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会社を経営しています、時間があるとき、旅に出たとき、思うがままに物語を紡いでいます。 …

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会社を経営しています、時間があるとき、旅に出たとき、思うがままに物語を紡いでいます。 僭越ながら、私の拙い物語で、楽しい時間を過ごしていただければと思っています。 これまでの在庫作品をすこしづつ、載せていきます。 感想もお聞かせください

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素敵な靴は、素敵な場所へ連れって行ってくれる。46(最終回)

 地下鉄を降りて、日陰のない道を、汗をかいて歩き、ようやく会社のビルのポーチを抜けて入口まで来たとき、少し先を、着物を着た女性が歩いているのに、二人は気付いた。 こんなオフィス街に和服を着ている人自体珍しい、しかも盛夏は過ぎたとはいえ、まだまだ暑い日は続いている、ビルからか出てきた外国人達が思わずその人を振り返ってみていく、薄い水色の着物と、白い帯が涼し気で印象的だった。その人は何か急いでいるのか、小走りにビルの中へと入っていく。後ろ帯の花の絵柄が美しい。 少し遅れて、有美た

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       拓海とは、あの夜以来、互いに言葉を交わすことが少なくなった、拓海自身もあの賞を受賞以来、忙しいのか、遅くに帰ってきたり、場合によっては帰ってこなかったりした。 ある夜は、拓海の事が載っている新聞を有美に見せてくれたり、来週テレビにでるんだと明るく有美に話したりはした。何か気まずいような二人の間を払しょくしたいのか、気を使っているように有美には思えた。けれども、お互いにやればやるほど、空回りしているような、かみ合わないような会話が続いていく。 有美も気を使って、いつも笑顔でそ

      • 素敵な靴は、素敵な場所へ連れて行ってくれる。 44

        「へぇ、すごいね、こんな賞をとるなんて。」 紗季は、注文したパスタを食べながら、早速スマホで、拓海が受賞した賞の事を検索している。 パスタがおいしいこの店に行ってみようと、昼前に紗季が、有美のところへ誘いにきたので、会社からは少し遠くなるけど、誘われてみて有美も久しぶりに行く気になった。 いつの間にか、会話の中で、拓海の話になり、二人の事情をよく知っている紗季に、有美は少し拓海の受賞の件を話してみた。 大通りに面した席で、お昼を過ぎてこれから日当たりがきつくなるのか、店員が一

        • 素敵な靴は、素敵な場所へ連れて行ってくれる。 43

           地下鉄から、JRに乗り換えて帰路に就く、満員の電車から、押し出されるように降りると、深夜近くでも、またまだ人の流れは途絶えない、駅の中は昼間のそれと同じように、纏わりつくような蒸し暑さが全身を包む。  その暑さに、辟易しながらも、歩きながら、有美はもう一度あの絵の事を思い出していた。    どうして、大津には絵を見ていただけの自分が、そんなにも「神々しく」みえたのだろう、いままでの大津の自分への接し方や、南村が言いかけて止めた、あの言葉の先・・・  少し混乱するくらい、今夜

        素敵な靴は、素敵な場所へ連れって行ってくれる。46(最終回)

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          素敵な靴は、素敵な場所へ連れて行ってくれる。 42

           大津に付き合い、近くのバーへ二人で行った。そこは小さなビルの5階にある店で、表通りに面してはいるが、それとはわかりにくい店だった。  大津は、ここへはよく来るのか、慣れた足取りで、ビルの小さな入口から、エレベーターで店へと入った。  重そうな木目の扉を開けると、大きなカウンターが窓に向かって設えてあり、ちょうど六本木方面の夜景が正面に見えた。週末で店内は、混んでいたけれど、カウンターにちょうど空きがあった。  注文を終えると、大津は小さく溜息をついて、有美の方を見て、 「あ

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           その後も、三人でたわいもない話をしていうちに、デザートが出た、柿とジェラートをあつらえた凝ったもので、運ばれてくるなり南村が珍しく声を上げて喜んだ。  早々に、デザートを食べ終わった、南村が 「ごめん、ちょっと煙草吸ってくるね。」 そう言って、席を立った。大津がすっと席を空けて彼女を通す、南村は場所を店員の女の子に聞いているようだが、どうやら店内には、喫煙できる場所は、ないらしく、階段を上って店の外へ出て行った。 有美は、ここで、大津に聞いてみたい事を思い出した、ちょうど南

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           南村の話が、大津の反論もなく尻切れトンボの様に終わると、大津が運ばれてきた魚料理を、二人に取り分けた。ここ柔らかいよと言って、有美にその皿を差しだすと、今度は同じように取り分けた皿を、熱いうちにたべな、と言ってやさしく、南村の前に取り皿を置いた。  南村は、視線を合わすように大津の方をみて、小さくありがとうと言って皿を取った、今まで話していた声と違い、やさしさにあふれるような声に、有美には聞こえた。   暫く、三人が食べることに集中した後、大津が、そういえば、と言って、有美

