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女の恋は上書き保存、男の恋は名前を付けて保存 46

 別れ際、優弥は体を折って丁寧に理佐にお辞儀をした、彼はその時すっと手出して握手を理佐へもとめる、理佐も手を伸ばしてそれに、笑顔で応じる、優弥は握手したまま、掴んだ理佐の手をそっと自分の右の頬へ持っていく、理佐の手が、導かれて彼の頬を包んだ。理佐はあっと言う間の出来事に、驚いて声も出さずにいると、優弥は理佐の手を持ったまま、そっと彼女の手にそっとキスをする、理佐は、あの夏の桟橋の出来事を思い出した。
優弥が手を戻した後も、二人はしばらくの間無言で互いの目を見ていた、すると優弥は小さく、お元気で、失礼します、と言って、軽く目礼をして、地下鉄の駅の方向へ歩き出した。
優弥の姿がビルの陰に隠れるまで、理佐は静かに彼を見送っていた、彼の姿が見えなくなるとしばらく名残惜し気に、優弥が曲がったビルの角を見ていたが、踵を返して、駐車場へ向かう、向かう途中、なにも悲しくないのに、なぜかしら涙がとまらなかった、 ハンカチで拭いても、拭いても、なぜかしら、とめどもなく涙が頬を流れた。

 


 珍しく夫が、お祝いをしようと積極的だった、紗香の就職が決まったことを、連絡すると、海外にいるにもかかわらず、すぐに返事が来た。
「お姉ちゃんの事になると、パパはいつも張り切るね。」と由香が言うほど、今回はなぜかしら夫が一番喜んでいるようだった。
夫が帰国した週末に、会食するとことになった、理佐は久しぶりに家で、ゆっくり家族全員で食事でもして、過ごすのもいいかなと思っていたが、夫が理佐の負担を考えてか外食にしてくれた。
 予約一切はすべて夫に任せていたので、理佐たちは、前日遅く帰った夫から集合場所と時間を知らされただけだった。夫はよほど楽しいのか、笑いながら「時間厳守」だよと、理佐たちに告げると、楽しそうに理佐が作った夜食を食べ始めた。
 こんな時、抜け目のない由香は、その集合場所の駅から、心当たりのレストランをネットで調べて、たぶんここだよと理佐へ知らせたりする。あいにく金曜日の夜の事で昼間はそれぞれの都合があって、当日は4人とも集合場所へ、各自で向かうことになった。
 理佐は乃木坂で地下鉄を降りると、少し急ぎ足で集合場所へ向かう、すでに由香と紗香もきていた、暫くすると夫が現われる、昨夜時間厳守といっておきながら、5分も遅れてきた。


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今宵も、最後までお読みいただきありがとうございました。

少し唐突なお別れだったかもしれません・・・

後4回で、この物語は一応終わります。

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