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素敵な靴は、素敵な場所へ連れっていってくれる。  35

「どうしてですか?」
「うーん、ほらなんか、一番躍動的というか、横の二人を押しのけているような構図でしょ? 人から見れば私も、ああ見えてるのかなと思って・・・・ほんとは全然違うんだけどね・・・・」
 少し寂しそうにそう話した。
「そうですか? 私にはそんな風には、見えませんけど」
そう有美が言うと、今度は南村が、あなたはどれが好きと聞いてきた。
有美は、少し考えるふりをして、おもむろに
「私も、真ん中です」と、答えた。理由を聞かれると、
「私、3人姉妹の真ん中なんですよ、それで、なんとなく」
有美は、いまさら自分のこの絵に対する思いを、話すのも、何となく憚られたので、そう答えておいた。
けれども、南村が、自分と同じような気持ちでいるのかと思うと、どこなく嬉しかった。
 南村は、少し驚いたように、有美が末っ子だと思っていたと答えた。
「よく、そう言われます。」
有美がそういうと、南村は、少し笑っていた。
 
 
 
日曜日のオフィスは静寂に包まれる、日ごろ気に留めたこともない、天井のエアコンから流れ出す冷風が結構大きな音を出しているのに気づいたりする。
午後の日差しが眩しくて、有美は自分の席に面した窓のブラインドを下す。
 スマホを自分のパソコンへつなぐと、好きな音楽がパソコンのスピーカーから流れだす。
 パスコードを入力して、セキュリティのレベルを上げていくと、すぐに自社サーバーの中へ入っていける。コードがパソコンの画面に流れ出す。
 誰もいない広いフロアで、有美がキーボードをたたく音が響いていく。
 
部内のシムテムにバグが見つかったのが、木曜の夕方だった。部内で対処を検討するうちに、現在進行中のプロダクトに少し影響することが分かった。
その対処をどうするか、金曜日の朝、大津のデスクに集まり、検討が始まった。
その時、有美が、直接大津へ私が修理しましょうかと申し出た、有美自身もシステムの不具合は、木曜日からわかっていて、自身でそのバグの箇所も一応は調べてはいた。
けれども、一介の派遣社員に過ぎない自分がそれを言い出すこと自体少し憚れるような気持ちも少しあった。
大津や南村たちが、困ったような顔をしながら、話し合っているのを見ると、思いっ切っていってみようと思った。
 ちょうど、南村たちが、抱えるプロダクトが、佳境に差し掛かるところだっただけに、大津としても、頭を痛める事故だった。
「できるの?」
大津が、改めて有美へそう聞いた、その内容から有美は自分でなんとか、修理できそうと判断した。
「じゃあ、お願いしてみようか・・・・」
 大津はそう言うと、誰かに手伝わそうかと聞いてきた
「いえ、なんとか一人でできます、ただし、サーバーに負担がかからないように、休日にやりたいんですが。」
 有美がそう言うと、
「そうか、休みの日に悪いね・・・申し訳ない・・・けど、無理しなくていいからね・・・」と、軽く頭を下げた。
会社としても、派遣社員に過ぎないで有美を、時間外で、しかも休日に、働かせるのは色々とややこしい手続きがいるのだろう、南村のプロダクトの件もある。
しかも、その修理を外注すれば、それだけ、プロダクトに遅れが生じかねない、大津にしてみれば、有美の申し出はありがたかった。
自席に戻ると、今度は南村がやってきた、
「助かるわ・・・・けどすごいわね・・・・そんな才能があるなんて」
「いえ、どちらかというと、そっちの方が私専門ですから・・・」
有美は、静かにそう答えると、仕事の続きを始めた。



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