見出し画像

ユニクロ、T、7、SMAPのデザイン戦略★佐藤可士和展

 ユニクロ、Tカード、セブン-イレブン――街中でよく見かけるデザイン。歩いていると、ふと目に飛び込んでくる。そういえば、街を見渡すと、店の看板・広告、外国料理店の国旗、駅やトイレの案内など、競い合うようにデザインだらけ。赤色の「〒」マークだけで郵便ポストだと分かるように、普段意識していなかったが、デザインって結構面白い。

 ユニクロ、Tカード、セブン-イレブンなどのグラフィックデザインやパッケージなどの企画を手掛ける佐藤可士和(さとう・かしわ、1965~の個展「佐藤可士和展」が、国立新美術館(東京都港区六本木7-22-2)で開かれている(5月10日まで)。

画像9

本展会場から

 1990年代から2000年代にかけて、アイドルグループのSMAPの広告に、アイドルの顔写真を使わずに「Smap」というロゴマークを街中に展開したり、ホンダの車「ステップワゴン」のCMで、子どもの落書きのような手描きを用いたりして、注目を集めた佐藤可士和。現在に至るまで、楽天、日清食品、キリンビール、NTTドコモ、くら寿司、三井物産などの企業デザインを手掛け、幼稚園、団地などのデザインにも携わっている。ちなみに、本展の会場である国立新美術館のロゴマークもデザインした。

画像8

 国立新美術館のロゴマークでは「新」という字を抜き出すことで、新しさを強調した。Tカードのロゴマークでは「T」を全面に表示した。ユニクロそのまま「ユニクロ」。シンプルといえば、シンプルである。単純な発想にみえるが、シンプルだからこそ目に飛び込んでくる。

 文字の大きさ、バランス、配色といったすべてが、デザインの要素である。例えば、オランダのグラフィックデザイナーで絵本作家ディック・ブルーナが生み出した、ミッフィー(うさこちゃん)は、誰でも描けそうなウサギ。だが、目の位置関係が厳密に決まっており、商品化にあたっては、そのことが守られているデザインだ。

シンプルな文字と色の力強さ

 ユニクロは以前、「UNIQLO」というロゴマークだけだった。佐藤可士和は、これに、カタカナの「ユニクロ」というロゴを加えた。カタカナなら誰でも読めるし、すっと目に入る。そして海外も意識した「UNIQLO」のほうは、以前よりも、文字を縦にスリムにした。服のイメージに重ねると、縦にすらっと長く、細いほうが、消費者に好まれるからだろう。

 さらに、以前のロゴマークでは背景色がエンジ色だったが、赤色に変更させた(元々は赤だったらしい)。赤色のほうが発色がよく、目を引くというシンプルな理由からだろう。ただ、文字の色は、白い文字にして、シンプルかつ清潔感というイメージを与えた。

 Tカードの配色には、青色と黄色という補色関係を利用した。こうしたデザインに、ある意味ベタな配色の手法をあえて選ぶのも、雑然とした街の中で”目立ち”、カードだらけの財布から”すぐに見つかる”ことを、何よりも優先したからだろう。

安定した形が安心感を与える

 ユニクロのロゴマークのかたちに注目すると、赤い背景は”正方形”である。安定した形なので、見るものに安心感を与える。

画像9

 ロゴマークが正方形だと、いくつも並べやすく、均等に配置したときにリズム感も生まれる。このロゴマークが店だけでなく、買い物袋などにまで展開されることで、街行く人々の印象に強く残ることだろう。

 これは筆者の勝手な推測だが、ユニクロの「ク」の字の底が折れ曲がっているのは、横の直線にすることで、大地のように安定しているという視覚効果を得ている。というのも、佐藤可士和は、自身の名前にある「士」の字を気に入っていて、立ち上げた会社の名前を「株式会社サムライ」としたほど。「士」という漢字を、建築物のように見れば、縦の柱と横の梁(はり)、土台が安定している。

 セブン-イレブンのロゴマークを変えるときも、流線的な「i」を直線の縦にした。柱を立てたような安定感が生まれている。安定による安心感を求める現代人にとっては、安定感を与えるデザインこそが、求められているのだろう。

企業経営まで”デザイン”する

 情報過多の現代、店やビルの看板・広告などといった情報があふれ返った街では、行き交う人々の視線は次々と移り変わる。しかも、ほとんどは歩いているから、瞬間的に読める文字、ぱっと目に飛び込むデザインといった戦略が必要となるわけだ。

画像10

 佐藤可士和は、1965年、東京生まれ。建築家の父親を持ち、剣道にいそしむ。多摩美術大学を卒業後、1990年に広告会社大手の博報堂に入社。ホンダのステップワゴンの広告などを手掛けたが、2000年に独立して「SAMURAI」を設立。その後、企業のデザインを中心に、さまざまなデザインを手掛けてきた。 

 デザイナーは、建築家と似ている。どんなに有名な建築家でも、発注がなければ、仕事は何も始まらない。コンペで競い合い、時には依頼主を喜ばせる工夫を施し、依頼主の意向をくみ取る必要がある。

 いわゆる商業デザインもまた、企業側の意向を反映させつつ、デザインを提案する。そして、それが企業の売り上げにどれだけ貢献したか、より多くの人々への訴求力が求められる。近年は特に企業や商品ブランドのイメージ戦略が重要視され、佐藤可士和は、デザインを通じて、経営者とコンタクトを取りながら企業の経営戦略にまで関わってきた。いわば、茶道をしながら政治にも意見していた千利休のような参謀役といったところか。

画像9

白いキャンバスへの野望

 ある時から、佐藤可士和は自らをブランド化して、作家性を全面に打ち出す。それは、どんな作品を設計したかを問われる建築家が、有名になると、誰が設計したかで注目を集めるのと同様、一つの戦略でもあろう。

画像8

 自らをクリエイティブディレクターと称する佐藤可士和。美大を卒業後、圧倒的に自由に表現したい衝動もあったというが、それを抑えつつ消費者への訴求力を優先的に考え、デザインを手掛けてきた。アートと違って、商業デザインは広く社会に流通することが目的であり、ある意味、誰でも見たことがあれば成功で、消耗される作品ともいえる。

 そんな佐藤可士和にとって、今回の個展はまさに願っていたものに違いない。佐藤可士和は自ら展示の構想を練り上げ、これまで手掛けたデザインを、巨大な作品として制作し配置していった。国立新美術館の展示会場は、ホワイト・キューブと呼ばれ、いわば白いキャンバス。そこでの作業は、白い紙に子どもが絵の落書きをするような童心に戻ってワクワクしたはずだ。 

画像9

 どこまでも延々と続く直線のように、広大なスペース(宇宙)の創造者になれるような感覚。そんなアーティストとしての自身と向き合いながらも、寄り添うデザイン。愛媛県今治市の今治タオルでは、デザインしたロゴマークを主張せず、白地のタオルの部分を強調した。

画像9

 さりげなく真ん中に小さくあるロゴマークのデザインが、タオルの白さをかえって際立たせ、斜陽化していた地場産業を救った。創造性で未来を指し示す、なるほど、それがクリエイティブディレクターなのか。

▲上のリンクが公式サイトです▲
【★ひーろ🥺の腹ぺこメモ】美術館のフランス料理店は美味しいので、リッチな気分のときに。東京ミッドタウンが安定で、全体的に値段は高めだけど、六本木交差点付近までにリーズナブルな店も。

画像7


サポートしてもらえたら、うれしいです🥺