所が“10箇所”有る。
しかし“ねこ”が一匹悪戯をした様だ。
幸運のネコを是非捕まえて欲しい。血眼になって探して見つけたみんなには…

「エエことがある。エエことが起きるんや」

Phase 2 へ続く  ▶︎▶︎▶︎

Work ❶ はこちら ▶︎▶︎▶

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「MUSUBINA KITCHEN」
〒653-0811 兵庫県神戸市長田区大塚町4丁目1−11

https://www.instagram.com/musubina_kitchen/

hidenori.yamauchi

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私の伯父「山内秀德」の遺作を投稿しています。是非ご覧ください。

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