「結」 ー Phase 2 ー Uzumakism
人生の海には波がある。荒波で時化ている日があれば、波のない穏やかな凪の日もある。時と共に海の様子は変化する。シケた面では辛い旅になるから凪を待つ。長い航海に出て後悔しないためにも出航日は凪を狙う。そうだ、あの港の名前は“ナギ”にしよう。
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いつものガールズ・バーでいつもの姉ちゃんにいつもの様に閉店まで相手して貰う。私はこの娘を“幸運の女神”と憚らずに呼んでいる。“幸運の女神”に会う日は必ず事件か奇跡に遭遇するからだ。
閉店後の帰り際、エレベーターが降りるのを見送ろうとする女神に向かって、私はエレベーターのドアに間抜けな具合に挟まれながら「早よ店戻り。このままやったらいつまでも帰らんで。」とこれまたいつもの儀式をする。
見送られるより見送る方が私の性に合う。「ありがとうございましたー!」と魚屋みたいなお別れの挨拶が、降りて行くエレベーターの上で木霊するより余程情緒があるからだ。
手で払い退ける仕草をしながら「見送ったるから店入りや。エエことがある。エエことが起きるんや」と馬鹿の一つ覚えのセリフを吐くと、察して相手も愛想笑いを浮かべながら店の入り口へ向かって行った。
毎度お馴染みの“エエこと”を確認し終えると私はエレベーターの“閉”ボタンを押す。現実世界へ通じる4次元立方体が天国から地上まで6階分降りて行く。5、4、3、2、1、チーーン、ってなもんだ。
“さよなら”の挨拶の名残り惜しさをカイロ代わりに懐に携え29時の寒いこの世へ私は舞い戻る。
家路に着こうと西へ歩き出した私は、道端でちっこい中国人にとっ捕まっている白人男性を発見した。これが幸運の女神が齎した今日のイベントらしい。
この中国人は確か“サイセイ”だか“サンセイ”だか何しか“西”って漢字が入る所の出身だったと思う。こいつの兄貴がべらぼうに絵が上手い。しかし妹はぼったくりが糞ほどド下手だ。
「おー、静ちゃん久々やのぉ」と冷やかしで声を掛けると“なんちゃらかんちゃらで〜”と愛想して来た。目の前にいるこの青っ白いデカ物を今から転がそうとしている様だ。可哀想に、静ちゃんの今夜の獲物になるであろう顎髭生やしたゴツいおっさんが私に聞いてくる。「You, Friends?」
私は「ノー、ノットフレンド」と答えるとすかさず中国娘が「違う違う私たちフレンズ〜」と嘘を吐く。「アホか、ジャスト・カスタマー!」と叱り付けたら、負けじと「知り合い知り合い!」なんて意味不明な事を言って腕組みをして来た。
恐らく、大枚をお財布にサンドイッチしているであろう迷える“仔猫”に私は片言の英語で「夜の街の中国人は危険だ」と再三忠告した。
しかし「明日からの5年間の台湾赴任が決まっているから、どうしても日本で思い出を作りたい」とこれまたコイツも訳の分からない事を言い出す。アメリカからやって来て日本で中国人に痛い目に合わされるなんて気の毒な奴だ。
彼女らに捕まると“客”が知人になったり、友達になったりする。金を持ってると分かると「アナタ、私の彼氏!だからもう一杯飲ませて」と咆哮し出す。中国の娘達の言う“一杯”は大概の場合“いっぱい”即ち“Lots of”の間違いだ。
Lots of money を財布に入れているなら、ハイエナ達の前で開ける事はオススメしない。この娘らはハイエナに見えるが実は大陸からやって来た人喰い虎なのだ。
暫く不毛なやり取りをした後「1時間奢るから一緒に行こう」と言い出す始末。
テネシー州出身のこのおっさんも一人で冒険をする勇気はないらしい。
台湾人の彼女が欲しいと宣っているが、そんな話をすると「台湾は中国か?」問題が発生してまたまた不毛なやり取りが始まるのに、このウィスキーおじさんは何も分かっちゃいない。
コイツも三ノ宮の夜の街に網の目の様に張り巡らされたチャイニーズ・ネットワークの恐ろしさを今宵知る事になるのだ。
私はこの際、ジャック・ダニエル野郎がニーハオ沼でエライ目に会うのを見学する事に決めた。虎の檻の中まで入れるサファリパークへ、財布の紐を固く閉じていざ行かん、だ。
さて、今日は“仔猫”が文章の中に一匹迷い込んでしまった。牧場から逃げ出した子羊と入れ替わったみたいだ。だが、直ぐに見つかると思う。
幸運のネコを是非捕まえて欲しい。血眼になって探して見つけたみんなには…
「エエことがある。エエことが起きるんや」
Phase 3 へ続く ▶︎▶︎▶︎
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