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          大津が、コースを予約していたので、順次料理は運ばれてくる、有美がいつも紗季と食べているような料理でなくて、懐石料理のような、あまり食べたことのないものが、次々と運ばれてくる。 「プレゼンは、どうだったの?」  運ばれてくる、料理をテーブルの上で整理しながら、南村が、そう尋ねた。 「うん、少し今までとは毛色の違う、提案だったからね、上手くいくかどうか、けど向こうには、結構受けがよかったよ、心配するほどではないかもね」    こんな席では、あまり仕事の話はしたくないのか、大津は

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           待ち合わせは、7時だったので、有美は定時を少し過ぎたころに退社した、集合場所は、事前に南村から、直接ラインがきていて、三人がそれぞれ、その店で落ち合おうことになっていた。店の名前をとりあえず検索すると、駅から5分ほどのところだった。  麻布十番なんて、あんまり来たことないなぁと思いつつ、地下鉄の出口案内とスマホの地図とを確認する。  エスカレーターで地上へ向かう途中、その先に南村がいるのが分かった、先に降り降りた南村へ追いつく様に、後ろから声をかけた。  少し驚いたように、

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           駅から劇場までは、徒歩で五分ほどだった。  駅前繁華街の一角にある、その劇場は周りの商店などに挟まれた感じで、歩いていると突然現れた。  入り口付近は、開演時間が近いせいか、開場を待つ人たちで人だかりがしている。有美は駅から地図アプリを見ながら来たので、突然の人だかりに少し驚きつつも、結構な人数の観客の数に少し安心した。ここへ来る前は、観客が少なかったら、どうしようと少し不安だったからだ。紗季も誘おうとも思ったが、たぶん彼女は、演劇などには興味はないだろうと思い、声をかけな

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          コードを目視して、バグの個所を見つける、そしてそれを少し書き直す、そんな単純作業の連続だ。静かな音楽が流れる誰もいないオフィスで、一人有美は作業を続けた。  無人のオフィスは、有美とっては少し新鮮で、何ものにも妨げられず仕事に集中できるのは、心地よかった。  昨夜遅く帰ってきた、拓海に、仕事で会社へ行くというと、少し驚いたような眼を有美へと向けた。彼もここしばらくは、劇団の稽古で忙しいのか、帰ってきたり来なかったり、不規則な生活を送っている。  コードを一つ一つ直しながら有美

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          「どうしてですか?」 「うーん、ほらなんか、一番躍動的というか、横の二人を押しのけているような構図でしょ? 人から見れば私も、ああ見えてるのかなと思って・・・・ほんとは全然違うんだけどね・・・・」  少し寂しそうにそう話した。 「そうですか? 私にはそんな風には、見えませんけど」 そう有美が言うと、今度は南村が、あなたはどれが好きと聞いてきた。 有美は、少し考えるふりをして、おもむろに 「私も、真ん中です」と、答えた。理由を聞かれると、 「私、3人姉妹の真ん中なんですよ、それ

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          傷つかない恋愛なんてほとんどない。

          初めて彼の部屋へ行った時、ドアを開けると、いつもの彼の匂いがした。 大急ぎで、猫みたいに彼のベッドへもぐりこむ、 窓の外は、冬の日が柔らかく私を包み込む。 彼がベッドへ入って来て、後ろから、私を包み込む 彼の腕、彼の胸も私が独り占めしている。 暖かい彼の胸に、耳を当てて、その鼓動をそっと聞いてみる。 彼の心臓がゆっくりと音を立てている、今世界中でそれを聞いているのは私だけだ。 抱きしめられたまま、 好きとかでもない、愛しているとかでもない、ただうれしいという気

          傷つかない恋愛なんてほとんどない。

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           その日は、急な案件が入って来て、南村のセクションは朝から忙しかった、いつもは、冷静な南村が、殺気立った雰囲気になり、部内はピリピリしていた。大津も昼前に南村のデスクまできて、何やら二人で打ち合わせをしていた。その時の大津の表情も厳しかった。  有美も、時には若い社員に指示を出したり、南村からの指示に応えたり、寸分の時間も惜しい様な状態だった。 いつものように食事を誘いに来た紗季にも、有美はごめんと、今日はだめだわといったきりだった。   午後遅くなって、有美は、パソコン越し

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           久しぶりに、お互いに昼の時間が長く取れたので、昼食を紗季がお気に入りの会社から少し離れた、小さなパスタの店に行ってみた。 店内は、近隣に勤めるOLたちでいっぱいで、二人は少し待って、窓側の席に案内された。 注文を終えると、紗季が急に 「なんか最近、顔色よくなったね。」  と聞いてきた。有美はそうかなと、少し曖昧に返事すると、 「やっぱり、奴の重圧から逃れたのが大きいのかな。」 と、明るくそう言った。(奴)とは無論依田の事である。最近、紗季は依田の事をそう呼んでいるらしい。

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           「演技、演技っていうけど、みんな一日中演技して生きてるんじゃないかなぁ・・・・私だって、会社へ行けばそれらしく振舞うし、友達のまえで、カッコつけるときもあるし、貴方の前でだって、気を使って振舞うときもあるし、それも全部演技なんじゃないのかな。そう思うと、演技なんて別段特別なものではないし、それをあえて、見に行こうとは思わない、ストーリーを追うなら本を読んだ方が早いし・・・身の回りの人を見ているだけでも結構おもしろいよ。」  有美は、前に拓海に、観劇を誘われたとき、確かそう言

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